2024.1.30 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

生成AIとCX・デジタルマーケティング

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新年早々の能登半島地震・羽田空港の事故につきましては、犠牲者の皆様のご冥福をお祈りするとともに、被害者の皆様へ心からお見舞いを申し上げます。一刻も早い復旧・復興、そして安心で穏やかな生活を取り戻せることを祈念します。また、それを支える国・自治体・インフラ事業者等の皆様の献身的な努力に敬意を表します。

さて、昨年2023年を振り返ると、やはり「生成AI」の年であったように思える。何よりもその広がりのスピードはすさまじく、2022年11月のチャットGPT登場から短期間での成長ぶりは驚きだ。弊社でも生成AIの利活用が始まった年となった。個人的に驚き、考えさせられることになった出来事としては、クライアントより以下のような依頼をいただいたことであった。

「お客様のプロフィールやこれまでのお付き合いの中で得られた各種データ(テキスト・画像・動画・音声等)を分析し、最適な提案・プレゼンを画像・動画・アバター等を活用して自動的に実施し、その後の商談や購入手続き、アフターケアまで一連の連携したオペレーションを、生成AIを主役にして行うことができないか?」これがいただいた依頼の概要であった。ちょうどその頃、様々な記事等でよく紹介されるグレッグ・ブロックマン氏(チャットGPTを作ったOpenAI社の共同設立者)の有名なTEDでのプレゼンを見ていた。ポイントをまとめると、彼がTEDでのプレゼンが終わった後に食べるべき食事の画像を出してくれ、それを作る食材を教えてくれ、それをECで買ってくれ、Xに投稿してくれ等と生成AIにお願いするとたちまちのうちに実現していくという内容であった。当たり前と言えば当たり前のことではあるが、チャットGPTが登場してから1年も経たないうちにここまで来るのかと、そのスピードに驚き、深く考えさせられた。上記2つの事例で驚いたポイントは、

  1. ユーザーフロントでの創造的な活用
  2. マルチモーダルAI
  3. 便利で魅力的な顧客体験での活用である。

まず、1のユーザーフロントでの創造的な活用だが、現在でも多くの企業等において生成AIを活用する際には、まずは、バックヤードやフロント手前における単純な事実確認程度の活用、「壁打ち」と言われる生成AIとのやり取りによる確認やアイデア出しでの活用が主な用途であろう。弊社の生成AIの社内利用ルールでも、ハルシネーションや著作権等の課題を考慮して、生成AIを鵜呑みにせず、最終的には研究員自らが責任を持って成果物を作成すべきことを明記してある。また、よく、AIの活用においては作業効率・生産性向上のために活用し、人間はAIの活用で得られた時間で創造的なことを行うべきと言われる。私もユーザーフロントで、しかも創造的な提案活動で活用するということまでは、ただちには想定していなかったのであるが、それを、この時期に、真顔で依頼され、戸惑いとともに、人が行うべき創造的活動とは何かも含め、深く考えさせられることとなった。しかし、マーケットのニーズとしては当然であると思う。もう少し、そして、あまり時間をかけず、しっかり考えてみたい。

次に2のマルチモーダルAIであるが、これは異なる種類の情報をまとめて扱うことを言い、例えばテキスト・画像・動画・音声等の異なる情報を関連させて学習し、複合的な情報からアウトプットを作成するイメージだ。人間が五感から得た様々な情報をもとに判断していることを考えると、AIが向かう先としては当然の方向性だと思うのだが、この短時間で市場ニーズがここまで行きつくとは驚きであった。冒頭のクライアントとの会話の中では、学習のさせ方として、全世界でオープンに学習させるべきなのか、ハルシネーションや著作権等の課題を考慮し責任ある対応を実現するならば、閉じた世界で、その企業に見合った確かな学習をさせた方が良いのかという議論をしたことも印象に残った。

最後に3便利で魅力的な顧客体験であるが、アウトプットとして、テキスト・画像・動画・音声等を連携させ、また、複数のアプリやSNS等を連携させ提供する形態は、利用者にとってはとても便利であるとともに、気が利いていて、心地の良い体験にもつながると考えられる。冒頭のTEDの例で言えば、食べるべきものを教えてもらい、食材を探し、ECで発注し、SNSに投稿までしてくれる動作を連携させて、自動的に行ってくれるとしたら、気が利いているとしか言えないであろう。デジタル化社会が進み、とても便利になったが、様々なプラットフォーム・アプリ・SNS等が乱立し、ID連携やプラットフォーム・アプリ・SNS等の自動連係に課題がある中、生成AIを活用するとスムーズに連携できる方向性が見えたことは斬新なものとして映った。さらに次の関心事を言えば、生成AIを活用すると「便利」「気が利く」「心地よい」「魅力的」は達成できそうだということは理解したが、それを超えて「おもてなし」「感動体験」というCXを実現できるレベルに達することができるか否かである。この点を今後、注目していきたいと考える。

デジタルマーケティングの仕組みから考察すると、私自身も現業として関わってきたが、これまでの取り組みとしては、インプットとして、顧客プロフィールや購買履歴をAIでデータ分析しスコアリングする。そしてアウトプットとしてMAツールを使いながらリコメンドしたり、チャットボットで対応したりする程度であったと思う。実店舗・ECサイト・Web・アプリ等、顧客とのあらゆる接点で最適な購買体験を提供するオムニチャネルやOMO(Online Merges with Offline)も言われて久しいが、ある程度はうまくいくが更なるブレークスルーを期待する経営者も少なくないと思う。生成AIを活用すれば、「マーケティングビッグデータ分析」「魅力あるインタラクティブなコンテンツ作り・ダイナミックコンテンツ」「1 to 1コミュニケーション」「リアルタイムマーケティング」「マルチモーダルインタラクション」「LTV戦略」等がさらに進化し、顧客の満足度もさらに向上していくと思う。もちろん普及に伴う多くの課題も平行で解決していく必要がある。2024年は生成AIの活用でCXやデジタルマーケティングの分野でもさらに大きくビジネスが拡大する仕組みができる年になるのではないか。是非、注目していきたい。

2024年の干支は甲辰(きのえ・たつ)、春の日差しがあまねく成長を助ける年。生成AIを上手に活用して、日本経済の発展、皆様のビジネスの更なる拡大と穏やかで平和な年になることを祈念する。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。

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