2018.6.27 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

MVNO市場の展望~モバイル市場の公正競争促進策とMNO新規参入の両立

2018年度に入って以降、今後のモバイル通信市場の競争関係や市場構造に大きな影響を与える政策当局の動きが以下のとおり目立っています。

  1. 総務省「モバイル市場の公正競争促進に関する検討会」報告(2018.4.20)
  2. 公正取引委員会「携帯電話分野に関する意見交換会」開催発表(2018.4.6)
  3. 総務省、第4世代移動通信システムの普及のための特定基地局の開設計画の認定(2018.4.9)
  4. 総務省「電波有効利用成長戦略懇談会」(5月末現在、議論整理途中)

1.と2.は、MVNOを巡ってモバイル市場の競争促進上の課題を取り上げているし、3.は楽天に4G周波数免許を認定し、第4のMNOとして市場参入をもたらすもの、最後の4.はモバイル通信事業にとって不可欠である電波の不足問題に対し、周波数の有効利用を促進するための方策を取り上げています。それぞれの問題には事業当事者の主張や思惑があり、政策当局の姿勢も複雑に絡み合っていて、モバイル通信市場全体に与える影響には大きなものがあります。 

まず、MVNO市場活性化の論点からスタートした前1.の検討会の報告書では、ネットワーク提供条件の同等性確保、中古端末の国内流通促進、利用者の自由なサービス・端末選択の促進の3点が取り上げられていますが、前の2項目では新たな変化の方向は見られず、現状を大きく変えることになるとは考えられません。ただ、3番目の項目は、契約による利用期間の拘束の観点からこれまでも問題とされてきた、いわゆる販売奨励金の是正の方向がさらに進められることになりそうです。ただ、現実に日々起こっている事業者間の競争やiPhoneを巡る取り扱い条件等から柔軟な動きが取りにくいのではないかとの見方があり、具体的な変化を見通すことは誠に難しくなっています。しかし、販売奨励金の多寡は価格を通じて消費者の選好に強い影響を与えているのは事実です。販売奨励金に関しては、公取委は既に2016年8月に競争政策上の課題として取り上げており、今回また、フォローアップのために意見交換会を開催して考え方を整理するとしています。

次に、4Gの周波数免許が楽天に与えられた(基地局開設計画の認定)ことは、MNO事業に競争をもたらすことを意図する政策当局の行動ですが、過去には、周波数の免許を得て事業を開始したイーモバイルが数年後には立ち行かなくなり、結局、電波ごとソフトバンクに吸収合併された実績があるだけに、一国内にMNOは何社が適当なのかの論争が起きても不思議ではありません。日本以外の主要国では、ドイツ、韓国、中国などが3社、米国、英国、フランスなどが4社、インドでも3強化が進むなど、多くは3社か4社に収れんされて来ています。最近の注目は米国で、T-Mobile USとSprintの3度目の合併策で、米国の競争政策当局が3社化を認めるのかどうかです。米国が3社体制となるなら、世界の最有力市場で通信事業者は競争上3社しか実際生き残れず、巨額の5Gインフラ投資に耐えられないことを示唆するので、世界の主要国でも3社体制への移行が加速するのではないかと思います。政策当局は、消費者・利用者の声を背景に常に事業者を増やして市場競争の促進を図ってきましたが、結局のところ、競争促進はある限られた期間は達成されるものの、技術の変化が早く技術の世代交代がほぼ10年単位で発生する現実のモバイル通信サービスでは、その都度のエリアカバーの充実や新サービス提供に要する巨額の設備投資負担がネックとなって合併が続き、今日見られるように3社か4社かという状況に落ち着いています。第4のMNOがこれから日本で果たして成立し得るのか、過去のイーモバイルの現実から見ると何が違っているのか、いわば社会実験とでも考えるべきものですが、5Gインフラ投資が目前に迫った4G事業開始なので、市場成熟期の通信産業政策としてその取り組みに注目しています。前回のイーモバイルの限界・失敗の教訓は何なのか、事業面と政策面両面で学ぶべきものが多くあるのではないでしょうか。その上で、新しく想定される事象とそれに対する問題点を以下で探っておきたいと思います。

最初に、MVNO市場は既に飽和しているのでしょうか。市場関係者のなかには、プラスワン・マーケティングが運営していたFREETELが昨年9月に経営破綻して楽天モバイルに買収されたこと、また、LINEモバイルがソフトバンクに買収(合弁化)されたこと、やはりMVNOを運営しているビッグローブがKDDIに買収された事例などから、独立系のMVNO事業成立の困難さを取り上げて、市場飽和説や限界論を主張する向きもあるようです。しかし、MVNO450社という数字が表すとおり、すべてのMVNOが生き残ることは当然不可能で、淘汰、合併、買収などは日常起こる道筋と考えておくべきです。目先、独立系MVNOがMNOなどに買収されることが、直ちに競争政策上望ましくないということにもならないと思います。実際、2017年12月時点でMVNO契約数全体は1,704万、事業者別シェアで10.3%を占めており、また、SIMカード型で1,086万契約、前年同期比34.5%も伸びているので、MVNO市場が飽和状態とはとても言えません。世界を見るとMVNOの歴史が古い欧州で、主要国のMVNO市場シェアは概ね10%台で日本とほぼ同水準となっています。そのなかで、ドイツとオランダではMVNOがMNOのサブブランドとして存在感を示していて、MVNOシェアはドイツで35%、オランダで38%と極めて高い数値となっています。特に、ドイツでは、2015年にMNO1位のTelefonica O2が4番目のE-Plusを買収してMNO3社市場に移行する過程で、サブブランド戦略を強力に進めてきたE-Plusのサブブランドが最大手MNOの下に移行してきた経過があります。つまり、MVNOシェア10%は標準的なレベルですが、MNOサブブランド戦略下ではさらに大幅なレベルアップがあり得ることを示しています。ドイツの事例に学ぶことは、MNO3社体制下にあってMVNOを活用した市場活性化、料金低減やサービス多様化は独立系だけでなく、MNOのサブブランド戦略と一体で進められるということでしょう。つまりこれは、MNOのサブブランド戦略とMVNO推進とを適合する方策を意味しています。

加えて、4月に認定を受けた楽天の4Gによる市場参入に関しては、第4のMNOであるものの、他方、楽天は楽天モバイルとして最大のMVNO事業者なので、この両者の関係を懸念しています。MVNO重視の競争促進なら、MNO楽天はモバイル回線の提供者の役割(卸又は接続)が大きくなるし、MNO重視の4社体制競争化なら自身によるエリアカバーやサービス充実の全国展開となるはずです。通信産業政策と電波免許方策のバランス、優先度合いのつけ方に注目が集まります。最近の政策当局の動きは両面作戦のようで、まだはっきりは分かりません。不都合なシナリオを想定するなら、MVNOのブランドを重用して新規参入MNOでは自身のエリアカバー充実よりむしろ、MVNOへのモバイル回線の低コストでの提供に重きを置いてしまうことです。こうなると、結局、MNOの設備コスト競争だけに力点が移行してしまって、エリアカバーを積極的に拡充するインセンティブが失われてしまいます。MNOとMVNOの2つの立場のいいとこ取りは許されません。国民全体の資産である電波を使う以上、免許対象エリア全体のエリアカバーを拡充することは免許上の責務であり、モバイル通信インフラ構築を図ることが求められます。

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