2022.1.28 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

ICT雑感:あるペーパーレス化の取組み

S. Hermann & F. Richter(Pixabay)

新年の御挨拶を述べるにはちょっと時間が経ってしまいましたが、本年もよろしくお願いします。私がこのコラムに最初に文章を寄稿したのは一昨年の秋、競馬の話を書きましたが、それを読んで「おっ、今度の監査役はウマをやるのか……」と思った方もおられるかもしれません。今回のテーマは、タイトルからは想像がつきにくいですが、それ以来久し振りに競馬の話です。

大昔、私が競馬を始めた頃は、競馬場やウインズ(場外馬券売場)で馬券を買うときは、窓口で買い目や金額を申告して購入する方式でした。例えば「菊花賞、3-5・2,000円、3-7・3,000円」というようにです(当時の馬券は単勝、複勝、枠番連勝のみ)。中には窓口で順番が来ているのに買い目や金額が決まっていない人がいて、〆切が迫る中で列の後ろの人が「オッサン早くしろよ!」なんていう光景もしばしばありました。

馬券の購入マークカード

(出典:筆者撮影)

その後、マークカードに買い目や金額などを記入して自動券売機で買う方式が1991年に導入され、すっかり定着して現在に至っています。同時期に馬番連勝が始まり、その後馬単、3連複、3連単と馬券の種類も増えてきましが、これらがスムーズに発売できているのもマークカード方式のおかげだと思われます。ただ、短い時間の中で急いでいろいろな馬券の種類や買い目をマークカードに記入していると、塗り間違いをして買うつもりのない馬を買ってしまったり、間違いに気づいて塗り直しているとそれで〆切を過ぎてしまったり、ということもないわけではないですね(右がJRAのマークカード。後述⑥の馬券を購入する場合のマークをしてみた)。

ところがここへきて、もっとスムーズに馬券を購入するシステムが誕生し、今ではどこの競馬場、ウインズでも使えるようになっています。「スマッピー投票」と名付けられていますが、スマホを使って馬券の種類や買い目を登録し、それをQRコードに表示して券売機に読み取らせて馬券を購入するというものです。文章で書いても分かりづらいと思いますので、実際に馬券を買ったときの画面を少しお見せします。

  1. スマホでJRAのサイトにアクセスすると、画面の上のほうに「スマッピー」の表示があります。ここをタップすると、
  2. スマッピー投票のコーナーが表示されるので、ここから投票メニュー(一般には通常投票)を選んで、
  3.  レース名、馬券の種類、買い目等を選択します。ここでは関西で行われるGⅠレース「マイルチャンピオンシップ」の、単勝と複勝を同時に買うというタイプの馬券で、グランアレグリアという馬を選びました。
  4. 以上が決まったら「QRコード表示」をタップすると、
  5. QRコードが画面に表示されるので、これを券売機の読み取り部分にかざすと、
  6. 馬券が買えました。
(出典:①~⑤JRA Webサイト(https://www.jra.go.jp)※実際に馬券を購入した際の画面、⑥筆者撮影)

(出典:①~⑤JRA Webサイト(https://www.jra.go.jp
※実際に馬券を購入した際の画面、⑥筆者撮影)

使ってみると、マークカードを手元に用意して鉛筆やペンで塗る必要がなく、非常にスピーディーに馬券を買うことができるし、どんな馬券をいくらで買おうとしているのかが分かるので(スマホ上に馬名が表示され、マークカードの塗り間違いのようなリスクは少なくなる。また、マークカードだと3連複や3連単などで組合せが多くなった場合に、総額いくら買おうとしているのかが分からない)、今は競馬場に出かけたときはもっぱらこの方法で馬券を買っています。JRAもかなり強力にスマッピー投票をお勧めしているようで、殆どの券売機がスマッピー対応になり、スタンドの座席を始め至る所にスマッピーのステッカーが貼られるなど、普及に向けたPRが行われていますが、おそらくペーパーレス化推進の一環と思われます(スマッピー投票を紹介するチラシに「スマホやタブレットを使えば、マークカードいらずでエコ!」との宣伝文句あり)。

マークカード方式だと馬券を1枚買うのにカードも1枚使うので、紙の分量も馬鹿にならないと思われ、また役目を終えた後のゴミ処理も大変なはずです。これを減らすことができればコスト面でも大きなメリットでしょう。

政府は行政事務のペーパーレス化についてかなり前から実施計画を策定し取り組んでいます(その達成度についてはいろいろ評価があると思いますが……)。最新のデジタル化に関する計画(「デジタル社会の実現に向けた重点計画」)では、ペーパーレスという言葉自体は後ろに引っ込んだ印象ですが、社会のデジタル化を進める中にあって、デジタルファーストには当然ペーパーレスの推進も含まれるでしょう。スマッピーはJRAとしてのデジタル社会化の象徴的取組みのように思われます。

このように大変便利なスマッピー投票ですが、実際に競馬場やウインズに行ってみると、これを使って馬券を買っている人は現状殆ど見ることがなく、若年層を含め、大多数の人が未だにせっせとマークカードを塗り込んでいます。一度染みついた行動様式はそう簡単に変わらないのか……。しかし、JRAはかなり本気と思われ、一部には既にスマッピー専用(つまり、マークカードを受け付けない)投票機が登場しており、今後はこの割合がどんどん増えていくのではないかと思います。

競馬ファンの皆さんは、今のうちから積極的に行動様式を転換し、スマッピーに慣れることが期待されます。競馬場などに出かける方は、次回はこのスマッピー投票をぜひお試しください。

なお、競馬と切っても切り離せない紙としては、競馬新聞、それから馬券そのものがあります。前者については、最近の流通事情の逼迫により、郊外地域でコンビニ等に新聞が置かれなくなっているなどの状況もあり、今後コンビニプリントによる入手、あるいは電子新聞への移行が進むのではないかと考えられます。競馬新聞片手に、ではなくタブレット片手に、というのが標準的観戦スタイルになっていくかもしれません。

後者については、既にPATと呼ばれるシステムによるパソコンやスマホでの投票、および自宅等でのTV観戦が一般化しており、今回のコロナ禍における無観客競馬(すべての投票を紙の馬券ではなくパソコン等で受け付ける)でさらにその流れが加速しました。私自身も自宅での観戦の際はそのようにしていますが、こと競馬場での観戦においては、紙の馬券にこだわりたいという気分です。

キャッシュレスで投票できる「UMACA」というカードがあって、馬券購入用のSUICAのようなものですが、どのような使い心地か、申し込んで使ってみました。下の写真ががそのカードです。専用投票機で投票すると、馬券ではなく代わりにレシートが出てきました。投票したお金は事前にカードにチャージした中から差し引かれ、当たった場合の配当もカードに入金があり、それは引き出すことができます。毎回現金を用意する必要がないのは便利なようですが、やはり馬券という形のあるものを手にして楽しみたいと思っています(なお先の⑥の馬券は、この馬が引退レースを勝利で飾ったときのものであり、ファンにとってはそういう意味での記念品でもあります)。

馬券購入の利用明細

(出典:筆者撮影)

キャッシュレス方面ではさらに、馬券をクレジットカードで購入できる仕組みもあるのですが、そうなるとお金が際限なく出て行くようなことになりかねないと思われ、そこには踏み出す勇気はない、というのが私の現状です。

(注)本稿で取り上げたのは、競馬の中でもJRA(日本中央競馬会)が行う中央競馬に関するものです。スマッピー投票について、詳しくはJRAのサイトの該当部分(https://jra.jp/kouza/beginner/qrbet/)を参照ください。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。


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