NTTグループの推進するパートナー連携は、パートナーが持つさまざまなノウハウと、NTTグループの保有する各種ICTサービスやソリューションを組み合わせ、課題解決や新たな価値創造を実現するための取り組みです。パートナーとしては、農機具メーカ、種苗メーカ、食品メーカ、流通・卸・販売事業者、大学・研究機関、中央官庁・地方自治体等があります。これにより、農業の生産性の向上や若者の就農を容易にし、日本の農業の競争力を強化することにつながることを狙っています。
パートナー連携としては、ハレックスの野菜くらぶ等との連携、農機メーカのクボタとの取り組みや、農業生産法人、新潟市、ベジタリアとの連携があります。
農業は自然を相手にする生産活動ですから、その収穫量や品質は日々の天気に左右されます。そのため、注目されるのが気象情報です。地域ごとの気象情報を利用できれば、農作業での対応や翌日以降の計画を立てることが可能になります。これは、農作物の品質の改善や作業時間の節約に役立ちます。NTTグループは、グループ内に気象情報を提供するハレックス社を有し、その気象情報を活用した取り組みを実践しています。以下、その取り組みについてご紹介します。
ハレックスの気象情報提供
ハレックス社は1993年に設立した気象・地象・海象にわたる予報や情報を、気象庁の認可に基づいて提供する気象情報会社です。主なサービスは、全国各所の気象予測を瞬時に提供するWebAPIによる気象情報提供サービス「HalexDream!」、緊急地震速報「なまずきん」、各種気象情報提供事業、内航船舶向け衛星FAXサービスがあります。ハレックスでは、気象庁発表の観測データ・予報データ等をまず自社データセンターに取り込み、利用者ニーズに適う1次加工を施したうえ、気象情報の活用ノウハウとともにお客様に提供しています。
気象情報の内容
ハレックスでは、以下の点で“これまでありそうでなかった”お客様のニーズに適う汎用気象予測情報を作成し提供します。
◆「HalexDream!」で提供される予報情報の特徴◆
- 1Km単位の細かさで気象情報を把握できること、
- 1日48回更新するという情報鮮度の良さ(30分毎に発信)、
- 地点指定を経度緯度で行える
という3点です。これにより、圃場の緯度経度情報に基づく気象情報を得られるので、各圃場ごとの作業実施の可否および営農計画の作成に役立ちます。
気象情報の活用事例
以下、気象情報の主な活用事例を紹介します。
まず、群馬県の農業法人野菜くらぶを紹介します。一番広く活用されいてる1キロメッシュのピンポイント予報を活用しています。
野菜くらぶは「感動農業 人づくり、土づくり」を経営理念に、農産物の販売、産地開発、農業技術の開発等を行っています。野菜くらぶでは、日々の営農活動では、圃場毎の天候に心を砕いていました。
きっかけは、2014年2月に群馬県等を襲った大雪によるビニールハウスの倒壊で数千万円の被害を被ったことでした。野菜くらぶの役員がハレックスの社長の講演で1キロメッシュの気象情報を農作業に活用できることを知り、導入することになりました。ハレックスの気象情報は、圃場毎に得られる、求めていた気象情報と評価をいただき、農家の農作業の手順等を決める際の貴重な情報になっています。「常に自然と向き合っている農家は、自分の畑の天気予報を欲しがっている」(越智正昭ハレックス社長)と指摘される通り、ハレックス気象予報は農家から頼りになる農業を支援する情報となっています。
圃場の気象予報にあわせて、作業担当者が事前に適切で効率的な作業指示ができるようになり、無駄がなくなりました。例えば、雨が降ることが事前にわかれば、露地での施肥や農薬散布作業は見合わせ、施設の掃除、農業機械の手入れ、翌日以降の出荷準備に要員を振り向けるようになりました。
また、ハレックス気象情報は、JA全農「アピネス/アグリインフォ」(気象予報情報提供サービス) にも採用されました。提供した圃場向け1kmメッシュ気象予報は、全国の営農指導員、TAC(JAグループの「地域農業の担い手に出向くJA担当者」)、篤農家が利用し、営農現場で役立つコンテンツとなっています。JA全農の情報は、農林中金の「アグリウェブ」とも連動し提供されています。
ハレックスの取り組み
本稿では、パートナー連携における取り組みがどのように農業分野の課題解決に貢献できているのか、また今後の取り組みの発展性を探るべく、ハレックス 取締役 第二事業部長 兼第一事業部 営業部長 足海義雄氏、第一事業部 営業部 営業課 主任 須東 博樹氏、酒井 紀子氏にお話しを伺いました(発言部分は3名の方の発言をもとに記載しております)。
以下では、(1)農業分野での気象情報活用の背景、(2)効果と、他分野での活用、(3)課題、今後の方向性・展望の3点を中心に取り上げます。
(1)気象情報活用の背景
「農業生産において気象情報が関係するのは、1.リスクとなる部分(台風や低温障害等気象にまつわる被害)と2.プロフィット(品質や収量向上につながる恵み)の2面があります。この両面から、気象災害回避と、病害虫の予防、農作業計画の支援等による競争力向上において、気象情報は欠かせないものとなっています(図表④)。愛媛県の例では、2005年以降の過去20年間に気象関連の被害額は平均13億円となっていて、この被害を気象予測情報の活用で軽減することに農家の期待が集まっています。また、農業生産者は、従来、経験と知恵で農業生産を営んできましたが、気象情報は、台風など天候被害によるリスク軽減への対応ばかりでなく、戦略的視点(いつ頃どのような農作物をつくるべきか)を判断する情報としても欠かせません。このように、昨今、「攻めの農業」と言われる観点で、ハレックスの気象情報はプロフィット向上のために注目されています。
(2)気象情報活用の効果と、他分野での活用
-農業生産者は気象情報活用について、どのように捉えていますか。
農業生産者からは「気象を言い訳にしたくない。事前に防げるものは防ぎたい」という意向を聞いています。意欲ある農業法人は、気象情報を活用し、リスクの回避と収益の向上を推進したいと考えていらっしゃいます。
-気象情報の活用により、どのような効果があったのでしょうか。
第一に気象の推移を事前に知り対策をとることによるコストダウンの効果です。
ハレックスの72時間の気象予報(1Kmメッシュ)の強みは、時々刻々の変化を即座に反映し自分の圃場の気象を予想できます。
愛媛県でハレックスが参画した農林水産省の実証実験では、農薬をまくタイミングや水まきを適切なタイミングで行うことが可能になることが実証されました。(坂の上のクラウドコンソーシアム:https://www.soumu.go.jp/soutsu/shikoku/ict-jirei/chuumoku25.html)
具体的には、1圃場あたり農薬は7万円/回かかるのですが、ハレックスの気象情報を参考に散布すれば、無駄な散布が抑えられ、14万円/年は削減できました。不要な農薬散布を抑えられ環境や人にやさしい減農薬の営農が実現しました。また、水撒きは人を雇わなければならないのですが、事前に雨の有無がわかれば、雨の日に人を雇わないですむようになります。人を雇うには10万円位/日かかるので、年間15-20日無駄な雇用を止めれば、大きな経費が削減できます。
-他分野での活用はどうでしょうか
ハレックス提供の気象情報はこれまでは防災分野で活用されてきました。最近では、鉄道会社やメーカなど民間企業での活用が進んでいます。鉄道会社は駅ごとの気象予報を活用し、(昨今、増えている急な大雨等)気象災害に備えています。また製造メーカは工場でハレックスの予報を活用しています。(次頁の気象情報ビジネスのマーケット参照)。気象予測から災害リスクが予想されるとき工場では、早めの避難行動をとることで作業員の安全確保や、複雑で高価な加工機械等を事前に停止させて損傷を防ぐことに役立ちます。このように民間企業での活用が進んできています。
(3)課題と可能性
-気象情報の課題はなんでしょうか
気象情報では、精度向上が課題になります。現在気象庁の観測点(4要素アメダス)は国内に740か所余りあり、その多くは平野部にあって山間地の気象情報を把握することが重要です。山間地に観測地点が増えれば情報精度が向上します。農業面から観測地点の充実が願われています。例えば、NTTドコモは独自に気象観測地点を展開していて、このデータが使えれば不足する山間部の情報を補うことができます。NTTグループは、NTTドコモのほかにもNTT東日本・西日本をはじめとした多様な測定センサーシステムを持っています。NTTグループが一体となって、気象情報を中核とする社会を動かす情報基盤構築という大きな絵が描けると良いでしょう。ハレックスの持つ気象情報を活用したパートナー連携を推進するにはNTTグループのリソースを活用した気象情報サービスの拡充が重要であり、これにより、パートナー連携での新たな価値提供に結び付くと考えられます。
-気象情報の活用はどのように発展していくのでしょうか。
ハレックスでは今後の取組として、単なる気象予測情報提供にとどまらず、霜被害の回避や病害虫回避等など気象情報にまつわる事前アラートを出すシステムの開発に取り組んでいます。また農作物の育成記録を照らし合わせてより良い生産につなげるデータ分析を可能とする気象の過去データ整備の取組を開始しています今後のAI技術については、NTT R&DのAI技術に期待しています。気象情報とセンサー情報を組み合わせて、営農計画や農作物の品質向上につなげていきたいと考えています。
-今後どのような事業者との連携を考えていらっしゃいますか。
現在は、気象情報の活用分野を考えている段階です。農業分野の様々な人と一緒に考えることにより、気象情報を活用していく方向にあります。農作物の生産は気象に影響を受けるので、これまでの研究を掘り起こし、活用を考えたいです。お米のいもち病の被害をなくすことは大事なので、気象情報+αの情報により病害虫のアラートを出すなど、予測できるようにしていきたいです。
次の段階として、気象情報は、あらゆる産業分野に欠かせないため、気象情報の情報利用基盤を作っていければと思っています。地図のように、気象情報も多くの人が利用できるインフラとして構築すべきだと考えています。
まとめ
このレポートでは、パートナー連携として気象情報の活用動向を取り上げました。パートナー連携がさらに進展し、気象情報と他の情報(画像情報等)、気象情報と他のソリューション(農機等農作業に必要な手段から、AI等ICTソリューションまで)が組み合わさり、将来を予測し、リスクを軽減することにより、農業の課題解決に役立ち、本来の意味での「攻めの農業」の推進に貢献することが期待されます。
情報通信総合研究所は、先端ICTに関する豊富な知見と課題解決力を活かし、次世代に求められる価値を協創していきます。
調査研究、委託調査等に関するご相談やICRのサービスに関するご質問などお気軽にお問い合わせください。
ICTに関わる調査研究のご依頼はこちら関連キーワード
手嶋 彩子の記事
関連記事
-
「住まい」と「ICT」と「サステナブル社会」
- ICR Insight
- ICT利活用
- IOWN
- WTR No422(2024年6月号)
- 日本
-
自動運転に向けた各省庁の動きについて
- ICR Insight
- ICT利活用
- WTR No421(2024年5月号)
- 日本
- 自動運転
-
デマンド交通が大都市の「地域の足」となる 可能性を検討する
- ICT利活用
- WTR No421(2024年5月号)
- 日本
-
アニマルウェルフェアとICT・デジタルソリューションの動向
- ICT利活用
- WTR No411(2023年7月号)
- 日本
- 欧州
- 福祉
-
ポストコロナ時代の観光地経営とICT利活用
- COVID-19
- DX(デジタルトランスフォーメーション)
- ICTx観光
- ICT利活用
- WTR No410(2023年6月号)
- 日本
ICT利活用 年月別レポート一覧
メンバーズレター
会員限定レポートの閲覧や、InfoComニューズレターの最新のレポート等を受け取れます。
ランキング
- 最新
- 週間
- 月間
- 総合