NTTグループの推進するパートナー連携の第二弾は、NTTPCコミュニケーションズと日本ジビエ振興協会との連携を紹介します(図表1)。
ジビエが注目された背景
ジビエとはフランス語で、狩猟で得た野生鳥獣の食肉のことです。主にシカ、イノシシ、野ウサギや鴨、キジなどがあげられます。ヨーロッパでは貴族の伝統料理として古くから発展してきた食文化で、日本でもフランス料理店などで高級食材として提供されていました。このジビエ料理、最近では提供する飲食店の数が徐々に増えてきており、身近な料理になってきています。
ジビエ料理が日本国内で注目された背景の一つに鳥獣被害があります。鳥獣被害は毎年200億円前後の農作物被害をもたらしていますが、その背景には、(1)人と鳥獣を分けていた里山がなくなってきていることや、(2)猟友会(日本国内における狩猟者のための公益法人(特例社団法人))のメンバーの高齢化(平均年齢は約70歳)や銃規制の厳しさなどがあります。
これにより、鳥獣による被害は、田畑や森林ばかりでなく、人家のある地域にまで広がってきています。政府も鳥獣被害防止対策[1]の推進として、野生鳥獣を50万頭捕獲することや野生鳥獣の食肉等への利用率の向上(2014年度14%から2018年度30%へ)を政策目標にあげ、年間約100億円の予算をつけています。自治体の具体的対策として鳥獣害対策室を設置し、捕獲に対して手数料を支払っています。その結果、約80万頭(前記、政府事業での捕獲も含む)の鳥獣が捕獲されていますが、それだけ捕獲しても年間200億円という鳥獣被害額は減少していません。つまり、さらに捕獲を増やしていく必要があります。しかし猟銃で捕獲できる数は捕獲期間が11月から2月の短期間と定められていることもあり限定的です。それ以外の期間は猟銃以外の手段(はこわな、くくりわな)による捕獲になります。はこわなやくくりわなによる捕獲は複数の設置場所を毎日巡回する必要があることから、効率の悪い作業になっています。よって捕獲量をこれ以上に拡大することは難しく、それが鳥獣被害解決のための課題となっているのです。
その解決策として、まず注目されたのが単に捕獲された鳥獣を処分するだけでなく、その食肉をジビエ料理として役立てることで、ビジネスベースで成り立つようにするという考えです。
以下では一般社団法人日本ジビエ振興協会 理事 松岡輝征氏にジビエ料理の振興と現状の捕獲現場におけるNTTPCコミュニケーションズとの連携についてお話を伺いました。
日本ジビエ振興協会の設立の背景と取り組み概要
-日本ジビエ振興協会の設立の経緯は?
「長野県でオーベルジュのシェフをしている藤木氏が今から7,8年前に地元の野菜と鹿肉の料理を出すようにしたら、冬でもジビエ料理を求めて観光客がおとずれるようになりました。ジビエ料理に手応えを感じた彼は普及を目指して、鹿肉の料理方法について講習活動を始めるようになりました。この全国的な活動がきっかけになり、日本ジビエ振興協会を5年前に民間9社で立ち上げました。」(松岡氏。以下、断りがない限り発言は松岡氏のものです。)
-協議会の目的は?
「これまで捕獲された鳥獣の9割は埋設されていました。山の宝が役に立っていないという問題意識から、人のために役立つよう食肉として利活用していくということを思い立ちました。一方、鹿や猪は硬くてまずいという偏見が多くあるようです。原因は、調理方法が知られていないことにあります。鳥獣被害の対策として、まずは食べる文化、出口を作ることだと考えました。つまり目的は、ジビエを身近な食肉として美味しく食べてもらうことです。」
ジビエ料理を普及させるための課題
-どのような課題があるのでしょうか?
「いくつかありますが安定供給できないことが課題です。外食産業で扱う場合、供給量が限定されているため、ハンバーガーやカレーも期間限定の販売となります。そのため、川下(消費)を成長させるためには、川上(鳥獣の捕獲)、川中(食肉加工)も一緒に整備を進めていく必要があります。(参考資料1)」
川中、川下の取り組み
-川中の活動としてはどのようなことに取り組まれているのでしょうか。
「食肉として使うためには、衛生基準とその基準に適合した処理施設を整備する必要があります。ジビエについては、野生肉のためまず衛生基準をきちんと整えることが必要でした。これまでは各自治体で衛生基準がバラバラでしたが、食肉として全国に流通させるためには全国統一の衛生基準が必要でした。その点を国に働きかけて動いてもらいました。」
「さらに処理施設を充実させることが課題になっています。処理施設はまだ不足しており(全国552か所、2016年9月21日時点)、これから増やしていく段階です。その次の課題としてジビエの処理加工ができる技術者を養成していく必要があります。ジビエは、家畜である牛豚等とは異なり、きちんと放血処理などができないと、癖のある食べづらい食肉となりますから技術者の養成は重要です。」
-川下ではどのような活動をされているのでしょうか。
「次に川下ですが、加工場の整備ができても川下でジビエの利用が拡大しないと、加工業が成り立ちません。川下では、レストランでジビエ料理を出しているところがありますが、そこで使っているジビエの多くは現状、輸入品です。日本のジビエが使われていない現状を打開する必要があります。それには安全でおいしいお肉を安定的に供給できる体制を整備することが求められています。つまり川下の活動を展開する上では、川上から、川中までの活動を手がけていく必要があるということです。」
川上の取り組み:「みまわり楽太郎」の活躍
川上では、前述した通り、猟友会を中心とした捕獲が行なわれてきましたが、我々は自治体に対して、NTTPCコミュニケーションズの「みまわり楽太郎」(図表2)の活用を提案しています。これをはこわなにつけると、鳥獣がはこわなにかかった時にメールで通知してくれるのです。毎日の見回りの重労働から猟師さんの負担を軽減することが可能になります。
―「みまわり楽太郎」を活用するとどのようなメリットがありますか?
「さきほど述べた鳥獣害対策に係る人の負担が減る他に、品質の確保にも貢献しています。イノシシは檻にかかると、檻に体当たりして体中あざだらけになってしまい、食肉としてつかえなくなってしまいます。つまり檻に入ったら素早く処理することが重要です。そこで「みまわり楽太郎」の登場です。これがあると、檻に捕まったらすぐに関係者にメールで知らせてくれるので、体当たりやストレスなどで肉の品質が悪くなる前に処理がきます。通常、捕獲の有無は定期巡回で確認するため、発見した時には食肉として使うには手遅れということもよくあります。しかし「みまわり楽太郎」がメールで知らせてくれれば、そういうことは無くなります。檻の見回りという重労働の軽減と、肉質の維持という面で「みまわり楽太郎」は鳥獣害対策、ジビエ料理普及に貢献しています。」
―「みまわり楽太郎」は、どのように普及させているのですか。
「多くは自治体が設置し、猟友会に貸し出すという活用の仕方なのですが、そこでは日本ジビエ振興協会とNTTPCコミュニケーションズが連携して紹介しています。これまでに自治体を中心に販売してきましたが、今後も連携して普及させていければと考えています。」
今後の展望
―最後に今後の展望をお聞かせください?
「現在はジビエ振興における川上から川下までの課題を同時併行で解決していく段階です。その中で次のICT利活用は、トレーサビリティに注目しています。ジビエを捕獲から加工、消費までトレースできれば消費者は安心してジビエ料理を食することができます。そこにICTを活用することを期待しています。野生鳥獣の衛生面での安心安全は食肉にしていく上で最重要な課題であり、捕獲して、店頭に並ぶまでトレースできるようにしたい。将来的には、例えば信州のイノシシを広域で流通させるということを考えています。地域ごとに、肉質も異なるから品質管理を徹底することでブランド力をもつジビエを訴求できるようになる。川上から川下までトレースできるようにICTの応用を考えています。」
まとめ
このレポートではパートナー連携の第二弾として、鳥獣害対策とジビエ料理の振興におけるNTTPCコミュニケーションズと日本ジビエ振興協会との連携を紹介しました。川上での鳥獣害対策でのICTの活用が、川中や川下での新しい産業や食文化の普及に貢献しつつあります。「みまわり楽太郎」というNTTPCコミュニケーションズが持つ1つのサービスと日本ジビエ振興協会の取組に活かされるというパートナー連携が新たな連携を作り一つの産業を立ち上げつつあると言えるでしょう。「石破茂地方創生担当大臣(当時)は、ジビエは地方の大きな武器になると言われていました。ジビエが地方創生の切り札的な産業として成長できるようにしていきたい。」という松岡氏の言葉を実現すべくNTTPCコミュニケーションズとの連携によるICTの今後の活用に注目したいと思います。
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