2022.12.28 イベントレポート InfoCom T&S World Trend Report

AWS re:Invent 2022参加レポート〜AWS社の新たなサービス発表と拡大する企業連携〜

本記事は、NTTコミュニケーションズ イノベーションセンターの小室智昭氏より寄稿いただいた原稿をそのまま掲出しています。

1. はじめに

 米国は、インフレの影響が懸念されていたが、蓋を開けてみるとThanksgiving、Black Friday、Cyber Mondayの売上はいずれも過去3年間で最高となった。MSNBC局は「Black Fridayのオンラインの売上が$9.12B(日本円で約1.25兆円)を記録した。」と自動車で埋め尽くされた巨大なショッピングモールの駐車場の映像を映して伝えた。本稿では、毎年、Thanksgiving直後に開催されるAWS社の年次イベントのAWS re:Inventについて報告する。

【写真1】会場で参加者を迎えるAWS社のロゴ(左)とメッセージボード(右)

【写真1】会場で参加者を迎えるAWS社のロゴ(左)とメッセージボード(右)
(出典:筆者撮影)

2. AWS re:Invent 2022にみるAWS社の次の戦略とカスタマージャーニー

2-1. AWS re:Invent 2022概要

 AWS re:InventはAmazon社の子会社のAWS(Amazon Web Service)社が毎年開催している年次イベントで、11回目となる今回は11月30日から12月2日の4日間で開催された。AWS社は2021年も米国では新型コロナの出口が見え始めていた11月末から4日間リアルにre:Invent 2021を開催したが、例年の規模にはおよそ及ばなかった。

 しかし今年は2019年以上の規模になったようだ。AWS社CEOのAdam Selipsky(以下、Adam)さんは自身のKeynoteで、「re:Invent 2022には5万人以上が現地参加登録し、オンライン参加を含めると30万人以上の登録があった。Keynote、Session、Workshopなど2,300を超えるイベントなどを用意した。」と発表した。それを裏付けるように初日にExpo会場で開催されたWelcome Receptionは身動きが取れないくらいの参加者が集まった。日本からはK旅行会社が今年はツアーを復活させ、お揃いのスカジャンが会場で目をひくC社は50人の社員を派遣して、ほぼ全てのイベントをカバーできる体制をとっていた。

2-2. Keynote

 AWS re:InventではAWS社の4人の幹部によるKeynoteが人気のコンテンツだ。中でもAWS社CEOのAdamさんの一番注目度が高い。ここでは、AdamさんのKeynoteとエンジニアから根強い人気がある同社CTOのDr. Werner Vogels(以下、Vogels)さんのKeynoteについて伝える。

(1) CEO(Adam Selipskyさん) Keynote

【写真2】2回目の登場となるAWS社CEOのAdam Selipskyさん

【写真2】2回目の登場となるAWS社CEOのAdam Selipskyさん
(出典:筆者撮影)

 冒頭、AdamさんはいつものようにNasdaq社などAWS社にとって大きな顧客の獲得、Unicorn企業での利用状況の発表の後、2025年までに再生エネルギー利用100%を実現し、2030年までにWater Positiveを実現すると発表した。実際、AWS社の再生エネルギー利用率は85%に達しているそうだ。

【写真3】AWS社のSustainabilityへの取り組み

【写真3】AWS社のSustainabilityへの取り組み
(出典:筆者撮影の写真をもとに編集)

 ウォームアップが終わったところで、Adamさんはテーマごとに説明を始めた。前CEOのAndy Jassyさんは本題に入る前にテーマをハッキリ伝えてくれたが、Adamさんはテーマに関連する手がかりについて話をした後に本題に入るスタイルで話を進める。個人的には、テーマを明確にして上で本題に入るAndyさんの方が心の準備ができてよかった。

 最初のテーマは"Data"。Adamさんは「爆発的に増え続けるデータを管理するには、"適切なツール"、"インテグレーション"、"ガバナンス"、"インサイト"が重要だ。」と説明した。AWS社はAmazon Aurora、Amazon Redshift、Amazon SageMakerといったデータに関するソリューションを提供している。

 "インテグレーション"では、Amazon Redshiftと連携してZero ETLを実現する"Amazon Aurora zero-ETL with Amazon Redshift"とApache Sparkと連携できる"Amazon Redshift Integration for Apache Spark"が発表された。Amazon Redshift integration for Apache Sparkは発表当日時点で利用が可能だが、Amazon Aurora zero-ETLはレビューはできるが公式公開はもう少し先になる。

 "ガバナンス"ではデータガバナンスに留意し、組織間でデータ検索、管理、共有、パーソナライズビューを可能とするAmazon DataZomeが発表された。 "インサイト"では、Amazon QuickSightにおける自然言語対応、現事象に原因の分析機能について発表があった。

【写真4】AWS社が考えるData管理理念とソリューション群

【写真4】AWS社が考えるData管理理念とソリューション群
(出典:筆者撮影の写真をもとに編集)

 AdamさんのKeynoteでは、その後も"Secure & Agility"、"Machine Learning"、"Simulation"、"Imagination"とテーマごとに新サービスの発表が行われた。

 以下は、CEO Keynoteで発表があった新サービス・新機能の一覧になる。

【表1】CEO Keynoteで発表があった新サービス・新機能の一覧

【表1】CEO Keynoteで発表があった新サービス・新機能の一覧
(出典:AWS社の発表をもとに筆者作成)

(2) CTO(Dr. Werner Vogelsさん) Keynote

 VogelsさんのKeynoteはいつものようにKeynoteのテーマを示唆するビデオから始まった。ビデオを見ているときは気が付かなかったが、Vogelsさんがシステムのアーキテクチャーの話を初めて、今回のテーマは、非同期、並列、進化だと思った。

【写真5】大歓声に迎えられて登場するAWS社CTOのDr. Werner Vogelsさん

【写真5】大歓声に迎えられて登場するAWS社CTOのDr. Werner Vogelsさん
(出典:筆者撮影)

 Vogelsさんは、ムクドリの群れを例えにして自然界は非同期でできていることを説明した上で、16年前にAmazon S3を開発していた時の裏側を始めた。Vogelsさんによると、16年前にS3を開発した時、"Asynchrony(非同期性)"を分散システムの基本方針の一つとしたそうだ。そして「高負荷がかかっても、エラーが発生しても、新しい機能が追加されてもシステムが進化し続けることを確認したかった。2006年にAmazon S3を発表した時にはMicroserviceは8つしかなかったが、今ではシステムダウンさせることなく235以上の分散型Microserviceへと成長させることができた。」と説明した。

【写真6】システムに求められる拡張性とその重要性

【写真6】システムに求められる拡張性とその重要性
(出典:筆者撮影の写真をもとに編集)

 次の話題はWorkflowだ。Vogelsさんは、「日々、37GigaByteのDatasetを5,000以上も処理しているNOAA(National Oceanic and Atmospheric Administration、アメリカ海洋大気庁)の"ワークフローをもっとシンプルにしたい"という課題をAmazon Lambdaの2つの機能を使って解決した。」と説明し、"AWS Step Functions Distributed Map"を発表した。AWSには同じ処理ステップを並列処理する機能があるが、同時実行回数は最大40回と制限があった。本サービスはその制限を数千回へと拡張し、大規模な並列処理を可能とした。ここで私が注目したのは新サービスが生まれた背景だ。Vogelsさんは、"Listen、Learn、Improve"という3つのキーワードで「お客様の話を聞いて学び、改善に繋げるのがAWS流だ。」と説明していた。

 Vogelsさんの話はアプリケーション開発へと移り、さまざまなAWSサービスをGUIを使って簡単にServerless Applicationを開発できる"AWS Application Composer"と異なるAWSサービスをGlue Code(互換性がないサービスの結合に必要なコード)なしに接続できるようにする"Amazon EventBridge Pipes"を発表した。

 "AWS Application Composer"を使うと、開発者はキャンバスの上に利用したいAWS ServiceをDrug&Dropで並べ、AWS Serviceを線で繋ぐだけで、Serverless Applicationを開発、管理、共有できる。

 "Amazon EventBridge Pipes"は、元々はさまざまなAWSサービスからのメッセージを統合するために設計されたそうだ。本機能により開発者は煩わしいGlue Codeを書かなくても、複数のAWSサービスを簡単に繋ぎ合わせることができる。

 そして、Vogelsさんが紹介した最後の新サービスは、ソフトウェア開発チームがAWS上でアプリケーションを迅速かつ簡単に計画、開発、共有、構築、配信といった開発全体のライフサイクルを短縮化する"Amazon CodeCatalyst"だ。

【写真7】アプリケーション開発を支援するAWSの新サービス群

【写真7】アプリケーション開発を支援するAWSの新サービス群
(出典:筆者撮影の写真をもとに編集)

 Vogelsさんはその後、3D Model、Simulation、Quantum Computingなどの話題に触れた。Simulationについては、AdamさんのCEO Keynoteで発表があったAWS SimSpace Weaverの紹介だったが、3D ModelとQuantum Computingについては具体的なサービス、機能の説明はなかった。ただ、ここで触れたということはre:Invent 2023までに、何らかのアクションがあるかもしれない。

CTO KeynoteはYouTubeなどで公開されている。Vogelsさん主演のビデオは開始から4分02秒までだが、Keynoteの趣旨が分かるので、観られることを勧める。

2-3. Breakout Session

 Breakout Sessionでは、AWSの機能ごとにAWSユーザーが導入事例などを紹介する。

(1) Automotive

(1-1) BMWグループ

 BMWグループは、後手後手の対応から先を見越した対応、BMWグループのEcosystemの調和、デジタル化とアフターセールス、顧客満足度の向上をコンセプトにした顧客サービスに力を入れている。しかしデータ、インフラ、ML、リアルタイム監視に課題があるという。例えば、増え続ける多種多様なリアルタイムデータ、コンプライアンスとプライバシー、不均衡なデータ、不明確なデータラベル、事象が発生する前の異常検知などへの対応だ。

 その課題を解決するためにBMWグループで利用できるコンプライアンスを配慮し、AIを活用できるクラウドベースのData Lakeを構築し、Amazon Athena、Amazon SageMaker、Amazon QuickSightなどのサービスを利用している。それにより、秘匿化した状態でデータを分析できるようになり、コンプライアンスとプライバシーの課題を解決した。さらにフリートデータの可視化とリアルタイムな推測を実現した。

 この仕組みはBMWグループには、コスト、Serverless Architecture、拡張性、カスタマーサポートニーズの把握、顧客ロイアリティをもたらし、顧客には良質な顧客体験の提供、故障の即時解決、待機時間の削減をもたらしているそうだ。

【写真8】BMW社の課題・対策(左)とAWS連携後のメリット(右)

【写真8】BMW社の課題・対策(左)とAWS連携後のメリット(右)
(出典:筆者撮影の写真をもとに編集)

(1-2) Stellantisグループ


 AWS社AutomotiveのGMのWendy Bauerさんは、全世界の99%がConnected Vehicleになり、EV販売台数は2,500万台に達すると説明した。

【写真9】世界のConnected Car/EV市場トレンド

【写真9】世界のConnected Car/EV市場トレンド
(出典:筆者撮影の写真をもとに編集)

 一般的にはSoftware Defined Vehicle(以下、SDV)は、機能はSoftwareで提供され、クラウドと連携し、OTA(Over The Air)でUpdateされるものと定義されている。AWS社は自動車業界の新たな扉を開くため、Toyota社、Rivian社などのOEM、Denso社、Harman社などのTier 1、Tata社などと連携している。ここでは、StellantisグループとAWS社との連携について紹介する。AWSとの連携について説明してくれたのはStellantisグループのSoftware Architecture & Development-PlatformのSVPのTara Vatcher(以下、Tara)さん。

 StellantisグループはConnected VehicleをJeepやMaseratiなど傘下の14ブランドで展開し、2030年までにグループ全体で€20Bの収益を上げようとしている。

 StellantisグループはAWS Virtual Engineering Workbenchの上に、STLA Smart Cockpit、STLA Brain、STLA AutoDriveの3つの技術プラットフォームを構築し、新たな運転体験(Display、Sound、Lighting、Haptic、Projection、Thermo Elements、Smart Surface)を目指している。StellantisグループのCES 2022での発表によると、STLA Smart Cockpitは2024年までに提供されるようだ。

 StellantisグループはAWS Engineering Workbenchに、グローバルなセルフサービスプラットフォームの構築、End-to-Endな開発体験、標準的な自動車業界のツールの利用、拡張性がありカスタマイズ可能な開発環境の構築、ハードウェアに依存しないSDV、商品開発時間の短縮化の実現に期待している。

 Stellantisグループは、最終的には開発スピードの高速化、拡張性と安全性を兼ね備えたハードウェアとソフトウェアの開発環境の提供、自動車関連のハードウェアとソフトウェアとの連携の促進を達成したいと考えている。

【写真10】StellantisグループのAWSとSoftware-Defined Vehicle戦略

【写真10】StellantisグループのAWSとSoftware-Defined Vehicle戦略
(出典:筆者撮影の写真をもとに編集)

(2) Energy

(2-1) bpx Energy社

 英国のbp社のグループ企業で米国にて石油とガスに関する事業を展開しているbpx Energy(以外、bpx)社が同社とAWSとの連携についてbpx社CTOのJordie Harrell(以下、Jordie)さんが語ってくれた。bpx社の本社はTexas州Houston市。bpx社は低カーボンな電力とエネルギー、便利かつ機動性、弾力性と炭化水素という戦略的方針で、エネルギーを再定義しようとしている。

 エネルギー業界のほとんどがIoTに注目しているが、bpx社はIoTに加えてInnovationにも注目している。bpx社のInnovationを牽引するのは、セキュアなPrivate End-point、業務の自動化とOTA(Over The Air)によるSoftware Update、AWS IoT Coreを活用したSecure Connectionだそうだ。

 AWSを利用する前は、インフラは複雑かつ分断化されていたため、組織横断でリアルタイムにインフラの状態を可視化することができなかった。そこで、bpx社はAWSをベースにシンプルかつ集中管理できるインフラを構築した。それにより、各拠点のData Centerをほぼ廃止してDatasetを統合した。さらに、AI/MLを活用してデータ分析できるようにした。

【写真11】bpx社のインフラ改革(左: AWS導入前、右: AWS導入後)

【写真11】bpx社のインフラ改革(左: AWS導入前、右: AWS導入後)
(出典:筆者撮影の写真をもとに編集)

 Jordieさんは、数千箇所の油田状況のリアルタイムな可視化、データ分析によるCybersecurity対策、設備のダウンタイムの削減、IT/OTにかかるコスト削減などがAWSベースのCloud IT/OT Platformのメリットだと語った。 そして、これまでは利用していなかったAWS SageMakerによる需要予測はとても大切なものだとJordieさんは説明した。小売業が需要予測で商品を調達するように、bpx社は需要に対してどのくらい石油を供給す

【写真12】bpx社のAWS Edge Automation導入効果(左)とAWS SageMaker導入による需要予測の実現(右)

【写真12】bpx社のAWS Edge Automation導入効果(左)とAWS SageMaker導入による需要予測の実現(右)
(出典:筆者撮影の写真をもとに編集)

ればいいのかを予測している。AWS SageMakerによる需要予測は、bpx社の拡張性は30%、需要予測の正確性は60%、ROIは40%向上した、これまでの課題をチャンスに変えることができたそうだ。

(2-2) Common Fusion Systems社

 Common Fusion Systems(以下、CFS)社はMITからスピンアウトして2018年に設立されたStartupで、核融合によるエネルギー開発に取り組んでいる。核融合エネルギーは身近にある資源が活用でき、本質的に安全で、二酸化炭素を一切出さず、経済的にも競争力がある将来の無限のクリーンエナジーと言われている。CFS社はMicrosoft社のco-founderのBill Gatesさんなどから$2B以上を調達し、2030年代の前半の商用化を目指して開発を進めている。

 一見、好調に見えるCFS社だが(1)製造判断のための大規模シミュレーション、(2)中規模シミュレーションのためのパワフルなコンピューター、(3)柔軟な働き方、(4)ダイナミックかつ頻繁な変更要求に対応できるソリューションに技術的な課題があった。以前は、個別のワークステーション、共用型コンピューター、SaaS型のHPC、制限があるData Storageを使っていため、高速性も柔軟性もなかったという。CFS社のHead of IT InfrastructureのNate O'Farrell(Nate)さんは、2年前にAWS社が米国限定で提供している政府グレードのセキュリティとコンプライアンスを提供するAWS GovCloud(US)とeVDIにプラットフォームを移行したと説明した。AWS GovCloud(US)により、これまでは32日かかっていたシミュレーションが32時間で終わるようになったという。

 セッションの後、Nateさんに「若いStartupなのに、なぜ最初からAWSを使わなかったのか?」と質問したところ、「会社設立同時はAWSを導入するためのエンジニアがいなかった。自分がCFS社にJoinして開発環境をAWSに移行した。」と説明してくれた。

【写真13】CFS社の技術的課題(左上)とAWS導入による開発環境の違い(右上)、 AWS導入メリット(下)

【写真13】CFS社の技術的課題(左上)とAWS導入による開発環境の違い(右上)、
AWS導入メリット(下)
(出典:筆者撮影の写真をもとに編集)

(3) 5G

(3-1) Verizon社

 Verizon社のBreakout Sessionでは、同社の5G Edgeによる"Real-Time Enterprise"の事例について紹介があった。

 Verizon社のMECには複数ユーザーが利用するPublic MECとユーザー専用のPrivate MECがあるが、いずれもEndpointの近くで動作することで、低遅延と高速処理を可能としている。"Real-Time Enterprise"は顧客が抱えるセキュリティ、相互運用性、複雑さ、パフォーマンスに関する課題を解決する。

 Verizon社は小売業、イベント会場、製造業、運送業などをターゲットにしている。小売業にはキャッシャーレス店舗、イベント会場にはリアルタイムヒートマップやSmart Stadiumソリューションを提供し、製造業・運行業にはコンピュータービジョンを活用した効率性、安全性を提供している。

 本セッションでVerizon社はSan Francisco市を拠点とし、店舗内に設置したカメラだけで店舗の自動化プラットフォームを提供しているAiFi社との連携事例を紹介した。AiFi社は店舗の自動化により、顧客の利便性向上、店舗営業の効率性向上、従業員のスキルアップといったメリットを提供している。

 次に、Verizon社はAWS Wavelengthを活用し、アプリケーションおよびDatabase向けのHarperDBという分散型プラットフォームを紹介した。ユーザーはVerizon 5G WavelengthによりHarperDB内のアプリケーション、データベースをユーザー環境の近くで動作させることで、数ミリ秒単位の低遅延を実現できる。HarperDBの事例として、クラウドコンテンツベンダーのEdison Interactive社とゴルフカートベンダーのClub Car社との連携事例を紹介した。ゴルファーはコース情報、スコア登録だけでなく、プレイ中にスポーツの結果や音楽などのコンテンツを楽しめる。すでに、北米で33,000台以上のゴルフカートで本サービスが利用できるそうだ。

 Verizon社の5G Edgeは北米の19の地域で利用でき、Mastercard社、NFL社、Accenture社などが利用している。 Edison Interactive社はVerizon社と連携し、Fleet向け運行管理アプリやレンタカーAvis Budget Group向けのトラベルアシスタントなどのアプリを開発している。

【写真14】Verizon社のHybrid MECの構成(上)と Hybrid MECの導入事例(左:Aifi社 、右: Edison Interactive社/ClubCart社)

【写真14】Verizon社のHybrid MECの構成(上)と
Hybrid MECの導入事例(左:Aifi社 、右: Edison Interactive社/ClubCart社)
(出典:筆者撮影の写真をもとに編集)

(3-2) Swisscom社

 2021年にAWSを積極的に提案することを決め、2022年にAWS社と戦略的パートナーシップを提携したSwisscom社が同社とAWS社との連携について語った。タイトルは"Driving our journey from Telco to Techco"。「Telcoからの脱却」は数年前に流行った言葉だが、このフレーズを使う裏には、Swisscom社の本気度が見られる。

 Swisscom社のMobile Network and ServiceのEVPのMark Dusener(以下、Mark)さんは、Swisscom社の”Telco to Techco"戦略の4つの方針としてSimplification、Cloud Nativeness、Automation、Our people and cultureをあげた。Markさんは、Simplicityはスイス国内の限られたエネルギーリソースの最適化、Innovation投資に向けたコスト削減、Innovationを推進するチーム組成のための絶対条件だという。そしてMarkさんの次のメッセージは"Rid of boxes"。Markさんは「経済圏という考え方は単に結果で、真のCloud Nativenessを実現するには地域性は不要。」だと説明した。そして、「"囲い"や"研究"は不要で、実際のプロダクトでテストすることが重要。全てのシステムは何かの問題を抱えていて、Five Nine(99.99999%)の追求は意味がない。」と続けた。Adamさんは最後に、「AWS社を使えば、真の弾力性が何かがわかる。Cloud-Nativeの基本方針は今や存在せず、Swisscom社は変化し続けることを選んだ。」とまとめた。

 Swisscom社はAWS Wavelengthをスイス国内で提供したいと考えていると思うが、本ニュースレターを執筆した時点ではAWS社はスイス国内でのAWS Wavelengthの提供に関する発表をしていない。

【写真15】AWS社が考える通信事業者の課題(左)とSwisscom社の取り組み(右)

【写真15】AWS社が考える通信事業者の課題(左)とSwisscom社の取り組み(右)
(出典:筆者撮影の写真をもとに編集)

3. おわりに

 AWS re:Inventは昨年も開催されたが、参加者、出展者、セッションの数では比べ物にならず、2019年を凌ぐ規模になっていた。Keynoteの開場を待つ人から「今年は新サービスの発表が少ない。」という声が聞こえてきたが、CEO Keynoteを見る限り、若干少ないかもしれないが、マーケとニーズやトレンドを先取りしたサービスが目白押しだった。 また、AWS re:Invent 2022期間中にサッカーワールドカップが開催されていたため、Expo開場前のスペースでPublic Viewingが行われ、多くの参加者が母国のチームを応援していた。

【写真16】日本対スペイン戦のPublic Viewingの様子

【写真16】日本対スペイン戦のPublic Viewingの様子
(出典:筆者撮影の写真をもとに編集)

 AWS re:Inventは開発者だけでなく、マーケティング担当者にも貴重な情報を提供してくれる。当初、私は強大な競合相手の新たなサービス戦略を確認するために参加していたが、今では顧客がどのようにAWSを利用し、AWS社がどのように顧客ニーズに応えているのかを知る貴重な機会となっている。

 参加すれば、AWS社の圧倒的な開発力と提案力を感じて刺激を得るはずだ。すでにAWS re:Invent 2023の日程は確定している。ぜひ、上司、会社に提案してAWS re:Invent 2023に参加してほしい。

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