2023.1.11 イベントレポート InfoCom T&S World Trend Report

CES 2023レポート

CES:Consumer Electronics Show

本記事は、NTTコミュニケーションズ イノベーションセンターの小室智昭氏より寄稿いただいた原稿をそのまま掲出しています。

1. はじめに

 新年恒例の年次カンファレンスのCES(Consumer Electronic Show)が今年もNevada州Las Vegas市で開催された。主催者のCTA(Consumer Technology Association)によると、展示会場は2022年と比べて50%以上拡張され、参加者は10万人を超えると予想している。CES 2020の参加者数が10万8千人だったので、参加者はコロナ前に戻ったと見ていいだろう。しかし、出展社数は2,200社は越えたそうだが、CES 2022の4,419社には遠く及ばない。

 CES 2023は1月5日から1月8日の4日間で開催されるが、例年通り1月3日と1月4日にはMedia向けにCES 2023の見どころの共有や、企業のプレス発表が行われる。 本稿では、CES 2023開催前にCES 2023の見どころや注目企業について報告する。日本のメディアも取り上げると思うが、他のメデイアとは違う視線の報告もあるので、1月5日から現地でCES 2023に参加する人も日本でネットニュースを見る人も参考にしてほしい。

【写真1】会期中は大勢の参加者を迎えるCESのロゴと会場に向かう廊下

【写真1】会期中は大勢の参加者を迎えるCESのロゴと会場に向かう廊下

2. CES2023の会場

 まずは、CES 2023が開催されるLas Vegas市内、およびCES 2023の会場について説明する。

2-1. 会場周辺の様子

 今年はLVCC(Las Vegas Convention Center)の向かいにあるCentral Plazaに大きなBoothを構えるGoogle社は例年通り、Las Vegas市内を走るモノレールにラッピング広告を出したり、Las Vegas市内の電光掲示板をジャックしている。

 CTAによるとMedia関係者の登録は3,000人を超え、CES 2023の会期前からMediaの参加者バッジをつけた関係者を街のあちこちで見かけた。

【写真2】Google社の広告がラッピングされたモノレール

【写真2】Google社の広告がラッピングされたモノレール

2-2. 展示会場

 CES 2023はCES 2022同様、Tech East、Tech West、Tech Southの3エリアで開催される。

2020年に完成したLVCC West Hallには自動車メーカー、サプライヤーなど300社以上の自動車関連の企業が集う。LVCC Centralでは、2022年にバズワードとなったWeb3やMetaverse関連の展示が多く見られるとCTAは事前のプレビューで紹介していた。

 今回、Media RoomがCESをこれまで支えていた「家電」が多く出展されているLVCC Centralから自動車関連の技術・製品・サービスが多く展示されているLVCC Westに移った。このことは、CTAが多くのMediaにLVCC Westに出展している自動車関係の企業を取り上げてほしいという意図の表れだと思う。

【図1】CES 2023の会場概要

【図1】CES 2023の会場概要
(CTAの資料をもとに筆者が作成)

3. CES 2023に見る業界トレンド

 ここでは、Media Day初日に開催される注目の2つのセッションについて紹介する。

 3-1. CES 2023 Tech Trends to Watch

 本セッションでは、Mediaの注目度が高いセッションで、CES 2023期間中および 2023 年を通して注目すべき技術トレンドについて紹介される。以前は、家電製品やSmartphoneの出荷台数、IPTV普及率など、”モノ”に関する情報をもとにしたトレンド予測が多かったが、近年は注目すべき業界、技術、サービスに関する情報へとシフトしている。

 事前のプレビューでは、Automotive、Digital Health、Food Tech、Web 3.0が注目の業界トレンドであると説明があった。また、海洋、農業、eVTOLを含むVehicle Tech、Health Tech、Web3、Metaverseも急成長分野として注目すべきのようだ。

 本セッションを担当したのは、CTAのVP, ResearchのSteve Koenig(以降、Steve)さん。ここ数年は、Steveさんともう一人のリサーチャーが業界トレンドを説明していたが、今年もSteveさんが一人で説明した。開場を待っていた時にSteveさんと彼の友達の話が聞こえてきたのだが、一人で担当する裏話があるようだ。よくある話ではあるが、気になる方は個別に連絡してほしい。

 会場は久しぶりに開場を待つMediaの行列が1時間前からでき始め、10分前には会場はMediaたちの熱気に包まれた。

【写真3】左: CES 2023 Trends to Watchのタイトル、右: 会場を埋め尽くしたMedia達

【写真3】左: CES 2023 Trends to Watchのタイトル、右: 会場を埋め尽くしたMedia達

1. 6つの注目トレンド

 今回のSteveさんのセッションでは、Consumer Techで注目すべき6つのトレンドが紹介された。Steveさんが紹介したトレンドはEnterprise Tech、Metaverse/Web 3.0、Transportation/Mobility、Health Tech、Sustainability、Gaming and Servicesの6つだった。

【写真4】注目すべき6つのトレンド

【写真4】注目すべき6つのトレンド

(1) Enterprise Tech

 Steveさんはセッションの中でEnterprise Techの説明に多くの時間を費やした。今私たちが直面している課題の共有とその課題をConsumer Techが解決できるという強い思いの表れだろう。

 SteveさんがまずSupply chainが持つ脆弱性、半導体業界の弱体化、労働力不足、インフレと金利上昇といった課題の共有があった。

 それに続き、「過去を見ると逆境から革新的な技術やサービスが生まれてきた」と説明した。Steveさんは、2008〜2009年のRecessionでは、4G-LTE、Smartphone、Tablet、Netbookが大きく成長したように、2023年のRecessionでは5G-IIoT Application、Connected Intelligence、Autonomous System、Quantum Computingが大きく成長すると予想している。

 この他にも現在の企業が必要な技術としてSecurity、Scalability、Simulationをあげ、Logistics&Warehouse AutomationにはSpeed(生産性向上)、Safety(作業員の安全)、Savings(稼働時間の最適化とフロアの最小化)が必要不可欠と説明した。

【写真5】Recession後に成長する技術・サービス(左)とSteveさんが注目する技術トレンド(右)

【写真5】Recession後に成長する技術・サービス(左)と
Steveさんが注目する技術トレンド(右)

(2) Metaverse

 Steveさんは、仮想空間、Digital Twin、没入感があるVR空間といったソリューション(MoT: Metaverse of Things)が登場し、世の中が思っている以上に私たちの生活に近づいていると説明した。Steveさんは、具体例としてCES 2023に出展しているMetaverseによる小売り事業を展開しているTouchcast社と香りとMetaverseを連携することでコンテンツをユーザーの記憶に強く印象付けできるソリューションを提供しているOVR Technology社を紹介した。

 MetaverseにおけるC向けサービスとB向けサービスは戦略は異なるが、Communication、Collaboration、TransactionはC向け、B向けの共通的な戦略だとSteveさんは説明した。

【写真6】MetaverseにおけるC向け戦略とB向け戦略

【写真6】MetaverseにおけるC向け戦略とB向け戦略

(3) Transportation

 CES 2023におけるTransportationのテーマは、(1)EVs and the Evolution of the Electrification Ecosystem、(2)Advancement of Autonomous Systems and Applications、(3)Transportation of the in-vehicle experienceの3つだそうだ。どれも重要なテーマだが、(2)については、トラックドライバー不足は米国だけでなく世界的な課題であるため、注目度が高いとSteveさんは説明した。

 また、(3)In-vehicle Experienceついては、車内スクリーン、音声制御、5G V2X、vCommerce(車内コマースとエンターテイメント)、Subscription型のFeatures as a Service(FaaS)モデルに注目が集まっているとSteveさんは説明した。

【写真7】CES 2023にみるTransporationのテーマ

【写真7】CES 2023にみるTransporationのテーマ

(4) Health Technology

 Health Techでは、COVID-19の影響もあり、Digital Therapeutics、Telehealth、Fitness Techの3つがHome HealthのハブになるとSteveさんは説明した。またSteveさんは、Health Techの次世代を担うアプリとして、24/7でアクセス可能なOn-demand network、ストレスや不安を解消するMental Wellness、Phisical Training/Mental TrainingができるVirtual Realityをあげた。

【写真8】Telehealthの注目サービス(左)と次世代を担うHealthcareアプリ(右)

【写真8】Telehealthの注目サービス(左)と次世代を担うHealthcareアプリ(右)

(5) Sustainability

 CES 2023では、Smart Grid、Supply Chain、Ag Tech/Food Tech、Cleah Techなど多くのソリューションを見ることができるそうだ。このセッションでSteveさんが紹介したテーマは、Water Purification、Clean Power Tech、Battery Tech Innovationの3つだった。Steveさんは、Water Purificationの分野において、CES 2023 Innovation Awards Best of Innovationを受賞したACWA Robotics社を紹介した。ACWA Robotics社のロボットは水の配給を止めることなく、水道管の内部を点検し、必要なデータのデジタル化を行う。

 またCES 2023期間中では、多くのAg Techソリューションを見ることができるようだ。その一例として、SteveさんはIoTによるDigital Silo、ドローン、センサー、衛星写真による土壌監視、農家向けアプリ、農業ロボット、第三者の分析サービスを紹介した。

 CES 2023でも、昨年に続いて世界最大の農業機械メーカーのJone Deere社のCEOがKeynoteを行う。このことを見てもCTAがAg Techに注目していることが伺える。

【写真9】CES 2023におけるSustainability(左)とAg Techサービス(右)

【写真9】CES 2023におけるSustainability(左)とAg Techサービス(右)

(6) Gaming and Services

 比較となるデータの説明はなかったが、以前はハードコアと呼ばれる熱血的なゲームファンがゲーム業界を支えていたが、今では定期的もしくはたまにゲームを楽しむ人が増えているそうだ。ゲームを楽しむ端末も以前はXboxやPlayStationなどの専用機でゲームを楽しむ人が多かったが、今ではSmartphoneなどのモバイル端末でゲームを楽しむ人が多いようだ。

 CES 2023ではHardware、Display、Haptics、Metaverseといったソリューションが見られるそうだ。

【写真10】ゲーム人口の現状(左)とCES 2023におけるゲーム業界の注目サービス(右)

【写真10】ゲーム人口の現状(左)とCES 2023におけるゲーム業界の注目サービス(右)

3-2. CES Unveiled Las Vegas

 Mediaだけが参加できる当セッションは、CES 2023がオープンする2日前に大企業やStartupの製品や技術に触れることができる。例年であれば、CES Innovation Award Best of Innovationを受賞した製品の展示もあるのだが、今年は展示がなかった。

 私の印象だが、CES Unveiled Las Vegasに参加するMediaはCES 2022よりも多かった印象を受けた。会場前には限られたスペースでMediaたちに並んでもらうためのOverflowが作られていた。コロナ前は毎年Overflowがあったが、昨年はOverflowはなかった。また、会場の賑わいも昨年以上で、会場内に設置されたバーや軽食のテーブルには、昨年にはなかった長い行列ができていた。

 CES Unveiled Las Vegasにしか出展しない企業もあるが、展示内容については別途報告したい。

4. おわりに

 Media Dayの2日目はBosch社、Panasonic社、SONY社などの企業がプレス発表を行う。Bosch社、Panasonic社などはMandalay Bayのカンファレンスルームでプレス発表を行うが、SONY社は例年どり、LVCC Centralの自社ブースで行う。

 CES会場でプレス発表を行う企業は珍しくなく、CES 2023ではトヨタ紡織(株)が現地時間の1月5日13:00からLVCC Westの自社ブースでプレス発表を行う。Plug and Playのトヨタ紡織(株)のブースからパーソナルオーディオに対応したシートが消えていたので、おそらくCES 2023に展示していると思われる。このパーソナルオーディオ対応のシートはNTTソノリティの技術が使われている。CES 2023に参加する人がいたらぜひ体験してほしい。

 多くのメディアがCES 2023について報じていると思うが、今後も独自の視点で様子を伝えるので、楽しみにしてほしい。

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