11月下旬に福島県いわき市から浪江町まで車で往復して、避難指示・帰還困難区域を通りぬけて来ました。とは言っても帰還困難区域では住民の一時立入りや特別通過交通制度に基づき通過する場合等を除き通行が制限されていますので、通行証の所持・確認なく通過できる2つの道路を車で走行しただけです。往路は常磐自動車道の常磐富岡ICから浪江ICまでの14.3km、復路は国道6号線双葉町から大熊町を経て富岡町までの14.1kmが帰還困難区域にあたります。2つの道路は福島県浜通りを南北に繋ぐ大動脈であり地域の経済・社会を支えてきたインフラです。鉄道の常磐線は南側竜田駅と北側原ノ町駅の間は今でも不通でこの間は代行バスの運転となっていますので、道路インフラに負うところが大きく福島県浜通り地域復興の要となっています。復興や原発関係の車輛が頻繁に往来していたのが印象に残りました。
ただ常磐自動車道には帰還困難区域内にインターチェンジがないので通行自体は通常どおりで走るだけですが(但し自動二輪の通行は不可)、国道6号線は帰還困難区域内を貫いていますのですべての脇道はバリケードで封鎖されていて、警察官とガードマンが検問に立って進入しないよう見張っていました。当然のことなのですが、厳しい警戒の姿に事態の重大さが現れていました。
帰還困難区域の外側には居住制限区域と避難指示解除準備区域が設定されていますが、そこにある「ドコモショップ浪江店」もまた他のすべての施設・建物と同様に退去しており、無人の町内に残されていたのが何とも無残でした。私は東日本大震災で津波の被害にあった岩手県と宮城県の沿岸地域をこれまで3回訪れて被害と復興の状況を見てきましたが、現在に到るも町全体が無人なのは今回初めて体験しました。今後何年先まで無人状態が続くのか想像がつきません。本当に悲惨な災害です。単純な自然災害でないだけにどうしても自分なりにうまく現状を整理できないでいます。
帰還困難区域に入るところにやはり看板がありましたが、そこにはさらに“高線量区間を含む”と表示されていて福島第一原発が近いことを窺わせます。福島第一原発はこの双葉町と南隣の大熊町との境にありますが、国道6号線沿いの脇道は完全にバリケードで封鎖されていて左右どこにも立入ることは不可能となっていました。ただ、福島第一原発への進入道路だけは開いていて多くの車輛の出入りが見受けられました。
ここはやはり放射線量が高く、私が持参した簡易な放射線線量計でも4.25μSv/hの数値を示して今回の道路ルート上では簡易線量計の最高値となりました。原発の原子炉から約3km程度の所なので線量が高くなるのは必然ですが急ぎその場を走りぬけました。
その先富岡町に出ていわき市内に戻ったのですが、途中のいわき市の沿岸地域には津波被害の痕跡が残っていました。しかし、そこには新しく海岸堤防ができ、新築建物が立っていて復興活動が進展しているのがよく分かり、すぐ北にある避難指示区域との対比には心が痛みました。自然災害にはすぐに立ち向かうことができますが、放射能被害に対応するには時間と手間と費用が大きくかかり本当に難しい道のりとなっています。さらに東京電力はじめ関係機関・関係者の一層の努力と国の専門部署(機関)の設置・推進が望まれます。特に廃炉をはじめ汚染地域の無害化の方策など広く原子力・放射線工学分野の研究と教育への傾注が今こそ必要です。まずは人づくりを急がないと今後数十年に渉る復元・復興施策が滞りかねません。今後、世界中で原子炉の廃炉と放射性廃棄物の処理が現実の課題となるので、ここでも課題先進国日本の取り組みに期待したいと思っています。起きてしまった原発事故への反省や検証は当然のことですが、それだけではなく現在の本当に困難な状況をどのように克服していくのか、本格的な研究と人づくりへの財源の投入と制度・仕組み作りを根本的に考えるべき時ではないでしょうか。
最後に私は原子力発電廃止論者ではありません。ただ、これまで以上に注意力を行き渡らせて、現実に後から起こる種々の事象への調査研究に一層努力するなど、電力事業関係者の努力が示されないと原子力発電への一般の信頼は得られないでしょう。原子力や放射線技術の研究を続けて人類社会の安定と地球規模の環境問題(CO2削減)の解消のために人類の英知を集めるべき時だと考えます。単純な原子力発電施設の投資回収問題や電力会社の収支等経営問題レベルで論じてはなりません。子や孫達の世代のエネルギー構造や地球規模の温暖化による異常気象への対応など、長期的な国家的課題への対応の問題として原子力発電を取り扱うべきです。現在の技術水準からみて既に旧式に属する原子力施設は改めることも必要です。資金や人材、手間を惜しんではなりません。人類社会と地球環境の未来がかかっているのですから。エネルギー需給の構造変化には時間がかかります。
今回、福島県浜通りの姿を実際に見て、再度心が重くなりました。この高線量地域をどのように回復していくのか、現実的な活用の仕方・復興の方法、被災者・避難者の方々の支援や生活再建など国家的見地から議論が進むことを願って止みません。
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