2022.6.29 ITトレンド全般

世界の街角から:ウィンブルドンの楽しみ方

Lisa Van Dorp from Pixabay

ウィンブルドンはロンドン中心部から電車で1時間ほどの郊外にある小さな街であるが、グランドスラムと呼ばれる世界4大トーナメントが行われるテニスの聖地として、世界中でその名を知られている。

ウィンブルドン選手権(The Championships)は、1877年に開催された男子シングルスが大会の始まりと言われており、4大大会の中でも最も長い歴史を誇る、英国王室も観戦する伝統と格式のある大会である。全英オープンゴルフ(The Open)や、ロイヤルアスコット競馬(Royal Ascot Race Meeting)と並ぶ英国社交界最高峰のイベントで、短い英国の夏を楽しむ行事として愛されている。毎年オールドイングランド・ローンテニス・アンド・クローケー・クラブで6月最終月曜日から2週間の日程で開催され、今年は6月27日(月)から7月10日(日)で熱戦が繰り広げられる予定(写真1)。

【写真1】会場全景

【写真1】会場全景
(出典:wimbledon.com)

【写真2】ロゴ

【写真2】ロゴ
(出典:wimbledon.com)

近年は日本人プレーヤーの活躍もあり、テニスファンのみならず、時差に苦しみながらも夜な夜な観戦する人も多いかと思うが、このロゴのデザインが日本人デザイナー佐藤忠敏さんによるものであることはあまり知られていないのではないだろうか。 「芝コートの緑、白線の白、伝統を表す紫紺」でウィンブルドンを表現したそうで、美しいセンターコートのアイビーの壁面にも映えて美しい(写真2)。

ウィンブルドン選手権では主催者側の規定により、練習も含め選手は白いウェアとシューズを着用する伝統が守られている。その他にもチケットの入手方法、観戦のルールや会場の名物など、長い伝統が守られているものがたくさんある。今回は、そんな現地ならではのウィンブルドンの楽しみ方をご紹介したい。

私が現地で観戦したのは2015年。もう7年前になるが、今もほぼシステムは変わっておらず、伝統的なルールが守られている。せっかくロンドンにいるのだから、観に行きたいなぁと思いつつ、チケットなんて手に入らないだろうと思っていたら、現地の友人から並べば手に入るよ! と聞いてびっくり。調べてみると、定価でチケットを入手する方法は以下の3つがある。

  1.  抽選に応募する

    当選するとチケットが入手できる。但し、日程を指定することができないため、決勝や準決勝などのチケットが取れるかどうかは運次第。かつ、英国国内からの応募は郵便のみ。自分の住所を書いて、切手を貼った返信用封筒を会場であるテニスクラブに送ると、応募用紙が送られてくるので、そこに記入して再度返送するという超アナログな応募方法。これを前年の12月末までに行わなければならない。当選した人には2月くらいに通知が届き、支払いをすればようやくチケットを入手できる。

  2. 公式オンライン販売で買う

    チケットマスターというサイトで、センターコートとNo.2コートまでのチケットを買うことができる。但し、発売は試合前日の午前9時で、発売数も数百枚なので超激戦。一瞬で売切れ、ほぼサイトにつながらないと言われており、こちらもかなりハードルが高く、運次第。

  3. 列に並ぶ

    一番確実に、希望する日にちの観たいコートのチケットを入手できるのがこの方法で、必ず一定数を当日券として、並んだ人に販売するというのが長年の伝統となっている。かつ、ここで売り出されるチケットが、一部スポンサー席や関係者席を除き、最もコートに近い前列のシートであり、定価よりはるかに高い前売りとなるDebentures TicketやHospitality Ticketよりもいい席が買える。 発売枚数はセンターコートが500枚、No.1コート 500枚、No.2コート 500枚、Groundチケット 5~6,000枚。センターからNo.2コートまでは指定席となっており、センターコート、No.1、2チケットを持っている人は自分のコートとNo.3以下すべてのコートの試合が、Groundチケットは、No.3以下すべてのコートの試合が観戦可能となる。

とは言え、並ぶといってもどうしたら? と思っていたところ、ちょうど仕事でお世話になっていた某メーカーの駐在員の方と打ち合わせをしていた折に、ご興味あれば行きますか? とお声がけいただき、一緒にチャレンジさせていただいた。どうせ行くならセンターコート狙いで! ということで、泊まりで並ぶことを計画。上述したように、センターコートの当日券は500枚なので、全日程において、前日から並ばなければ、ほぼ入手できない。準々決勝あたりになると、前々日から並んでいる人もいるとのことだが、我々は前半の日程であったため、翌日のセンターコート、うまくいけば錦織圭選手の試合が観られることを期待しつつ並ぶことにした。

この“お並び”は “The Queue”と呼ばれている。queueとは行列のことで、普通ならa queueと表記されるが、The Queueとなると “特別なウィンブルドンのあの行列”というニュアンスの表現になる。並ぶ場所はWimbledon Parkという会場の隣の広大な芝生の広場(図1)。

【図1】Wimbledon Parkと会場 Map

【図1】Wimbledon Parkと会場 Map
(出典:Google Map)

【写真3】414番のQueue Cardと

【写真3】414番のQueue Cardと
(出典:文中掲載の写真は、一部記載の
あるものを除きすべて筆者撮影)

長い歴史を持つ年中行事であるため、とても整然とシステマティックに対応されている。並ぶ場所はWimbledon Parkにある会場に隣接した芝生の普段は駐車場となっているところ。到着すると係員がにこやかに迎えてくれ、列の最後部に案内してくれる。そこで番号が書かれたQueue Cardが渡される。当日は、確実にセンターコートをゲットするべく朝から行きたかったのだが、私の仕事の都合で現地についたのが、結局午後4時近くになってしまっていた。なので、センターコートはまず無理で、No.1に入れればラッキーかと思っていたところ、、列の何番目にいるのかがわかる手渡されたカードを見ると414番! 思わず係の人に番号が合っているか?と聞くと、“Yes, Congratulations! You can get center court ticket!” とハイタッチをしてくれた。しかも、ちょうど翌日の組み合わせと試合をするコートが発表され、なんと、錦織圭選手の2回戦がセンターコートで行われることに。我々が日本人だとわかると、並んでいる周りの人達が口々に、「おめでとう! ラッキーだね!」と祝福してくれ喜びも倍増。明日が待ちきれない気分になった(写真3)。

ここではテント泊で並ぶことになっているため、我々もさっそくテントを設営。毎年、来ている人も多く、皆手馴れた感じで設営を済ませ、まるでキャンプか夏フェスのように並ぶこと自体も楽しんでいる様子(写真4、5)。

【写真4】Queueを楽しむ人々

【写真4】Queueを楽しむ人々

【写真5】夕暮れのテントサイト

【写真5】夕暮れのテントサイト

The QueueにはA Guide to Queueingというガイドブックがあり、チケット入手までの工程や時間表、並んでいる間のルール等が書かれている(写真6)。夜の10時以降はテントの中で静かに就寝とか、持ち込んでいいお酒はワイン1本、ビールなら500mlを2本まで、火を使うBBQは禁止等々。列の並び方は特に厳しく定義されており、必ず本人が列に並び、横入りや順番抜かしはNG、列を離れるのは30分以内などが記述されている。食事などで場所を離れる場合は、お互い、前後の人に声をかけて荷物をみてもらったりという感じ。周りの人達ともすぐに仲良くなり、色々な話をしたり、持ち込んだ食べ物をおすそ分けし合ったりしながら、きちんとルールを守って一夜を過ごす。会場にはトイレや水場も設置されており、なんとピザなどのデリバリーもできる。ピザ屋に電話をして、今ウィンブルドンで並んでいると言うと、ちゃんと決まった場所まで届けてくれるのも、ならではの風景。我々は近くのレストランに食事に行き、戻って持ち込んだワインを楽しみ、ルールブックに従い10時に就寝し翌日に備えた。

【写真6】ガイドブックとQueue Card

【写真6】ガイドブックとQueue Card

ロンドンの7月は、夏といっても日本よりかなり涼しく、朝晩は寒いくらい。翌朝起きられるか心配だった、寒くて早々に目が覚めた。6時になると、係の人が起こしに来るのでテントをたたみ、列が動く準備をする。たたんだテントや寝袋など、泊まるための荷物は、広場に大きなトラックがスタンバイしており、そこに預けることができる。皆が荷物を片付け、列が整うと、今度はQueue Cardと引き換えに希望のコートを聞かれ、コートの名前が書かれたリストバンドと交換する。一度巻くと切らないと外せないようになっており、不正を防ぎ、並んだ本人しかチケットを買えない仕組みを守るためのもの。この後も、実際にチケットを買えるまで、かなり長い時間少しずつ列が移動していくことになるのだが、皆行儀よく、きちんと並んで移動していくマナーの良さは素晴らしい(写真7)。

【写真7】少しずつ会場へ

【写真7】少しずつ会場へ

朝9時にチケットブースがオープンし、並び始めてから、約17時間。無事、センターコート、前から7列目のチケットをゲットして会場の中へ。
このテニスクラブには50以上のコートがあるが、選手権で使われるのは19コート。13番は欠番のため、1~19とセンターコートで19となる。会場内にはテニスの博物館や、売店、レストランなどもあり、試合を観る以外にも色々と楽しめる(図2)。

【図2】会場内Map

【図2】会場内Map
(出典:wimbledon.com)

【写真8】ストロベリークリームとピムス

【写真8】ストロベリークリームとピムス

ウィンブルドンの名物の一つがストロベリー&クリーム。ちょうどイチゴの季節でもあり、必ず当日の朝、ロンドン南東のケント州で収穫されたものが運ばれて提供されるのも伝統。大会期間中190万粒以上のイチゴが食べられるとか。厳選されたものなので、赤くてとても美味しそうだが、日本のイチゴを想像してはいけない。あんなに甘くてジューシーなのは日本だけ。なので、イチゴに砂糖とクリームをかけて食べるのがこのストロベリー&クリーム。試合の合間にイチゴを食べるのは、ヘンリー8世の時代、宮殿内のテニスコートに試合を観に来た人に、当時貴重だったイチゴを振る舞ったのが由来と言われており、第一回大会からウィンブルドンの名物として供されているとのこと。もう一つの名物がピムスというジンベースのリキュールで作ったカクテル(写真8)。綺麗な赤い色をしていて、フルーツやミント、キュウリなどを入れる。夏のロンドンではよく飲まれている爽やかなカクテルで、暑い日差しの中、テニスを観ながら飲むのに冷たいピムスはぴったり。但し、アルコール度数はけっこうあるので、ごくごく飲める爽やかさに騙されないよう要注意。

売店のお土産はその年の年号が入ったタオルや、キャップ、テニスウェアなどが人気。中でも一番人気は実際にコートで使用されたテニスボール。公式球なので、すべてウィンブルドンの文字と年号が入っていて、使用済みとは言え、頻繁に交換しているので、私などがテニス部で表面がツルツルになるぐらい使っていたようなものとは全然違い、ほぼ新品。誰がどの試合で使ったものなのかはわからないが、それもまた想像するだけで楽しく、いい思い出の品となるはず。ただ、これは大人気で、数も売り出すタイミングも不定期なのでゲットできたらラッキーという感じかと。私は売り切れで買うことができず残念。現地に行ったらぜひお試しを。

肝心の試合は、スケジュールを見ながら、まずNo.8コートで伊達公子のダブルスを観戦。私も高校時代にテニスをしていたが、同じ兵庫県なので大会で一緒になることもあり、彼女は当時から圧倒的な存在だった。1988年にはインターハイ三冠を達成し、翌年プロに転向したのを見ていたので、一度引退しながら復帰し、また活躍していた彼女の試合を再び生で観られたのは感慨深く、往年を彷彿させるライジングショットでパワーを分けてもらったような気がした(写真9)。

【写真9】伊達公子ダブルスの試合

【写真9】伊達公子ダブルスの試合

その後はセンターコートに戻り観戦(写真10)。とうとう次が錦織の試合とワクワクしていたら、なんと直前に棄権が発表され、がっかり(写真11)。会場全体も落胆のため息という感じになり、多くの人が席を立ち他の試合を観に移動していった。

【写真10】センターコート入り口

【写真10】センターコート入り口

【写真11】対戦ボード

【写真11】対戦ボード

【写真12】アフタヌーンティ

【写真12】アフタヌーンティ

我々もこのタイミングでお昼でも食べるかと一旦出て、クラブハウスでアフタヌーンティーを堪能(写真12)。ところがしばらくすると、センターコートから大歓声が上がり、皆がざわざわし出した。代わりにセンターコートでプレイすることになったチリッチとベランキスが素晴らしい試合を展開していたのだった。観に戻ると白熱した試合はフルセットまでもつれ込む展開となり、一度は外出した人達もどんどん席に戻り、最後は満員のスタンドがスタンディングオベーションとなる素晴らしい試合をみせてくれた(写真13)。「錦織が観たかったのに~」と一瞬言ってしまったことを深く反省。その後、この年の優勝者となるジョコビッチの試合も見ることができ、センターコートでの観戦を満喫した。

【写真13】センターコートの試合

【写真13】センターコートの試合

ウィンブルドンは、現在においても他の4大大会とは一線を画し、歴史と伝統を重んじる大会となっている。大会は多くのボランティアによって運営されており、様々な場面でチャリティーも行われている。観戦チケットにもDonationという仕組みがある。終日観戦せず途中で帰る時に、自身の購入したチケットを再販に出すもので、次に購入する人が支払うチケット代が寄付になるという仕組み。より多くの人が観戦することができ、社会貢献にも繋がる素晴らしい取り組みである。私も前夜の寝不足もあり、午後早めに退散。記念にチケットを持ち帰りたいところではあったが、Donationに賛同し、預けて帰路についた。

ロンドンの夏は気候もよく、夜10時近くまで明るく素晴らしいが、その期間はほんの2~3週間と短い。短いからこそ、夏を楽しむべく、様々なスポーツイベントや、野外コンサート、演劇などが行われる。ここ数年はコロナ禍で海外に行けない状況であったが、徐々に渡航もできるようになってきており、次の旅先としてロンドンの夏を楽しみに行くのはいかがだろうか。

ウィンブルドンはThe Queueに参加すれば必ずチケットが入手できる世界でも稀有なイベント。あの広場で、観戦を心待ちにする人々と共に一夜を過ごすことでより気持ちが高まり、楽しめるイベントにもなっている。世界一美しい芝のセンターコートで試合を観るのは、言葉で言い表せない特別な体験となること間違いなし! 機会があればぜひチャレンジを!

【写真14】ミュージアムの歴代勝者のパネル

【写真14】ミュージアムの歴代勝者のパネル

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