2017年1月24日掲載 ICT利活用 ITトレンド全般 ICR研究員の眼

農山村の再生へ向けて:綜合警備保障(ALSOK)の鳥獣害対策に向けた取り組み


(参考写真) わなに捕獲されたイノシシ (出所)ALSOK「コミュニティへの参画およびコミュニティの発展」より

“191億円”

この数字は平成26年度の鳥獣被害による作物被害額です。これは、耕作放棄地は対象外になるため、実際にはこの金額を上回る被害が出ているのです。

山本農林水産大臣は、2017年初に「農業・農村の多面的機能の維持・発揮を図るため、地域の共同活動、中山間地域等における農業生産活動、自然環境の保全に資する農業生産活動を支援するとともに、改正された鳥獣被害防止特措法に基づき、ジビエ利活用の推進等、鳥獣被害対策の内容を充実させていく[1]」と、農業・農村の多面的機能の維持・発揮を狙いに、鳥獣被害対策を拡充すると言及しています。先の被害額が示す通り、鳥獣被害対策は、農業生産という産業面と、農村という社会生活面において重要な課題となっています。

鳥獣被害の状況

全国の野生鳥獣による作物被害は191億円(前年度比7億円減)のうち、8割は獣類によるものです。被害額が多いほうから、シカ(65億円)、イノシシ(55億円)、サル(13億円)で被害総額の7割を占めています。

図表:全国の野生鳥獣による農作物被害状況(平成26年度)

図表:全国の野生鳥獣による農作物被害状況(平成26年度)単位百万円
(出所)農林水産省「全国の野生鳥獣による農作物被害状況について(平成26年度)」

 

鳥獣被害対策に向けた動向

2008年2月に「鳥獣による農林水産業等に係る被害防止のための特別措置に関する法律」が施行され、市町村への捕獲許可権限が委譲されました。その後、自治体や民間企業が対策に乗り出しています。最近では、日本ジビエ学会が発足する等、捕獲した鳥獣の活用への本格的な取り組みも出てきています。

民間の取り組みとしては、ALSOKが2013年からICTを活用した鳥獣害対策を開始しています。本稿では民間企業の農業再生への取り組みとして、ALSOKの鳥獣害対策をとり上げ、その効果と、鳥獣害対策の課題と今後を展望します。

図表:鳥獣被害対策に関する主な動向

図表:鳥獣被害対策に関する主な動向
(出所)農林水産省、環境省、日本農業新聞、農業協同組合新聞等向

「鳥獣わな監視装置」の販売開始

ALSOKでは、2013年から罠が作動したときにメールでお知らせする装置「鳥獣わな監視装置」の取扱を開始しました。監視装置を罠につけて使います。これにより、見回りにかかる労力の低減(見回り頻度の低下)、錯誤捕獲の早期発見等の効果がでています。この装置を利用することにより、見回り頻度を減少でき、高齢化が進展する農家の負担軽減につながっています。

「鳥獣わな監視装置」のターゲット層は、主に自治体です。実際に利用するのは農家ですが、自治体が導入し、農家に貸出しています。現在の導入台数は全国各地で100台以上導入されています。

 わなに捕獲されたイノシシ

(参考)わなに捕獲されたイノシシ
(出所)ALSOKホームページ「コミュニティへの参画およびコミュニティの発展」より

 

捕獲業務の開始

当初は、監視装置の機器の販売をしていましたが、利用者の要望に応じて、監視装置を活用して有害鳥獣を捕獲するサービスの提供を始めました。要望のあった自治体(千葉県茂原市)や民間企業から委託を受けて実施しています。被害の状況に合わせ、自治体、地元住民、地元猟友会等と協力体制を築き捕獲業務を実施しています。

捕獲業務では、「鳥獣わな監視装置」を利用して、効率的に捕獲業務を行うことで、捕獲頭数が倍以上に増えるケースもありました。

ただ、ICTを導入すれば、簡単に駆除ができるのかというとそうではありません。「駆除のノウハウはマニュアルのみでは伝授できません。同じイノシシでも、地域が変われば、エサや生態が変化するので地域のごとの状況を聞かないと対策が打てない部分があります」(ALSOK営業推進部 機械警備営業室 小塚氏)と、ICTを手段として活用しつつも、駆除業務の人的ノウハウは必要であることが指摘されています。

鳥獣害対策の課題、展望

これまで鳥獣の捕獲は、ボランティアが行ったり、自治体が捕獲報奨金を提供したりすることにより、行われてきました。つまり、自治体で捕獲業務に対して予算化が行われていません。また、狩猟を行う人が高齢化してきており、狩猟出来る人が減少しています。5年後には狩猟できる人材がいなくなると言われています。このような現状に対し、国は、新たな捕獲の担い手を育成・確保する目的で、鳥獣の捕獲等に係る安全管理体制や適正かつ効率的に鳥獣の捕獲等をするために必要な従事者の技能及び知識が一定の基準に適合している法人を認定する「認定鳥獣捕獲等事業者制度」を導入しました(2015年5月「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」施行)。法整備が進み、以前より民間企業が鳥獣害対策事業に進出しやすくなりましたが、民間企業である以上、事業の持続可能性が課題となります。

ALSOK営業推進部 機械警備営業室 課長 福田氏は「現状、鳥獣わな監視装置の販売と有害鳥獣駆除業務で十分な収益を確保出来ているとは言えないが、ALSOKとしてはCSRの観点からもこの取り組みを推進している。今後は、駆除業務を実施している周辺エリアの自治体等への提案を加速させ、受注件数を増やし、コストを圧縮することで適正な収益が得られるようにして行きたい。」と述べており、将来的に継続していくためには採算性をクリアしないといけないとしています。

鳥獣わな監視装置の市場性については、届け出のない鳥獣被害も含めると、鳥獣被害の金額面での大きさは明らかであり、潜在需要は確かに存在しているということになります。

鳥獣被害を軽減していく上では、鳥獣被害対策のサービスを活用する自治体での予算化等、このビジネスにかかわるステークホルダが課題を解決していく必要があるでしょう。

さらに、「『捕獲した鳥獣を何とかしてほしい』という相談を直接農家からうけることもある」(小塚氏)と、現場では捕獲した鳥獣の処理が課題になっています。「捕獲したシカやイノシシの処分は、多くは土の中に埋めたり、有償で(焼却等の)処理をしている。ジビエ用もあるが、ごくわずか。ジビエは衛生基準もあるので、それほど簡単には実現できていない。最近では、捕獲した鳥獣の肉をペットフードとして活用している例もある。」(福田氏)と、捕獲した鳥獣の活用という新市場の可能性もあります。

まとめ

地域貢献として、耕作放棄を止めるために、鳥獣被害対策は重要です。鳥獣被害により、「農業から退きたい」と辞めていく農業従事者も後を絶たないそうです。これは国内農業において最も深刻な問題です。さらに、鳥獣被害を食い止めないと、それによる田畑の被害やそれに伴う耕作放棄地の拡大ばかりでなく、農村地域の生活空間にも鳥獣が現れるようになり、われわれ住民の生活の安全安心が担保出来ない状況をもたらすことになります。

シカ、イノシシは年々増加しており、シカの個体数は10年後には2倍になると言われており、捕獲量を増やさないと、人間社会に大きな影響がでてくる可能性があります。最近では、農地ばかりでなく、市街地において車とシカやイノシシの衝突事故が増えており、自治体で問題となるケースがでてきているのです。ALSOKの取り組みは、ICTを活用することにより、農家の安全安心と豊かな里山の自然保護に貢献しています。ICTが手段となり、地域社会の安全安心、農業の活性化に向けた環境整備において、役立っています。鳥獣被害の現状・社会的な意味、その問題の解決の必要性についての認知度向上や、対策を持続可能に実施できるような財政的な支援も求められています。加えて、有害捕獲されたシカやイノシシを野山に廃棄することなく、食肉として飲食店でのジビエ料理の提供、加工品開発と販売などを通じて有効活用を図り、鳥獣被害対策や地域活性化に貢献できる取り組みにもつながっていく可能性を秘めているのです。

[1] 農業協同組合新聞
http://www.jacom.or.jp/noukyo/tokusyu/2017/01/170101-31709.php

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