7,708万人から5,787万人へ
少子高齢化の進展を背景に、日本の生産年齢人口(15~64歳)は1995年8,716万人をピークに、2015年には7,708万人に減少しています。2040年には5,787万人にさらに減少することが予想されています。この結果、1人の高齢者あたりの生産年齢人口(=生産年齢人口/高齢者)は1995年4.77人から2015年に2.27人、2040年には1.50人と1人の高齢者を支える人数は急速に減少します。
生産年齢人口の減少は、生産性が一定であった場合、国内で生み出す付加価値(GDP)の低下につながることから、労働参加率の向上や1人当たりの生産性の向上が社会的課題となっています。
政府や経済団体の動向
2016年9月に、政府は働き方実現会議を開催し、安部総理、関係大臣、有識者による議論が開始され、働き方改革実現会議における討議テーマとして、7テーマが議論されました(図表1)。企業内の労働環境、労働市場全体、仕事と介護や育児の両立、外国人材の受け入れ等、幅の広い範囲が対象になっています。
3月28日の働き方改革実現会議では、「働き方改革実行計画」が取りまとめられ、労働時間の上限規制の導入を含む長時間労働の是正に向けた法改正に関する具体的な議論が行われています。
また、経団連では、「経営トップによる働き方改革宣言」を2016年7月に公表し、長時間労働の是正や年休取得の促進に取り組んでいます。具体的な議論に資するように、会員企業を対象に労働時間等実態調査[1]を行い、調査結果を公表しています。総労働時間、時間外労働時間、年次有給休暇取得動向に加えて、企業の取り組み施策についても調査をしています。
長時間労働の是正に向けた数値目標(KPI)については、時間外勤務の制限に関する数値目標(KPI)を設定している企業は32.5%に上っています。数値目標を達成するために、「経営トップメッセージ発信」が上位にあり、次いで、「時間外勤務に上限値設定」「残業状況の管理・共有・フォロー」が続いています(図表2)。
数値目標(KPI)以外の取り組みとしては、「ノー残業デー・定時退社」が最も多く、次いで「計画年休暇取得」「在宅勤務「フレックス導入」があります。一方、ICTを活用した働き方改革の施策に取り組んでいる企業は約1割と少ないです(図表3)。
日本企業においてICT活用による働き方改革はこれからの段階ですが、そのような中で先進的に取り組んできた企業として、日本マイクロソフトが挙げられます。日本マイクロソフトの取り組みについて、コーポレートコミュニケーション本部 本部長 岡部 一志様にお話を伺いました。
日本マイクロソフトの取り組み
日本マイクロソフトの働き方改革に向けた取り組み
日本マイクロソフトは、日本法人設立25周年を迎えた2011年に、5つの営業拠点(新宿、初台、赤坂等)を品川に集約し、本社を移転しました。この時に、オフィスの集約に伴い、フリーアドレス化(当時の社員の6割が対象)、固定電話の廃止(Skype for Businessの活用)、クラウドサービスの Office 365の積極的な活用による全社的な働き方改革の取り組みを開始しました。
制度としては、2007年に在宅勤務制度を開始しましたが、当時は育児、介護従事者が就業しやすくする為に必要な制度で、全社員が活用するようなものではありませんでした。本社移転以降、全社でフレキシブルな働き方を推進、その風土を確立し、そのうえで2016年5月に就業規則を改訂し、現在のテレワーク勤務制度を導入、全社員が活用しています。例えば、午後の会議資料を短時間で作成するために午前中は在宅勤務で作業に集中できる時間を確保しています。これを実際に行った人は、「倍以上のスピードで資料作成ができるようになりました」と、効率性が向上したことを実感されています。
働き方改革を進めるにあたって中心となる自社商材として、クラウドサービス「Office 365」のコミュニケーションプラットフォーム「Skype for Business」などを提供しています。Skype for Businessは社内でも使っており、全社員のプレゼンス情報(電話会議中、オンラインチャット中などの)を見ることや、インスタント メッセージング(IM)、音声通話、オンライン会議、企業の内外線の電話インフラを統合するエンタープライズボイス(VoIP 外線通話)機能などを備えています。これにより、パソコンで電話が出来、着信、通話履歴もPCで管理できます。また、「Outlook」のスケジュールで会議の設定をすると、その内容がSkype for Businessのプレゼンス情報に反映され、全てデジタルで情報を管理しています。
いつでも、どこでも働ける環境について、「例えば、社内の会議があり、その1時間後にもう一つの社内会議が予定された場合、通常であればその会議の間の1時間に顧客企業の役員にプレゼンに行くことが難しいですが、このツールを使えば、顧客企業でプレゼンは対応可能になり、その前後の社内の打ち合わせは、社外でPCやモバイル端末でオンライン参加でき、時間を有効に使えます」と、そのメリットを評価しています。
【全社員活用のきっかけ】
全社員活用の契機については、「2011年3月東日本大震災です。その1か月前の2011年2月に品川に拠点を集約したが、それが日本マイクロソフトの全社的な働き方改革の出発点でした。それまでは、日本マイクロソフトは“いわゆる日本企業”で、机には書類が山積みされ、自分の席があり、「いつでも、どこでも」働けるという環境ではなかったのです。震災時に、ICTツールを使って、業務を止めずリモートワークを行い、お客様をサポートするということを徹底して行い、全社員がICTツールを活用した働き方の良さを実感できました」と、働き方改革を開始した1か月後に起きた東日本大震災が全社員展開のきっかけになりました。
【働き方改革の推進活動へ】
日本マイクロソフトは、経営方針の柱として、働き方改革を推進しています。働き方改革の要素としては、経営方針に加えて、①制度・ポリシー、②ICT手段、③マインド、④オフィス環境があります。また、自社の取り組みの経験を幅広く共有し、日本の働き方改革の推進に貢献する活動を行っています。
日本マイクロソフトでは、2011年に働き方改革を開始し、2012年に「テレワークの日」として1日在宅勤務を全社員が行いました。2013年に「テレワークの日」をGWの谷間の3日間に実施しました。
2014年からは自社の取り組みにおける学びを共有し、賛同した外部の法人と「テレワーク週間/働き方改革週間」の取り組みを開始しました。賛同法人については「2014年は32法人とICTベンダーが中心でしたが、2015年に651法人 、2016年には833法人と増加し、2015年以降は一般企業、地方自治体、社団法人、中央官庁、病院等様々な業態の皆様にご賛同いただきました」と、業種・業態が広がってきています。
【日本マイクロソフトのビジネスと働き方改革のつながり】
日本マイクロソフトのビジネスについて「元々はソフトウェア会社でライセンスを提供し使ってもらうビジネスです。これは人の仕事を効率的にすることを狙いにしており、Word、Excel、パワーポイント等もそのために提供されている。我々は、このようなDNAが備わっています」(岡部氏)と、企業の目指す方向性が生産性と業務効率をたかめることを支援することであることを指摘しています。
働き方改革の展開については「働き方を変える際に、一部の専門部隊のみが行っても生産性は上がりません。全社展開すること(全社員が使う)が大事です。会議室の予約も含めて情報は全てデジタルで管理されています。我々の取り組みのノウハウ、効果はビジネスパートナー様にも共有し、社会での理解を高めるようにしています」(岡部氏)と、取り組みを自社内、他社に広げていくことの重要性が指摘されています。
ICTツールを活用した働き方の効果
働き方改革を実施する前と後でどのような変化があったのでしょうか。
日本マイクロソフトでは、いくつかの指標を定め、その変化を計測しています。2010年と2015年を比較すると、従業員の満足度向上、事業の生産性向上、残業時間の削減をもたらしています。注目すべき点は「事業の生産性が向上するのは、無駄な時間を削減した分、お客様へリーチ出来る回数や時間が増加したからです。」(岡部氏)と、労働時間削減にとどまらず、時間の使い方を変化させている点です。
時間の使い方については、「重要なのは、時間のチョイスです。生産性向上には時間に優先順位をつけて、活用することが求められます。」(岡部氏)と時間の使い方に優先順位をつけることが大事である点を指摘されています。
[1] (一社)日本経済団体連合会「2017年 労働時間等実態調査」(2017年7月18日)
調査時期 2017年4月10日~5月19日
調査対象 経団連会員企業ほか(各地方別経済団体を通じて非会員企業からも回答を得た)
回答状況 249社(対象労働者110万4,389人)
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