2015年6月25日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

コーポレートガバナンス・コードが求める”説明項目”の衝撃 ―資本政策と中期経営計画達成状況に注目―



今月は毎回取り上げているICT分野のことではなく、我が国の会社経営の根本に関わるコーポレートガバナンスについての話題を取り上げてみます。それは東京証券取引所上場会社に対し、6月1日から適用が始まるコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)についてです。CGコードは、その制定・適用にいたる経過や内容面で、コーポレートガバナンス問題が取り上げられてきた会社法改正論議とは大きく趣きを異にしています。会社法改正は2012年に要綱が発表され、この間学界や経済界などで長い間議論された後に成立しましたが、それは主に会社の機関設計(委員会設置や社外取締役の増員など)や多重代表訴訟といった利害が対立する分野の調整を図りながら進められてきた、いわば会社側からすると“守りのガバナンス”でした。

しかし、3月5日に原案が提示された今回のCGコードは、早くも6月1日に適用開始となります。2014年8月に第1回の「コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議」(東証と金融庁が共同事務局)が開催されて以降、非常に短期間で取りまとめが行われました。即ち第1回会合開催時の資料にあるとおり「『日本再興戦略』改訂2014―未来への挑戦―」(平成26年6月24日閣議決定)においては、「持続的成長に向けた企業の自律的な取組を促すため、東京証券取引所が新たに『コーポレートガバナンス・コード』を策定する。」との意向を踏まえたためです。これに先立って、2014年5月に自民党の「日本再生ビジョン」にCGコード等が提示されていて、その流れで6月の「改訂版日本再興戦略」において、政府が主導する成長戦略(第三の矢)として取り組む最優先の位置づけとなっていました。それぞれの会社において、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のための自律的な対応が図られることを通じて、会社、株主(投資家)、さらには経済全体の発展に寄与するとされているもので、いわゆる“攻めのガバナンス”といえるものです。

今回のCGコードは、機関投資家の行動規範であるスチュワードシップ・コードと一体となって会社に新しい規律を求める内容で、具体的な構成は、5点の基本原則、30の原則、38の補充原則から成り立っています。特徴としては、会社法改正のような法的な拘束力は持ちませんが、(1)ルールベース(細則主義)ではなくプリンシプルベース(原則主義)アプローチを採用していること、(2)適用方法が「comply or explain」であること、との2点にしぼられます。即ち、(1)ではそれぞれの原則の適用の仕方は個々の会社が自らの置かれた状況に応じて工夫すべきものとされ、本コードの趣旨・精神に照らして適切に解釈することが想定されています。また、(2)は原則を実施するか、さもなくばその理由を説明するとの規範であり、「ひな型」的な表現で表層的な説明に終始することは趣旨に反すると厳しい指摘が本文中に盛り込まれていることに驚きます。

内容は、1.株主の権利・平等性の確保、2.株主以外のステークホルダーとの適切な協働、3.適切な情報開示と透明性の確保、4.取締役会等の責務、5.株主との対話、の5点の基本原則の下に原則と補充原則があり、上場会社とその取締役、なかでも独立社外取締役に多くの規律の実践を求めたものとなっています。適用初年度にあたる今年は、3月決算会社の場合、6月の株主総会終了後、12月末までに準備ができ次第、速やかにコーポレートガバナンス報告書(以下、CG報告書)の提出が課されますので、会社の実務面においては現在その対応に追われているところです。ただCG報告書で開示が求められている項目は15に限定されていて、これが「comply or explain」すべき対象となっているので、既に多くの上場会社では事前の取り組みが進んでいるようです。特に、会社法改正時に話題を集めた社外取締役の選任については、独立社外取締役が2人以上いる会社が7割以上に上ると報道(2015.3.23日経産業新聞記事「社長100人アンケート」)されているとおり、多くの大手企業では既に対応済みとなっています。ただ、中小企業の場合には適任者捜しに苦労しているのが現実です。

一方、今回のCGコードでCG報告書の開示項目とならず、説明対応とされているものが7項目あることに関係者の注意が払われていないことに懸念を抱いています。説明の場や方法は会社の裁量に委ねられていますので、適時開示の方法のほか、年次報告書やホームページの記載、株主総会での説明など種々のパターンが考えられ、一見緩い取り扱いに思われがちです。しかし実際にはこの説明項目の中味を見ると、ここにこそ今回のCGコードの本質があり、機関投資家がかねてから求めてきた内容だと気付かされます。成長戦略の要諦だと感じます。

説明7項目を見てみると、会社の資本政策(資本効率の目標実現)と中期経営計画達成状況とに大きく整理できます。もちろん、機関投資家の関心が特に高い政策保有株式の合理性や買収防衛策といった項目もありますが、何といっても従来多くの日本企業があいまいにしたまま、正面からの説明を避けてきた資本政策の説明が求められる事態となったことは会社経営に大きなインパクトを与えるものです。中期経営計画において資本効率の目標実現のための具体的方策を説明することが求められていますので尚更のことです。これを攻めのガバナンスとして活用を図り、会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上に繋げていくことが求められています。この点から、最近は独立社外取締役の資質としてCFOの経験が重視されていることには道理があります。3月決算会社の決算発表や株主総会での説明などに注目しています。

翻って、この点について通信各社の事例と全般的な企業動向を見ておきたいと思います。まず通信会社のなかでは、NTTグループが2012年11月に発表した中期経営戦略「新たなステージを目指して」において、企業価値の向上策として自己株式取得を含めて“EPSを2016年3月期までに2012年3月期比60%以上成長”として資本政策を取り入れた目標を明確にしています。このことは今回のCGコードの方向をいち早く取り込んだものと評価できます。他方、KDDI、ソフトバンク、NTTドコモでは、中期経営目標や長期ビジョンなどの文言で発表しているなかで資本政策に関係する数値目標は配当性向を除いて示されてはいません。事業戦略やビジョンなどは多く語られているので誠に残念なことです。また、最近では企業の資本効率向上に関する報道が見受けられるようになっており(2015.3.25日本経済新聞社説「企業は資本効率向上で市場価値を高めよ」)、ROEの目標設定を図る企業が増えています。もちろん過度なROE重視は株主偏重を招き、株主配分の行き過ぎが中長期の利益成長や雇用を犠牲にすることに陥りかねません。今回のCGコードのなかでも中期経営計画の策定にあたっては収益力に関する目標も提示することを求めていて、資本効率向上と利益成長の両面の追求が必要となっています。

政府の成長戦略では、いわゆる岩盤規制といわれるような改革が難しく利害の対立からなかなか進まないケースが多いなか、民間企業領域では今春闘時のベースアップに続いて、今回のCGコードの適用はまさに“1丁目1番地”として実現することになりました。グローバル競争への対応で法人税減税の恩恵を受けるだけでなく、資本政策や収益力向上を中期的に実現することが成長戦略への貢献となり、経済全体の発展に寄与することになります。

東証上場というグローバルに株主対応を求められることが多い会社にとっては、資本政策、特にROEの捉え方や目標を株主に説明することが既にグローバルスタンダードとなっています。通信産業界では近年、成長鈍化や再編に追われていますが、今こそ資本効率にも目配りをした中長期経営計画を策定して株主との対話が進展することを望んでいます。複数の独立社外取締役の配置といった会社の機関設計の改善とともに、資本効率と収益力に関する具体的な数値目標の設定があってこそ、企業価値の向上に繋がると考えます。

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