2017.2.17 法制度 InfoCom Law Report InfoCom T&S World Trend Report

Googleに対するEU競争法上の3つの警告

1. はじめに

現在、欧州委員会がEU競争法違反でGoogleに対して異議告知書 (Statement of Objections)[1] を送付した事例が3件存在している。2015年4月15日に公表されたGoogle Shop­pingの事例、2016年4月20日に公表されたAndroidの事例、および、2016年7月14日公表のGoogleのオンライン検索広告事業であるAdSenseの事例である。本稿では、これら3件のうち、今年になって異議告知書が送付された後の2件(AndroidおよびAdSense)を中心に概要を紹介する。

なお、Google Shoppingに関しては別稿で速報しているので基本的にはそれに譲るが[2]、しかし、今年に入って補足異議告知書が送付されているので、フォローアップとして紹介する。

また、3件いずれについても現時点で異議告知書それ自体が公表されているわけではなく、その概要が公表されているに過ぎないため、詳細は不明な点も多い。以下は欧州委員会のプレスリリースおよびファクトシートに基づく。

2. Android OSに関する異議告知書の送付

2016年4月20日、欧州委員会は、Androidの取引条件に関して、EU競争法違反の疑いでGoogleに対して異議告知書を送付したと公表した。欧州委員会が公表したプレスリリース(文献1)およびファクトシート(文献2)によれば、異議告知書が仮認定する内容は、以下のとおりである(文献は本稿末尾の参考文献リストにまとめる)。

Googleの市場支配的地位

まず、欧州委員会は、Googleの総合検索サービス(general internet search services、いわゆるGoogle検索)、開放特許としているスマート・モバイルOS(licensable smart mobile operating systems、いわゆる「Android」)[3] 、およびAndroid向けアプリストア(app stores for the Android mobile operating system、いわゆる「Play Store」)が、それぞれの市場において支配的である、とする(文献1)。

総合検索サービス

  • Googleは、ほとんどの加盟国において90%以上の市場シェアを有している。

開放特許としているスマート・モバイル・オペレーティング・システム

  •  Googleの開放特許としているモバイルOSの欧州経済領域における市場シェアは、90%を超える。Androidは、実際上、低価格帯のスマートフォンおよびタブレットのすべての機種で採用されているが、購買層の過半が購入するのは同価格帯の機種である。
  • Googleの(支配的)地位を保護するいくつかの参入障壁が存在する。いわゆるネットワーク効果(多くの消費者が一つのOSを選択するようになると、ますます多くの開発者がそのOS用のアプリの開発に参入するようになる)もその一つである。
  • 最終的には、Androidユーザーが他のOS(を採用する機種)に乗り換えたいと思うと、(Android OS上の)アプリ、データ、連絡先を失うなどの、深刻なスイッチング・コストに直面することになってしまう。

Android OS向けアプリ

  • 「Play Store」は、欧州経済領域において、Android端末でダウンロードされるアプリの90%以上を占めている。
  • (端末)メーカーは、端末に「Play Store」をプリインストールすることが商業的に重要であると考えている。(現に)「Play Store」は、欧州経済領域において大多数のAndroid端末にプリインストールされており、エンドユーザーが(自分で)ダウンロードするようにはなっていない。また、エンドユーザーが「Play Store」を介して他のアプリストアにあるアプリをダウンロードすることもできない
  • 新しい端末を購入しなければならず、かつ、深刻なスイッチング・コストに直面することとなるため、一般に、Androidユーザーが、他のOS向けアプリストアに切り替えることはしないと考えられる。

欧州委員会の懸念

次に、欧州委員会は、Googleが、Android端末のメーカーに、「Play Store」、「Google検索」および「Chromeブラウザー」をバンドルしてプリインストールさせたこと、「Play Store」および、「Google検索」を含むGoogleが知的財産権を有するアプリケーションをプリインストールすることを望んでいるメーカーに「Android fork[4]」を搭載した端末を販売しないとの内容を含む合意をさせたこと、および、「Google検索」を排他的にプリインストールすることに経済上のインセンティブを与えたことを問題視している[5]。

Googleが知的財産権を有するアプリの使用許諾

調査の結果、Googleが、その端末上にAndroid向けのアプリストア、つまり「Play Store」をプリインストールすることを選択するメーカーに、「Google検索」をプリインストールすること、および、「Google検索」をデフォルトの検索プロバイダーとして設定することを義務付けていることが明らかとなった。加えて、Googleの「Play Store」または「Google検索」をプリインストールすることを選択するメーカーは、同時にGoogleのクローム・ブラウザもプリインストールしなければならない(ことも明らかとなった)。こうしたことによって、Googleは、Google検索およびGoogle Chromeが欧州経済領域で販売される大多数の端末上にプリインストールされるという状況を創出維持している。

スマートフォンおよびタブレットメーカーは、付属アプリがプリインストールされた端末を販売して、消費者に「箱出しのままで(設定不要で)使える (out-of-box)」経験を提供することができてしかるべきである。欧州委員会が求めるのは、メーカーが、端末上にどのアプリをプリインストールするか選択する自由を有するべきであるということである。この点は特に重要である。というのは、欧州委員会の分析によれば、消費者は、すでにプリインストールされているアプリと同様な機能を提供するアプリをダウンロードすることは、(そのプリインストールされているアプリがとりわけ貧弱な品質であるというのでもない限り、)稀であるからである。

以上から、欧州委員会の暫定的結論は、次のとおりである。上記の諸条件をメーカーに課すことによって、Googleはメーカーがプリインストールするのに最適なアプリを選択する自由を制限している。こうした戦略は、総合検索サービスにおけるGoogleの支配的地位を保護かつ強固なものとし、また、モバイル・ブラウザー市場の競争に有害な影響を与えるものと考えられる。欧州委員会は、スマートフォンメーカーが、プリインストールするアプリの少なくとも一部については、(もし可能であれば)Google以外の供給元から調達することを選択するであろうとの証拠を有している。

細分化禁止協定(Anti-Fragmentation)

Androidは、オープン・ソース・システムである―誰もがそれを自由に利用・開発して改訂版モバイルOS(いわゆる「Android fork」)を創出することができる。オープン・ソース・モデルは、もちろん、競争上の懸念を生じない―その反対である。欧州委員会が懸念するのは、Android端末で、Googleが知的財産権を有するアプリおよびサービス(これらはオープン・ソースではない)を利用することにかかる条件の方である。

特に、もしメーカーがその(製造する)端末のいずれかに、「Play Store」および「Google検索」を含む、Googleが知的財産権を有するアプリをプリインストールすることを選択する場合には、Googleは、メーカーに対してAndroid forkを搭載する端末を販売しないように約束する「細分化禁止協定 (Anti-Fragmentation Agreement)」を締結することを求めている。

EU反トラスト法は、客観的に正当化される場合に限り、支配的事業者が制限(条項)を設定することを許容することとしている。しかしながら、現在に至るまで、Googleは、「細分化禁止協定」に含まれる制限(条項)に関してかかる(客観的正当性の)証明を果たすことができずにいる。

Googleの行為は、消費者が、(Google本家版に)優越する可能性を秘めるAndroid OSの代替バージョンを採用する革新的なスマート・モバイル端末を手にする機会を妨げているという点で消費者に直接的なインパクトを有している。欧州委員会は、Googleの行為が、メーカーがGoogle版Android OSの信頼できる代替となりうる潜在力を有する競合(版)Android forkを採用するスマート・モバイル端末を販売することを妨害している証拠を得ている。そうした行為により、Googleは、その競合他社が、Android fork上にプリインストールすることが可能なアプリおよびサービス、とりわけ一般検索サービスを(市場に)投入する重要な販路を封じている

排他性

Googleは、端末上に「Google検索」を排他的にプリインストールするという条件に基づいて、モバイル・ネットワーク・オペレーターと並んで最大手スマートフォンおよびタブレットメーカーの一部にも多額の報奨金を与えている。

欧州委員会としては、報奨金制度一般を問題視するわけではなく、Googleが報奨金に結び付けている諸条件、とりわけ、もし「Google検索」以外の検索プロバイダーがスマート・モバイル端末上にプリインストールされる場合には、報奨金は支払われないとする条件に問題があると考えているのである。

欧州委員会は、Googleが、端末メーカーがプリインストールする最適なアプリを選択する自由を制限し、総合検索サービスにおけるGoogleの支配的地位を強化したほか、Android forkの普及を妨げた、と見ている。

3. AdSense(オンライン検索広告)に関する異議告知書の送付

2016年7月14日付のプレスリリースによれば、欧州委員会は、Googleに対して、第三者webサイトがGoogleの競合他社の検索広告を表示することについて、同社が一部の事業者に対して課している諸制約に関して、EU競争法違反の疑いで異議告知書を送付したと公表した。欧州委員会が公表したプレスリリース(文献3)によれば、異議告知書が仮認定する内容は以下のとおりである。

Googleは、検索広告を直接、Google検索webサイト上に配置するのみならず、仲介事業者として「AdSense for Search」プラットフォーム(「検索広告仲介事業」)を通じて、他社webサイト上にも配置している。オンライン小売業者、電気通信オペレーターおよび新聞社のwebサイトがその例である。こうしたwebサイトは、ユーザーが情報検索を行うための検索窓を置いている。ユーザーが検索語(クエリー)を入力すれば、検索結果に加えて、検索広告もまた表示される。ユーザーが検索広告をクリックすると、Googleと(webサイトを運営する)他社は手数料を取得する。

欧州委員会は、現段階においては、Googleは、欧州経済領域の検索広告仲介事業にかかる市場において、過去10年間にわたり80%程度の市場シェアを有し、市場支配的であると考えている。Googleが検索広告仲介事業から得ている収益の大きな部分が、いわゆる「ダイレクト・パートナー」と呼ばれる、数社の限られた大手企業との協定に由来する。欧州委員会は、ダイレクト・パートナーとの協定において、Googleが以下の条件を課すことにより、EU競争法に違反することを懸念している。

  • 排他性:Googleが(webサイトを運営する)第三者に対して、Googleの競合他社から検索広告を調達しないように要求すること。
  • Google検索広告を最も目立つ場所に配置すること:(webサイトを運営する)第三者に対して、Googleから一定数(以上)の検索広告を引き受けること、かつ、当該第三者が運営する(webサイトの)検索結果ページ上で最も目立つ場所をGoogleの検索広告用に取り置くよう要求すること。さらに、競合他社の検索広告をGoogle検索広告の前後に配置してはならないとすること。
  • 競合他社広告掲載への承諾権:(webサイトを運営する)第三者に対して、競合他社の検索広告の表示に変更を行う際には、事前にGoogleの承認を得るよう要求すること。

欧州委員会は、Googleが10年にわたりこれらを実際に行ってきたことが、市場において商業上重要な競争を減殺してきたと仮認定している。これらの慣行は、商業上重要な市場においてGoogleの競合他社が市場に参入する機会を作為的に減殺し、これによって、第三者webサイト(事業者)が消費者に選択肢と革新的なサービスを提供するために投資する可能性を減殺したとする。

4. Google Shoppingに関する補足異議告知書の送付

2015年4月15日、欧州委員会は、Google検索におけるショッピング比較サービスの表示に関して、EU競争法違反の疑いで異議告知書を送付したと公表していた。これに対して、2015年8月にGoogleは答弁書を提出したが、欧州委員会は、追加調査措置を実施した。2016年7月14日の補足異議告知書 (Supplementary State­ment of Objections) は、Googleが、総合検索サービスの検索結果において、自身のショッピング比較サービスが優先して取り扱われるシステムを採用し、それによりその市場支配的地位を濫用した、との欧州委員会の仮認定の結論を補強する、広範な補充証拠およびデータの概略を示した。欧州委員会が公表したプレスリリース(文献3)によれば、補足異議告知書の内容は以下のとおりである。

補充証拠は、特に、Googleが、競合他社のショッピング比較サービスに対して自身のショッピング比較サービスを優先して取り扱う方法、Googleの検索結果表示における卓越性がwebサイト上の取引に与える影響、および、競合他社と比較した場合のGoogleのショッピング比較サービスの取引の増加に関係する。欧州委員会は、ユーザーが必ずしも検索語(クエリー)に応じたもっとも適切な検索結果を目にしているわけではないことを懸念している。これは、消費者を損なうことであり、また、技術革新を抑止することでもある。

加えて、欧州委員会は、ショッピング比較サービスが単独で考慮されるべきではなく、AmazonやeBayのような小売プラットフォームによって提供されるサービスも一緒に考慮されるべきであるとする、Googleの主張を詳細に調査した。欧州委員会は、ショッピング比較サービスおよび小売プラットフォームが市場を異にすべきであると考えている。いずれにしても、本日の補足異議告知書は、仮に小売プラットフォームをGoogleの実務によって影響を受ける市場に含めて考慮しても、ショッピング比較サービスは、当該市場の枢要な部分をなしており、Googleの行為は、その近接競合他社との間の競争を弱め、さらには、末梢化した、と認定する。

5. まとめ

本レポートでは、Googleに対する最近の異議告知事案を紹介した。そのうち2.のAndroidおよび4.のGoogle Shoppingは、GoogleがモバイルOSおよび総合検索サービスにおけるその市場支配的地位を濫用して、Googleが展開するそれ以外のサービス分野においても競合他社を排除して、自社の運営するサービスに優越的地位を得させたとの疑惑に関するものである。他方、3.のAdSenseは、Googleがオンライン検索広告事業において市場支配的地位を維持存続させる仕組みを問題とするものであり、「ダイレクト・パートナー」協定の条項に疑念が向けられている。

EU機能条約第102条は、事業者が「支配的地位を濫用する」行為を禁ずるという一般的な定め方をしている。支配的地位の認定判断にあたっては市場シェアの大きさが決定的要素となるため、どのような範囲にわたり市場画定を行うかが重要となってくる。Googleは2.および4.に関して、この点での反論を行っている(文献4)。Googleの公式ブログによると、Googleは、Androidに関し、欧州委員会がAppleのiOS(iPhone)を考慮していないと反論している(文献5)。また、Google Shoppingでは、欧州委員会がAmazonやeBayのサービスを考慮していないと反論してきたが 、後者の事例では、欧州委員会の補足異議告知書によって改めてGoogleの主張が却下される形となっている。たしかに、Googleが主張するこれらの製品・サービスを市場判断に考慮するか否かによって、結論が大きく異なる余地があるように思われる。欧州委員会が、最終的な結論において、Googleの主張を受け入れてその判断を修正するのか、それとも、Googleの主張を排斥して違反決定を行うのかが注目される。

3件はいずれも、Googleの基幹サービスに向けられたものである。仮にそのいずれもが(もしくはその一つであれ)、EU競争法違反であると最終決定されることになれば、EU経済領域におけるGoogleのビジネスのあり方は少なからず変更を余儀なくされることになるほか、巨額の課徴金が課される可能性もある[6]。その場合、Googleが決定の取消を求めてEU司法裁判所に提訴することは想像に難くないが、裁判の間、決定の効力が停止されるわけではなく、Googleとしてはかつてない苦境に直面することも予想される。

参考文献

  • 文献1:“Antitrust: Commission sends Statement of Objections to Google on Android operating system and applications,” European Commision Press Release, 20 April 2016.
    https://europa.eu/rapid/press-release_IP-16-1492_en.htm

  • 文献2:“Antitrust: Commission sends Statement of Objections to Google on Android operating system and applications – Factsheet,” European Commision Press Release, 20 April 2016.
    https://europa.eu/rapid/press-release_MEMO-16-1484_en.htm

  • 文献3:“Antitrust: Commission takes further steps in investigations alleging Google's comparison shopping and advertising-related practices breach EU rules,” European Commision Press Release, 14 July 2016.
    https://europa.eu/rapid/press-release_IP-16-2532_en.htm

  • 文献4:“Android: Choice at every turn,” Google Europe Blog, November 10, 2016.
    https://blog.google/topics/google-europe/android-choice-competition-response-europe/

  • 文献5:“Improving quality isn’t anti-competitive,” Google Europe Blog, August 27, 2016.
    https://europe.googleblog.com/2015/08/improving-quality-isnt-anti-competitive.html

[1] 欧州委員会がEU競争法違反の疑いに基づいて手続を開始する場合、違反が疑われる者に対して、被疑事実を詳細にわたって記載する異議告知書を送付する。送付を受けた者は、証拠書類とともに答弁書を提出することが認められる。その上で、聴聞が実施される。

[2] InfoCom Law Report「グーグルの検索サービスに対するEU競争法上の規制動向」(2015年5月20日)

[3] Androidは、いわゆる開放特許型OSであるが、開放特許型OSとは、垂直統合型開発事業者が採用する排他的使用型OSと異なり、携帯端末を製造する他事業者が、その製品に(自由に)組み込むことが認められているOSである。

[4] Android forkとは、Androidのオープンソース部分のみを採用しつつ、独自のインタフェースやアプリなどを搭載するモバイル端末向けOSのこと。

[5] 文献2参照。EU機能条約第102条は、事業者による支配的地位の濫用行為を禁止している。

[6] 3件のケースに関しては、欧州委員会は、それぞれGoogleの答弁や聴聞の各手続を経て、決定によって違反行為の排除を命ずることができるほか、直前の事業年度の総売上高の最大10%の課徴金を科すこともできる。

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