2019年6月14日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

空飛ぶクルマの今~黎明へと向かう空の移動革命



空飛ぶクルマが実用化への階段を昇りはじめている。

2018年12月20日、経済産業省は、国土交通省と合同で、「“空飛ぶクルマ”の実現に向けたロードマップ」(以下、「ロードマップ」)をとりまとめ、公開した(図1)。ロードマップでは、2019年の試験飛行と実証実験の開始、2023年の事業開始、2030年以降の実用化拡大が目標とされている。また、2019年1月22日には、米航空機大手ボーイングが空飛ぶクルマとして開発している個人用自動飛行航空機の初の飛行試験に成功している。さらに、2019年4月には、東京海上日動火災保険が、日本国内で空飛ぶクルマの試験飛行・実証実験を目指す企業に向け、保険の提供を開始した。

空の移動革命に向けたロードマップ

【図1】空の移動革命に向けたロードマップ
(出典:経済産業省ウェブサイト)

非営利の学術・技術組織Vertical Flight Society(旧名称AHS International)の報告によれば、現在、空飛ぶクルマの開発を手がける企業・団体は世界で100以上にのぼり、開発競争が激化している。全世界での市場規模が2040年までに1兆5,000億ドル(約170兆円)に成長すると予測するアナリストもいる。

本稿では、空飛ぶクルマの実用化に向けた状況について整理するとともに、今後の課題について考察する。

空飛ぶクルマとは

現在開発されている「空飛ぶクルマ」には、様々なタイプのものがあるが、概ね2つに大別される。ひとつは、翼を持った自動車で、地上走行と空中飛行の両方ができるもの、もうひとつは、乗車のできる大型のドローンで、地上走行のできないものである。これは厳密には垂直離陸、自動制御が可能で、動力として電気を使用するものであるため、電動垂直離着陸機(eVTOL)と呼ばれる。

開発面で先行しているものは前者で、既に予約発売の受付を開始し、納品待ちとなっているものもあるが、前述のロードマップも含めモビリティ革命の主役として世界的に想定されているものは後者である。これには、以下に述べる「空飛ぶクルマ」の実用化に向けた課題が密接に関連している。

例えば、垂直離陸ができれば、滑走路が不要で、離発着場所の選択肢が広がる。都市部であれば、ビルの屋上を離発着場所とすることもできる。自動制御であれば、パイロットが不要なため、それだけ運賃を安価にすることができる。あわせて操縦者のミスによる墜落の危険を回避できるため、安全性を高めることができる。電動であれば、エンジンの稼動による騒音をより低減化することができる。といったようなことである。

実現に向けた課題

空飛ぶクルマの実現に向けては、技術、インフラの整備、法規制、社会受容性、資金、事業化などの面で越えなければならないハードルがいくつも存在する。

技術面では、高度な安全性と信頼性の確保が要求される。車体のサイズで航空機とは雲泥の差があるとは言え、空飛ぶクルマは頭上を飛行するものであるため、万が一にでも墜落した場合、墜落場所によっては大惨事を引き起こしかねない。したがって、これを回避するための機能を備えることが機体には求められる。例えば、完全自動運転、衝突回避および緊急時の着陸支援機能、常時通信機能などである。また、運用コストの面で実ビジネスに適したものとするため、完全自動制御の実現だけではなく、ボディの軽量化やバッテリーの改良による燃費の改善も必要である。

インフラの整備の面では、航空機とは別に専用の航空管制システムと数多くの発着場、動力源を供給するための充電ステーションの設置が求められる。

法規制の面では、eVTOLの運用を考慮に入れていない現行の航空法では、機体に航空機やヘリコプターと同水準の規制がかけられることが推察され、これには最低安全高度の義務付けなど、運用上足枷となる規制もあるため、これらを考慮に入れた法整備が必要となってくる。

社会受容性の面では、安全性を標榜することはもちろん、騒音対策も求められる。運航ルートとして運河や河川等の上空を選択することや、都市での運航時における発着場をビルの屋上にすることなどである。

資金面では、機体の開発には莫大な費用がかかるため、事業者への投資を促すための公的支援体制の整備等が重要となってくる。

さらに事業化の面で必要不可欠なものが、サービス提供事業者の存在である。国外では、既に米Uberを筆頭にいくつかの事業者が「空飛ぶタクシー」構想を掲げ、事業化への準備を着々と進めているが、日本国内では、トヨタ、富士通、NEC、パナソニックなどが支援するCARTIVATOR(SkyDrive)など機体の開発を行っている事業者は存在するが、サービスの提供を構想に掲げる事業者は少ない。国産のサービスの普及を目標とするのであれば、事業者の参入を促す体制の構築は急務と考えられる。

主要各社の開発・事業化の動向

上述のとおり、「空飛ぶクルマ」の開発を行っている企業は世界で100社以上にのぼる。以下に、先行していると思われる企業を中心にいくつかの企業についてその動向を記述する。

Uber Technologies(ウーバー・テクノロジーズ)

米Uberは2016年10月、「Uber Elevate」と称する空飛ぶタクシー構想を発表。空飛ぶタクシー「Uber Air」の2020年の試験飛行開始、2023年の実用化を目指している(図2)。試験飛行地は3カ所を予定しており、米国のロサンゼルス、ダラスの他、日本、フランス、豪州、インド、ブラジルの5カ国中の1都市を候補として、各国主要都市の関係者と協議を進めるとしている。同社が目指すのは、都市の交通ネットワークの変革による交通サービスプラットフォームの構築・提供であり、機体とするeVTOLについては直接は開発しておらず、社外より調達する方針である。

Uber Airの都市の発着場イメージ

【図2】Uber Airの都市の発着場イメージ
(出典:Uber Website)

Joby Aviation(ジョビー・アビエイション)

米Joby Aviationは10年以上NASAとの共同研究を進めてきており、現在4人乗りのeVTOLであるJoby S4の実験飛行をカリフォルニアで実施中。同社はまた、2018年の資金調達Bラウンドでトヨタ自動車系列のベンチャーキャピタルファンドやIntel等から総額1億ドルの資金を調達、2017年には米軍からも出資を受けている。

Opener(オープナー)

Googleの共同創業者ラリー・ペイジ氏の支援を受けるスタートアップ米Openerは開発中の1人乗りeVTOL「BlackFly」(写真1)の初の有人飛行を2018年3月に実施、成功している。「BlackFly」について同社は数百万円の価格帯で、2019年の発売を目標としており、既に米国とカナダで「軽量飛行機」としての承認を取得している。

BlackFly

【写真1】BlackFly
(出典:Opener Website)

Kitty Hawk(キティホーク)

米Kitty Hawkは、空飛ぶタクシーとしての使用を想定する2人乗りのeVTOL「コーラ(Cora)」(写真2)を開発中で、2018年3月にプロトタイプを公開している。現在ニュージーランドで試験飛行実施中だが、商用化時期は未定。この他、レジャー用の1人乗り電動飛行機「Flyer」も開発しており、こちらは2018年6月にデモ飛行を公開、レジャー用としての完成度はほぼ実用レベルに達しており、既に仮予約を開始している。

Cora

【写真2】Cora
(出典:Kitty Hawk Website)

Terrafugia(テラフージア)

米Terrafugiaは開発中の2人乗りの空陸両用軽飛行機「Transition」(写真3)を2019年に発売する予定だ。同機は地上走行時は折り畳んだ翼を飛行時に広げ、30秒ほどで飛行機形態へと変形する。なお、垂直離着陸可能だが、動力はリチウム電池とガソリンのプラグインハイブリッド方式。価格は未定だが、数千万円程度と予想される。同社は4人乗りのeVTOLも開発中で、こちらは2025年の発売を目標としている。

翼を折り畳んだTransition

【写真3】翼を折り畳んだTransition
(出典:Terrafugia Website

Volocopter(ボロコプター)

独Volocopterは2人乗りのeVTOL「Volocopter」(写真4)を開発しており、既に2017年9月にドバイで試験飛行に成功している。同社は大型ドローンの遠隔制御、自律飛行による都市内での無人エアタクシーの実現を目指しており、2019年2月にタクシーサービスに向けたフランクフルト空港のインフラ整備で空港運営会社のFraportと提携している。また、同年後半には都心部における空中タクシーのテストをシンガポールで開始する予定。DaimlerおよびIntel等より総額2,500万ユーロの出資を受けており、既にドイツでは飛行認証を取得している。

ドバイ上空を飛行するVolocopter

【写真4】ドバイ上空を飛行するVolocopter
(出典:Volocopter Website)

Lilium(リリウム)

独Liliumは開発中の2人乗りeVTOL「Lilium Jet」の無人試験飛行を2017年4月に成功させている。「Lilium Jet」は翼に36基の電動ジェットを搭載、航続距離300km、最高速度300km/h、消費電力は電気自動車と同程度で、垂直離陸だけではなく滑走路を使った離陸も可能。同社は同年資金調達Bラウンドで中国Tencent(騰訊)等から総額9,000万ドルを調達。翌2018年にはAirbusとAudiより大物の元幹部を招き入れ、オンデマンドの空中タクシーやライドシェアサービス提供へ向けた準備を進めている(図3)。現在5人乗り機体の開発を行っており、2019年に有人飛行試験の開始を予定。

Liliumの発着サービスイメージ

【図3】Liliumの発着サービスイメージ
(出典:Lilium Website)

Audi(アウディ)、Airbus(エアバス)、Italdesign(イタルデザイン)

独Audi、欧Airbus、伊Italdesignの3社は2018年11月27日、共同で開発中の空飛ぶタクシー「Pop.Up Next」のプロトタイプを公開、10年以内の実用化を目指すとしている。機体は乗客を乗せる①「パッセンジャーカプセル」、ドローン型の②「フライングユニット」、自動運転EVの③「グラウンドモジュール」で構成され、①②が合体して飛行、着陸後は、①③が合体して②を切り離し、乗り換えの必要なく地上を走行するというコンセプト(図4)。当プロジェクトには、上記3社の他、ドイツ政府、インゴルシュタット市等が参画している。Airbusはこの他、1人乗りの「Vahana」および4人乗りの「City Airbus」というeVTOLを開発中、「Vahana」については、2018年1月31日にテスト飛行に成功している。2019年末までに実用化する機体の仕様を策定の意向。

Pop.Up Nextイメージ

【図4】Pop.Up Nextイメージ
(出典:Audi Website)

EHang(イーハン)

中国EHangは2016年のCESで1人乗りの大型ドローン「EHANG 184」(写真5)を発表。世界に衝撃を与えた。2018年2月6日に、人を乗せての試験飛行に成功。2018年末から2019年初頭に商用化予定としていたが、同年5月に破産申請、現在米国でのIPOを計画しているとのこと。

EHANG 184

【写真5】EHANG 184
(出典:EHang Website)

AeroMobil(エアロモービル)

スロバキアのAeroMobilは、2人乗りの空陸両用車「AeroMobil 4.0」(写真6)を開発、既に予約販売を開始している。納品は2020年予定。同機はeVTOLではなく、飛行には滑走路が必要で、動力はガソリン。価格も1億4,000万~1 億7,500万円と高価で、Uber等が掲げる「空飛ぶタクシー」構想からははずれるが、「空を飛ぶ自動車」の商用化の実現という点ではひとつの大きな成果といえよう。

AeroMobil

【写真6】AeroMobil
(出典:AeroMobil Website)

CARTIVATOR(カーティベイター)

2012年に日本で始動した有志団体CARTIVATORは、空飛ぶクルマ「SkyDrive」(図5)を開発中。2018年7月に「空飛ぶクルマ」実用化に向け「株式会社SkyDrive」を設立。同年12月に日本初となる無人形態での屋外飛行試験に成功している。2020年の東京五輪開会式での聖火点灯デモを行う目標を掲げ、2019年6月に有人飛行試験を、2023年に2,000万円台の価格で有人機の販売を予定している。トヨタ、富士通、NEC、パナソニックなどが支援している。

SkyDriveイメージ

【図5】SkyDriveイメージ
(出典:SkyDrive Website)

全体を俯瞰して見た場合、世界のeVTOL機体開発競争では、現在先頭を走るのがVolocopter、Kitty Hawk、Openerの3社、これをJoby Aviation、EHang、Lilium等が追い、その後にBoeing、Airbus等の航空機メーカーが続いているといった様相となっているようだ。サービスの提供を主とするUberを除けば、多くの事業者が、機体の開発のみを行っているなか、VolocopterおよびLiliumの2社がサービスの開発も含めたビジネスの垂直統合モデルを目指しており、いずれも機体開発の先頭集団にいる点は注目に値する。

まとめ

「空飛ぶクルマ」の実現に向けては、安全性・機能性・静穏性・燃費・コスト等各種の面での条件をクリアする機体の開発がひとつのハードルとしてあるが、仮に条件を満たす機体が完成するにしても、同時に、どのようなサービスに機体を利用するのかという運用面での具体化の進展がもうひとつのハードルとして、大きく立ちはだかることになる。

これは、上述のロードマップで、2019年中の「事業者によるビジネスモデルの提示」が目標とされていることとも符合する。

そうした意味で先行しているのが、Uber、Volocopter、Lilium等「空飛ぶタクシー」構想を提唱する海外の事業者であろう。

機体の開発は重要であろうし、優れた機体を開発できれば、輸出面での恩恵にも預かれるだろう。だが、「モノづくり」に重点を置き過ぎて、サービスのプラットフォームを海外勢に席巻されてしまうと、ネット上のプラットフォームを海外勢に席巻されているのと同様の状況が航空交通システム上でも起きかねない。それを阻止するために、法規制等の緩和が遅れ、ガラパゴス化してしまうことになっては本末転倒であろう。日本国内のドローンの飛行に目を向けると、トルビズオンのように上空使用権を利用した上空シェアリングサービスを始めている事業者もある。今後、空の移動革命の進展と歩調を合わせ、国内にても優れたビジネスモデルが提唱され、実現化されていくことを期待したい。

主要各事業者の開発・販売中の空飛ぶクルマ

【表1】主要各事業者の開発・販売中の空飛ぶクルマ
(出典:各種公開資料により作成)

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