2020年9月15日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

海外通信・IT各社のCOVID-19対策



新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は引き続き日本や世界各地で猛威を振るっており、収束が見えない状態が続いている。一部の国・地域では封じ込めに成功しつつあるとはいえ、「第2波」への懸念もあり、社会全体が対応を余儀なくされている状況である。通信事業者やクラウド、ITサービス事業者もさまざま対応を迫られており、その内容は本誌でもこれまでにお伝えしてきているところだが、感染拡大から数カ月が経過し、否応なしにCOVID-19が日常となる中で、各社とも緊急対応にとどまらない対策が求められるようになってきている。また、収益への影響も明らかになりつつある。そこで、今回はこのような状況の変化と各社の対応について明らかにし、併せて収益へのプラス影響、マイナス影響の可能性についても検討したい。

通信環境の変化

COVID-19によるロックダウンや在宅勤務の増加などの影響により、世界各国でトラフィックの増加が報告された。ここでは、3月から5月のネットワーク状況に関する報告を6月に発表した米Verizonと、7月にロックダウン時の状況に関する報告を発表した英BTについて見ていく。

Verizonは、6月11日にCOVID-19パンデミック期間における「Network Reliability report」を発表した。これは、3月1日から5月31日までを対象としており、この間、同社がパンデミック以前と同様の信頼性を維持したことを強調している。このレポートによれば、同社のネットワークで期間中に10.3兆メガバイトのデータ通信、5,190億以上のテキストメッセージ、580億以上の通話数と2,970億分以上の通話時間があったとされている。また、アプリケーション利用についても以下の報告がなされている(表1)。

【表1】Verizonによるユーザの利用状況

【表1】Verizonによるユーザの利用状況
(出典:Verizon’s COVID-19 Network Reliability report)

 

ゲームの利用急増はロックダウン中の家庭での娯楽のためであり、コラボレーションツール(Microsoft TeamsやZoomなど)の利用が急増したのは在宅勤務や在宅学習のためとみられる。また、VPNの急増も家庭から企業等への接続需要の増加によるものと考えられる。同社によれば、通話やテキストメッセージのトラフィックが5月末に近づくにつれて通常に戻りつつある一方で、ゲームやVPN、コラボレーションツールの利用は多い状態が続いている。通話やテキストメッセージが非常時の手段として使われた一方、アプリケーションの利用は生活に浸透しつつあるとみられる。

BTは7月1日、英国で約100日に及んだロックダウン中の状況に関する報告を発表した。「英国人の半数が習慣を改善:英国がどのように100日間のロックダウンに適応したかをBTが報告」と題するこのレポートは、トラフィックの変化に加えて、ユーザーのIT活用スキルの向上など、この間の「進化」に注目するものとなっているのが特徴である。同社は、各月ごとの「進化」の内容をまとめて報告しており、今回の大流行を、デジタル化の進展、定着の契機としようとする意志が読み取れる内容となっている(表2)。

【表2】BTの報告要旨

【表2】BTの報告要旨
(出典:BT, “Half of Brits have changed their habits for the better:
BT reveals how the UK adapted in 100 days of lockdown“)

各通信事業者が展開するサービス

通信事業各社は、COVID-19の拡大とロックダウンに対応し、さまざまな社会貢献施策を実施してきた。

これは社会的要請を受けたものでもある。4月には米連邦通信委員会(FCC)が国民へのネット接続サービスを停止しないよう求めたほか、3月には英国でも政府が主導し、通信事業者が脆弱な消費者を支援する取り組みが行われた。しかし、それだけではなく、通信事業各社自身の社会貢献策や、医療従事者に対する感謝の意を表した支援策も提供されている。

一方で、COVID-19の拡大による「ニューノーマル」への対応としての新たなサービスも開始されている。米国通信事業4社は2020年5月以降、在宅勤務者向けのネットワークサービスを相次いでリリースした。

AT&Tの「AT&T Home Office Connectivity」は5月にリリースされたもので、基本サービス「AT&T High Speed Internet - Enterprise」として、通信容量制限のない最大1Gbpsの接続、動的/固定IPアドレス選択、単一契約、複数拠点分一括請求、現地での設置、企業向けサポートを提供する。また、オプションサービス「Global Security Gateway Select」として、DPI(ディープパケットインスペクション)、CASB(クラウドアクセスセキュリティブローカー)、DLP(データ損失防止機能)やSD-WAN互換機能を提供する。回線のバックアップ機能を提供するオプションサービスとしては、障害時のAT&T Wireless Broadbandへの自動フェイルオーバー機能を提供する「AT&T Internet Backup」もある。なお、「AT&T Home Office Connectivity」のコネクティビティとしては、光ファイバーもしくはADSLが利用可能としている(図1)。

【図1】AT&T Businessのチラシ(「在宅勤務に必要なインターネット接続を社員に」)

【図1】AT&T Businessのチラシ
(「在宅勤務に必要なインターネット接続を社員に」)
(出典:AT&Tサイト)

 

Comcastも6月に同様のサービスをリリースしている。「Comcast Business at Home」は、基本サービスとして通信容量制限がなく、別のWi-FiネットワークとSSIDを利用できるほか、ユーザー数制限なし、複数拠点での相互利用、複数サービスの一括請求を提供する。また、オプションサービスとして、固定IPアドレス、セキュリティソリューションの利用も可能としている。

Coxも同月、新たに「Cox Business Work-at-Home solutions」をリリースした。「従業員の自宅に直接接続するエンタープライズクラスの個別のインターネット接続」が基本サービスとなっている。また、オプションサービスとして、McAfeeおよびMalBlockを使用したエンタープライズ・レベルのセキュリティ、データ接続の専門家によるインストールならびに音声機能のためのセルフ・インストール、静的IPアドレスなど、さまざまなビジネス向け機能、ビジネス・レベルのSLA(Service Level Agreement)とサポート、自宅または外出先での作業に適したセキュアなビジネス向け音声サービス、会議やコラボレーションのニーズに対応するためのアラカルトオプション(Microsoft 365、サポートサービス)や企業への一括請求が提供される。

これら3つはいずれも各社の回線を利用するサービスだが、それ以外のサービスもある。CenturyLinkは在宅勤務者向けに新たな仮想リモート接続サービスを開始した。同社の「Managed Enterprise with Cisco Meraki Remote Connect」ソリューションでは、自宅から企業WANへの安全な仮想プライベート接続を提供する。他社のサービスと異なり、CenturyLinkの回線サービスを使っているかどうかにかかわらず、従業員の既存のインターネット接続を使用することができる。

これらのサービスはすべて、在宅勤務者に、より高品質の接続やより高いセキュリティを提供するものである。社員が個人のネット接続ではなく(仮想を含めた)専用ネットワークを利用することで、品質、セキュリティ、費用負担等の課題に対応可能となる。社員は、自宅でもオフィスでもより近い環境で継続的に業務を行うことができる。個人のインターネット接続を一時的に業務に利用するのではなく、専用ネットワークを整備するということは、在宅勤務の長期化、恒常化を前提とするものと言え、「ニューノーマル」への対応としても注目される。

通信事業者による工事の工夫

COVID-19の影響として、ロックダウンや、ソーシャルディスタンシング(人と人の間の距離を置くこと)維持のため、ユーザーの居る場所に訪問しての工事が行いにくくなったことも挙げられる。Verizonはこれに対応して、同社の光ファイバーインターネット接続サービス"Fios"において、技術者が宅内に入ることなく光ファイバーサービスを開通できる"Fios in a box"を展開している。ユーザーは、ファイバーが自宅前まで来た後で、技術者のサポートの下、自身で設置、設定を行う。技術者が顧客宅に入るのは、導入が困難な場合に限られる。

【図2】"Fios in a box“

【図2】"Fios in a box“
(出典:Verizonサイト)

これは以下の手順で行われる。まず、技術者がユーザー宅への出発前に"Box"を準備する。"Box"にはONT、電源、ルーター、セットトップボックスやケーブルなど、ユーザー宅での開通に必要な物品がすべて入っている。技術者は現地で、宅内に入ることなくファイバー接続が可能かを判断し、可能であれば最寄りの電柱等から、顧客宅前まで光ファイバーを敷設し、その後、玄関先に"Box"を置く。ユーザーは"Box"を受け取り、自身でファイバーを宅内に引き込む。なお、この際曲げに強いファイバーを使用するため、壁に穴を開ける必要もなく、窓からファイバーを引き込むことも可能となっている。ユーザーは引き込んだケーブルを自身で接続し設置や設定を行う。技術者はスマートフォンの映像等を用いて、宅外から遠隔でサポートする。これにより、技術者とユーザーは距離を保ったままで光ファイバーサービスを開通させることが可能となる。

これは、COVID-19の影響で家庭でのブロードバンドインターネット需要が増大する一方、米国では感染者が多数発生していることから、対策に迫られて開発されたものであろう。しかし、それだけではなく、COVID-19以降の工事効率化にも適用可能と考えられる。Verizonの発表内容を見る限り、"Fios in a box"では、これまでの工事同様、技術者とユーザーは同時に作業を行う。すなわちユーザーの在宅が前提とされている。しかし、ユーザーがリアルタイムのサポートを受けずに自身で設置や設定、開通確認を行い、もし問題が生じても後日の対応となることなどを了承すれば、ユーザーの不在時にも工事が可能となり、ユーザー側、通信事業者側ともに早期開通と、効率的な工事のメリットが得られる可能性があるのではないだろうか。

クラウド、ITサービス事業者の取り組み

このような状況の中、クラウド事業者やITサービス事業者もCOVID-19対策の取り組みを進めている。

クラウドサービスにおいても、パンデミックが始まった当初はビデオ会議などで利用が急増し、一部ではトラブルが発生したり、Microsoft Azureがキャパシティ逼迫時のサービス提供の優先順位を明らかにするなどの緊急対応が見られたりした。しかし、その後には各社がこの非常事態対応をクラウドの優位性のアピールの機会とみなし、積極的に医療分野などへの貢献やサービスの信頼性をアピールしている。

また、ITサービス事業者においても、AccentureやIBMなど各社が、企業や政府機関などに変化への適応を呼びかけつつ、医療など各産業分野での取り組みを強化をしている。

各社収支への影響

一方で、今回の事態が各企業の収支に与える影響も徐々に明らかになりつつある。

通信事業者の最近の発表を見ると、AT&TとVerizonは、収益を減少させつつも、通信事業は比較的堅調である。AT&Tの2020年の第2四半期の収益は8.9%減少して410億ドルとなったが、モバイル事業の低下はわずか1%程度で、これは国際ローミングの低下によるものだった。また、光ファイバーサービスの契約は225,000件増加した。Verizonも、売上高が前年比で5%減少しており、これは通信機器の購入が大幅に減少したこと等によるものだが、やはり無線サービスの収益減は限定的(2.7%減)であった。

クラウド事業者は引き続き業績を伸ばしている。ただし、成長率は徐々に鈍化してきている。このトレンドは以前からの動きと大きく変わっていない。

一方、ITサービス事業者では明暗が分かれている。Accentureの2020年第3四半期(3月から5月まで)の業績はほぼ横ばいとなった。これは市場の予想を上回るものとされている。一方、IBMの第2四半期の収益は5.4%減少、純利益は46%減少した(表3)。

【表3】各社収支への影響(いずれも直近4半期)

【表3】各社収支への影響(いずれも直近4半期)
(出典:各社決算報告より作成)

 

企業収益や利益の変動にはさまざまな要因があり過剰な一般化は適切ではないが、ここまで見てきた通信事業者においては、通信サービス部分の収益は大きく減少していない。全体的な経済低迷の影響を受ける一方で、在宅勤務や緊急連絡等での需要増もあるためと考えられる。収益減少要因としては現時点では他の事業の影響が大きいと見られる。また、上位のクラウド事業者のトレンドは大きく変わっていない。これはCOVID-19の影響がないことを意味するのではなく、企業の業務形態の変化など、COVID-19の影響によるプラスと、経済の鈍化によるマイナスの影響が相殺されている可能性もあるのではないか。今後、どちらかの影響が大きく出てくる可能性もあるだろう。

一方、ITサービス分野での一部企業の減速は、これら企業の顧客のIT投資が、各企業の支出抑制や意思決定の遅れなどの影響を強く受けているためとも考えられる。新規プロジェクトの延期、重要度の低いプロジェクトへの支出の保留なども指摘されている。

まとめ:各社事業への影響

COVID-19の影響は既に2021年に及び始めている。先日、ラスベガスで実施予定だったCES2021がオンライン実施となることが発表された。今年中止となった、バルセロナで開催されるMWCに関しても、次回は2021年3月の開催が予定されているものの、世界各国の状況や、再度厳しくなっている現地の状況から見て、予定通り実施できるかは極めて不透明と言わざるを得ない。もちろん大規模イベントだけでなく、さまざまなビジネスが全体として引き続き大きな影響を受けるとみられる。

その中で、トラフィック増やコンシューマー向けエンターテインメントビジネスの拡大、ビジネスや学習におけるコラボレーションツール、クラウドの利用増、本稿で取り上げたような在宅勤務向けのサービスの拡大などは通信、クラウド各社にとってプラス要因となりうる。在宅勤務の進展はクラウド化をさらに加速する要因となるだろう。この影響はクラウドだけでなく関連分野にも及び、”Zero Trust”型のサービスのような新たなセキュリティサービスや、SD-WANなどへの需要増にもつながることが考えられる。

一方で、全般的な経済低迷に加え、対面でのコミュニケーション(営業やコンサルティング、ビジネス創出のためのディスカッションなど)ができないこと、顧客としては、在宅勤務環境の構築など既存の事業継続が最優先となり、新規ビジネスの開拓などは後回しとなってしまうことなどから、ITサービス企業にとっては厳しい状況が続くかも知れない。また、在宅勤務の進展に伴いオフィスでの需要が減少すれば、これも通信事業者の法人営業やITサービス事業者の一部にはマイナスの影響となる。

ワクチンや治療法の開発は期待されるものの、それまでのかなりの期間、COVID-19の存在を前提とした対策を続ける必要がある。しかし、対策の必要な期間はいつか終わる。その後のビジネススタイルやライフスタイルがどう変化するか。すべてが今想像されている「ニューノーマル」になるとは限らないが、リモートワーク(自宅とは限らない)の進展やクラウドへの移行など、今回の変化が後戻りできないものになることもあるだろう。ビジネス、ライフスタイルの違いや、デジタル化の進展度合いの違いなどから、「ニューノーマル」が国ごとに異なるものとなる可能性も高い。緊急対応の域を超えて、元に戻るだけでなく、COVID-19後を見据え、その後の競争で優位に立つための戦略が求められる。

(注)本稿記載の情報はすべて執筆時点(2020年8月7日入稿)で得られたものであり、その後も状況が変化する可能性があります。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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