コロナによるマッチングアプリへの影響
序章
今や男女の出会いツールとして当たり前のように用いられることが多くなったマッチングアプリ。2020年の国内オンライン恋活・婚活マッチングサービス市場(予測)は、前年比約2割増の620億円に伸びる見通しで、今後もさらに成長するという。市場規模、ユーザー数ともに堅調に推移していたマッチングアプリだが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19、以下、「コロナ」)の拡大によって、使い方やその後の出会い方が急激な変化を遂げている。本稿ではそもそもマッチングアプリとはなにか、コロナ前のマッチングアプリの概況について論じつつ、コロナがマッチングアプリに与えた影響に注目して見ていきたい。
マッチングアプリとは
マッチングアプリとは「恋愛や結婚に通じる出会いを求める男女を結びつけるアプリ(インターネットサービス)のこと」で、恋人探しや結婚相手探しなどに使われる。年齢、居住地、身長、職業など基本的なプロフィールから、趣味、お酒、タバコ、結婚の意思といった項目まで、細かい希望の条件を設定することで、より自分の理想に近い相手を探すことが可能となる。
マッチングアプリの仕組みは非常にシンプルである。マッチングアプリを利用し、実際に異性と出会う流れについて、国内のマッチングアプリで最も会員数が多い「Pairs」(以下、「ペアーズ」)を例に説明していきたい。
- まずは登録を行う。登録といっても数分程度で完了する。自身の個人ページにニックネーム、居住地、身長、職業、学歴などの個人情報を任意で記載していく。
- 登録するとすぐに会員の検索ができるようになる。アプリにもよるが、例えばペアーズでは2020年7月時点で、270万人近い男性、120万人近い女性が登録[1]していて、その中から相手を選ぶことが可能だ。検索条件設定やコミュニティ機能を活用し、自分に合った相手を探すことが叶う。
- 気になる相手がいれば「いいね」を送る。「いいね」とは「気になる/話してみたい」の意思表示のことで、これを基本に異性にアプローチしていく。
- 相手から、「いいね!ありがとう」が送られてきたらマッチングとなる。
- マッチングするとアプリ内でメッセージが交換できるようになる仕組みで、メッセージを通じお互いのことを知っていく。
- メッセージを通じて意気投合すれば会う約束をして、カフェやレストランで気軽に会うという流れとなり、その後は通常の恋愛と同じである(図1)。
マッチングアプリは基本的には男性から料金を徴収する仕組みで、運営側はその資金をもとにアプリの改善や安全管理のための施策を行っていく。また、基本のサービスを無料で提供し、より高度なサービスに料金が発生する課金プランを採用しているアプリもある。
コロナ前のマッチングアプリ概況
1.市場における注目度
アプリに関する市場データと分析ツールを提供しているApp Annie(本社:米サンフランシスコ)によると、2012年以降、マッチングアプリは、世界中で17億回以上新規にダウンロードされ続けているという[2]。2019年のゲームアプリを除く非ゲーム系アプリのサブスクリプションにおける世界消費支出ランキングにおいては、2018年に1位だった動画ストリーミングサービスの「Netflix」を抜いて、マッチングアプリの「Tinder」が首位に立った(図2)。また、2019年のマッチング系アプリの消費支出は22億ドル(約2,300億円)[3]で、2017年から倍増している。
国内のマッチングアプリサービスにおいても、エウレカ社が開発・運営するペアーズがマッチングアプリ全世界消費支出ランキングの5位に、サイバーエージェント社の100%子会社である、マッチングエージェント社が開発・運営する「タップル誕生」(以下、「タップル」)も8位にそれぞれランクインしていることから、海外同様にマッチングアプリでのマネタイズに成功していると言える(図3)。
事実、国内マッチングアプリ市場規模は年々拡大しており、前述のとおり、2020年の国内市場規模は前年比約2割増の620億円、2025年には、2020年比約7割増の1,060億円に拡大するという予測もある(図4)。
2.社会における注目度
また、マッチングアプリは、単にユーザー数が増加し続けているのみではなく、近年の少子化・未婚化課題の解決に寄与することも期待されているなど、社会的にも大きく注目されている。ペアーズを運営するエウレカ社は、2020年3月、マッチングアプリ業界で初めて経団連に公認入会した[4]。ペアーズではこれまで25万人以上[5]が恋人を作り、推計ではそのうち約6割が結婚、または既に婚約をしているという。経団連が発表した経済構造改革に関する提言においても、「結婚の希望を叶える取り組み」として男女のマッチング促進が挙げられるなど、本課題への対策の一つとしてマッチングアプリが期待されている。
3.コロナ禍前の伸び率
なぜマッチングアプリサービスの驚異的な市場拡大が続いているのか、サービス提供側と享受側の視点から見ていきたい。
はじめに、サービス提供側としては、ユーザーの「安心・安全」の確立に最も注力しているように感じる。その主たるものが「24時間365日監視体制」「身元確認の徹底」だ。
ペアーズやタップルといった大手マッチングアプリは、24時間365日のカスタマーケアと、常時監視体制でサポートを行っているので、万が一悪質なユーザーに遭遇しても即該当者のアカウントを凍結してくれるなどの対応を徹底している。その他、機械学習でなりすましの業者の検知をするといったデータのアルゴリズムに基づいた対策も行っている。
また、マッチングアプリでは、「出会い系サイト規制法(インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律)」により、利用者が18歳未満でないことの確認が義務付けられている。そのためユーザーは自身の年齢を証明する身分証明書(運転免許証やパスポート等)の画像写真をアプリの運営元に提供する必要がある。安全性の高いマッチングアプリでは、身分証明書の一部分を隠して提出することが禁止されているため、第三者が偽ってアカウントを勝手に作れないような対策となっている。タップルの運営元であるマッチングエージェント社は、更なる本人確認強化対策のため、2019年11月、パナソニックCNSの顔認証技術APIを導入することを発表した。年齢・性別および顔画像の登録された身分証明書審査の際に、監視センターによる目視による年齢確認に加えて、パナソニックの顔認証技術を活用した本人確認を行うというものだ。具体的には、本人認証機能を利用する際にスマートフォンのカメラによるセルフィーを求められ、年齢確認の際に送信した身分証明書の画像データの顔画像とセルフィーが照合されることで本人確認が行われる仕組みとなっている。パナソニックCNSの顔認証技術は既に空港の入出国ゲートに取り入れられるなど実用化されている技術で、すべてのタップル会員に向けて本人認証機能および本人認証マークを実装することで、ユーザーにとってより安心・安全な仕組みを実現した(図5)。
一方で、サービス享受側であるユーザーだが、サービス提供側の所謂“出会い系イメージのクリーン化”も手伝い、マッチングサービスへの不安・抵抗感が近年に近づくにつれ減少しているという。特にメインユーザーである20~30代前半のユーザーは、かつて出会い系サイトで問題が起きていたことを知らない人も少なくない。彼らにとって、むしろ今はTwitterやInstagram、TikTokなどのソーシャルメディアを通じて会話をしたり出会ったりすることは当たり前で、オンラインの出会いに抵抗感があまりないという結果も出ている。マッチングエージェント社が実施したアンケート調査によると、マッチングサービスを利用したきっかけについては、出会いの効率やスピードの速さよりも、マッチングサービスの気軽さ・手軽さに魅力を感じるといった回答が多い結果となった(表1)。
コロナがマッチングアプリに与えた影響
コロナ前でも注目されていたマッチングアプリだが、コロナ前後で使い方や目的が大きく変化を遂げた。
国内におけるマッチングアプリでは、コロナへの危機感が最も高まった緊急事態宣言下の5月に利用時間のピークを迎えた(図6)。3密(密閉、密集、密接)を避けた行動が推奨され、多くの市場においてリアルな場での出会いは自粛傾向が続いていることは自明だが、マッチングアプリは、ステイホーム期間においても人とのつながり、対外コミュニケーションのチャネルとしての重要な役割を果たしていたようだ。
大手マッチングアプリ企業は、コロナ禍にともない、在宅でも出会いを加速できるようビデオチャット機能を4月以降次々と実装していった。先陣を切ったペアーズでは、マッチングした相手とオンラインビデオ通話が楽しめる新機能「ビデオデート」を4月20日より開始。ビデオデートは、時間や場所を気にせずオンラインを通じて、メッセージ以外にお互いの人柄を理解しあうことを目的として利用できるペアーズアプリ内のビデオ通話機能である。ペアーズでは、コロナにより当初の予定を前倒して本機能の追加を決定したという。
コロナ禍の影響で、オンラインデートの推奨を宣言したタップルでは、6月よりアプリ内において、複数人で気軽につながれるオンライン合コンプロジェクトを始動した。本取組は、マッチングしたものの1対1でのオンラインデートに抵抗があるユーザーに向けて、複数人で趣味を通して気軽につながる出会いを提供することを目的とした企画だ。8月上旬までに、オンライン料理コン、オンラインビアコンなどのオンライン合コンを数回実施しており、オンラインによるユーザー間の交流を促進している。
オフラインのコミュニケーションが不足するコロナ禍においては、アプリで直接、人とつながることができる機能の需要の高さが見受けられており、マッチングアプリは、様々なオンライン機能を拡充することで、右肩上がりの成長を続けている。
アフターコロナにおけるマッチングアプリ
今後の展望
ペアーズの新機能「ビデオデート」の利用に関する調査結果によると、ビデオデートを利用したうちの約7割が「満足している」と回答している。特筆したいのは、ビデオデートの利用目的は「初めて会う前に人となりを確かめるため」が上位となっており、外出自粛状況のため「直接お会いする代わりとして」の利用が第4位になっていることだ(図7)。
そもそもコロナ以前においては、ビデオデートというサービスは誕生しておらず、「オンラインデート」という概念はなかった。「オンラインデート」は、マッチングアプリでマッチングしたけれども、デートに行くことが難しいユーザーに訴求すべく生まれたサービスである。しかし、結果として実際に相手に会う前に、相手を知る手段としてビデオデートが活用されていたのである。つまり、外出自粛と関連がないため、外出自粛が終了したあとでもビデオデート機能へのニーズがあると考えられるのではないか。「恋愛婚活ラボ(運営元:株式会社Parasol)」が実施したアフターコロナにおける恋愛事情についての調査によると、アフターコロナでは、人の集まる場所に行くこと自体を避ける傾向にあり、オンラインツールが出会いの手段として支持されていることが分かった。「アフターコロナで出会いの方法を考えるときに重視するポイント」については、男性の「63%」、女性の「78%」が「会える人の“質”を重視」と回答しており、「数多くの人と直接会ってから判断する」というこれまでの恋愛の進め方ではなく、「オンラインで交流を深めてから、本当に直接会いたい・会うべき人を見極めて、初めて直接会う」ということがアフターコロナの恋愛トレンドのようだ(図8)。コロナより以前、マッチングアプリは、「時間をかけずに、オンラインでたくさんの人に出会える」という点をメリットとして、会員数を伸ばしてきたサービスである。今後は限られた時間でより良い人に効率よく会えるサービスを拡充していくことが、マッチングアプリを提供する企業の課題となると言えるのではないだろうか。
[1]アプリ内で絞り込んだ際の数値
[2] iOS、Google Playの合計値
[3] 1ドル=106円換算(2020年8月27日時点)
[4] https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000156. 000005528.html
[5] 「Pairs」退会時のアンケートで「恋人ができたので退会する」と答えた人の数
※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。
情報通信総合研究所は、先端ICTに関する豊富な知見と課題解決力を活かし、次世代に求められる価値を協創していきます。
調査研究、委託調査等に関するご相談やICRのサービスに関するご質問などお気軽にお問い合わせください。
ICTに関わる調査研究のご依頼はこちら関連キーワード
軽部 弥生(転出済み)の記事
関連記事
InfoCom T&S World Trend Report 年月別レポート一覧
メンバーズレター
会員限定レポートの閲覧や、InfoComニューズレターの最新のレポート等を受け取れます。
ランキング
- 最新
- 週間
- 月間
- 総合