2020年11月27日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

リモートワーク定着への取り組み ~雇用・働き方の多様化とICTの利活用



新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する緊急事態宣言が出て以来、人と人との接触を避けて感染を防止するため、在宅勤務(広義にはリモートワーク)が文字どおり緊急的な取り組みとして日本全国で多くの企業に普及拡大しました。民間調査では緊急事態宣言下で4分の3の企業で実施されたとのレポートがある一方で、宣言解除後には元に戻りつつあるとも言われています。また他の調査でもリモートワークの頻度では週2、3日が最適とする割合が最も多く、すべてをリモートワークでということではないようです。またNTTグループでは政府の基本方針(「新たな日常」の実現)を受けてリモートワークの目標を5割以上から7割に引き上げて取り組みを実施中です。

テレワークに関しては長年言われてきたものの、なかなか定着しません(2019年で20.2%、総務省「通信利用動向調査」)でしたが、コロナ禍の中で一挙に広まったと言えます。リモートワークの評価にはプラス・マイナス両面があり克服すべき課題も多くあります。例えば、プラス面では通勤時間がなくなり時間の余裕ができて仕事への集中度が上がる、仕事への満足度が高まるのに対し、マイナス面ではプライベートな時間との区別がつきにくく働く時間が長くなる、労働時間や勤怠管理、進捗管理が難しく人事評価に困難が伴うことが指摘されています。こうした課題があるものの、企業ではリモートワークの緊急措置的な実施から半年以上が経過した現在では、元々の勤務場所に全面的に戻すのではなく、リモートワークを就業規則などで雇用制度や働き方として定型化して制度に組み入れる動きが広がっています。就業規則にどう位置づけて具体化していくのかは仕組みとして結構な難題です。例えば、勤務場所を自宅に指定して発令(命令)する方法で対応する場合と、そもそも雇用・働き方の多様化として既に制度が整っている、事業場外労働に関するみなし労働時間制や裁量労働制(専門業務型、企画業務型)、さらに高度プロフェッショナル制度を導入する方法とが考えられます。ただ、後者の場合は労働時間や勤怠の管理などを労働者が自分でコントロールするので、その点では管理面の負担は少ないものの、対象、職種、年収など複雑な制約がある上、職場の労使委員会による決議や労働基準監督署への届出、労働者本人の同意が必要になるなど取り扱いの柔軟度が下がります。個別企業の判断次第ですが、一般的にはいわゆるニューノーマルの中、従来の伝統的な労働法制によって労働時間管理を行おうとする勤務場所指定方式による方が整合性があり普及に適していると思います。

ただ、この方式は日本の雇用・働き方で一般化しているメンバーシップ型雇用を前提にしているので近年、政府や経団連などが取り組んでいるジョブ型雇用への移行を考えると状況が違ってきます。そもそもジョブ型雇用では専門的スキルを活用して仕事(業務)に人をつける方式なので、そのジョブに必要な勤務場所が企業との間で取り決められますから、リモートワークという勤務形態は雇用条件のひとつとなるし、専門的スキルを活かす場所であれば他のメンバー(社員)と同じである必要すらないということになります。つまり、リモートワークを推進するということは、それだけ雇用・働き方のあり方がメンバーシップ型からジョブ型に近づくことであり、その先には当然、労働時間を労働者自らが管理する裁量労働制につながります。

コロナ禍の緊急対応がもたらしたリモートワークですが、就業規則の変更等雇用環境面の整備が一層進んで今後は勤務地を原則自宅とする社員が一般化していくことでしょう。そうした社員の労働時間はじめ勤務状況を遠隔地から把握し管理するのは難しくなりますので、部下を管理する管理者の負荷が一層重くなります。管理者はメンバーを組織(集団)としてまとめてコントロールするというよりむしろ、専門家集団をマネージして生産性を高められるスキルを有する文字どおりマネジャー(マネジメントの専門家)であることが求められます。リモートワークはこのように新しい雇用形態への移行を促進することでしょう。それでも欧米型の明確なジョブ型雇用に変化するには採用時の新卒一括採用中心から、転職者中心の常時採用型に移行することが求められるので時間を要します。今回のリモートワーク普及の中で労働時間や勤怠管理、評価基準の明確化などの必要性が高まりますので、時間の経過とともにジョブ型雇用に近づいていくと想定します。もちろん、営業やスタッフ・企画部門はリモートワーク環境になじみ易くリモートワークの満足度も高いのが普通ですが、現場部門や取引先への常駐、研究開発のように機器類を扱う必要があるなどリモートワークに適さない部門も多くあり、必ずしもジョブ型/メンバーシップ型の雇用区分と整合的に区別がつくものではないので多様な働き方改革が求められます。

こうした雇用形態や働き方の改革は政策上の課題なので、今後さらに企業別に職種・職場毎に適切な組み合わせが追求されていくことでしょう。コロナ禍の収束後においてもリモートワークはもはや後戻りすることはなく、ジョブ型雇用や裁量労働制へと進んでいくと思います。これまでの厳格な労働時間管理には働いた時間と生産量が比例し、労働時間を賃金決定の尺度にする「工場労働」の発想がベースにあります。仕事の成果が働いた時間に比例しないホワイトカラーにこれを当てはめるのは無理なのです。日本の労働生産性の世界との比較では工場労働中心の製造業では高いものの、ホワイトカラーや小売・流通などが大きく下回っているのが実状です(1人当たり労働生産性はOECD36カ国中21位、製造業では31カ国中14位)。リモートワークの普及によって生産性を高めていく努力と工夫が日本の潜在成長力を高める上でどうしても必要になります。この点で裁量労働制のひとつとして在宅に限定した制度をつくり、“営業、秘書、一般管理業務など、どの職種でも在宅勤務で利用できる新しい裁量労働制を設ける”との提言は傾聴に値します(2020.9.9(水)日経新聞・中外時評、「在宅」用の裁量労働制を)。

そこで最後になりましたがICTの出番です。リモートワークの生産性向上のため、PC等のログ解析、進捗管理やセキュリティ監視、さらにはAIによる従事者の表情や声などの分析(感情や疲労度・ストレスの把握など)と仕事の成果の関係等遠隔で接続するが故に定量化が可能となる安心安全措置や健康・ストレス管理の取り組みなどを充実できると考えます。その場合、リモートワークを単純に勤務場所の変更としてだけ捉えるのではなく、新しい雇用形態・働き方として考えて取り組まなければなりません。リモートワークのマイナス面に職場から切り離された孤独感や雑談などの日常がなくなる疎外感などが上げられているのも従来のメンバーシップ型の働き方に由来するものと言えます。1足飛びにジョブ型の働き方にはなり得ませんので、自宅のリモートワークの場にICTやAIを利活用することによって生産性を高め、安心安全な場にできると考えます。計測して定量化する目安は生産性の向上と健康・セキュリティ両面の安心安全です。

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