2021年1月28日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

5GコアNWとSA(スタンドアローン)方式の 早期整備を ~5G社会実装の展開に期待



5Gサービスが日本で開始されてから1年近くが経過しました。5G対応のiPhoneなど新機種のスマホ発売に伴い、契約数は増加しつつあるもののまだ勢いはありません。また、基地局整備(基盤展開率)も2023年3月を目標に拡充が図られていますが、現状のエリアカバーはまだ小さく実際に5Gが使える場所は限られているのが現実です。そのためか、具体的なキーユースケースは不透明で議論は活発だがなかなか目に見えるものになっていません。特に個人ユース、コンシューマーにはインパクトが伝わっていません。4G/LTEまでの世代交代の進展が、端末デバイス(スマホ)の開発と高速サービスのエリアカバー拡充とが一体的に進められて、SNSの映像系サービスやゲームアプリの利用拡大につながってきた経過があるのに比べて、初期とはいえ5Gの立上がりは厳しいと言わざるを得ません。

最大の理由は5Gではサブ6(3.7GHz、4.5GHz)やミリ波(28GHz)と呼ばれるこれまでより高い周波数の電波を使っているので電波の到達距離が短く、直進性が強いために、例えば極端に言えばミリ波では数百m先の見通せるところにしかつながらないという特性があることです。実際、ミリ波利用の5Gサービスは始まったばかりです。5G基地局の設置場所は初期はどうしてもこれまでの4G/LTEの基地局に依拠するケースが多くなるので、バックホールを構成するコアネットワークは既存の4G/LTEのものを使用して5Gサービスの立上げを図っています。このNSA(ノンスタンドアローン)方式はサービスの普及は早いものの、5Gサービスの主要性能3つのうち、超高速は実現できる一方で、他の超低遅延と多数同時接続は後回しとなり現状実現できていません。

こうなると5Gサービスと言っても4G/LTEまでの進展の時と同じくユースケースも超高速サービスの追求に注力せざるを得ず、人の居る場所(移動する先々)のエリアカバーを急がざるを得なくなります。単純な高速化となると周波数幅の広いミリ波に期待が集まりますが、他方エリアカバーを確保するのは基地局の数次第なので、機器類の価格低減や設置方法の効率化、基地局に接続する光ファイバーのコストなどまだまだ他方面で相当の努力が必要です。そこで結局どこから先にエリアカバーしていくのかが最も重要な事業判断になるし、ユースケースなどのサービス内容を制約することとなります。2019年4月の総務省による電波免許時には「①全国及び各地域ブロック別に5年以内に50%以上のメッシュで5G高度特定基地局を整備する(全国への展開可能性の確保)、②周波数の割当て後、2年以内に全都道府県でサービスを開始する(地方での早期サービス開始)、③全国できるだけ多くの基地局を開設する(サービスの多様性の確保)」の条件が付されていますので、この範囲内でどこから先にエリアカバーするかは4G/LTEまでの人口カバー率という量の問題ではなく、人の利用以外のモノ対モノ、人対モノのサービスをも見定めて事業可能性のあるエリアにネットワークを整備する必要があります。

その際には5Gサービスの開始以来、現在まで構築されている4G/LTEのコアNWを利用したNSA(ノンスタンドアローン)方式から5GコアNWを導入したSA(スタンドアローン)方式へと進展させ、さらにエッジコンピューティングの利用によってNW構成全体の低遅延化を推進して5Gの本来の性能を発揮するようにすることが課題です。超高速だけでなく超低遅延と多数同時接続の機能を社会インフラにする(社会実装)ことによって5Gサービスの多様性が確保でき、産業の効率化と生産性向上へと進展することが可能となります。5GコアNWの構築開始は日本では2021年度の計画となっていますが、5G先発国の米国では既に5GコアNWの整備を進めていてSA方式の部分開始に至っていますし、今年は本格整備の年になると発表があります。米国では近年クラウドゲームの拡大が顕著で増大するトラフィックに対応してオフロード的に5Gを用いることが見られるので、「5Gコア+SA」の構築が本格的に進展する勢いにあります。もちろん4G/LTEコアが経路制御中心であるのに対し、5Gコアではネットワークスライシングなどの配信制御や端末デバイス類との自律分散型処理機能を具備する必要があるので柔軟性・汎用性発揮のためクラウドとAIの活用が前提となります。さらに韓国や中国でも同様の動きが見られるので、我が国でも急ぎ5GコアNWとSA方式の早期の整備が必要です。5Gサービスの1年開始遅れに続いて、5GコアとSAの整備遅れとなることは許されません。モバイル通信各社も当然心得ていてベンダーの選定や開発を進めていますが、さらに詳しい整備展開計画までは明らかにしていません。参考までに米国の通信大手3社とも5Gコアの2021年本格整備を発表済みで、なかでもAT&TはCOTS(Commercial off-the-Shelf、市販汎用機器)ハードをベースとした5Gコアの整備を狙っていると明らかにしています。5GコアとSAの整備計画ではエリアカバーとネットワークサービス機能提供とを一体的に進めないと本来的な意味を持ち得ないので、法人向けサービスにあたって必要となるハイパースケーラー(メガクラウド事業者)と協調・提携し得るプラットフォームを創造する必要があります。従来の通信事業者の延長線で単純に計画的に全国に拡大する方法だけでは社会実装とはなり得ないことに注意が必要です。領域は世界レベルのクラウド事業にまで及びます。

また、コンシューマーの利用として注目を集めるクラウドゲームやeスポーツでは通信の遅延が致命的に重大な問題となりますので、遅延の非常に小さい拠点を作り上げる工夫、例えばクラウドゲームの専用環境やeスポーツ専用センターなどの設置を関係者と連携して進めることなどが考えられます。他方、5GコアNWとSA方式は法人ユースこそ本命であり社会実装が活きる領域です。超高速、超低遅延、多数同時接続の3機能を選択的に活用して、工場や建設現場、オフィス内、病院内、ショッピングモール、植物栽培工場や整備農場などモノ対モノ、人対モノをつないで効率性と生産性を上げ、満足度を高めることができるサービスプラットフォームの展開が可能となります。5Gを社会実装するためには単純にエリアカバーを拡大するのではなく、5GコアNWとSA方式の一体的展開に加えて、エッジコンピューティング、クラウド、AIというコンピューターパワーの本格的運用をネットワークに取り込むことが必須になります。グローバル競争ではサービスや技術提供に欠かせない「標準特許」で近年精彩を欠き気味の日本勢なので、5Gサービスの拡充では是非、世界の先頭集団であってほしいと思います。市販汎用機器をベースとした仮想化通信技術をどこまで「5Gコア+SA」に取り入れていけるのかなど、さらなる課題も数多く存在するので細心の検討が必要です。5Gの社会実装は多方面の多様な取り組みだけに関係者のさらなる取り組みに期待しています。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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