2021年8月31日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

情報通信事業の行方 ~舞台と担い手



日本で5Gサービスと楽天グループの事業参入が始まって1年半、確実に進展しています。そこで5~10年先の事業構造を展望して今後のサービス動向を考えてみたいと思います。私事ですが、この巻頭“論”を毎月書き始めてから12年6カ月、今月でちょうど150回となるのを機に最終となりますことをあらかじめ御了承願います。

今年3月期の通信各社の決算で私が注目したのはNTT西日本が会社発足から21年、初めて増収を達成したことです。電話を中心とする固定通信サービス市場は契約者(回線)数が飽和状態に達する頃から収入が減少、長期の低落傾向が続いて来ました。この傾向は現在も続いていますが他方、固定電話以外の収入増加に長期間努めた結果、ようやく増収となりました。契約数の飽和、人口減少・高齢化、経済成長の鈍化が重なって収入減少が続くと、これを反転することがいかに難しいか、時間を要するのかを如実に示していると感じた次第です。となると、現在まで契約数の増加を続けているモバイル通信も例外ではなく、いずれ収入はピークに達し長期低落傾向に陥ることは必至のことと想定できます。勢い新事業領域の拡大こそが成長の柱とならざるを得ません。これは固定通信市場の歴史が示しているとおりです。固定通信がモバイル通信に移行したのは事実ですが、それとともに人口減少・高齢化、経済成長鈍化という長期的な変化こそ通信事業が背負っている重荷であると感じています。今後の事業活動の原動力となる中長期的な動きを以下3点にまとめてみます。

第1は5Gコアによる5GWWC(Wireline-Wireless Convergence)が進むことです。この動きは3Gの時もFMC(Fixed Mobile Convergence)が言われていましたが、結局のところ実用化に至りませんでした。それは固定通信側のアクセス網のデジタル化(オールIP化)が十分に進まず、かつモバイル通信側にも固定アクセス網を受け入れる能力(仕様)が十分なかったためです。固定網とモバイル網は歴史的にも制度的にも独立して運営されてきました。もちろん通信事業としては多くの国では一体で運営されていますが通信インフラとしては異なる方式で構築・運用されています。ただスマートフォンがこれだけ普及している今日、ネットワークが別建てになっているのがむしろ異常と映る状況となっています。そこで5Gコアによる5GWWC仕様の策定が進んでいて、モバイル側・固定側双方の標準化団体で検討が進んで新しいスペックが発出されています。ようやく長年言われてきたFMCが実現できる素地が固まってきました。モバイルと固定のバンドルサービス、ネットワークの共通運用、Wi-Fiと5Gとのアグリゲーション、ネットワークスライシングなどユースケースの拡大が想定でき、特に拡大が予測される企業向けサービスの充実と多様化が期待できます。こうなると残る課題は通信事業に対する事業規制(免許等)の問題です。現在まで続くNTTグループへの固定・モバイルの事業分離規制は世界からみて周回遅れとなっているだけに、その緩和・変更が俎上に載ってくることでしょう。

第2はスーパーシティ、スマートシティなどの新しい事業領域についてです。これは都市に生ずる行政手続、交通、物流、観光、医療介護、防災、エネルギー・環境などあらゆる生活に係る情報をデータ連携基盤に集めて先端サービスにつなげていく構想です。法制面では、規制の特例措置を求めて基本構想を総理大臣に提出して各省検討を促し、法令や条例改正を進める内容を持つ国家戦略特別区域法等の改正法(スーパーシティ法)が既に成立しています。通信各社ではそれぞれ独自の構想を持って実際に展開を始めています。コンセプトとして、仮想空間と現実空間の連携最適化、デジタルツインの利用とその連鎖、実証地域の設定と他分野企業との提携、実績のリピータブルパッケージの提供などを追求しています。そこで共通して言えることは強力なコンピューターパワーを持つAIを最大限に活用すること、通信はモバイルと固定の両方を統合したネットワークであること、エネルギー・環境面で省電力やカーボンニュートラルを指向していることなどがあげられます。利用者を含めて都市全体から発生する厖大なデータを集約・解析してリアルタイムで認識・判断・処理できる能力となると、どうしても量子コンピューターのレベルに到達しなければならず、その開発とコスト低減が条件となるでしょう。基盤となる都市OSの開発を含めて国家戦略と民間の事業戦略との協調が必須です。

最後に、5月にNTTとスカパーJSATから発表された宇宙空間のICTインフラ基盤=宇宙統合コンピューティング・ネットワークについてです。宇宙センシング、宇宙データセンター、宇宙RANという3分野に取り組むとしていて、成層圏のHAPS通信から低軌道衛星、静止衛星、準天頂軌道(測位)衛星、宇宙探査用まで含めたスペースインフラ事業と宇宙データセンター活用事業とに整理しています。宇宙空間をセンシングやデータセンター、RANとして利用することは、これまでの地上とその上空という通信空間を大きく拡げることになり、人類にとって新しい領域とも言えるものです。静止衛星と大洋の海底通信ケーブルで世界が緊密につながって以来の一大転機です。宇宙空間を人類全体の新しい資源とすることになりますので他国に遅れず先進的な取り組みが求められます。換言すると国土の拡張とも成り得ますので宇宙空間の陣取り、囲い込みが必須です。さらに宇宙空間の利用によって地上のデータセンターの電力消費による環境負荷を軽減できることは朗報です。CO2削減が叫ばれているなか、情報通信産業では電力消費の急増が避けられず、肩身の狭い思いをしてきましたので宇宙での太陽光発電による給電はひとつの光明です。あとはロケット打上げ能力の向上とコスト低減が課題です。

以上の3点、5Gコアの5GWWC、スーパーシティ・スマートシティの展開、宇宙空間のICTインフラ基盤構築は5~10年のうちに実現していくことでしょう。通信事業者がその担い手の一員であり続けることを望んでいます。通信インフラの拡充・拡大はデジタルインフラの形でさらに進んで行きます。こうした新しいインフラ上で新鮮で豊かなサービスが花開くことを願っています。

冒頭に書きましたとおり、今月号をもって私の巻頭“論”は最後となります。150回に渉り、通信インフラやサービスの取り組みとその課題を中心に事業構造、制度・規制、設備構築などできるだけ多面的な話題を取り上げて議論の種を提供することを心掛けてきました。お役に立てたかどうか分かりませんが、長い間お付き合い下さり本当にありがとうございました。来月からは新しい執筆者となります。どうぞ引き続き、本誌と情報通信総合研究所に御支援を賜わりますようお願い申し上げます。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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