2021.8.31 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

ICT雑感:AIに恋して

オリンピックも終わりましたが、まだしばらくは巣ごもりを基本として過ごす時期が続くようでもあり、昔撮り貯めた映像作品の中から、面白かったものを再度観返したりしています。その中で、AI(を搭載しているアンドロイド)が登場し、人間がそのアンドロイドに恋をするという物語がいくつかありました。

AIの進化について、現在それが加速度的に進行中であり、いわゆる「シンギュラリティ」にいつ到達するのか、おおよそ2045年あたりではないか、などの議論を耳にしますが、そのような進化したAIは、感情や創造力などの面でどのくらい人間に近づくのでしょうか。AIも恋愛感情を持ち、人間とAIが恋愛するというような時代は来るのでしょうか……。

(以下、「ネタバレ注意」でお願いします。)

(1)映画『僕の彼女はサイボーグ』(2008年)

冴えない大学生の男子の前に、未来からタイムトラベルでやって来た女の子が突然現れ、突飛な振る舞いで振り回しつつしばらく同じ時間を過ごす。彼は風変わりな彼女に惹かれるが、彼女はその夜のうちに忽然と姿を消す。

1年後、再び「彼女」が現れる。だがそれは人間の彼女ではなく、未来の自分が過去の災難から自身を救うために送り込んだサイボーグ(注:本来の言葉の意味からすると「アンドロイド(人造人間)」というべきと思われるが)だった。機械である彼女は突飛な行動で彼を振り回すが、その超人的な能力で何度も彼の危機を救う。奇妙な共同生活を送るうちに彼は人造人間の「彼女」を愛し始めていた。

しかし彼女には恋愛の感情が理解できない。彼は他の女の子と踊るところを見せつけたりするが、彼女は嫉妬もしない。片思いの状態に苦しむ彼は些細なことから彼女を追い出してしまうが、東京を大地震が襲い絶体絶命のときに彼女は駆け付け、身を挺して彼を助け、そして瓦礫の下敷きになって動きを止めた……彼は生涯をかけて「彼女」を再生し、見送られつつ静かに生涯を終えた。

それから数十年後、自分そっくりの人造人間が保存されていることを知ったある若い女性は、オークションでそれを手に入れ、AIに残されていた記憶を自身に移植し、百年以上前の過去にタイムトリップした。彼女は、受け取った記憶の中の彼に恋心を抱いていた……(冒頭に戻る)。

「彼女」を送ってきた未来の彼から過去の彼に対し、こんなメッセージがあった。「今はまだ魂のない人形のような彼女だが、君との生活の中で学習し、やがて人間らしい判断ができるようになっていくよう、プログラムされている。君にはきっとできるだろう。彼女に魂を吹き込むことが」。

彼女を愛し始めた彼は、何とか気持ちを伝えようとするが、彼女はキスをされても何も感じない。せめて自分の心を感じてほしいと努力したが、空しい努力に見えた。しかし彼女は最後に「私はあなたの心を感じる」と伝え、彼の心は通じたようだった。

AIの記憶は未来の女性に受け継がれ、その女性は過去の彼に恋心を抱くようになるので、アンドロイドである「彼女」が感じたものの中に恋愛感情が生まれていたともいえるし、彼は彼女に魂を吹き込むことができたと一応いえるのかな、と理解しました。

映画全体としては、アンドロイドのタイムトラベルものという設定の共通性もあり、『ターミネーター』から持ってきたネタがやや多過ぎる気がしますが、当時20代前半の綾瀬はるかさんのフレッシュな魅力もこの映画の見所かと思います。

(2)アニメ『プラスティック・メモリーズ』(2015年)

物語の舞台は、アンドロイドが実用化された近未来。大学受験に失敗した男の子ツカサは、親のコネでアンドロイド製造・管理企業に入社する。この会社のアンドロイド「ギフティア」は高性能のAIを搭載しており、他のアンドロイドにはない「心」を有し、人間と同じような感情を持つことが特徴だ。しかし9年余りで耐用年数を迎え、放置すると記憶や人格が壊れて暴走する恐れがあることから、その前に回収することが必須である。回収者とギフティアがペアの指輪をはめて手を重ね、OS消去プログラムを起動し、記憶を消して回収する。

ツカサはその回収を行う部署に配属され、美少女ギフティアのアイラとチームを組むこととなった。職務は人間とギフティアのチームで行うが、これが困難を伴う仕事だ。なぜなら、人間と同様の心を持つアンドロイドに対して、所有者は家族同様の感情を抱くようになり、別れ難く思うのが普通だからだ。中には回収を拒否する人、アンドロイドとともに逃げようとする人もいる。そんな中でアイラは、所有者の気持ちに寄り添って最後の別れを迎えてもらうことをモットーとしている。困難な仕事をともにこなす中で、ツカサはいつしかアイラに恋心を抱いていた。

自身も実は耐用期限が目前に迫っていたアイラは、ツカサの気持ちを受け入れることに躊躇していたが、職場の仲間の後押しもあり、ついに2人は気持ちを通わせる。しかし間もなくアイラの回収の日が来た。回収をするのはパートナーであるツカサの役目だった……(記憶消去の方法に注目してください)。

このアニメで登場するアンドロイド「ギフティア」は、涙も流す。先に取り上げた『僕の彼女はサイボーグ』でも、あるいは『ターミネーター』でも、アンドロイドは泣かないというのが普通のような気がするが、どういう技術、メカニズムで作られているのかはよく分からない。感情の豊かさを表す描写の一環なのかな? まぁ、アニメなので。

ギフティアは機械なので、忘れるということがない。記憶はただ積み上がっていく。人間は適度に忘れる、あるいは記憶を頭の中で改変し美化することで心の平穏を保つ面があると思うが、ギフティアは人間よりも記憶に押しつぶされそうになるのではないか。だから耐用年数があるのかもしれない。

なお、回収され記憶を消されたギフティアは、再利用されることもあり、その場合人格は全く新しい個体となる。それを承知の上で同じ外見のギフティアを所有する人もいれば、見かけは同じだが中身は別のギフティアに心乱される人もいる。

人間とギフティアはそもそも相互に恋愛対象として認識されているのかという点も気になるが、職場の同僚たちはこの2人を応援しているので、この世界ではそういうことなのだろう。しかし、耐用年数の関係で強制的に別れが来るので、お互い覚悟が必要になる。2次元的世界観ではある。

アイラは、回収されるギフティアに最後の瞬間、「大切な人と、いつかまた巡り会えますように」という言葉を贈りますが、これが作品を通じたテーマにもなっています。感情を持ってしまったことで、アンドロイドにとっても別れは辛いものとなるのですね。人格が消えてなくなってしまうのは分かっているのに……。

しかしよくよく考えると、人間も死ねば人格が消滅するのは同じことです。別れを受け入れるためには、感情を持ったAIは人間と同じように、あの世の存在を考えるようになるかもしれないですね。

(1)『僕の彼女はサイボーグ』(2008年・120分)
監督・脚本:郭在容(クァク・ジョエン)、出演:綾瀬はるか、小出恵介ほか

(2)『プラスティック・メモリーズ』(2015年・24分×13話)
原作・脚本:林直孝、監督:藤原佳幸、アニメ制作:動画工房

いずれの作品も、Amazon Prime Videoなどで観ることができます。関心を持たれた方はアクセスしてみてください。

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