2021年9月14日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

ビルシステムの最新動向と今後の課題について



ビルシステムを取り巻く社会課題

2020年10月、日本政府は2050年までにカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出と吸収でネットゼロを意味する概念)を目指すことを宣言した。2050年までにカーボンニュートラルを表明した国は日本を含み124カ国にのぼる。カーボンニュートラルの実現に向けては、温室効果ガスの8割以上の排出を占めるエネルギー分野の取り組みが重要としている。

資源エネルギー庁は、カーボンニュートラルに向けた省エネ対策としてBEMS(Building and Energy Management System)の活用を挙げている。BEMSとは、受変電や設備の状態監視を実施する中央監視システムの一つの機能に位置付けられるものであり、見える化などのエネルギー管理に特化した機能を提供するものである。電力量を計測するという意味では、従来存在した機能だと言えるが、近年では省エネ行動を促進するための「見える化」に重点をおき、様々なグラフィック機能等を充実させたものと捉えることができる。

図1の棒グラフはオフィスビルでの電力消費量が高い機器を順に並べたものである。ビル内の電力消費量を用途別に「見える化」することで、どの機器から省エネに取り掛かれば良いかが一目瞭然となる。円グラフはオフィスビルの専有部に限定して電力消費量を示したものである。照明やコンセント、空調は消費する電力量が使用する「人」に紐づいているため、省エネの余地があると言える。一方でエレベーターなどは建物全体の電力消費量からすると、そもそもの電力消費量が少なく、省エネ改善の余地が限定的であることがわかる。

【図1】オフィスビルの電力消費量

【図1】オフィスビルの電力消費量
(出典:ECCJ「オフィスビルの省エネルギー」をもとに情総研作成)

省エネではPDCAが重要であると言われており、現状のエネルギーのどこに無駄があるかをまずは見極め、その上でエネルギーの無駄を削除するための具体的なアクションを実行することが重要となる。

新築オフィスビルにおいてはネット・ゼロ・エネルギーを目指すZEB(Net Zero Energy Building)の取り組みも注目されている。ZEBは、建物全体におけるエネルギー使用量を減らすだけでなく、太陽光発電などの創エネも含めて、年間のエネルギー収支をゼロ(もしくはマイナス)にする取り組みであり、実現に向けては、建物全体のエネルギーを管理するBEMSがビルシステムにおいて重要な役割を果たす。

新型コロナウイルス対応による非接触化

新型コロナウイルスの感染拡大はデジタルトランスフォーション(DX)を真に加速化させたと言える。ビルシステムにおいても非接触化のニーズに応じた各社の製品対応が見られた。

日立製作所はエレベーターの乗り場に設置されたQRコードを読み取り、乗り場ボタンに触れることなく、自身のLINEアプリから、エレベーターを呼び出すことができるサービスを発表した[1]。日本コンピュータビジョン(JCV)は顔認証と温度検知を同時に実現するシステムを展開しており、APIにより入退室管理システムとの連携も可能としている[2]。NECは自社が持つ高い顔認証技術をベースとして、入退室連携のみならず、マスク未着用者の検知や混雑度検知などをソリューションとして訴求している[3]。三菱電機はセキュリティゲートなどの床にソーシャルディスタンス確保などのアニメーションを投影するアニメーションライティングを製品対応した[4]。パナソニックは画像センサーの微動検知や混雑度検知によって空調だけでなく照明の制御も統合できるセンサーを開発しており、ボタンに触ることなく、且つ、低コストに設備を遠隔制御できることを訴求した[5]

ビルシステム全体概要

カーボンニュートラルに向けたエネルギー管理の徹底や新型コロナウイルスによる非接触化対応など、ビルシステムに関連した社会的課題は多くある。ただし、一言でビルシステムと言っても、言葉が捉える範囲が広く、具体性もないためわかりづらいものがある。そこで、本節ではビルシステムとはどのようなものかを概説したい。

経済産業省が2019年に公開した「ビルシステムにおけるサイバー・フィジカル・セキュリティ対策ガイドライン」[6]は、ビルシステムの標準的な設備の例として、受変電システム、照明システム、熱源・空調・給排水システム、昇降機システム、防犯(入退室、警備)システム、防災システム、監視カメラシステムを挙げている。当該資料は、サイバーセキュリティを考えるためのビルシステムの例となっているため、すべての設備を網羅しているわけではない。他にも、ビルシステムには、非常用発電機設備、太陽光発電設備、雷保護設備、換気設備、映像・音響設備、情報表示設備など、建物ごとに様々な設備が存在する。

新築オフィスビルの場合、各設備の配置はゼネコンまたは設計事務所によって基本設計として計画される。この時点で、各システムの基本的な機能や構成、設備の手配区分・工事区分などが決まる。計画が実行に移れば、実施設計としてさらに詳細な設備の機能や施工方法が検討される。各設備メーカーは、現場ごとの建築商流、建築工程にしたがって、納入に向けて動き出すことになる。

本稿ではビルシステムの設備すべてを取り扱うことはできないので、設備連携、サイバーセキュリティなどの観点から重要と思われる入退室管理、監視カメラ、中央監視システムの3つを紹介する。

入退室管理システム

入退室管理システムは、建物内のエリアをセキュリティレベルによって適切にゾーニングして、不正な侵入者の通行防止を含め、入退室管理装置によって通行を管理するためのシステムである。一般的にはカードリーダーとコントローラー、センター装置によって構成される。Felicaなどの非接触ICカードをカードリーダーで読み取り、IDに紐づいた情報をコントローラー等とでやり取りすることにより本人認証を行う。

建物内に閉じた運用であれば、入退室管理システムは一つのクローズドなシステムで済むが、支社などにまたがって入退室管理システムを導入する場合は、拠点間でネットワークを接続する必要がある。図2は、入退室管理システムを本社および支社などの拠点に導入して、全社で個人情報を配信した場合のイメージを示す。個人情報を各拠点に配信する仕組みが必要となるため、入退室設備の設計だけでなく、全社的なネットワークの設計が必要となる。

【図2】入退室管理システムの例

【図2】入退室管理システムの例
(出典:各種公開資料をもとに情総研作成)

監視カメラシステム

監視カメラは建物の共用部や専有部など、それぞれのエリアを通行する人の動線や部屋の入り口などにカメラを設置する。監視カメラは、壁面設置、天井設置、ポール設置などを駆使すれば、基本的にはどのような場所でも設置できてしまうため、どのポイントを監視したいのか運用を見定めて設計する必要がある。システム面では、レコーダーの容量が大きくなるほどコストが掛かるため、カメラを録画する際のフレームレート数や圧縮方式に留意が必要である。図3は監視カメラのシステム系統(イメージ)を示している。IPカメラの場合、監視カメラはPoE HUBによって映像伝送と電源を確保するため、LAN(UTP)ケーブルで構築されたシステム構成が基本となる。

【図3】監視カメラシステムの例

【図3】監視カメラシステムの例
(出典:各種公開資料をもとに情総研作成)

中央監視システム

中央監視システムは受変電や建物内の各設備を集中的に監視する役割を果たす。従来であれば、人手で各設備を管理しなければいけなかったところが、中央監視設備によって、集中的に設備を管理できるようになったというのが中央監視システム導入によるメリットである。図4は中央監視システムの一例である。中央監視システムは基本的には建物内の設備の状態や制御信号を接点のON/OFFでやり取りする。そのため各コントローラーと設備の間は接点ケーブル(CPEV線等)で結ばれる。ただし、接点では1本のケーブルでON/OFFの情報しか送信できないため、空調システムなど、複雑な情報をやり取りする場合、BACnetなどの通信プロトコルを介してやり取りすることとなる。

【図4】中央監視システムの例

【図4】中央監視システムの例
(出典:各種公開資料を基に情総研作成)

最新のビルシステムの事例

多くのビルシステムは独立したシステムとして動作するが、各設備を連携することで、新しい価値を訴求できるシステムも存在する。表1に設備連携の例を示す。

【表1】設備連携の例

【表1】設備連携の例
(出典:各種公開資料を基に情総研作成)

エレベーター×入退室連携は、オフィスビルの入り口に設置されたセキュリティゲートと連携して、社員などが所属するフロアの行き先階を自動でエレベーターに登録する。あらかじめ社員の個人情報に紐づいたフロア情報を登録しておくことで、エレベーターのボタンを押すことなく、エレベーター側へ行き先階の登録が可能となる。

監視カメラ×入退室連携は、主に監視カメラの録画時間の節約に使用される。監視カメラは基本的に常時録画を前提とするため、録画データ量は膨大なものとなる。そこで、部屋の入り口等に設置されたカードリーダーなどと連携し、入退室のイベントが発生した前後数十秒の録画データのみを保存することで、録画時間を節約することができる。

照明×入退室連携は、省エネニーズを満たすための運用である。一般的な運用例では、フロアの最終退室、つまり警備開始時に、誰もいなくなったことにあわせて、オフィスの照明を一斉消灯する運用がある。省エネ効果をさらに高めるものとして、オフィスビルの社員の机上にある照明と個人情報をあらかじめ紐づけておくことで、当該社員の入退室にあわせて、登録した照明を点灯・消灯させる運用もある。

最後にオフィスビルにおけるロボット連携について述べる。オフィスビルおいては省人化に向けて、清掃や警備を目的とした自律型ロボット導入のニーズが高まっている。自立型ロボットは横の移動、つまりフロア内における移動は可能だが、縦の移動、すなわち、エレベーターを介した移動はできない。そのため、通信プロトコルを介した接続によりエレベーターを操作して、ロボットの移動を支援するエレベーター連携が必要となる。エレベーターとロボット間の指示内容は、あらかじめ規定した通信プロトコルに則ってやり取りする。したがって、クラウドなど外部のネットワークとつながっているロボットとやり取りする場合は慎重なネットワーク設計が必要となる。

これまで述べてきた照明×入退室連携などは、簡易的な設備連携であれば接点のON/OFFによる接続でも実現はできなくはない。しかし、実現に必要な動作が複雑になるにつれて、通信プロトコルを介した接続が必要となる。表2では接点および通信でやり取りした場合の主な違いを示す。通信プロトコルを介した設備連携においては、システム間のネットワークを疎通するため、セキュリティをきちんと考慮したネットワーク設計が必要となることに留意が必要である。

【表2】接点接続と通信の違い

【表2】接点接続と通信の違い
(出典:各種公開資料を基に情総研作成)

ビルシステムのセキュリティ事例

ビルシステムの高度化やクラウドによる遠隔サポートの充実化など、ビルシステムのオープン化が進むことで、セキュリティ上の課題も出てくることを忘れてはいけない。

Forescout社は、ビル管理システムにおけるサイバーセキュリティのレポートを公開しており、ビル管理システムが時代とともに「スマート化(スマートビル、スマートシティ)」に対応して利便性を高めていく一方で、セキュリティ上のリスクを高めたことを指摘している。同社調査は、ネット上に公開されている22,902デバイスに対して、脆弱性のチェックを行ったところ、9,103(39.3%)のデバイスがセキュリティ上の脆弱性を持っていたと報告している。IPカメラに関しては、11,269のデバイス中、10,312(91.5%)のIPカメラがセキュリティ上の脆弱性を持っていたとのことだ。

また、コンピューターセキュリティ会社のKaspersky社は独自に調査を行ったスマートビルの内、37.8%でマルウェアを検知したと報告している。

日本では、総務省が情報通信研究機構(NICT)と一緒にインターネット上からアクセスできるIoT機器を対象にして、パスワードが容易に推定されるものでないかを2019年からチェックし始めたことが記憶に新しい。このレポートは現在でも毎月更新されており、2021年6月実施時点では、インターネット上でID、パスワードが入力可能だったものは96,000件あり、その内、パスワードが容易に推定されるものは、20,550件(21.4%)であったと報告されている。

設備連携、セキュリティ事例を考慮すると、ビルシステムにおける進化の流れは図5のように捉えることができる。従来のビルシステムはクローズドなネットワークを前提としており、設備ごとにLANは一つに閉じていた。クローズドなネットワークは、今後もビルの運用上なくならない一方で、システムの機能や運用によっては、システム間の連携やクラウドなどのオープンなネットワークでの対応が求められる。従来OT(Operational Technology)系のシステムはクローズドなネットワークを前提とすることで、セキュリティを担保してきた。OT系とIT系の機能が統合することで新しい機能、価値が創造される。これまで対策があまりされてこなかったOT系システムにどのようにセキュリティ機能を担保するのかも課題となる。今後OT系とIT系が重複していく領域に新しいビジネスチャンスが生まれていくと考える。

【図5】今後のビルシステムについて

【図5】今後のビルシステムについて

[1] 日立製作所「LINE連携タッチレスエレベーター呼びサービス」 https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2020/09/0924.html

[2] JCV「異常温度スクリーニングSenseThunder」 https://www.japancv.co.jp/ solutions/thermography/

[3] NEC「感染症対策ソリューション」 https://jpn.nec.com/video-analytics/products/sl_thermal.html

[4] 三菱電機「エレベーター・エスカレーターご利用時の主な衛生対策」 https://www.mitsubishielectric.co.jp/elevator/nayami/005/

[5] パナソニック「オフィスにあふれる接触機会を低減するには」 https://www2.panasonic.biz/ls/solution/magazine/office/cms_image/image_120.pdf

[6] 経済産業省「ビルシステムにおけるサイバー・フィジカル・セキュリティ対策ガイドライン第1版」https://www.meti.go.jp/press/2019/06/20190617005/20190617005.html

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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