2021年9月30日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

「Society5.0」時代における情報通信技術の確立 ~SIP「AIホスピタルによる高度診断・治療システム」における取り組み



当社は、通信自由化・NTT民営化[1]の年である1985年に情報通信分野を専門とするシンクタンクとして設立され、情報通信サービス・ICT産業の発展とともに歩み36年目を迎えている。

この間、情報通信サービスは、固定電話(音声)を中心とした時代から大きく変貌した。1993年、日本における商用インターネットの開始による新たなコミュケーション手段が出現し、2001年、インターネット接続の高速化・大容量化を世界に先駆け実現した光ファイバーを活用したFTTH[2]サービスの普及拡大により、一般家庭における通信環境は音声からデータ通信へと大きくシフトした。

また、携帯電話は、1994年に端末の売切制度が導入され、ユーザーが利用しやすい低廉かつ多彩な端末が登場し、事業者間の競争などにより、契約数が年間約1,000万のペースで増加し、2000年には固定電話を超えた。2007年に登場したスマートフォンは、持ち運びに不便であったパソコンと同等の機能を手のひらサイズに搭載するといった革新的技術により、若者を中心に契約数を飛躍的に伸ばした。さらに、2010年には第4世代移動通信システム(4G(LTE))、2020年には第5世代移動通信システム(5G)が開始され、通信技術の進展とともに契約数は2億に迫る規模となり、通信サービスの主役となった。

そして、クラウドサービスの進化と、AI・IoT・ビッグデータなどのデジタルテクノロジーが、データ社会の基盤を支える時代を迎えている。今やICTは、その技術の先端性、先進性のみならず、地方創生、スマートシティの実現など、社会生活全般の基礎と位置付けられており、その象徴と言えるのが、「Society 5.0」である。

「Society 5.0」は、2016年に「第5期科学技術基本計画」[3]で、日本がめざすべき未来の社会像として提唱された。このSociety 5.0社会は、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)と位置付けられている。

2021年の「第6期科学技術・イノベーション基本計画」[4]においても、Society 5.0社会の実現が掲げられ、その実現に向けて、様々な施策の展開を図ることが示されている。2021年9月には、行政のデジタル化等の司令塔を担うデジタル庁が発足し、さらにSociety 5.0社会の実現に向けた取り組みが加速することが容易に予想される。

こうした取り組みのひとつとして、Society 5.0社会実現の一翼を担っている「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」[5]について、以下に紹介したい。

このSIPは、内閣府の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)が、社会的に不可欠で、日本の経済・産業競争力にとって重要な課題について、プログラムディレクター(PD)および予算をトップダウンで決定し、基礎研究から実用化・事業化までを見据えて一気通貫で研究開発を推進する国家プロジェクトである。

2018年から開始されたSIP第2期(5年計画)では、生産性革命への貢献等を目指し、生産性の抜本的向上が必要な分野(医療、農業、物流、防災・減災、サイバーセキュリティ、自動運転、エネルギー等)を含む12課題が選定されている。

当社は、この12課題のひとつである「AI(人工知能)ホスピタルによる高度診断・治療システム」[6]において、研究開発に携わっている。

この課題は、中村祐輔[7]PDの下、AI、IoT、ビッグデータ技術を用いた『AIホスピタルシステム』を開発・構築することにより、高度で先進的な医療サービスの提供と、病院における効率化(医師や看護師の抜本的負担軽減)を実現し、社会実装することを目的として、次の出口戦略を掲げ、研究開発を実施しているものである。

  •  AIホスピタルパッケージの実用化
  • AI医療機器の実用化
  • 患者との対話と医療現場の負担軽減を両立するAIシステムの実装化
  •  AI技術を応用した血液等の超精密検査システムの医療現場での実装化

これらの出口戦略を着実に実行するため、サブテーマAからEの5つのグループにおいて、研究開発が推進されている。

当社は、サブテーマAの統括機関として、「セキュリティの高い医療情報データベースの構築とそれらを利用した医療有用情報の抽出、解析技術等の開発、およびAIを用いた診療時記録・看護記録の自動文書化、救急現場で対応可能な自然言語処理システムの構築」の総括をNTTデータ経営研究所と担当している。

サブテーマAにおいては、NTTコミュニケーションズ、NTTデータなど民間企業6社が、国立成育医療研究センター、慶應義塾大学病院、大阪大学医学部附属病院、がん研有明病院、横須賀共済病院の5つの大病院およびバイオバンク・ジャパン等と連携して、医療現場での活用を加速し、AI等の情報技術を活用したトータルシステムとして、医療現場に即したビジネスモデルを展開すべく、以下の実証・研究開発を行っている。

  1. 患者の個人情報を秘匿化し、安全な保管・分析を可能とするセキュアな医療情報データ基盤の構築
    暗号化の仕組みである秘密分散による保管、元データを開示することなく施設間での横断分析を可能とする秘密計算技術システムの開発

  2. AIを用いた診療時記録・看護記録の自動文書化、救急現場で対応可能な自然言語処理システムの構築
    AIを活用した音声自動入力・自動文書化等による多くの医療従事者の書類業務に伴う疲弊の改善に資する支援技術の開発

  3. AIを活用する音声入力支援・診断補助支援など、医療現場における実用支援ツールとしての医療用語集の構築

これらの技術は、高度で先進的な医療サービスの提供と医療現場(病院等)における効率化の実現、社会実装をめざす、「AIホスピタル」の基盤を支える技術である。

医療現場における実証・研究開発を通じて、各種医療情報が、セキュアで秘匿性の高い環境の下で、AIホスピタルシステムを社会実装することにより、高度で先進的かつ最適化された医療が提供でき、遠隔地と都会との医療格差が解消されると考えている。

また、最新のAI技術を活用することで、多くの医療従事者の書類業務に伴う疲弊を改善し、近い将来、医師や看護師がこれまで以上に患者に向き合える環境を実現できると確信している。

中村祐輔PDが常に言われている、AIが医療分野にもたらす最大の恩恵である、医療に必要な人と人とのふれあい・思いやり「Empathy」を取り戻すことを念頭に、医療現場感をしっかりと認識し、社会実装に向け、技術力と現場視点を融合した開発を展開し、着実に社会実装していきたい。

こうした技術の確立により、個人(患者)が安心・安全に暮らせる社会、人と人のふれあいを感じることのできる、「Society 5.0」がめざす、「人間中心の社会」が実現されると考えている。

当社においては、このSIPでの経験を活かし、Society 5.0社会の実現に向けて、ICTを通じた地方創生(スマートシティ構想)、最先端技術による行政サービス(自治体DX)、GIGAスクール構想に基づく教育事業、市民の生活の質の向上等につながる調査研究、コンサルティング業務を展開していきたい。

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