2022年5月30日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

ICT雑感:宇宙エレベーター


Gerd AltmannによるPixabayからの画像

宇宙エレベーターとは

「宇宙エレベーター」(もしくは「軌道エレベーター」)と聞いて、即座にイメージできる読者は多くはないだろう。「あぁ、あれね」とイメージが浮かんでくる読者は、ひょっとしたらSFファンかもしれない。宇宙エレベーターとは地球と宇宙とのあいだをケーブルでつなぎ、乗り物で往復する交通システム(図1)であり、現在のロケット打ち上げとは違うアプローチの宇宙への移動・輸送手段である。

【図1】「宇宙エレベーター」イメージ

【図1】「宇宙エレベーター」イメージ
(出典:大林組「宇宙エレベーター建設構想」)

なぜ、今「宇宙エレベーター」に注目しているかというと、現在ホットなトピックとなっているバーチャルワールド(≒メタバース)という新大陸の開拓は早々に終わり、日常化してしまうだろうと考えているからである。その後、人類は地球外に進出する。月・火星を足掛かりとして、他の惑星へも進出することとなるが、その活動をロケット打ち上げのみで支えるのは環境負荷が大きく、資源効率の面で非効率的であり、その解決手段として有望だと考えているのが「宇宙エレベーター」……。とここまで書いてきたが、実はまだ「宇宙エレベーター」は実現していない。アイデアとしては19世紀末には生まれていたものの、実現に向けた諸課題が解決できていないのだ。

宇宙エレベーター実現の課題

宇宙エレベーターを実現するために、大きな課題は2つある。①技術的課題と②資金・体制面の課題である。

①技術的課題について

技術的課題のうち最大の課題が、地球上から宇宙側終端をつなぐ10万kmの張力に耐えうる強耐久性のケーブルの開発である。現在強耐久性ケーブルの材料となっているピアノ線やケブラー繊維でも、地球上から3.6万km付近の無重力となる静止軌道(人工衛星が設置される軌道)から地上へ向けて垂らしていくと、自重に耐え切れず途中で切れてしまう。現在1991年に発見された強耐久性・軽量性に優れるカーボンナノチューブ(以下「CNT」)が材料として有力視されているが、CNTは強耐久性・軽量性以外にも導電性等多様な特性を持つため、CNTの用途開発は必ずしも強耐久性だけに焦点が当たっている訳ではなく、ケーブルとして使えるように長さを伸ばす方向での研究も盛んではない。Made in Japanで宇宙エレベーターのCNTケーブル開発・生産をリードするため研究投資を集中し、世界初の宇宙エレベーターケーブル生産ができれば日本が世界をリードできると考えるのだが……。ともあれ、CNTケーブルの長延化が喫緊の課題である。

②資金・体制面の課題について

宇宙エレベーターは一国で建設するのは無理がある。建設後の運用も含めて、国内外の政府・団体・企業との協力関係を築いていく必要があり、そのしくみづくりや法整備も必要となる。例えば、宇宙エレベーターも人工衛星と同様、赤道上空にある静止軌道上に設置することになるため、宇宙エレベーターの地球側の端は、赤道上に設置する必要がある。赤道上に領土のない日本は、インドネシアやシンガポール等赤道上の各国との連携が必要となる。IAA(国際宇宙航行アカデミー)では宇宙エレベーター検討委員会が活動しており、国際協力による宇宙エレベーターの実現に向けた検討をしている。また、10兆円を超えると見積もられる総工費についても、国際宇宙ステーションのように参加国政府が拠出する方法もあるが、超大型のプロジェクトファイナンスの組成も検討の余地があろう。当然のことながら、プロジェクトファイナンスの前提としては、宇宙エレベータープロジェクトから収益が見込める必要があるが、宇宙エレベーター関連ビジネス(収益源)としては、どのようなものが考えられるだろうか。

宇宙エレベーター関連ビジネスの可能性

以下に紹介するように、宇宙エレベーターのビジネスとしての可能性も多様である(図2)。

【図2】「宇宙エレベーター」全体構成図

【図2】「宇宙エレベーター」全体構成図
(出典:大林組「宇宙エレベーター建設構想」)

A)高効率な宇宙太陽光発電

宇宙空間での太陽光発電は地上と比べ、大気圏の影響を受けないため、地球上の約10倍のエネルギーを得ることができ、天候の影響も受けずに済む。宇宙エレベーターや関連施設の電力源としてだけでなく、現在研究開発中の無線電力伝送を用いた地上への提供も含めて、エネルギー問題のソリューションの一つとなろう。

B)静止軌道ステーションでのスペースコロニー開発

宇宙エレベーター10万kmのうち、地球上から3.6万km付近の静止軌道上に無重力を利用して大型の建造物を建設できるため、宇宙太陽光発電設備だけでなく、居住空間・工場等を建設し、スペースコロニー開発を行うことができる。

C)人工衛星ビジネス

静止軌道ステーション上では、衛星をロケットで打ち上げなくても、宇宙エレベーターで運搬すれば(もしくは、部品を運搬し、静止軌道ステーションで組み立てすれば)、容易に衛星を静止軌道上に乗せられる。仮に衛星が故障したり、不要となったりしても、宇宙エレベーターを使えば、容易に回収して修理・廃棄できる。

D)宇宙運輸ビジネス

宇宙エレベーターそのものも運輸ビジネスではあるが、加えて、宇宙エレベーターの宇宙側の先端(カウンターウエイト部分)に近くなると地球の自転の力を投石器のように使って宇宙船を僅かな力で投射し、火星・木星・小惑星へ到達することができる(軌道カタパルトの原理)。コストパフォーマンスの良い旅客・貨物双方を対象とした宇宙運輸事業を展開できる。

おわりに

以上、宇宙エレベーターというアイデアの一部をかいつまんで紹介した。宇宙エレベーター実現に向けては、技術的課題の解決もさることながら、その巨額な投資額に見合うだけの収益性を見込む必要があるが、収益性についてシミュレーションしたものには寡聞にして出会ったことがない。投資家に対して説得力あるビジネスプランとするためにも、宇宙エレベーター関連ビジネスの収益性を概算していくことが必要になると考えている。

参考文献:

  • 佐藤 実『宇宙エレベーター ―その実現性を探る』(祥伝社、2016)
  • 株式会社大林組「宇宙エレベーター建設構想」
    (https://www.obayashi.co.jp/kikan_obayashi/detail/kikan_53_idea.html)

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