次期SIPの始動
内閣府の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)が司令塔機能を発揮し、府省横断的な研究開発に取り組むこととした、「Society 5.0」社会実現の一翼を担う「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」に関し、第1期(2014年~)、第2期(2018年~)に続く、2023年度開始予定の次期SIP(第3期)が始動した。ここでは、その開始に向けた動向と今後のスケジュール、課題候補に係る研究開発テーマ等を概観し、将来への展望について述べてみたい。
次期SIPの実施に向けたこれまでの動きと今後のスケジュール
次期SIPの実施に向けては、以下のような動きがあり、今後のスケジュールが策定されている。
- 2021年12月末に、我が国が目指す将来像(Society 5.0)の実現に向けた15の課題候補(ターゲット領域)を決定。
- 2022年1~2月に、次期SIPの各課題候補に係る研究開発テーマのアイディアについて、情報提供依頼(RFI)を実施し、大学、国立研究開発法人、企業等から、合計1,000件近い情報が提供された[1]。
- 2022年3月末に、各課題候補に係る全体の方向性やサブ課題の構成を整理するとともに、各課題候補のフィージビリティスタディ(FS)での検討をリードするプログラムディレクター(PD)候補に求められるスキルを整理。
- 2022年4月、各課題候補について、PD候補の公募を行い、5月中旬頃に決定するとともに、ガバニングボードの下に、PD候補、サブ課題等に関する有識者、関係省庁、研究推進法人等で構成する検討タスクフォース(TF)を設置予定とした[2]。
- 2022年末までに、各TFにおいてFSを実施し、技術面・事業面からのインパクトや実現性等を踏まえ、研究開発テーマを絞り込み、課題の内容や構成を整理し、課題ごとに研究開発計画案を策定予定。
- その後、研究開発計画案のパブリックコメントを実施・決定するとともに、改めてPDを公募・決定し、2023年度から次期SIPを開始する予定。
次期SIPの課題候補と情報提供件数
次期SIPのRFIにおける情報提供件数順に見た課題候補について、以下に記述する。
課題09:スマートインフラマネジメントシステムの構築(217件)
インフラ・建築物の老朽化が進む中で、デジタルデータにより設計から施工、点検、補修まで一体的な管理を行い、持続可能で魅力ある国土・都市・地域づくりを推進するシステムを構築。
課題08:スマート防災ネットワークの構築(191件)
気候変動等に伴い災害が頻発・激甚化する中で、災害前後に、地域の特性等を踏まえ災害・被災情報(災害の種類・規模、被災した個人・構造物・インフラ等)をきめ細かく予測・収集・共有し、個人に応じた防災・避難支援、自治体による迅速な救助・物資提供、民間企業と連携した応急対応などを行うネットワークを構築。
課題02:統合型ヘルスケアシステムの構築(98件)
患者や消費者のニーズに対し、医療・ヘルスケア等の限られたリソースを、デジタル化や自動化技術で最大限有効かつ迅速にマッチングするシステムを構築。
この他にも、「課題05:海洋安全保障プラットフォームの構築(80件)」、「課題07:サーキュラーエコノミーシステムの構築(77件)」、「課題01:豊かな食が提供される持続可能なフードチェーンの構築(68件)」、「課題06:スマートエネルギーマネジメントシステムの構築(67件)」、「課題10:スマートモビリティプラットフォームの構築(43件)」、「課題04:ポストコロナ時代の学び方・働き方を実現するプラットフォームの構築(16件)」などにも多数の情報が提供されている。
これらの背景には、デジタル技術の活用による強靭なインフラ構築・維持管理、レジリエントで安心安全な社会の実現、すべての人々の健康的な生活の確保と福祉の増進、世界有数の海洋国家における安全保障、循環型社会の実現、豊かな食が持続的に提供されている社会の実現、カーボンニュートラルを実現した社会、持続可能な都市や地域、個々に応じた教育・働く機会のある社会、といった日本における喫緊の社会課題の解決や産業競争力の強化に対する関心の高さがあることがうかがえる。
また、これら分野ごとの課題に加え、課題14として、「AI・データの安全・安心な利活用のための基盤技術・ルールの整備(21件)」に取り組むこととされており、プライバシー、セキュリティ、倫理などデータの安全・安心な流通を確保しつつ、様々なステークホルダーのニーズに柔軟に対応できるデータ連携基盤の構築について課題が具体化され、検討が深められることにも期待したい。
この情報提供に関し、提出機関種別の内訳を見てみると、大学が384件、国立研究開発法人等が235件、企業が292件、職域団体が60件と、基礎研究・応用研究から社会実装(事業化・実用化)までを見据えた一気通貫の研究開発を実現するため、それぞれの役割分担に基づいた産官学連携での取り組みを重視するSIPの特徴が表れている。
なお、このRFIとPD候補募集等については、以下の留意すべき事項が記載されている。
- RFIは、研究開発テーマやその実施者を決めるものではなく、あくまで研究開発テーマの検討に当たってのアイディアについて情報提供を受けたものであり、TFへ提供のうえ、参考とされ、必要に応じ情報提供者への協力依頼があること(ただし、個別に採択の可否についての回答はできないこと)。
- FSの事業規模は、課題候補ごとに1億円~2億円。
- PD候補はFSでの検討をリードするものとして、TFの座長を務めるが、次期SIPのPDについては、2023年当初に改めて公募を行い、応募者の中から、ガバニングボードで最終的に決定する予定であること。
SIP第2期の取り組みと次期SIPへの期待
一方、2018年からスタートした第2期SIPの12課題は、これまでの研究開発成果を活かした事業化(=社会実装)に向けた最終年度である2022年度を迎える。
多数の大学・研究機関・企業等が参画し取り組みが進められている中、NTTグループで言えば、NTT、NTTコミュニケーションズ、NTTデータ、NTTドコモ、情報通信総合研究所などの各社が、次の各課題等に参画している。
- ビッグデータ・AIを活用したサイバー空間基盤技術
- IoT社会に対応したサイバー・フィジカル・セキュリティ
- スマートバイオ産業・農業基盤技術
- 自動運転(システムとサービスの拡張)
- AIホスピタルによる高度診断・治療システム
いずれも日本における主要な社会課題の解決を図るためのプロジェクトであることは、言うまでもないが、生み出されたプロダクト・サービスが上市され、「Society 5.0」社会の実現にどう貢献していくのか着目したい。
あわせて、この第2期と次期SIPにおいて、産官学が一体となり、総合知による社会変革を加速し、第6期科学技術・イノベーション基本計画[3]において、我が国がめざすべき Society 5.0 の未来社会像とした「国民の安全と安心を確保する持続可能で強靱な社会」、「一人ひとりの多様な幸せ(well-being)が実現できる社会」の構築が実現することを期待したい。
[1] 「次期SIPの情報提供依頼(RFI)結果の整理と今後のRFI結果の活用について」(令和4年4月1日 内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局)https://www8.cao.go.jp/cstp/stmain/20220401sip_rfi.html
[2] 「次期SIPのプログラムディレクター(PD)候補(各課題候補の検討タスクフォースの座長)の募集について」(令和4年4月1日 内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局)https://www8.cao.go.jp/cstp/stmain/20220401sip_pd.html
[3] 「科学技術・イノベーション基本計画」(令和3年3月26日閣議決定)https://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/6honbun.pdf
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