2022年6月29日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

止まらぬ少子化 瀬戸際の日本



"At the risk of stating the obvious, unless something changes to cause the birthrate to exceed the death rate, Japan will eventually cease to exist. This would be a great loss for the world."[1]

(筆者訳:当たり前を承知で言うと、出生率が死亡率を超えるような変化がなければ日本はいずれ存在しなくなるだろう。これは世界にとって大きな損失だ。)

今年5月のイーロン・マスク氏のこのツイートは新聞やテレビなどで紹介され、世界で大きな反響を呼んだ。マスク氏の指摘を待つまでもなく日本の人口減少が進んでいることは周知のとおりであるが、その状況がさらに加速している。

具体的な数字を見てみよう。今年6月に発表された厚生労働省の人口動態統計(概数)[2]によると、2021年に生まれた子供の数(出生数)は81万1,604人(前年比2万9,231人減)と6年連続で過去最少を更新した。国立社会保障・人口問題研究所は出生数が80万人を下回るのは2030年と予測(中位推計)しているが、2022年の出生数が80万人を下回る可能性も高いだろう。1997年に出生数が120万人を下回ってから2016年に100万人を下回るまで19年かかったが、2022年の出生数が80万人を下回ることになれば同じ20万人減るのに6年しかかからなかったことになる。

女性1人が生涯に産む子供の数を示す合計特殊出生率も1.30と6年連続で低下した。これは前年より0.03ポイントの低下で過去4番目に低く、最低であった2005年の1.26に近づいている。コロナ禍が結婚や出産にマイナスの影響を及ぼしたとは言え、少子化が想定を超えて加速度的に進行していることは明らかである。

死亡数は143万9,809人(前年比6万7,054人増)で、出生数から死亡数を引いた人口の自然減は62万8,205人と過去最大の減少幅である。県の人口に例えれば、概ね鳥取県(人口約55万人)や島根県(人口約66万人)規模の人口がわずか1年で減少していることになる。近年、米中関係を中心とした政治・経済の動向やカーボンニュートラルなどの気候温暖化対策、そして新型コロナウイルス感染症などに社会の関心が集まりがちであるが、静かに、そして着実に進む人口減少や少子化への危機感を社会全体で改めて共有する必要があると考える。

少子化には様々な要因が指摘されているが、目下進む少子化の最大の原因は若い世代の未婚化・晩婚化であり、その背景には若い世代の将来への社会的・経済的不安がある。90年代のバブル崩壊や金融危機、長期にわたる経済成長の停滞などにより、若い世代は賃金の低下や正規・非正規の格差拡大、雇用の流動化などの厳しい雇用・経済環境を目の当たりにしたり、自ら経験したりしてきた。これにより、低賃金や失業を避けて安定した生活を維持するためには、結婚や子育てなどの家庭に関する将来設計よりも就職や仕事、キャリア形成を優先せざるを得ないという意識が形成されてきたのではないだろうか。

2015年の出生動向基本調査[3]によると、未婚で「一生結婚するつもりはない」と回答した人の割合は男性で12.0%、女性で8.0%であり、1987年のそれぞれ4.5%、4.6%から大きく増加している。また、未婚者に結婚への障害を聞いたところ、男女とも40%以上が「結婚資金」を挙げている。また、「結婚せずに仕事を続ける」「結婚しても子供を持たずに仕事を続ける」と回答した未婚女性の割合は両方合わせると25%であり、4人に1人が結婚する意思あるいは子供を持つ意思を持っていない。さらには、理想と考える数の子供を持たない理由として「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」と回答した妻の割合は30歳未満で76.5%、30~34歳で81.1%となっており、経済的な理由が未婚や少子化の大きな原因になっていることがわかる。

国は1989年のいわゆる「1.57ショック」を契機に1994年の「エンゼルプラン」の策定などをはじめとして、長年にわたり様々な少子化対策を積み重ねてきた。しかしながら、前述の数値が示すとおり少子化に歯止めがかかっていないばかりか、むしろ加速しているのが現実である。少子化の最大の原因が若い世代の将来への社会的・経済的不安となっている今、必要なのは育児環境を整えることなどに重きをおいた従来路線の政策を続けることではなく、経済的な理由から結婚・出産しようという意欲そのものが減退してしまっている若い世代を支援する政策への転換である。例えば、保育等の現物給付に重きをおいた政策から、若い世代を支援するための雇用対策、キャリア形成支援、社会保障も含めた経済支援などに重点をおいた政策パッケージに思い切って転換することなどが考えられる。この実現には財政健全化との両立など解決すべき課題は多いが、政治のリーダーシップで若い世代が未来に明るい展望を描けるような抜本的な政策転換が進められることを強く期待したい。

なお、少子化対策が進んでいると言われている北欧諸国やフランスなどで採られている政策の導入を求める声もあるが、これらの国々の社会のあり方や家族についての考え方、そして少子化の原因は日本とは大きく異なる。これらの国々の政策をそのまま導入することは賢明でないことは付言しておきたい。

さて、その一方で国の抜本的な政策転換を待つだけでなく、今すぐできることを実行し、進む少子化に少しでも歯止めをかけることも欠かせない。例えば、出生率が上昇しない一因として、家事・育児負担が女性に偏っていることが指摘されており、男性の家事や育児への参画をさらに進めることもその一つだ。

内閣府の調査[4]によると日本の女性は男性の5.5倍の時間を家事・育児などの無償労働に費やしているという。欧米ではこの倍率は高い国でも約2倍であることを考えると、国際的に突出した水準であることを改めて共通認識化したい。

また、厚生労働省の調査[5]によると育児休業取得者の割合[6]は女性の81.6%に対し、男性は12.65%と大きな乖離がある。育児休業の取得期間についても女性の約90%が6カ月以上となっているのに対し、男性の約80%が1カ月未満であり、5日に満たない人の割合も約36%となっている[7]

一方で、男性が育児休業の取得を必ずしも望んでいないわけではない。男性の3割超は育児休業を取得したいのに取得できていないという調査結果[8]もあり、希望と現実の間にギャップが生じている実態も浮かび上がっている。同調査によると、希望したにもかかわらず取得しなかった理由として「業務の繁忙に伴う人手不足」や「育児休業を取得しづらい雰囲気」、さらには「自分にしかできない業務であった」など職場に起因するものが上位に挙げられている。

このように、なかなか進まない男性の育児休業取得を促進するために育児・介護休業法が改正され、今年の4月1日から施行されている。今回の改正の主なポイントは以下のとおりである。

  1. 育児休業を取得しやすい雇用環境整備及び妊娠・出産の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置の義務化(2022年4月施行)
  2. 有期雇用労働者の育児・介護休業の取得要件の緩和
    (「引き続き雇用された期間が1年以上」という要件の廃止。2022年4月施行)
  3. 男性の育児休業取得促進のための子の出生直後の時期における柔軟な育児休業の枠組み
    (「産後パパ育休」)の創設(2022年10月施行)
  4. 育児休業の分割取得(2022年10月施行)
  5. 育児休業取得状況の公表の義務化
    (常時雇用する労働者数が1,000人超の事業主が対象。2023年4月施行)

企業などが講じるべき具体的な措置については既に広く周知されており本稿では説明を省略するが、今回の育児・介護休業法改正の最大の特徴は男性の育児休業の取得を念頭に男性への積極的改善措置(ポジティブアクション)[9]として「子の出生直後の時期における柔軟な育児休業の枠組み(「産後パパ育休」)」が創設されたことである。これは、子が1歳に達するまでの育児休業とは別に子の出生後8週間以内に4週間まで取得可能なもので、分割して2回まで取得可能である。また、労使協定の締結を前提に、労働者が合意した範囲で休業中に就業することも可能となり、在宅勤務などと併用することにより育児と仕事が両立しやすくなることが期待されている。

少子化が危機的状況にあることに鑑みれば、このようなポジティブアクションにより男性の育児休業取得を国が主導して推進していくことの意義は大きいと考える。改正法の施行をきっかけに社会全体で男性の育児休業取得の機運が高まり、男性による育児休業の取得が大きく進むことや、依然として残る「子育ては女性が担うもの」といった旧来の性別役割分担意識が払拭されていくことを期待したい。

長年の少子化の影響により構造的に既に出産期の女性人口が減少していることを勘案すると、出生数が一朝一夕に改善することは残念ながら見込めないだろう。一方で高齢化により死亡数は増加することが想定されることから、当面は少子化対策と並行して人口減少を前提とした社会や街づくりを進めることも重要である。そのキーワードとなるのが「デジタル」と「データ」だ。行政、医療、教育、防災、ビジネスなど社会のあらゆる分野でデジタル化を進めるとともに、適切な保護・管理のもとでデータの利活用力を高めることが人口減少社会において経済・社会の活力や国際競争力を維持するための肝となる。特に、人口減少が都市部よりも進む地方にとってデジタル化は重要なテーマであり、国と地方の連携により岸田政権の看板政策の一つである「デジタル田園都市国家構想」が着実に進められていくことも期待したい。

今年6月7日に閣議決定されたデジタル田園都市国家構想に関する基本方針[10]では、デジタルは人口減少や少子高齢化などの地方が抱える社会課題を解決する鍵であり、新しい付加価値を生み出す源泉である旨を謳ったうえで、結婚、出産、子育てのライフステージに応じた総合的な少子化対策に大胆に取り組むこととされている。具体的な取り組みとしては、結婚を支援するためのAIを活用したマッチングシステムの運営の他、両親学級のオンライン実施、母子健康手帳アプリの拡大など対面でのコミュニケーションでは手が届きにくい取り組みへのサポートや、アプリによる子供の見守り支援など高齢化等により低下している地域の機能をデジタル技術の活用により下支えしていくことなどが挙げられている。また、デジタル技術を活用して地域の少子化に関する課題解決を促進するため、地域の少子化対策に関するデジタル技術の導入に向けたプロセスのモデル化にも取り組むこととされている。

少子化や高齢化が進み、抱える課題が大きい地域ほどデジタル化によって得られる恩恵も大きい。これらの取り組みにより少子化対策の実効があがることを期待している。その前提として何よりも重要なのは、それぞれの地域が目指す姿やビジョンを明確に持っていることである。そのうえで、その実現のためにデジタルの力をいかに活用・実装するかを地域全体で考え、地域の実情に合った取り組みを進めていくことが大切だ。その具現化には地域住民の意識変革やリテラシーの向上なども必要であり、地域の真の実力が問われることになるであろう。

日本の少子化は非常事態とも言うべき瀬戸際の局面を迎えていることに危機感を新たにし、令和の時代に相応しいデジタル技術もフルに活用した戦略的な少子化対策が官民挙げて進められていくことを期待したい。

[1] Elon Musk(@elonmusk)May 7, 2022, https://twitter.com/elonmusk/status/1523045544536723456

[2] 厚生労働省「令和3年(2021)人口動態統計月報年計(概数) 結果の概要」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai21/dl/kekka.pdf

[3] 国立社会保障・人口問題研究所「2015年社会保障・人口問題基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」 https://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou15/NFS15_reportALL.pdf

[4] 内閣府「男女共同参画白書 令和2年版」 https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r02/zentai/html/zuhyo/zuhyo01-c01-01.html

[5] 厚生労働省「令和2年度雇用均等基本調査」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-r02/07.pdf

[6] 平成30年10月1日から令和元年9月30日までの1年間に在職中に出産した女性(男性の場合は配偶者が出産した男性)のうち、令和2年10月1日までに育児休業を開始した者(育児休業の申出をしている者を含む。)の割合

[7] 厚生労働省「平成30年度雇用均等基本調査」の結果概要 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-30r/07.pdf

[8] 厚生労働省「仕事と育児の両立支援に係る総合的研究会報告書 参考資料集」 https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11901000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Soumuka/0000200974.pdf

[9] 厚生労働省「令和3年1月18日 労働政策審議会建議」 https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/000728125.pdf

[10] 「デジタル田園都市国家構想基本方針」令和4年6月7日閣議決定https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digital_denen/pdf/20220607_honbun.pdf

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