世界の街角から:オースティンと、変わる旅の形
2022年9月、データセンターに関するカンファレンス(Datacloud USA 2022)に参加するため、米テキサス州オースティンを訪れた。オースティンはテキサス州の州都であり、音楽の街としても知られている。毎年3月にはIT、映画、音楽などさまざまなものが融合したカンファレンス「SXSW(サウスバイサウスウェスト)」が行われることでも有名である。一見のどかで、自然豊かな土地だが、Teslaが本社(Tesla Headquarters - Gigafactory Texas)を置くなど、IT企業の進出が進んでいる活気ある街でもある。
そこで、今回はオースティンの瞥見記をお届けしたい。
オースティン・バーグストロム国際空港
オースティンは、テキサス州の中央部に位置している(図1)。日本からの直行便はなく、筆者はサンフランシスコから3時間30分強のフライトで現地入りした。到着したバーグストロム国際空港では、さすが「世界のライブ音楽の首都」と言われるだけあって、荷物を受け取るターンテーブルのところで、いきなり派手なデザインの大きなギターに迎えられる(写真1)。これらのギターは、オースティンのアーティストや有名人たちによって装飾されたものだそうである。
空港から街へ移動する。ライドシェアを利用するためには、巡回バスで空港ビルから離れた乗り場に移動しなくてはならない。空港ビル前の渋滞を避けるためのようだ。ロサンゼルスの空港でも同じ仕組みを経験したことがある。少し時間がかかるので、到着後時間に余裕がないと活用は難しいが、合理的な仕組みではある。
米国出張時のこのような移動には、筆者は基本的にライドシェアを利用している。タクシーと比べれば割安であるし、降車時に支払いが発生しないのも気楽である。ただし、時間の余裕が必要なのと、運転手によって運転のスタイルが大きく異なるので、後部座席でもシートベルトは確実に締める方が良さそうだ。
広がる自然の中の「通勤」
今回、カンファレンス会場と宿泊地の関係で、日々20~30分程度ライドシェアで「通勤」することになった。これだけ時間があると、周囲の風景を見る余裕も生まれてくる。「通勤経路」だったオースティンの西部は、観光サイトで「エレガントなリゾート」と謳われている。公園や自然保護区などもある地域で、ビュンビュン飛ばすライドシェアからでも、コロラド川などの景色を楽しむことができた。幸い、期間中ずっと天気は良かったので、いつも清々しい青空と色濃い緑を見ながらの快適な通勤となった(写真2)。
話好きな運転手に当たると、雑談をしながらのドライブとなる。何の話からか、オースティンのIT企業の話になった。税制優遇があるため企業の進出が増えているのだと自慢げに語っていた。
ITの街
テキサス州には多くのIT企業が進出しており、特にオースティンには、Teslaのほかにも、Amazon、Microsoft、Google、Apple、Metaなどの拠点が置かれている。2023年4月に発表されたWall Street Journalのランキングによれば、オースティンは2022年の「Hottest job markets」2位となっている(1位はテネシー州ナッシュビル)[1]。また、同紙によれば、COVID-19の感染拡大でリモート勤務が増えた2020年には、ニューヨークやサンフランシスコなどの都市から多くの移住者を集めたと報じられた[2]。やはり、シリコンバレーや東海岸の大都市と比べて安い物価と税金が企業と人を引き付けているようである。データセンター系のカンファレンスも複数開かれている。2023年5月には「Data Center World 2023」がオースティンで実施されたほか、9月にも、「Datacloud USA 2023」が同市で開催される予定である。
オースティンの街とWholefoods Market
最終日に、少しだけオースティンの街を散策することができた。
オースティンの街の一角に「O. Henry Museum」がある。『最後の一葉』『賢者の贈り物』などの短編小説家として知られるO. Henryが1893年から1895年まで居住していた建物で、元々あった場所から移転、修復されて博物館となっている。訪問時には閉まっており内部の見学は叶わなかったが、外から雰囲気を窺うことができた(写真3、4)。
「O. Henry Museum」から街を歩く。平日の午後で、人通りも少なく、のどかな雰囲気である(写真5、6)。立ち寄ったお土産屋さんでも、音楽に関する面白グッズが多くあった。ただ、街を歩いていると、銃の持ち込みに関する注意書きをあちこちで見かけるのが、やはりテキサス州である。
オースティンの観光名所といえばテキサス州会議事堂である。1888年に完成したこの建物(写真7、 8)は、「『テキサスでは何でも大きい』というモチーフにふさわしく、(中略)すべての州会議事堂の中で最大の規模を誇る」とされている。ワシントンD.C.の米国連邦議会議事堂をモデルにしているが、米国連邦議会議事堂より高い建物だそうだ。なお、敷地と建物には誰でも無料で入ることができる。
それから、もう一つの「名所」のことを忘れる訳にはいかない。米国には多くのWhole Foods Marketがある。2017年に134億ドルでAmazonに買収されたことでも注目を集めたWhole Foods Marketは、オースティンが発祥の地なのである。Whole Foods Marketは、1980年に19名の社員で営業を始めた。その1号店が、街の中心部から歩ける場所にある。筆者は国内外どこに行っても地元のスーパーマーケットを訪れるのを楽しみにしており、これまでにもあちこちの街のWhole Foods Marketで買い物をしているので、これはぜひ、と思っていた。
中に入れば他の都市のそれと変わらないスーパーマーケットであり、実のところ1号店だから何ということもないのだが、何しろ規模が大きく品数が多いし、地元の他のスーパーマーケットとは品揃えも違う。食品雑貨のほか、ロゴの入ったショッピングバッグや保冷バッグもあり、こちらも帰ってから活用できそうだ。とにかく見ていて飽きない。
お土産のほか、今回の出張では日々の食事も市内のWhole Foods Marketのお世話になった。1人の出張では、レストランに入るより近所でお惣菜を買ってホテルで食べる方が気楽(かつ安価)である。Whole Foods Marketでは量り売りで調理済みのお惣菜が売られている。惣菜屋としては若干割高とも思えるが、好きなものを少しずつ、いろいろと食べることができる。味はなかなか良い(と思う)。ただ、持ち帰る間に冷めてしまうことと、取ったものを箱に入れる仕組みなので、どうしても綺麗に盛れず、写り映えがしないのが難点ではある(写真9)。
COVID-19対策と、変わる旅の形
COVID-19について少しだけ述べておきたい。日本では、「欧米では誰もマスクをしていない」との発言をよく耳にする。米国滞在中を振り返ると、マスクを着けている人がかなり少なかったのは確かである。ただし、オースティンにおいても、往復の米国内での航空機移動においても、誰も着けていないは言い過ぎで、着けている人も見られた。当時のテキサス州会議事堂では、写真のようにマスクが「強く推奨」され、その他の感染対策も求められていた(写真10)。これは宿泊したホテルでも同様であった。現状がどうなっているかはわからないが、ともかく、全員が同じ行動をしている訳ではなく、まさに「個人の判断」であり、そもそも、他人がどうするかなど気にしていないとの印象であった。最近の日本での感染拡大を見ても、今後、COVID-19の影響がどうなるかは予断を許さないが、感染症の存在を前提とした旅においては、自分と周囲の人々を守るための適切な判断が求められると思われる。
オースティン訪問は初めてだったが、緑豊かでのんびりした雰囲気で、なるほどこのような場所で働きたくなる人も多いだろう、と思わせる街だった。今回は短期間で、文化にはあまり触れることができなかったが、今度は音楽などの芸術や食文化も体験できればと思う。
※記載の情報は訪問当時の筆者の体験によるものです。ご旅行される場合は、最新の情報をご確認ください。
[1] Sunbelt Cities Nashville and Austin Are Nation’s Hottest Job Markets
https://www.wsj.com/articles/sunbelt-cities-nashville-and-austin-are-nations-hottest-job-markets-5a454a53
See How Your Region Stacks Up Against the Best Labor Markets in the U.S.
https://www.wsj.com/articles/see-how-your-region-stacks-up-against-the-best-labor-markets-in-the-u-s-baa065d0
[2] Covid-19, Remote Work Make Austin a Magnet for New Jobs
https://www.wsj.com/articles/covid-19-remote-work-make-austin-a-magnet-for-new-jobs-11607423401
InfoComニューズレターでの掲載はここまでとなります。
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スマート農業の効果・メリット
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おわりに
※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。
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左高 大平 (Taihei Sadaka)の記事
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