2023.10.30 法制度 InfoCom T&S World Trend Report

サイバネティック・アバターとパブリシティ権 〜場合分けによる分析〜 「サイバネティック・アバターの法律問題」 連載7回

Image by kiquebg from Pixabay

1.はじめに

サイバネティック・アバター(CA)が無断撮影をされるといった場面や、CAとして第三者の写真等を利用する場合については、第5回でプライバシー、第6回で肖像権1をそれぞれ検討してきたが、これらに加えて、又は関連して、パブリシティ権が問題となることもある。

そこで、以下、パブリシティ権の一般論を概観した上で(2)、パブリシティ権が肖像権と類似することから、CAの文脈におけるパブリシティ権と肖像権の相違(3)を述べた上で、パブリシティと肖像(4)、氏名(5)及びアバターそのもの(6)との関係をそれぞれ検討する。

2.パブリシティ権の一般論の概観

パブリシティ権に関するリーディングケースであるピンクレディ事件判決2は「肖像等は、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下「パブリシティ権」という)は、肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから、上記の人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる」として、パブリシティ権を認めた。

その上で、肖像等に顧客吸引力を有する者は、社会の耳目を集めるなどして、その肖像等を時事報道、論説、創作物等に使用されることもあるのであって、その使用を正当な表現行為等として受忍すべき場合もあるとして、「肖像等を無断で使用する行為は、〈1〉肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等3として使用し、〈2〉商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、〈3〉肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に、パブリシティ権を侵害するものとして、不法行為法上違法となると解するのが相当である」と判示している。

なお、CAにおいては、架空のキャラクターをアバターとする場合があるところ、ピンクレディ事件以前に、ギャロップレーサー事件4は競争馬の名称が無断利用された事案で、既に物のパブリシティ権を否定していた5。そこで、いわゆる架空のキャラクターや所有物等について、キャラクターの著作権者や競走馬等の所有者が当然にパブリシティ権を持つものではないことには留意が必要である。

3.CAの文脈におけるパブリシティ権と肖像権の相違

(1)パブリシティ権の方が範囲が広いこと

パブリシティ権においては、肖像に限らず、氏名等も含めて保護される。その意味で、パブリシティ権は肖像権と比べて保護の範囲が広い。

ピンクレディ事件判決は前記の通り、パブリシティ権の対象を「肖像」としているところ、同判決は、肖像等を「人の氏名、肖像等」と定義している。そして、同判決の調査官解説も、本人と似ている動物の図柄が需要者にとって本人を識別するものとして著名であればこれも肖像等に含まれるとする6

そして、CAには「中の人」が存在することが多いところ、「仮想空間におけるアバターの肖像等も、その背後の自然人を識別する情報と解し得る場合には、パブリシティ権による保護の対象となり得るように思われる。」7と指摘されている。つまりAという有名人と似ているA’という動物の図柄がA本人を識別するものとして著名であるとしてパブリシティ権の対象となる場合と同様にCAの「中の人」であるBと似ているB’というCAもまたB本人を識別するものとして著名であるとしてパブリシティ権の対象となる可能性があるということである。

(2)パブリシティ権の方が侵害態様が限定されること

もっとも、パブリシティ権は、その侵害態様が、顧客吸引力を違法に利用するというものに限定される8。単にその肖像が写り込んでいるだけに留まる9とか、ファンが趣味で有名人の肖像をCAとして利用する行為等であれば、パブリシティ権侵害に該当しないだろう10

一方、肖像権についてはそのような態様に限定されず、より広い範囲において侵害が認められる。

CAの局面においても、そのアバター等を使って商品の広告・宣伝を行うなど、専ら当該肖像の顧客誘引力を利用することを目的として、当該肖像の利用が行われる場合には、パブリシティ権の侵害に該当すると判断される可能性が高くなるだろう11

4.CAの肖像に係るパブリシティ権

権利者の許諾があれば第三者も適法に肖像等を利用することができる。以下では、権利者の許諾がないことを前提に検討する。

(1)芸能人等の肖像をCAに利用する場合

ア 肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合

芸能人等の肖像について高精度なアバター化をして、それ自体を商品とすることが可能である。例えば、Gateboxといわれる商品は、円筒形の装置内部に身長約15センチの3Dキャラクターを投影し、コミュニケーションを楽しむことができるものである。そのような「展示用ショーケース」においてアバター化された芸能人等の肖像が観賞されるのであれば、これは肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合に該当すると理解される。

また、CAには物理空間のロボットも含まれるところ、いわゆる芸能人を模したヒューマノイド・ロボット等を物理空間におけるCAとして利用する場合も、そのようなCA自体が、肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合となる可能性はあるだろう。

イ 商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付す場合

ユーザーが、自らのCAとしてアバター化された芸能人等の肖像を利用することができるよう、企業等がアバター化された芸能人等の肖像を提供するということがある。この意味は、多くの企業が提供する様々なアバターのうち、ユーザーに自分の企業のものを選んでもらうために当該芸能人等の肖像を付するということである。そうであれば、商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付す場合に該当するように思われる12

ウ 肖像等を商品等の広告として使用する場合

例えば、メタバースにおいて、アバターを利用して何らかの商品やサービスの宣伝・販売をする場合において、そのような販売員や広告を行う主体たるCAが芸能人等の肖像を利用していれば、それが肖像等を商品等の広告として使用する場合に該当する可能性がある。

なお、メタバースにおけるインフルエンサーその他のユーザーが商品を宣伝する際において、そのような宣伝者がたまたま芸能人の肖像をアバターとしていた、というだけでは、直ちに、当該商品の販売者が肖像等を商品等の広告として使用するとまでは言い切れないだろう。この点は、必ずしもパブリシティ権の判断と一致しないものの、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが 困難である表示」という告示13が「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が 当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」とした上で、同告示の運用基準14が景表法の文脈において、どのようなインフルエンサー等の行為が事業者の表示とみなされるのかを議論しており、ここにおける議論が一定程度参考になると思われる15

エ パブリシティ権は侵害しないと思われる場合

上記3(2)のとおり、パロディアカウントやファンアカウント等で、商品やサービスの販売等顧客吸引力と無関係に芸能人等の肖像を利用するだけであれば、パブリシティ権は侵害しないと思われる。但し、その場合には、なりすまし(連載第8回掲載予定)等の問題は別途生じ得ると思われる。

(2)CAの肖像が顧客吸引力を有する場合

CAの肖像の中には、VTuberの肖像のように、それ自体顧客吸引力を有するものがある。ここで、その顧客吸引力のある肖像が、「中の人」の顔写真そのものであれば、この点において、「肖像」として扱われるべきことに争いはないだろう。

問題は、典型的なVTuberのように、一応ヒトの形はしているものの、その外観は、いわばアニメキャラクターのような、イラスト調であって、かつ、その肖像が中の人本人をモデルにしたものではない16という場合である。このような場合に関する一つの考え方は、まさにVTuberはそのようなアバターを纏って活動している芸能人であるというものである(ここでは、アバターは覆面レスラー等の覆面と同様の役割を果たす)。このように考えれば、芸能人がその肖像について顧客吸引力を持つのと全く同一の意味で、そのアバターについて顧客吸引力を持つことになる。そこで、アバターは、そのような芸能活動を行う「中の人」の芸能活動上の「肖像」だと解することができる可能性がある17

もう一つの解釈は、それは「肖像」ではないものの、その芸能人(VTuber)と密接関連する図柄として、顧客吸引力を持つという解釈である。

筆者としては、少なくとも(イラスト調であっても)人間のアバターの場合は、前者の解釈に親和性を持っているため、以下ではそれを前提として検討する。しかし、後者の解釈を採用する場合であっても結果として妥当な結論を導くことができるものであり、必ずしも、前者の解釈しか妥当な結論を導くことができないものではない。また、仮に前者の解釈をした場合でも、およそ「肖像」と言い難い、例えば動物のアバターについては、やはり、その芸能人(VTuber)と密接関連する図柄として、顧客吸引力を持つという解釈を取らざるを得ない。よって、まずは以下でCAの顔や姿態が「肖像等」として保護される場合について論じる。その上で、下記6において、上記の議論の結果として、やはり問題となる(顧客吸引力が利用されているところの)図柄等が「肖像」とは言い難い場合について別途検討することとする。

ア 肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合

VTuberのアクリルキーホルダー、アクリルスタンド等CAの肖像それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用することが考えられる。なお、オンライン上でもオンライン写真集のような形で提供されることがあるだろう。その場合には、当該CA(の中の人)の有するパブリシティ権を侵害し得る18

イ 商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付す場合

VTuberとのコラボ商品等として、商品にVTuberの肖像を付す等、CAの肖像を商品等に付してその差別化を図ることが考えられる。この場合にも当該CA(の中の人)の有するパブリシティ権を侵害し得る。

ウ 肖像等を商品等の広告として使用する場合

VTuberコラボ商品等として、VTuber等のCAを商品等の広告に利用することは最近ではよく見られる。この場合にも当該CA(の中の人)の有するパブリシティ権を侵害し得る。

また、他人のCAの肖像を自らのCAに利用した上で、自らがそのCAを利用して商品を販売・広告するということであれば、当該CA(の中の人)の有するパブリシティ権を侵害し得る。

エ パブリシティ権は侵害しないと思われる場合

CAの肖像を利用していても、その顧客吸引力を利用していない場合、例えば、単にそのCAが特定の活動をしていたことを伝えるだけのために肖像を撮影してSNSで投稿するだとか、友人やファンとしてCAと交流をしたことを記念に残すため交流の姿を撮影する等は、仮にそのCAの肖像がそれ自体顧客吸引力を有するに至っていてもパブリシティ権を侵害しないものと思われる。但し、その態様によってはプライバシー侵害(第5回)や肖像権侵害(第6回)の可能性がある。

なお、単に他人のCAの肖像を自らのCAに利用するというだけで、そのCAを利用して商品・サービス等の宣伝販売等を行わない、ということであれば、確かにパブリシティ権侵害にならない可能性が高いだろう。しかし、そのような肖像の利用がなりすまし(第8回掲載予定)等の問題を生じさせる可能性はあることには留意が必要である。

5.CAの氏名に係るパブリシティ権

(1)芸能人等の氏名をCAに利用する場合

ア 肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合

氏名だけをCAに利用する場合に、この類型に該当することはあまり考えられないように思われる。

イ 商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付す場合

アバターに芸能人等の氏名を付すことで、当該アバターに付加価値を与えて差別化を図るということは一応考えられる。例えば、「芸能人XX御用達アバター」等である。ただ、肖像と異なり、単に氏名が付されただけでどこまでその目的が達成できるかという観点から、あまり実務上は大きな問題とならないかもしれない。あるとすれば、上記4(1)イの商品等の差別化を図る目的で肖像を商品等に付した場合において、同時に氏名をも付すといった態様ではないか。

ウ 肖像等を商品等の広告として使用する場合

アバターを売り込む際の広告において芸能人等の氏名を付すこともあり得る。ただし、これも上記イ と同様に、単に氏名が付されただけでどこまでその目的が達成できるかという観点から、あまり実務上は大きな問題とならないかもしれない。あるとすれば、上記4(1)ウの肖像を商品等の広告として使用した場合に同時に氏名を付すといった態様ではないか。

エ パブリシティ権は侵害しないと思われる場合

単にメタバース上のアカウント名を有名人、芸能人と同じものとするだけでは、直ちにパブリシティ権を侵害することにはならないと考えられる。但し、そのような行為が(アバターがどのようなものか等も踏まえた総合的判断であるとは思われるものの)なりすまし(第8回掲載予定)の問題を生じさせる可能性はある。

(2)CAの氏名(VTuberの芸名、ユーザーネーム等)が顧客吸引力を有する場合

VTuberの芸名、ユーザーネーム等が顧客吸引力を有することがある。このような場合においては、芸能人の芸名についてそれが本名ではないというだけでパブリシティ権が否定されるものではないのと同様、CAの氏名が本名ではないというだけでパブリシティ権が否定されるものではない。

ア 肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合

有名なVTuberの氏名であっても、この類型に該当することはあまり考えられないように思われる19

イ 商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付す場合

様々なグッズに肖像と共に、又は氏名単独でVTuberその他のCAの氏名が付されることがあり、それが商品等の差別化を図る目的の場合であることも多い。このような場合には、パブリシティ権を侵害し得る。

ウ 肖像等を商品等の広告として使用する場合

VTuberの氏名を肖像と共に、又は氏名単独で広告に付すことはあり得るところ、このような場合にも、パブリシティ権を侵害し得る。

エ パブリシティ権は侵害しないと思われる場合

上記(1)エの芸能人の場合と同様、単にメタバース上のアカウント名を有名なVTuberや有名なCAと同じものとするだけでは、パブリシティ権を侵害することにはならないと考えられる。但し、そのような行為がなりすまし(第8回)の問題を生じさせる可能性はある。

6.肖像といえない場合

(1)はじめに

上記のとおり肖像や氏名が利用される場合がパブリシティ権侵害の典型的な場合である。しかし、パブリシティ権の特徴はその幅の広さ(上記3(1)参照)である。すなわち、プライバシー(第5回)、肖像権(第6回)、氏名権(第8回)等で別途保護の途もあるような肖像・氏名が保護されるだけではなく、それ以外の、肖像といえない場合であっても保護され得るところに特徴がある。

上述のとおり、調査官解説は本人と似ている動物の図柄が需要者にとって本人を識別するものとして著名であればこれも肖像等に含まれるとするところ、このような需要者にとって本人を識別するものとして著名な、通常肖像とはいえない図柄20について、それをその本人の氏名を利用せずに利用する場合についても、なおパブリシティ権侵害の成立を認めており、例えば動物のアバター等、なかなか「肖像」といえない場合には、このような議論が問題となるであろう。

(2)第三者の顧客吸引力を有する(肖像以外の)画像等を氏名を用いずにCAに利用する場合

ここでは、先程の調査官解説でいう、本人と似ている動物の図柄が需要者にとって本人を識別するものとして著名である場合の当該図柄をCAに利用する場合が考えられる。

ア 肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合

この場合も4(1)アのとおり、そのような図柄が独立した観賞に堪えるようなものであれば、その3D化されたアバターそのものがそのような商品となることはあり得るだろう。

イ 商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付す場合

この場合も、4(1)イと同様に、アバターとして当該図柄をメタバース上で操作できるようにしたものを売り出すというような事態は、この商品等(アバター)の差別化のために当該図柄を利用するパブリシティ権侵害の一類型である。

ウ 肖像等を商品等の広告として使用する場合

メタバースにおいて商品・サービス等を販売する際そのような図柄を利用したアバターを纏った販売員等が販売を実施するという形で、当該図柄を利用することはあり得る。それも4(1)ウと同様にパブリシティ権侵害となるだろう。

エ パブリシティ権は侵害しないと思われる場合

これに対し、確かに利用方法によっては顧客吸引力を利用するような使い方ができる図柄であっても、その具体的な状況において、顧客吸引力を利用していない利用方法であれば、パブリシティ権侵害にはならない。

例えば、ファンがその芸能人のシンボルとして顧客吸引力のある図柄を自らのアバターとしてメタバース上で利用しても、必ずしもそれだけではパブリシティ権侵害にはならないだろう。

(3)CAのアバター等が肖像といえないものの顧客吸引力を有する場合にそれを氏名を用いずに利用する場合

これは、4(2)でも述べたとおり、①VTuber等アバターの「肖像」の解釈として、人間らしい肖像であればそれが中の人の実際の顔を反映していなくても肖像として4(2)の議論の対象とするという解釈を採用した場合における、動物やロボットのアバター等、およそ肖像といえないものについて、そのVTuberとの密接関連性から、なお需要者において顧客吸引力を持つことから問題となる場合と、②VTuberのアバターは中の人の写真の場合か、イラストであっても中の人の容貌を一定程度反映したものでなければ、それを肖像とはいえないと解した上で、多くのVTuberのアバターを含むアバターが、VTuberとの密接関連性から、なお需要者において顧客吸引力を持つことから問題となる場合の2つのパターンがあるだろう。

ア 肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合

例えば、そのようなアバターの内容次第で、独立鑑賞の価値があり、それが4(2)アのとおり、アクリルキーホルダーやアクリルスタンド等の形で鑑賞のための商品等として利用されることがある。なお、オンライン上でもオンライン写真集のような形で提供されることがあるだろう。その場合には、当該CA(の中の人)の有するパブリシティ権を侵害することになる。

イ 商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付す場合

例えば、コラボ商品としてそのようなVTuberの(肖像とはいえない)アバターを商品に付することで差別化を図る場合が考えられ、その場合にはパブリシティ権を侵害することになる。

ウ 肖像等を商品等の広告として使用する場合

VTuber等のアバターのうち、肖像とはいえないものを商品等の広告に利用する場合にも当該CA(の中の人)の有するパブリシティ権を侵害することになる。

また、他人のCAのアバターのうち肖像といえないものを自らのCAに利用するということも、自らがそのCAを利用して商品を販売・広告するということであれば、この類型として当該CA(の中の人)の有するパブリシティ権を侵害することになるだろう。

エ パブリシティ権は侵害しないと思われる場合

そもそも、肖像といえないものであれば(特に、VTuberのアバターが肖像だという立場を4(2)で取った場合)、アバターの中でもそれが肖像でないとなれば、そもそも顧客吸引力がないとされる場合はあるだろう。

また、VTuberのうち、そのアバターが肖像ではないとされるものやその他肖像ではないとされるアバターをファン等がその交流の姿を撮影し、共有したり、そのアバターを自分のCAに用いたりする行為は、そのアバターそのものが仮に顧客吸引力があるとしても、その顧客吸引力を利用していなければ少なくともパブリシティ権は侵害しない21

7.CAに関するパブリシティ法をめぐる議論を深化させるために

パブリシティ権に関する対象範囲の広さには、その顧客吸引力が商業的に利用される場合に広い範囲でCAが保護されるという意味がある。特に、プライバシーや肖像権では保護され得ないような肖像とはいえないものについても、保護されることから、現行法の比較的保守的な解釈でCA、とりわけ本人の肖像と似ても似つかないようなCAを人格権で保護しようとすると、パブリシティ権が最も「使いでがある」権利なのかもしれない。

とはいえ、CAの場面でどこまでを「肖像」というか、また、肖像ではないがパブリシティ権で保護されるべき「図柄」の範囲はどうかという問題は、これまでは単に調査官解説で示唆される程度であったものが、まさにCAでは正面からの問題となる以上、この機会に現行法の解釈の精緻化を図るべきであろう。

また、これはCAに限らないが、パブリシティ権の譲渡可能性等をどう考えるべきか。東京地判令和4年12月8日は一応これを肯定したものの、譲渡を肯定すべきか、また、仮に肯定すべき場合があるとしても、CAの具体的場面でどこまで肯定すべきかについて、議論の射程が問題となるだろう22


本研究は、JSTムーンショット型研究開発事業、JPMJMS2215の支援を受けたものである。本稿を作成する過程では慶應義塾大学新保史生教授及び情報通信総合研究所栗原佑介主任研究員に貴重な助言を頂戴し、また、早稲田大学博士課程杜雪雯様及び同修士課程宋一涵様に脚注整理等をして頂いた。加えてWorld Trend Report編集部の丁寧なご校閲を頂いた。ここに感謝の意を表する。

  1. なお、第6回脱稿後に中島基至「知的財産権訴訟における肖像権判例の最前線」別冊L&T9号(2023)76頁以下に触れた。
  2. 最判平成24年2月2日民集66巻2号89頁。
  3. なお、同判決の判決文中において「商品等」は定義されていない。ただ、中島基至「判解」(最判平成24年2月2日民集66巻2号89頁)法曹会『最高裁判所判例解説民事篇平成24年度(上)』(2015)40頁は「『商品等』とは、商品又はサービスとして『商品化』されたものをいい、肖像等の使用が私的なものにとどまれば違法性を欠くというべきであるから、業としての行為(商業的利用行為)に限られると解される」とする。
  4. 最判平成16年2月13日民集58巻2号311頁。
  5. そこで、純粋なキャラクターに対するパブリシティ権は、立法論の問題である。原田伸一朗「キャラクターの法的地位:『キャラクターのパブリシティ権』試論」情報ネットワーク・ローレビュー17号(2019)1頁参照。創作されたキャラクターの肖像について、これを商業的に利用する権利に関しては、一般に、パブリシティ権でなく、知的財産法による保護の対象となっているとするメタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題への対応に関する官民連携会議「メタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題等に関する論点の整理」(以下「論点整理」という)38頁も参照。
  6. 中島・前掲注3)41頁。
  7. 斉藤邦史「仮想空間におけるアバターのアイデンティティ」法セ2023年2月号 29頁。
  8. 佃克彦『プライバシー権・肖像権の法律実務〈第3版〉』(弘文堂、2020)447頁。
  9. 論点整理・30頁。
  10. 上野達弘「メタバースをめぐる知的財産法上の課題」Nextcom冬号(2022)12頁参照。
  11. 論点整理・33-34頁参照。
  12. なお、この場合を肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合に分類することもできると思われるが、ユーザーがその「中」に入って操作をするためのアバターとして提供する際のユーザーによる利用は「鑑賞」の域を超える場合も多いと思われるので、実用品としての操作可能なアバターについて、その差別化のため芸能人等の肖像が付されているという本類型と理解することが適切であるように思われる。
  13. 内閣府「令和5年内閣府告示第19号」(2023年3月28日)〈https://www.caa.go.jp/policies/policy/ representation/fair_labeling/public_notice/assets/representation_cms216_230328_07.pdf〉
  14. 消費者庁「『一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示』の運用基準」(2023年3月28日)〈https://www.caa.go.jp/ policies/policy/representation/fair_labeling/guideline/assets/representation_cms216_230328_03.pdf〉
  15. この点については松尾剛行『実践編 広告法律相談125問』(日本加除出版、2023年)参照。
  16. 実務上、肖像(アバター)が決まった後に、中の人を募集することもあり、その選択の際に肖像に中の人の顔が似ているという部分は通常重視されない。
  17. この点は、第3回の名誉毀損で議論した、大阪地判令和4年8月31日判例タイムズ1501号202頁がアバターの表象をいわば衣装のようにまとって、動画配信などの活動を行っているといえるとしてVTuberが名誉感情侵害から保護されるとした事案が参考になるだろう。
  18. なお、パブリシティ権は人格権に由来する権利とされているので、いわゆる「中の人」が複数の場合においてどの人の人格に由来するのかという問題はあるものの、この点は第3回で論じた同定可能性とも通じるところがあり、ここでは詳論しない。
  19. あり得るとすれば、氏名を記載したグッズ等であるが、そのグッズに大きく氏名が書かれている場合であっても、それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合なのか、そうではなく、当該氏名があることで、商品等の差別化が図られる場合なのかというと後者の場合が多いようにも思われる。
  20. なお、肖像の範囲の拡張可能性については第6回を参照のこと。
  21. なお、単に4(2)の芸能人と密接に関係する図柄をアバターとしただけでは、それを他人が「その芸能人だ!」と誤認することは通常ないので、なりすましが問題となる可能性は低いと思われる。これに対し、(例外的場合に限られるとは思われるものの、)まさにその図柄をアバターとしている有名人がもし存在するのであれば、その図柄を他人が自分のアバターにすれば、なりすましの問題(第8回)は出てくるのだろう。
  22. この点につき、斉藤博『人格権法の発展』(弘文堂、2021)295-297頁(特に296頁)は、人格権とは切り離した財産権としてのパブリシティ権を認識することで十分なのではなかろうかと論じる。斉藤邦史『プライバシーと氏名・肖像の法的保護』(日本評論社、2023)216頁以下(特に218-219頁及び223-224頁)は、「人格権に由来する権利」(強調筆者)として単なる人格権ではないとする最高裁の文言を重視し、不正競争防止法のような標識法としての保護を志向する。このように、単に人格権なのに譲渡できるのか、といった問題設定をすることが適切ではないことは強調しておきたい。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。

当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。InfoComニューズレターを他サイト等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。また、引用される場合は必ず出所の明示をお願いいたします。

情報通信総合研究所は、先端ICTに関する豊富な知見と課題解決力を活かし、次世代に求められる価値を協創していきます。

調査研究、委託調査等に関するご相談やICRのサービスに関するご質問などお気軽にお問い合わせください。

ICTに関わる調査研究のご依頼はこちら

関連キーワード

松尾 剛行の記事

関連記事

InfoCom T&S World Trend Report 年月別レポート一覧

メンバーズレター

会員限定レポートの閲覧や、InfoComニューズレターの最新のレポート等を受け取れます。

メンバーズ登録(無料)

各種サービスへの問い合わせ

ICTに関わる調査研究のご依頼 研究員への執筆・講演のご依頼 InfoCom T&S World Trend Report

情報通信サービスの専門誌の無料サンプル、お見積り

InfoCom T&S World Data Book

グローバルICT市場の総合データ集の紹介資料ダウンロード