2024.5.10 InfoCom T&S World Trend Report

ICT雑感:ブラームスはお好き ~クラシック音楽をデジタルで聴いてみる~

(出典:ベルリン・フィル・デジタル・コンサートホールのHP)
(出典:イラストAC)

(出典:イラストAC)

「私、ブラームスを好きかどうかわかりませんでしたの」
「ぼくの方は、あなたがいらっしゃるかどうかわかりませんでした。あなたがブラームスをお好きであろうとなかろうと全然かまわないんですが」
(フランソワーズ・サガン『ブラームスはお好き』 朝吹登水子訳)

「NO MUSIC, NO LIFE.」というレコード店のキャッチフレーズではありませんが、趣味は何かと聞かれたら、一応音楽鑑賞をその一つに挙げることにしていて、生活の中でもいつも身近なところに音楽を感じてきました。浅く広くではありますがいろいろなジャンルを聴いているつもりで、クラシックもミーハー的に著名曲を中心に少しは齧っており、コンサートにもたまには出かけます。

昨秋は、世界の超有名オーケストラがこぞって来日し、ちょっとしたお祭り騒ぎになったようです。その中の一つ、キリル・ペトレンコ指揮のベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートの模様が年末に放送されたので、作業用BGMのようなつもりで録画し視聴したのですが、演目が進むうちに「これなかなかいいんじゃない?」と聴き入っていました。軽妙なモーツァルト、オーケストラの技量を存分に聴かせるアルバン・ベルクと続き、クライマックスはブラームスの交響曲第4番です。曲は何度か聞いたことがあったものの、私も、ブラームスを好きかどうかわからなかったのですが……

ブラームスは生涯に4曲の交響曲を書き、そのいずれもが著名ですが、第4番は最晩年に作曲されたことや、短調で始まり短調で終わる曲調もあり、死を目前にした作曲者の哀愁や諦観が感じられる、どちらかというと根暗な曲と一般的には認識されているように思います。

しかし、このベルリン・フィルの演奏は溌剌としたものでした。各楽章について感じたことを言葉で表してみると、

第1楽章(ホ短調):俺も年取ったなのかなぁ、最近は体も言うこと聞かんわ。

第2楽章(ホ長調の緩徐楽章):今までの人生いろいろあったなぁ(……と懐かしむ気持ち)。

第3楽章(アップテンポ):年取ったとはいえ、まだまだ人生これから。もう一丁頑張ろう!

第4楽章(ホ短調):老い先短いかもしれんが、精一杯生きるわ。

といった感じで、総じていうと、私のような爺さんを元気づけてくれるような、ピシッと引き締まったタイトな演奏でした。

いつの間にか演奏に引き込まれていたのですが、元々BGM用のつもりで録っていたこともあり、観終わった後に手拍子で録画を消去してしまったのです。あ、しまった、消すんじゃなかったと思っても後の祭り。その後1週間ほどは「NHKプラス」で見逃し配信をしていたので、2回ほど視聴したのですが、やがて観られなくなりました。

どうしたらあの演奏をもう1回聞けるかな……と思ってネット上をいろいろ探していると、「ベルリン・フィル・デジタル・コンサートホール」というサイトを見つけました(上記の図はサイトのトップページ)。同楽団のコンサートをライブ配信で視聴できるほか、過去60年間にわたるアーカイブ映像が用意されており、最近の演奏だけでなく、ヘルベルト・フォン・カラヤンやクラウディオ・アバド、小澤征爾などのかつてのマエストロの指揮による演奏を、デジタルリマスターされたクリアな音と映像で視聴することができます。さらに、一部の楽団員による室内楽の演奏など、バラエティに富むコンテンツとなっています。利用料金は、サブスクの月額視聴プランだと16.90ユーロ/月(2,690円)、その他に期間限定チケットもあり、30日間で19.90ユーロ、12カ月間で169ユーロなどとなっています。

うーん、お金払ってでも観るかどうしようか……と考えていたところ、一定期間無料でお試し視聴ができることを発見。とりあえずこれで覗いてみることとしました。まずはベルリン・フィルの伝説の指揮者カラヤンの指揮する映像を観てみました。曲は、ペトレンコの指揮したのと同じ、ブラームスの4番としました。

カラヤン指揮の演奏は、少し前にNHKでも、ブラームスやチャイコフスキーの交響曲を放送していました。説明によると、50年前の演奏を収録し冷凍保存されていたフィルムをデジタルリマスターしたということで、カラヤン全盛期の演奏の様子がクリアに蘇ります。現代と比べるとどことなく古風な構成という感じはありますが、巨匠らしい堂々たる演奏です。カラヤンの指揮ぶりが極めて特徴的で、一般的には指揮というと楽団員とアイコンタクトなどのコミュニケーションを取りつつ指揮棒を振るイメージですが、彼の場合は、半ば目を閉じて瞑想しているような指揮です。これに対しオケもマシーンのように正確無比に応じていて、「帝王」とも称された一端を感じます。

さらに、映像を観ているうちに気づいたのが……楽団員に女性が一人もいない! ということ。もちろん今は女性の奏者もたくさんいて、今回の来日公演でも女性がコンサートマスターを務めていたほどですが。調べてみると、1980年代になってカラヤンが若い女性クラリネット奏者を採用しようとしたところ、楽団員から大反対を受け、この件をきっかけにカラヤンとベルリン・フィルの関係はギクシャクしたものとなり、やがてオーケストラを去ることとなったとか(なお、彼女は入団を諦めてソリストの道に進み、成功を収めたようです)。

そして、注目の昨秋のコンサートの映像を観ようとしたのですが……「この映像は、権利上の理由によりお客様の国ではご覧いただけません」とのこと。どういう権利関係なのか、NHKがからんでいるのかどうかわかりませんが、あーあ……と思っていたところ、つい先日、NHKのBS放送で再放送され、今回はしっかり円盤にも保存することができました。繰り返し演奏を聴くうちに、ブラームスの4番がすっかりお気に入りの曲になりました。

(出典:いらすとや)

(出典:いらすとや)

なお、クラシック音楽をリアルタイムやオンデマンドで楽しめるデジタル配信は、各地のオーケストラやコンサートホールの他、Appleの「アップル・ミュージック・クラシカル」に加え、Deutsche Grammophon(ドイツ・グラモフォン)やNaxos(ナクソス)等の著名レーベルでも行われています。コロナ禍でリアルに音楽を届けることが困難な中でサービスが拡大したようで、この分野でも自分の好きな形で気軽に楽しめるようになってきています。

とはいえ、例えばチェロのピチカートの空気感とか、金管楽器にホワーッと包まれるような感じ、地響きのようなティンパニなどは、ライブで体感しないと味わえないもの。やはり生演奏会にも時々は足を運びたいですね。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。

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