データセンター市場動向2024 ~生成AIブームと、直面する電力問題

データセンター市場が新たな局面を迎えている。これまでもクラウド化の進展等により、ハイパースケーラーによるものを中心として市場が拡大してきたこと、生成AIによる新たな需要が加わったこと、そしてネットワークにより立地問題を解決する可能性が高まってきたことは、拙稿(2023年6月号「データセンター市場動向2023」、同11月号「見直されるネットワーク」)でも報告してきたが、最近では、データセンターにおける生成AIなどの利用に伴って発生する電力消費がさらに深刻な問題となってきている。新たな電力需要に応えられるのか、どのようなエネルギーで電力需要を賄うのか、脱炭素に関する目標と両立するのかなど、課題は多い。生成AIブームとともに、それを支えるデータセンターのあり方にも注目が集まっている。
そこで、本稿では、上記拙稿に引き続き、データセンター市場の動向について、グローバルでの主要事業者の動きとともに、今後の成長に大きな影響を与えると予想される生成AIブームの影響と、それに伴う電力消費問題への対応を中心に検討したい。
市場動向
まずは市場動向と大手事業者の動きを見ておきたい。調査会社Synergy Research Groupによれば、全体として世界のデータセンターの総数は過去5年間で倍増した1。そして、調査会社Statistaによれば、データセンター市場は2028年に4,386億ドルに達すると予測されている。COVID-19(新型コロナウイルス感染症)感染拡大等に伴うとみられる一時的な縮小があったものの、2023年以降は順調に成長し、2018年から2028年までのCAGR(年平均成長率)は3.7%になるとみられている2。
この成長を引き続き支えているのが、大手クラウド事業者などによるハイパースケールデータセンターである。Synergy Research Groupによれば、ハイパースケールデータセンターの施設数は2024年初頭に1,000を超えた。キャパシティの増加率は施設数のそれより大きく、過去4年間で倍増しており、今後4年間でさらに倍増すると予想されている。ハイパースケールデータセンターの中でも、大手クラウド事業者であるAmazon(AWS)、Microsoft、Googleの3社だけで、キャパシティの60%を占めており、この後に、Meta(Facebook)、Alibaba、Tencent、Apple等が続く3。
これら大手クラウド事業者等が最近力を入れているのがAI、特に生成AIである。AIへの期待が高まり、その期待を背景に各社がAI投資を強化し、それが各社の株価上昇につながっている。Metaのように、投資家が収益性に疑義を呈し株価下落につながったケースもあるが、全体としては生成AIに対する期待は高いと言ってよいだろう。Reutersの報道によれば、調査会社Bernsteinは、Amazon、Microsoft、Google、Metaの4社は2023年に2,000億ドルの設備投資を行っており、その半分程度が技術インフラに投じられたと分析している。今年、主にAIにより、この額はさらに約50%増えるとみられている4、5、6。
本稿はこのような投資や収益期待が正しいか、あるいは「バブル」であるかを議論するのが目的ではないが、一つ確実に言えるのは、この動きがデータセンターへの需要に結び付いていることである。生成AIを含むAI活用にあたっては、学習においても推論においても、高い計算処理能力が求められる。そして、そのような計算処理を行うのに最適な環境を持つ場所がデータセンターである。AIが求める計算処理能力を実現するには、データセンターの数が増えるだけでなく、さらに良い環境を提供することが求められる。
大手クラウド事業者、データセンター事業者の事業展開
ここでは、大手クラウド事業者のデータセンターと、AIを中心としたサービスに関する動きについて見ておきたい。
AWSは、同社サイトによれば、2024年5月24日時点で、33リージョン、105のアベイラビリティゾーンを展開している。AWSの2024年1~3月期の売り上げは対前年同期比約17%増の250億ドル。AIへの関心の高まりがクラウド事業の成長につながっているとみられており、同社はAWSのインフラと生成AIに関する設備投資を強化するとしている7。
AWSは、2023年4月にAWSでの生成AIツール構築の支援を行う「Amazon Bedrock」を発表した。これは、主要なAI企業の基盤モデルを単一のAPI(Application Programming Interface)で利用できるようにするフルマネージドサービスである。Amazon Bedrockはその後2023年9月に一般提供された。また、2023年11月には、米ラスベガスで開催されたAWSの年次カンファレンス「re: Invent2023」で、システム開発とその他の業務支援を行う「Amazon Q」を発表した。2024年4月には一般提供が開始されている(5月20日時点では日本語対応時期は未発表)8、9、10、11。
Microsoftは、同社サイトによれば、2024年5月27日時点において、同社クラウド「Azure」で60以上のリージョンを展開しており、300以上のデータセンターを有しているとしている。2024年1~3月期決算では、Microsoft Azureと他のクラウドサービスの売り上げは267億ドルで、対前年同期比約31%増の成長を記録したと発表した。こちらも、クラウドサービスやビジネスソフトウェアでのAI導入による売り上げ増が成長に寄与したとみられている12。
Microsoftは2023年3月にAIツール「Microsoft 365 Copilot」を発表し、一部企業へのプレビュー提供を経て、2023年11月に一般提供を開始した。大規模言語モデル(LLM: Large Language Models)によるAI機能に加えて、Word、Excel、PowerPoint、Outlook、TeamsなどのMicrosoft 365アプリケーションにAIアシスタントが統合されていることが特長である13、14。
Google Cloudは、同社サイトによれば、2024年5月27日時点で、40のリージョン、121のゾーンを展開しており、187のネットワークエッジロケーションを有している。Google Cloudとしては、2023年1~3月期から黒字に転じており、2024年1~3月期決算では、売上高は96億ドルで、対前年同期比約28.4%増加した。やはり、AI開発への投資が売り上げ増に結び付いている。
GoogleもさまざまなAI製品を提供している。2021年5月に発表された機械学習プラットフォーム「Google Vertex AI」が機能追加を重ねてきているのに加え、2024年4月に米ラスベガスで開催された年次カンファレンス「Google Cloud Next 2024」で、2023年12月に発表した自社言語モデル「Gemini」のアップグレード版である「Gemini 1.5 Pro」を発表し、開発の効率化やサイバーセキュリティ強化に貢献するとしている15、16、17。
次に、このような需要に応えつつ、エンタープライズにもサービスを提供しているデータセンター事業者についても、大手2社の動向について見ておきたい。業界トップのEquinixは、2024年5月の同社投資家向け資料によれば、33カ国、71都市、260データセンター(JVを含む)を展開しており、2024年4月には米国では初となるJVによるデータセンター建設を発表するなど、事業を拡大している。2024年1~3月期の売上高は対前年同期比約6%増の21億2,700万ドル。同社CEOは「急速に進化するAI環境は経済拡大の起爆剤として機能し続けている」とコメントした18、19。
一方、同じく大手のDigital Realtyは、300超のデータセンターを50以上の都市に展開している。2024年4月には、同社がデンマーク・コペンハーゲンで持つAI対応のデータセンターで、NVIDIAのAIスーパーコンピューターをホストすると報じられた。しかし、2024年1~3月期の売り上げは、対前年同期比約1%減となり、わずかながら2四半期連続の減収となっている20、21。
このように各社の動向を見ると、各社ともAIに関する投資やサービス強化を進めており、クラウド化の更なる進展に加え、AIに関する需要が市場を後押ししていることが読み取れる。
電力需要に関する課題
一方、データセンター市場としては課題にも直面している。データセンターにおけるAI関連の処理の消費電力が課題となっていることは2023年11月号の拙稿でも触れたが、この問題への注目がますます高まっている。
まず、原因として、ChatGPTのような生成AIアプリケーションの電力消費が大きいことが挙げられる。Stanford Universityによる「Artificial Intelligence Index Report 2023」が、大規模言語処理モデルGPT-3による電力消費が1,287MWhに上るとの先行研究を引用しており、これが注目された22(注1:2024年の報告にも同様の内容が記載されている23)(注2:「Artificial Intelligence Index Report 2023」ではこれと原子力発電所の出力との比較は行っていないが、この数値を引用し、原子力発電所の出力と比較した分析もみられる)。
米国の平均的な家庭の年間の電力消費量(2022年)が10,791kWhとされている(The U.S. Energy Information Administration24)ことから、これは119年分に相当することになる。ちなみに、環境負荷の観点からみると、GPT-3のCO₂排出量は502トンとなる。別の言語処理モデルであるBLOOMのCO₂排出量は25トンで、GPT-3はその約20.1倍だが、BLOOMのCO₂排出量だけでも、平均的な米国の家庭が1年間に排出するCO₂の約1.4倍の量に相当するという25(単純計算すると、GPT-3は約28.1倍となる)。
そして、GPT-4ではこの問題はさらに大きくなる可能性がある。GPT-4は、GPT-3の約6倍のパラメーターを含んでいると推定されており、また、モデルの訓練に利用されるデータセットも拡大するとみられている。すなわち、より多くの電力を消費する可能性が高い。2027年までに、AIセクターが消費する電力量は、ほぼオランダ1国分に相当するとの予測もある26。
AI利用においては、データセットの拡大やパラメーターの追加、モデルの大きさのあり方や、データの質などについても議論がなされており、電力消費が現行の予想どおりに増加するとは限らない。効率化が進む可能性も高いだろう。また、AIがもたらす他の部分の効用(例えば、AIによって可能になる他のセクターにおける節電など)への期待ももちろん大きい。しかし、AIによる電力消費が大きな課題であることは間違いないだろう。
そして、このことは、AIによる需要を受けて拡大するデータセンター市場にも大きな影響を及ぼす。AIの電力消費はすなわち、AIが利用するコンピューターが置かれているデータセンターの電力消費でもあることから、データセンターの電力消費に注目が集まることになる。
データセンターの電力消費に関しては、大きく三つの課題を挙げることができる。一つ目は上述のマクロな消費量問題であるが、二つ目は、データセンターがある場所での需要に応えることができるか、である。データセンターが必要な電力を消費するためには、データセンターのある場所に、必要な量の電力が、必要とされる時期に供給されなくてはならない。これが別の課題になっている。言い換えれば、必要な時に必要なだけ利用できなければ、電力がどこか離れた場所で潤沢にあっても意味がないのである。
また、これらに関連する三つ目の問題が、電力の供給源である。大量に化石燃料を燃やして発電することはもはや不可能である。再生可能エネルギーの活用が求められる。すなわち、必要な場所で必要な量の再生可能エネルギーで発電された電力が得られるかが課題となる。
これらに関しては、既にいくつかの具体的な予測や議論がみられる。まず、マクロな消費量については、国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)は、2024年1月の報告「Electricity 2024: Analysis and forecast to 2026」において、電力消費量を増加させる重要な新たな要因は、エネルギー集約型のデータセンター、AI、暗号通貨であるとして、これらの電力消費量が2026年までに倍増する可能性があると発表している27。この報告書では、データセンター、AI、暗号通貨は、2022年に世界で約460TWhの電力を消費し、これは世界の総電力需要のほぼ2%に相当すると推定している。これが、2026年には620~1050TWhの範囲になると予測されている。これは、2022年と比べた場合、「少なくともスウェーデンが1つ、多ければドイツが1つ追加されるのとほぼ同じ」とコメントされている(図1)。
次に、必要な場所(データセンター)で電力が確保できるかである。2024年4月に米ワシントンで開催されたカンファレンス「Data Center World 2024」に関する報道によれば、同カンファレンスで講演した、米国の電力ソリューション企業Lanciumの会長Ali Fenn氏は、「今年(筆者注:2024年)は、AIアプリケーションと大規模言語モデルを実行するために十分な電力へのアクセスを得ることに方程式がシフトしている」と述べた。また記事では、データセンター関連のサービスを提供する不動産企業CBREのExecutive Managing Director兼Global Head of Data Center SolutionsであるPat Lynch氏が「データセンターの成長を阻む最大の要因は、土地やインフラ、人材ではなく、地域の電力だ」とコメントしていることも併せて報じている28。
現地での電力確保の問題は、可不可もあるが、必要な設備が建設され、電力を確保するまでのリードタイムとしてあらわれることが多い。発電能力が(総量として)不足しているのではなく、送電線などのインフラが不足しており、必要な設備を敷設するのに時間がかかることも多いためである。ニュースサイトLight Readingは、米国でデータセンターや通信のサービスを提供するDigitalBridgeのCEOのコメントとして「データセンターは2年以内に電力不足に陥る」との衝撃的なタイトルの記事を掲載した。その中で、投資銀行TD Cowenの金融アナリストの分析(2024年2月の同社報告)として、米国のほとんどの主要市場において、データセンターの電力を確保するまでのリードタイムが最短でも3年以上になっているとしている。ダラスでは新しいデータセンターのための電力の認可に最長2年半、アトランタでは6年、シリコンバレーでは7年を要している。欧州ではさらに状況は深刻で、データセンターの関係者がよく「FLAP+D(フランクフルト、ロンドン、アムステルダム、パリ、ダブリン)」と呼ぶトップ市場では、8年に達しているという29。筆者が2023年9月に参加したデータセンターに関するカンファレンス「DataCloud USA 2023」では、「ヴァージニア北部では送電線を建設するのに、すべての承認を得て、きちんとやれば5年かかる」との発言があった。時間がたつにつれて、状況は厳しくなっているとみられる。
そして、三つ目の課題として挙げた再生可能エネルギーの活用が、さらに問題を難しいものにしている。送電網の問題で、必要な場所で必要な電力が得られないのであれば、自家発電など、送電網に頼らない電力供給が検討されるのは当然の成り行きだろうが、これがCO₂を排出する燃料に頼るとなれば、脱炭素化の観点から大きな問題となる。上記の大手クラウド事業者、データセンター事業者各社も、もちろんグリーン化の目標を掲げており、データセンターの脱炭素化ができなければ、各社やその顧客の目標達成にも悪影響を及ぼすことになる。
アイルランドでは、ダブリン周辺での送電網への新たな接続が困難になっている。同国の送電企業EirGridは、ダブリン地域のデータセンターへの新規送電網接続を事実上停止している。EirGridは、"2021年11月以降、送電網への接続を希望する新たなデータセンターは、引き続きケースバイケースで審査される"と述べており、現状、計画の許可を得るのは難しく、特に都市部周辺では困難とされる。
これに対し、送電網接続の問題を回避するため、データセンターをGas Networks Ireland(GNI)が提供するガス供給網に接続する動きがある。天然ガスを燃料として電力を供給しようとするものだが、これは化石燃料ガス需要を押し上げ、クリーン燃料への転換を遅らせるものとして同国内での批判を受けている。報じられたGNIの最新予測によると、データセンターからの追加需要は現在から2032年の間に少なくとも10倍に増加する見込みとされている。バイオメタンや水素など再生可能ガスが利用できるようになればクリーンエネルギーの課題は解消するが、目論見どおりに進むかが疑問視されている30、31、32。
米国でもクリーンエネルギーの供給が問題となっている。前述の「DataCloud USA 2023」でも「長期的に持続可能なグリーン・ネットゼロ電力を探す必要がある」との議論がなされた。数百MWの太陽光発電所など、私設の再生可能エネルギー・ソリューションに関する提案がなされた一方で、「再生可能エネルギーでは、現在のような需要や電力を賄えないことがわかった。再生可能エネルギーだけでなく、将来的に、より持続可能であるために、代替エネルギーによる解決策を今すぐ講じる必要がある」との問題提起もなされた。
米国では、データセンターのカーボンフリー化を進めるとして、原子力発電利用の提案もなされており、複数社がソリューションを提案している。その一つであるNuScale Powerは2023年10月、データセンターインフラ事業者のStandard Powerがオハイオ州とペンシルベニア州で、NuScale PowerのSMR(Small Modular Reactor:小型のモジュール型原子炉)を利用した原子力発電施設を建設すると発表した33。
大手クラウド事業者からも、原子力発電の導入を進める動きが出てきている。2024年3月の報道によれば、AWSは、米ペンシルベニア州にある2.5GW出力のSusquehanna原子力発電所に隣接するCumulusデータセンター複合施設を、Talen Energy社との取引の一環として取得する。この結果、AWSは原子力発電所の電力を直接利用することが可能になる34。
Microsoftも、原子力発電の導入によりデータセンターのカーボンフリー化を進めようとしている。
2023年5月には、Helion Energyが、2028年稼働予定の核融合発電所からMicrosoftに電力を提供する契約を締結したと発表した。続いて2023年6月にも、Microsoftは原子力発電を手掛けるConstellation Energyとのカーボンフリーエネルギー供給契約を発表した。また、2023年9月にはSMRに関する求人(Principal Program Manager)を行ったことで注目を集めた35、36、37。
これらに先立ち、同社は2022年に、カナダの電力会社Ontario Power Generationからクリーン・エネルギー・クレジットを購入する契約を結んでいる。Ontario Power Generationは北米でSMRを導入する最初の電力会社となる予定と報じられている38。
Googleも原子力の利用に関心を示している。Googleは2022年7月、核融合技術に関するスタートアップのTAE Technologiesに出資している。また、2024年3月にはMicrosoftおよびNucorと協力し先進的でクリーンな電力技術への取り組みについて発表しているが、その中で「より広範な先進クリーン電力技術のポートフォリオ」の例として、次世代地熱、クリーン水素、長期エネルギー貯蔵などとともに、「先進原子力」が挙げられている39、40。
一方で、SMRについては、2024年5月時点で実用化されているものではなく、技術の完成度、規制当局の承認取得など、実現性において多くの課題が指摘されている41、42。「チョルノービリ(※)や福島の強烈な記憶を持ちながら、誰が自宅の裏庭に原子力発電所を置きたいと思うだろうか」といった指摘もある43。安全性・廃棄物問題に加え、経済性の観点においても、社会的な懸念が強い。NuScaleがUtah Associated Municipal Power Systems(UAMPS)と進めていたSMRのプロジェクトも「経済的な理由」で打ち切りとなった44、45。(※筆者注:原文はChernobyl(チェルノブイリ)だが、外務省呼称に沿って記載)
日本の動き
日本においても、データセンターの電力需要の増加が注目されている。
電力広域的運営推進機関(OCCTO)は、毎年電力需要の想定を公表しているが、2024年1月に発表した「全国及び供給区域ごとの需要想定(2024年度)」においては、節電・省エネの影響は継続しつつも、経済成長およびデータセンター・半導体工場の新増設に伴う需要増加により、減少傾向にあった電力需要が2024年度から増加に転じるとした。2025年度以降についても、人口減少や節電・省エネなどの減少影響よりも経済成長やデータセンター・半導体工場の新増設による影響の方が大きいとして、2033年度にかけても増加するものと想定している46。
また、OCCTOは、「将来の電力需給シナリオに関する検討会」を開催しており、各研究機関によって将来の電力需要の見通しが示されている。データセンターによる増加分については、各機関によって予測数値には大きく幅があるが、増加への対策の必要性は共有されている47。
日本では、「デジタル田園都市国家構想基本方針」に基づき、地方データセンター拠点の整備が進められている。ITシステムのライフサイクルと、AIを含む昨今のデータセンター需要の急増を見れば、既存データセンターが地方に分散するより、地方における新設が進む可能性が高いと思われるが、各地においても、安定的な電力供給は最重要課題の一つとなるだろう。また、利用者(ハイパースケーラーにせよ、企業やその他法人にせよ)と国全体のグリーン化目標達成の関係からも、電源のあり方についても検討要素に含める必要があると考えられる。
まとめ
ここまで、データセンター市場の主要なプレイヤーの動向と、直面する電力問題について見てきた。エネルギー政策についての議論は本稿の範囲を超えるが、最近では、生成AIブームも背景となって、データセンターが電力需要に大きな影響を与えることが明らかになったことから、高まるデータセンター需要に対応した安定的なサービスの供給と、電力利用の最適化についても考慮する必要がある。安価で、安定的で、リスクなく、低環境負荷で利用できる電力は存在しないとの現実論に立った上での、安定運用と事業性が両立しうる立地や運用、そして事業戦略、技術戦略が求められる。最近でも地震などの自然災害が頻発しており、原子力発電所の過酷な事故を経験した日本においてはなおさらであろう。
2023年6月号の拙稿において、データセンターの立地場所(特に新規需要の大きいハイパースケールデータセンターの立地場所)に関する条件整理を試みた(以下に再掲する)。グローバルでも、日本においても、この条件そのものが大きく変わったとは考えていないが、各要素の重みは地域や時期によって変わってくる。最近においては、グローバル、日本の両方で、この中でも特に電力に関わる部分の重みが増したとみてよいだろう。
【データセンターの立地場所に関する条件整理】
- 用地、建設(コスト、規模確保と拡張可能性、災害リスク、自然環境)
- ネットワーク(レイテンシ、通信容量、コスト、冗長性、IX等への接続環境)
- 電力(容量、コスト、リードタイム、冗長性、安定性、グリーン化)
- 人材(有スキル人材の確保)
- その他(水使用、国や地元の規制や協力(許可、税制等)、その他社会情勢)
ただ、これまでの検討においては、データセンターが行っている処理の中身には触れてこなかった。クラウドがまさに「雲」のようになっていて、クラウド事業者は、どこに何が置かれており、どのような処理が行われているかを、あえてあまり明確にしてこなかったことの影響もある。しかし、AIの普及とともに、データセンターが地域の電力供給にも密接に関わるようになったこと、そして、「データ主権」に関する意識の高まりもあり、地元のデータセンターに何があり、そこでは何をしているのかにも、徐々に関心が高まってきている。
スウェーデンで、2024年4月、18のデータセンターが同国の税務当局によって閉鎖されたと報じられた。これは、同国内のデータセンターが暗号通貨マイニングを行っていながら、製品開発やAIなど、他の事業活動を行っているとして税制優遇措置を受けていたことが理由である(追徴課税も行われた)。暗号通貨マイニングが対象となった理由としては、潜在的なマネーロンダリング活動や不正な金融取引の懸念、売り上げが不明となり課税ができないことなどが挙げられている。
この捜査では、スウェーデンの政府当局は暗号通貨マイニングを行ったデータセンターの電力消費について直接言及していないが、同国のエネルギー庁は2023年2月、国有研究機関RISEに依頼し行われた、データセンターと暗号通貨マイニング施設の電力消費に関する調査の報告書を公開した。データセンターと暗号通貨マイニングを分けて検討していることが興味深い。これは、政府がデータセンターの処理内容によって対応を変える例とみることもできるのではないだろうか48、49、50、51。
ネットワークとデータの活用が進むとともに、データセンターは、いわばITの工場として、社会的に最重要なインフラの一つとなった。データセンターは、外見は開口部の少ないビルであり、内部を紹介されたとしても、一見すればラックとサーバーが並んでいるだけで、そこにどのようなデータがあり、どのような処理が行われているかは、概してブラックボックス化している。しかし、これからはそこでどのような「原材料」を用いて、どのような処理を行い、何を生産しているのか、それは社会にどのような価値をもたらすのか、また、エネルギーなどの資源消費も含めて、社会にどのような影響を及ぼすのかについても、議論が進むことが予想される。ITによる社会の進展に大きく寄与するデータセンターだが、存在感が強まるにつれて、国内外の一部で「迷惑施設」とみる動きが顕在化しているのも現実である52。有利な条件で投資を集めることを含めて、事業を円滑に進めるには、社会的な受容性も考慮する必要がある。例えば、役に立つと判断される用途とそうでない用途で、優先度を変えるべきといった見方も出てくるかもしれない。
また、本稿では紙幅の関係で触れられなかったが、各社のグリーン化への取り組みや、電力その他の問題を解決するための技術の進展にも目覚ましいものがある。この市場の世界と日本での動きに引き続き着目し、報告したい。
- Hyperscale Data Center Capacity to Almost Triple in Next Six Years, Driven by AI(2023/10)https://www.srgresearch.com/ articles/hyperscale-data-center-capacity-to-almost-triple-in-next-six-years-driven-by-ai
- Revenue in the Data Center market for different segments Worldwide from 2017 to 2028(2024/2)https://www.statista.com /forecasts/1441973/revenue-data-center-market-for-different-segments-worldwide
- Hyperscale Data Centers Hit the Thousand Mark; Total Capacity is Doubling Every Four Years(2024/4)https://www.srgresearch. com/articles/hyperscale-data-centers-hit-the-thousand-mark-total-capacity-is-doubling-every-four-years
- Alphabet, Microsoft shares jump as investors cheer AI investment(2024/4)https://www. reuters.com/technology/alphabet-microsoft-shares-jump-investors-cheer-ai-investment-2024-04-26/
- Meta raises 2024 expenses forecast to support AI development(2024/4)https://www. reuters.com/technology/meta-raises-2024-expenses-forecast-support-ai-development-2024-04-24/
- $5 trln AI boom could both succeed and fizzle(2024/5)https://www.reuters.com/ breaking views/5-trln-ai-boom-could-both-succeed-fizzle-2024-05-22/
- Amazon forecasts quarterly revenue below estimates(2024/4)https://www.reuters. com/technology/amazon-forecasts-quarterly-revenue-below-estimates-2024-04-30/
- Announcing new tools for building with generative AI on AWS(2024/5)https://aws. amazon.com/jp/blogs/machine-learning/ announcing-new-tools-for-building-with-generative-ai-on-aws/
- Introducing Amazon Q, a new generative AI-powered assistant(Preview)(2024/5)https://aws.amazon.com/blogs/aws/introducing-amazon-q-a-new-generative-ai-powered-assistant-preview/
- Amazon Q for Business now generally available; helps boost workforce productivity with generative AI(2024/5)https://aws. amazon. com/blogs/aws/amazon-q-business-now-generally-available-helps-boost-workforce-productivity-with-generative-ai/
- AWS、一般提供開始した生成AIサービス「Amazon Q」、および「Bedrock」と今後の戦略を説明(2024/5)https://internet.watch.impress. co.jp/docs/news/1592518.html
- Microsoft beats quarterly revenue estimates(2024/4)https://www.reuters.com/techno logy/microsoft-beats-quarterly-revenue-estimates-2024-04-25/
- Introducing Microsoft 365 Copilot—your copilot for work(2023/3)https://news. microsoft.com/2023/03/16/introducing-microsoft-365-copilot-your-copilot-for-work/
- Announcing Microsoft 365 Copilot general availability and Microsoft 365 Chat(2023/9)https://www.microsoft.com/en-us/microsoft-365/blog/2023/09/21/announcing-microsoft-365-copilot-general-availability-and-microsoft-365-chat/
- Alphabet beats revenue estimates, buoyed by cloud, pays dividend(2024/4)https://www. bloomberg.com/news/articles/ 2024-04-25/alphabet-beats-revenue-estimates-buoyed-by-cloud-pays-dividend
- Alphabet Q1 2024 Earnings Release(2024/4)https://abc.xyz/assets/91/b3/3f9213d14ce3ae27e1038e01a0e0/2024q1-alphabet-earnings-release-pdf.pdf
- Google Cloud Next 2024: Generative AI and Gemini(2024/5)https://blog.google/products/ google-cloud/ google-cloud-next-2024-generative-ai-gemini/
- Equinix Reports First Quarter 2024 Results(2024/4)https://investor.equinix.com/news-events/press-releases/detail/1038/equinix-reports-first-quarter-2024-results
- Equinix and PGIM Real Estate enter into $600 million JV for first xScale data center in the U.S.(2024/4)https://www.equinix.com/news room/press-releases/2024/04/equinix-and-pgim-real-estate-enter-into-600-million-jv-for-first-xscale-data-center-in-the-u-s-
- Digital Realty to host NVIDIA-powered AI supercomputer in Denmark(2024/5)https:// dcnnmagazine.com/data-centres/digital-realty-to-host-nvidia-powered-ai-supercomputer-in-denmark/
- Q1 2024 Colo results: Digital Realty, Iron Mountain, American Tower(2024/5)https:// www.datacenterdynamics.com/en/news/q1-2024-colo-results-digital-realty-iron-mountain-american-tower/
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- Gas Networks Ireland will connect 11 data centres to gas grid despite emissions target concerns(2024/5)https://www.irishexaminer. com/news/arid-41264824.html
- Equinix claims Ireland has a "moratorium" on data centre development https://businessplus. ie/news/equinix-moratorium/
- Standard Power chooses NuScale’s approved SMR technology and ENTRA1 Energy to energize data centers(2023/10)https://www.nuscalepower.com/en/news/press-releases/2023/standard-power-chooses-nuscales-approved-smr-technology-and-entra1-energy-to-energize-data-centers
- Amazon goes nuclear, acquires Cumulus Data's atomic datacenters for $650M(2024/3)https://www.theregister.com/2024/03/04/amazon_acquires_cumulus_nuclear_datacenter/
- Helion announces world’s first fusion energy purchase agreement with Microsoft(2024/5)https://www.helionenergy.com/articles/helion-announces-worlds-first-fusion-ppa-with-microsoft/
- Constellation signs hourly carbon-free energy matching agreement with Microsoft to support a clean-powered data center(2023/6)https://www.constellationenergy.com/newsroom/2023/Constellation-signs-hourly-carbon-free-energy-matching-agreement-with-Microsoft-to-support-a-clean-powered-data-center.html
- Microsoft hires energy mavericks in quest for nuclear-powered datacenters(2024/1)https://www.theregister.com/2024/01/23/ microsoft_nuclear_hires/
- OPG and Microsoft announce strategic partnership to power a net-zero future for Ontario(2022/9)https://news.microsoft.com /en-ca/2022/09/26/opg-and-microsoft-announce-strategic-partnership-to-power-a-net-zero-future-for-ontario/
- Google and Chevron invest in fusion startup TAE Technologies(2022/7)https://www. cnbc.com/2022/07/19/google-chevron-invest-in-fusion-startup-tae-technologies.html
- Google, Microsoft and Nucor announce clean energy initiative(2024/3)https://blog.google/ outreach-initiatives/sustainability/google-microsoft-nucor-clean-energy-initiative/
- 'It's Time To Be More Realistic': Data Centers' Nuclear Ambitions Suffer Setback(2023/11)https://www.bisnow.com/ national/news/data-center/its-time-to-be-more-realistic-nuclear-data-centers-face-growing-timeline-121881
- US nuclear industry upbeat on small reactors, despite setback(2024/4)https://techxplore. com/news/2024-04-nuclear-industry-upbeat-small-reactors.html
- Finally - a nuclear powered data center?(2023/6)https://www.datacenterdynamics. com/en/analysis/finally-a-nuclear-powered-data-center/
- NuScale Power, UAMPS agree to terminate nuclear project(2023/11)https://www. reuters. com/business/energy/nuscale-power-uamps-agree-terminate-nuclear-project-2023-11-08/
- UAMPS and NuScale Power terminate SMR nuclear project(2023/11)https://www. powermag.com/uamps-and-nuscale-power-terminate-smr-nuclear-project/
- 2024年度 全国及び供給区域ごとの需要想定について(2024/1)https://www.occto.or.jp/ juyousoutei/2023/240124_juyousoutei_2024.html
- 将来の電力需給シナリオに関する検討会(2024/1)https://www.occto.or.jp/iinkai/ shorai_jukyu/
- 18 data centers shut down in Sweden for illegal cryptomining(2024/4)https://www. datacenterdynamics.com/en/news/18-data-centers-shut-down-in-sweden-for-illegal-cryptomining/
- The fall of one of Europe’s biggest Bitcoin mining hubs(2024/1)https://grn-energy. com/updates/the-fall-of-one-of-europes-biggest-bitcoin-mining-hubs/
- Riktad kontrollinsats miningdatorhallar(2023/9)https://www.skatteverket.se/down load/18.13948c0e18e810bfa0c2227/1713275426036/Riktad%20kontrollinsats%20miningdatorhallar.pdf
- The status of data center and crypto mining energy use in Sweden(2024/5)https://www.ri.se/en/the-status-of-data-center-and-crypto-mining-energy-use-in-sweden
- データセンターが「迷惑施設」扱いに(2024/5)https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/ mag/nnw/18/041800012/051700250/
※閲覧はすべて執筆時点(2024年5月)である。
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左高 大平 (Taihei Sadaka)の記事
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