「エフェクチュエーション」とは何か? ~事業開発・組織開発の新たなパラダイム
近年、事業環境の不確実性はますます高まっている。市場調査の結果に基づいて事業計画を策定したものの、事前想定からの大きなぶれが生じ、計画の大幅な修正を迫られたケースは枚挙にいとまがない。
こうした中で、新規起業や企業の新規事業開発あるいは組織開発において、プラグマティズムに基づき、予測ではなくコントロールによって不確実性に対処することを重視する、「エフェクチュエーション(Effectuation)」という思考様式が注目されている。本稿では、エフェクチュエーションの概要について解説するとともに、新規事業開発支援や地方の中小企業のDX支援を担う、一般社団法人REIONEの代表理事の河西祐介氏へのインタビューを通じて、エフェクチュエーションをどのようにビジネスにおいて実践していくのかを概観し、これからの組織や人材の活躍のありかたについても論考したい。
エフェクチュエーションとは何か
エフェクチュエーションとは、インド出身で、米バージニア大学の経営学者である、サラス・サラスバシー教授によって提唱された思考様式である。サラスバシー教授は著書[1]において、熟達した起業家に共通する意思決定や思考様式の分析を通じてエフェクチュエーションを発見したと述べている。
エフェクチュエーションについて説明する前に、比較対象として、従来型のビジネスアプローチであるコーゼーション(Causation)について説明をする。
コーゼーションでは、目的に対する最適な手段(原因)を追求する。新規事業開発にあたり、コーゼーション型アプローチをとる場合は、まず、既に存在する市場に対して、内部環境や外部環境の分析と予測を行った上で、具体的な目標や期待リターンを設定することになるであろう。また、競争軸を設定し、差別化を図ることで市場における優位性を獲得する活動も欠かせない。事業計画とKGI・KPIの設定、目標達成に必要な経営資源の割り当ての最適化がマネージメント上の課題となる。
一方で、エフェクチュエーションは、市場を予め存在するもの、あるいは自然発生したものとは考えず、「人工的に創造されたもの」であると捉えることに特徴がある。市場そのものやそこで取引される商品やサービスはすべて「人工物」であるから、自然法則の影響は無視できないものの、人間のコントロールにより未来はいかようにも変わりうるという考え方だ(表1)。
サラスバシー教授は不確実性に対処する手法として、5つの原則[2]を提示している(図1)。
- 手中の鳥の原則:手持ちの手段からできることを着想すること。自分は何者か、自分は何を知っているのか、誰を知っているのか、の三つの問いからなる。
- 許容可能な損失の原則:リスクの許容範囲を予め決め、その範囲内でできる行動をすること。
- クレイジーキルトの原則:形も柄も色も違う布を縫い合わせ1枚の布を作るクレイジーキルトのように、顧客や競合他社、従業員などをパートナーと捉えること。新たなパートナーとの相互作用によって、新たな手段、つまり手持ちの資源が増大するとともに、新たな目的、すなわち制約条件が集約される。
- レモネードの原則:酸っぱくて使い物にならないレモンに工夫を凝らし、甘いレモネードを作る(=価値を持つ製品へと生まれ変わらせる)こと。機転を利かせつつ、提供価値を問い続けるということでもある。
- 飛行機の中のパイロット原則:不測の事態に備え、環境変化に敏感であるとともに、コントロール可能なものに注目し、状況に応じた臨機応変な行動をすること。前出の四つの原則を統合する原則である。
事業の立ち上げ期にある起業家(アントレプレナー)や企業の新規事業担当者は、高い志とパートナーとの共創を通じた社会課題の解決、事業開発やイノベーション創出、市場創造と非常に成果を求められている。しかしながら、潤沢な資源を保有していることは稀であり、リスクに対しても脆弱で、極めて不確実性の高い環境下にあることが多い。エフェクチュエーションと5つの原則は、このような状況における指針となりうるであろう。
エフェクチュエーションはアントレプレナーシップ(起業家精神)において、行動に比重をおいた実践的な理論である。そこで、より実践的な理解を深めるため、エフェクチュエーションに早くから注目し、事業への実践や普及啓発を進めている起業家、河西祐介氏へのオンラインインタビューを実施した。河西氏が語ったエフェクチュエーションに基づく活動事例や関連エピソードは、事業開発・組織開発、あるいは地域経済におけるDX推進のありかたについても示唆に富むものである。次節以降にてその模様を紹介する。
なお、筆者はNTTドコモ在籍時(2018~2019年度)に、同社に在籍していた河西氏主催の社内勉強会に参加しており、その場で河西氏からエフェクチュエーションの概要を学んだ間柄である。
河西祐介氏 プロフィール
河西祐介
一般社団法人REIONE代表理事、
株式会社アイコニックビート代表取締役
生花店最大手企業、アスクル株式会社、株式会社NTTドコモ イノベーション統括部での勤務を経て、2019年一般社団法人REIONEを立ち上げ。現在は、起業家の創業支援、新規事業のための制度設計支援等の活動や、地方の中堅中小企業のDX支援に取り組んでいる。
エフェクチュアルな組織マネージメントとは
竹松-インタビューにご快諾いただきありがとうございます。最初に、REIONEの立ち上げと発展の歩みについてお聞きしたいと思います。Webサイトやインタビュー動画を拝見したところ、組織の立ち上げ自体もエフェクチュアルだと感じましたので。
河西-そうですね。コワーキングスペースで偶然出会った3人が意気投合し、ピザを食べながらライトニングトーク(注:エンジニア交流会などで行われる5分程度の短時間プレゼンテーションのこと)を企画しました。最初のイベントには15人が集まってくれたので、次のイベントを企画開催し、さらに次の回を手伝ってくれそうな人を集めるというサイクルを何度か続けました。その結果、具体的な案件が話題に挙がってくるようになったので、一般社団法人としてREIONEを立ち上げました。法人化後は、スタートアップの支援イベント、農水省や高知県の案件を受けたり、DXの勉強会や講座を企画開催したりしています。
竹松-偶然の出会いから、複数の事業を開発するまでに至るケースは非常に珍しいと感じましたが、なぜここまで発展できたのでしょうか。
河西-まず、中核となった最初の3人の熱量とプレコミットが全員高かったですね。それぞれがコミュニティ運営に失敗した経験があり、それが活きていると感じます。また、入り口を紹介制としていることも肝です。
加えて、実践的な知恵として、コミュニティに人を無理に囲い込むことはしていません。事業開発に取り組む人は、たいてい忙しい方です。仕事や家庭の事情が重なり、コミュニティ活動についていけないことも生じてしまいます。時にはコミュニティ内部に気の合う人がいない場合もあるでしょう。ところが、周囲への気まずさから無理して活動を続けようとしてしまう方もいます。REIONEでは、コミュニティメンバーが、コミュニティを離れざるを得なくなったことについては、互いの求めるものやタイミングが合わなかった結果だと捉えており、メンバーがコミュニティを去る際にお互いにストレスを感じることのないように気遣っています。
また、コミュニティメンバーには、年1回継続するかを確認し、あわせてコンディションやコミットメントの度合いも自己申告してもらっています。プロジェクトに参加できる、イベント参加ならできるなど、といった具合です。
竹松-自身の制約条件を伝えて、自己申告で期待値を設定する、ということですね。これは、「許容可能な損失」を相互に共有するということだと分かりました。プロジェクト型組織においては、必須なことでしょう。プロジェクトの内容も多岐にわたると想像しますが、どのようにメンバー間の相互理解を進めていくのでしょうか。
河西-手の内を可視化していくことは意識しています。人が集まったとしても、それぞれの手の内がブラックボックスであったり、場当たり的な進め方での運営だったりすると、うまくいきません。プロジェクトを通じて、お互いをよく観察し、お互いの得意不得意や底力を理解しあうことで、「このテーマだったらこの人だろう」というのが暗黙的に共有されていく感じですね。
竹松-なるほど、これがエフェクチュアルなコミュニティでの「手中の鳥」の活かし方といったところでしょうか。今後、このコミュニティの規模はどうしていくお考えでしょうか。
河西-現在約60人程度が参加してくれていますが、今後の規模感は手探りです。ただ、急拡大する路線とは違うということは一致しています。
REIONEの活動はある意味エゴな活動で「お客さま」のためというのは、コミュニティの第一の目的ではありません。それぞれがやりたいことに向けて紆余曲折をするプロセスにおいて、進みたい方向がクロスしたらチームを組成し、そのコミットに応じて報酬を分配するというスタンスです。
コミュニティマネージメントというと、人をコミュニティが設定した価値観に寄せるのが一般的で、その方法論を説く書籍はたくさんありますよね。でも、なかなかうまくいかない。なぜならば、最初はコミュニティマネージャーが強いものの、だんだんと参加者の力が強くなります。あるいは、特定のカリスマが出現することもあります。そうすると維持しづらくなったという声も聞こえてきます。
リンダ・グラットンは著書『ワーク・シフト』[3]、『ライフ・シフト』[4]で、コミュニティについても触れていて、数多くあってよい、時限的でよい、多様性・個性の掛け合わせである、と述べています。仲間が見つからないなら、合う人と出会う場所を探してみるくらいがよくて、肩ひじを張らなくていいでしょう。
竹松-多様な個性と思いが折り重なった点で「クレイジーキルト」を織りなしていく様子が目に浮かびました。まさに、ゆるい束帯が寄り集まって色とりどりの織物が編まれていくようですね(図2)。
竹松-各原則を統合する、「飛行機の中のパイロット」の原則はどのように意識されていますか。
河西-これは、「許容可能な損失」の裏返しと考えています。REIONEは財務的に大きなリスクを負っていないビジネスモデルなので、よほどやり方を間違えなければ赤字にならないような体制がとれます。その結果として、コントロールする対象が最小化され、数値計画に縛られず、それぞれがのびのび活動しています。
エフェクチュアルな組織が地域課題解決に取り組む意義
竹松-昨年、沖縄にREIONE拠点を開設されたとのことですが、それはどのような経緯でしょうか。狙いを教えてください。また、拠点作りを通じて見えてきた課題感はどのようなものでしょうか。
河西-REIONEでは地方自治体と連携した活動を展開しています。沖縄県では、デジタルトランスフォーメーション(以下、「DX」)人材育成講座の事務局を2年連続務めていまして、今後もよい関係が続きそうです。さらに、講座の参加者が自然と集まり、同窓会を開催するようになりました。REIONEのメンバーにはそれぞれの本業とその勤務先がありますが、沖縄に集まって活動を続けているうちに、地元の方がメンバーの周囲に集まってくるようになりました。そこで、コミュニティのメンバーが集まる拠点があってもよいと判断し、財務面もクリアできたので設置に至りました。
竹松-地域課題のDXといえば、様々な大企業が取り組んでいると思いますが、地方自治体がREIONEに期待するものは何でしょうか。
河西-中立性ですね。
竹松-おお、なるほど。
河西-「専門的すぎない表現」が評価されています。
竹松-それは、どういうことでしょうか。
河西-一般的な企業がソリューションを提案する場合、どうしても何らかの手段を売り込みたいという雰囲気が出てしまう。チラシに書いてあることにも専門的なキーワードが並びますよね。
印象的なエピソードがあって、沖縄でDXをテーマにした展示会に出展した際に、多くの企業がソシューション提案のブースを出す中、「初めてのDX人材育成」というテーマで出展しました。すると、ものすごい反響で。「チラシたくさんもらったけど、疲れちゃった。カタカナやアルファベットばっかりで、よくわかんなかったから帰ろうかと思ったよ」とこぼしながら立ち寄ってくださるお客さまが多くて、駆け込み寺みたいになっていました。こうした感想をお持ちのお客さまの多くは、初めて展示会に参加した、いわゆるDXに関心を持ち始めたばかりの初学者の方でした。展示会はリード獲得の場なのに、実際には多くのITベンダーが来場者に負担や引け目を感じさせてしまっているように見えました。
また、展示会とは別に、先ほどお話ししたようなDX基礎講座で、初めての人にとっつきやすいようにというリクエストをもらったときに、カタカナやアルファベットを一切使わず1時間話したら大好評で。課題はそこにあったのかと気づかされました。このようなやり方は、自社製品を有するIT企業のご担当者だと、上司に怒られてしまうので、なかなかできないと思いますが(笑)。
竹松-このお話は、機転を利かせることが大切という意味では「レモネードの原則」の応用とも言えそうで、同時にDX支援の本質をよく表しているエピソードでしょう。地域の経営者とって、ICTは酸っぱくてそのままでは「食えない」ものなのかもしれません。まずは、課題を抱えている方と同じ目線で、「ゆるく」お話を伺うところからスタートすることが大切ですね。私は、中小企業診断士、ITコーディネータとしても活動していますが、同じような経験が何度もあります。
河西-地域の経営者の方々に、わかりやすい言葉で悩みに寄り添うことがDXの第一歩です。そもそも、何を実現したいのかを一緒になって考えるところから始める。これが、現地に入ってよく見えてきた、とても大切なことです。決して大きな営利活動ではないけれど、その支援で得たものが次につながると思ってメンバーそれぞれが取り組んでいます。エフェクチュアルな組織だからこそ、マクロ観点で対応できる人材も、ミクロ観点で支援できる人材も両方いて、どちらの視点からでも今後の地域のありかたについて議論できるから、地域のキーパーソンやステークホルダーに懐深く入り込めている肌感覚があります。
地域課題解決にエフェクチュエーションを応用するには
竹松-最近、「DX後半戦のはじまり」というインパクトのあるワードを耳にしました[5]。いわゆる2024年問題が現実のものとなりつつある中、建設、物流、医療をはじめとするエッセンシャルワークのDXに本腰を入れなければ立ち行かなくなるということもそうですし、DXが進んでいる企業とそうでない企業に著しく差がつきつつあるということをも示唆しているのではないかと私は感じるのですが、いかがでしょうか。
河西-全くその通りです。各地域の経済界にはDXのトップランナーの企業さまがいらっしゃいますが、そうした企業の経営層の方は、ビジネスアスリートです。どんどん新しい取り組みを自らの手で進めています。けれども、第二集団、第三集団については、意欲もリソースもあるし、トップ集団のキラキラしている様子にモチベーションは高まるけれども、何をしたらいいかわからず悩まれているケースが多い印象です。そこを、各地域の経済の仕組みとしてどう拾うかがあまり設計されていない気がします。各地域の公的な支援機関からは、図3の「ヒト」と書いてあるフェーズについては、基本的に企業の裁量にゆだねる姿勢が見受けられます。しかし、実際には多くの企業は情報も、カネについても補助金の施策などは知っているので、「ヒト」の部分がボトルネックになっていると感じます。
竹松-ほぼ同意見です。ただ、公的な機関が独力で、民間企業の事業変革プロセスの深い部分まで立ち入ることは、制度面でもリソース面でも難しいところがあるのも事実です。これまでお話しいただきましたとおり、地域の経済界には、変革の必要性を理解しつつも、まず何から取り組んでいいか、あるいは少し手を動かしてみたものの、取り組みの方向性があっているのかどうかと不安を感じておられる方が数多くいらっしゃいます。図に示されている「ヒト」、つまり、この対談の文脈では支援者の腕の見せ所といえますね。導入フェーズでのハンズオン支援も含め、企業の成熟度を踏まえた対応も必要でしょう。このような支援を得るには、私は地域の経営者や地元の支援組織から、ある程度まとまった額や労力の投資が、一過性ではなく継続的に必要と考えています。
反対の立場、つまり地域の中小企業の経営層の目線に立ったときに、地域課題解決にエフェクチュエーションというアプローチはどのように効果を発揮するのでしょうか。
河西-地域にはもともと身近な範囲でクレイジーキルトなつながりはあり、その中には、経営者を対象とした、さまざまな経済団体があります。でも、そのコミュニティで解のないイシューが昨今のようにたくさん出てきたときに、地域内の人材だけで解決しようと固執していると、一緒に前に進めていくパートナーが見つからず、全体が沈んでいきます。加えて、人口減少。
竹松-クレイジーキルトを織りなす布自体が減っていくし、小さくなりますね。持続的成長には何が必要なのでしょうか。
河西-この問題の解決の方向性として、人材育成や能力開発でよく言われるのが、「越境」です。外部人材を上手に活用していく機会を、意図的に創出することが必要と考えます。佐賀県産業スマート化センターの、サポーティングカンパニーという取り組み[6]は好事例です。地域の中の人材と外の人材をマッチングして、出会いの場そのものを作っていく人材も必要でしょう。
竹松-いわゆる「インタープレナー」[7]人材ですね。そのほかに、地方だからこそエフェクチュエーションが活かせる機会はあるのでしょうか。
河西-エフェクチュエーションの主体は、事業家つまり経営者です。地方のほうがその人数比率は高く、組織も小さいので、自由度高く行動できるのが強みではないでしょうか。地域に対する思いや地域ならではのストーリーもプレコミットしていく上では素晴らしいことで、強みになります。
竹松-ただ、いきなりアントレプレナーシップだとか、あなたは経営者なのだからまずはやってみなはれ、と言われたとしても、勇気や資源が必要です。経営者は孤独になりがちなので、うまく進められないときに、誘導したり、背中を押したりする存在は今後も求められるでしょう。
生成AI時代の人材育成と組織マネージメント
竹松-最後に情報通信分野において、今後、組織やプロジェクトのマネージメントはどう変化していくとお考えでしょうか。
河西-ICT業界の関係者の方々とお話ししていると、生成AIの出現、普及によって、SIerとしてのコアバリューが失われ、従来型のビジネスモデルは早晩立ち行かなくなるという危機感をお持ちです。今後は、どれだけ質の良い問いを立てられるか、つまりイシューを特定できるかがカギで、許容可能な損失があるうちに、御用聞きビジネスや計画的なバックキャスティングをもとに業務を組み立てていくやり方から、フォアキャスティングして試行錯誤しながら対応していくという考え方にシフトしていこうとしています。REIONEでも、連携自治体とともに次世代の経営を担う人材の持つべきスキルの定義づくりに取り組んでおり、自分たちでITサービスを創造できるような優秀な人材に、どう経営に必要とされるスキルをインストールしていくかについても議論を進めています。
竹松-コーゼーションだけではなく、エフェクチュエーションに基づく、事業ビジョン策定や意思決定も徐々に広まりそうですね。
河西-REIONE自身においては、提供サービスのコンテンツが変わったり、仕事の進め方が変わったりすると想定しています。組織運営自体は人のやり方に依存するので全く変わらないでしょう。
しかし、生成AIの波とはいわば逆張りで、人間にしかできないことに注力してはどうかという話も出てきています。すなわち、人間ならではの創造物にも注目していこうということです。
竹松-人間の活動はアートにシフトして、新たな世界観やパラダイムを構想するような、クリエイティブな活動の比重が増すのでしょうか。
河西-生成AIの利活用が加速すると、与えられた要求にこたえるプロセスは格段に質・速度共に高い次元で処理されていくでしょう。通信の世界でいえば、インフラの維持管理のようなところはAIが引き取っていくのではないでしょうか。これからどうしていくか、例えば5Gや6Gの将来像を構築する作業は、人間がアーティスティックに考えているはずです。
竹松-確かに。先日6Gの国際標準策定に携わっている方のお話を伺った際に、これからは機械同士、あるいはAI同士の通信がほとんどで、たまに人間が混じるような形になるとお話しされていました。今思い起こしてみると、非常にアーティスティックだなと感じます。
ヒトとヒトのつながりや、情報流通についてはどんなところに変化がありそうですか。
河西-難しい質問ですが、ヒトのつながりについてはあまり変化しないと思います。もう一つの、情報流通については、各国によってデータやプライバシー保護規制に差が出てきていることが気になるところです。
竹松-もう少しミクロな目線についても聞かせてください。組織内で複数プロジェクトを並行して進めていく中での情報管理、情報共有のありかたについてどのような工夫が考えられるでしょうか。
河西-REIONEの場合、プロジェクトに閉じた情報は、プロジェクト内で完結するように工夫しています。機密情報もありますし、多様な人材がいるので内部競合も発生してしまうことさえあるので、リスク管理上気を付けています。一方で、プロジェクトが完了したら、全体でナレッジを共有し、称賛する機会を設けるようにしています。
竹松-プロジェクト型組織で情報をどのように共有していくかについて、具体的なアドバイスを頂きました。雇用の流動性が高まり、ジョブ型雇用が一般化していくと、組織やコミュニティ内部で専門性を可視化、ラベリングしてジグソーパズルにはめ込むように配属するだけでは組織が十分に機能しない懸念が出てくるかもしれません。それぞれの個人のキャリアと思いの交差点において、どのように専門性を発揮し自己実現してもらうかが、マネージメントの中心課題となりそうです。エフェクチュエーションは、メンバーシップやエンゲージメントのありかたにも一石を投じる思考様式ですね。本日はどうもありがとうございました。
河西-こちらこそありがとうございました。
[1] サラス・サラスバシー (著), 加護野忠男 (翻訳), 高瀬進 (翻訳), 吉田満梨 (翻訳) 『エフェクチュエーション』 碩学舎、2015年9月
[2] 吉田満梨 (著), 中村龍太 (著) 『エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」』 ダイヤモンド社、2023年8月
[3] リンダ グラットン (著), 池村千秋 (翻訳) 『ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉』プレジデント社、2012年7月
[4] リンダ グラットン (著), アンドリュー スコット (著), 池村千秋 (翻訳) 『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』 東洋経済新報社、2016年10月
[5] 桑津 浩太郎 MESSAGE「DX後半戦のはじまり」『知的資産創造』 野村総合研究所、2024年4月号
[6] 佐賀県産業スマート化センターでは、AIやIoTといった先進技術によるソリューションや、これらの導入支援が可能な企業をサポーティングカンパニーとして幅広く登録し、セミナー開催や企業マッチング、交流促進などで相互協力を行っている。(https://www.saga-smart.jp/support/)
[7] 「インタープレナー」とは、自らの意思でより良い社会を創るという目的のために行動し、所属する組織を含めて自分が動かせるものを動かして価値創造を行っていく個人のこと。1995 年に『失敗の本質』で知られる経営学者の寺本義也氏が論文で発表。
※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。
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