2024.6.13 ICT経済 InfoCom T&S World Trend Report

シェアリングエコノミーによる地域課題解決

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シェアリングエコノミーは様々な地域課題の解決に貢献する。そのため、近年、自治体ではシェアリングエコノミーの導入を進める取組が広がりつつある。

総務省はシェアリングエコノミーを活用して地域課題の解決や地域経済の活性化を図る自治体の取組を支援するために、平成30年度~令和2年度にかけて「シェアリングエコノミー活用推進事業」[1]を実施し、その成果を「シェアリングエコノミー活用ハンドブック」としてまとめた。内閣官房はシェアリングエコノミーを活用している事例を見える化し、後続する取組や新たな事業アイデアの誘発を図るために「シェア・ニッポン100」[2]を作成して公表した。シェアリングエコノミー協会は、公助を「共助」で補完しサステナブルな自治体を実現しようとする試みを「シェアリングシティ」と呼んで推進しており、現在は協会が中心となって設立されたシェアリングシティ推進協議会[3]が様々な取組を行っている。

本稿ではシェアリングエコノミーがどのような地域課題の解決に貢献するのかについて、課題別に具体的なサービス事例を挙げながら説明する。そして、地域課題の解決にシェアリングエコノミーを活用することのメリットについて述べる。

なお、ここで扱うのはシェアリングエコノミーのうち、表1に示した各サービスである。

【表1】各サービスの説明とサービス例

【表1】各サービスの説明とサービス例
(出典:情報通信総合研究所作成)

シェアリングエコノミーが解決可能な地域課題

防災

シェアリングエコノミーは災害発生時に必要な物資、場所、人材の確保に活用可能である。自治体がシェアサービス事業者と連携して、災害時に向けた体制を構築する事例が生まれている。例えば、スペースのシェアサービス(民泊)を提供するAirbnbは東京都墨田区と、自然災害発生時に同区民に一時避難先を提供するための連携協定を締結している[4]。Airbnbに掲載されている宿泊施設は通常、旅行者を泊めるために使われるが、災害時には一時避難先として活用できるという取組を進めている。

災害が発生した後に不足する物資をシェアサービスで補う事例としては、令和6年能登半島地震におけるカーシェアがある。モビマル(一般社団法人日本移動販売協会)は、大阪府と一般社団法人地域活性化プロジェクト縁GINが連携して行う「キッチンカーあったかい食事支援隊」に協力し、被災者支援のためのキッチンカーを派遣して食事の無償提供を行った[5]。また、日本カーシェアリング協会は、被災者と被災者支援活動を行う団体を対象に、車の無償貸出支援を約6カ月間実施している[6]

遊休資産活用

シェアリングエコノミーは公共施設の有効活用や地域内の民間施設活用による財政負担軽減に活用可能である。廃校となった小学校等は従来であれば何も便益を生み出さないどころか、維持管理や建て替え等のコストがかかっていたが、スペースのシェアサービスを通じて貸し出すことで収入を得ることができるようになっている。例えば、スペースのシェアサービスを提供するスペースマーケットでは、奈良県宇陀市の旧・宇太小学校の教室等が貸し出されており、コスプレの撮影等に利用されている。

また、スペースマーケットではスペースシェアのノウハウを活用して、公共施設の予約や管理ができるSpacepad[7]というクラウド型予約管理システムを提供しており、管理業務の効率化にも貢献している。

観光

シェアリングエコノミーは地域の魅力の発信、交流の活発化に活用可能である。例えば、Airbnbが提供するスペースのシェアサービス(民泊)では、家屋に宿泊する際に家主と旅行者の間に交流が生まれる。また、家主が地元住民の暮らしを紹介したりすることで、地域の魅力が旅行者に伝わるという利点もある。ホテルがない地域でも宿泊可能となるメリットもあり、具体例としては、Airbnbが公表した「2020年3月以降に初めてAirbnbで予約された日本の人気市町村」である山梨県南アルプス市、香川県まんのう町、埼玉県長瀞町、高知県日高町、北海道清水町がある[8]。スキルのシェアサービスのainiでは、地元住民が観光案内をしたり街歩きを案内したりするサービスが提供されており、旅行者が地元住民しか知らない魅力を味わうことが可能である。地域の暮らしは地元住民から見ると何の価値も持たないこともあるが、海外を含めて遠方からの旅行者から見ると魅力的なものである。そういった魅力を旅行者に伝えることができるのは、個人がサービスを提供するシェアサービスならではの利点である。

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シェアリングエコノミーによる地域課題解決のメリット

まとめ

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。

[1] 総務省「シェアリングエコノミー活用推進事業」https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/c-gyousei/sharing_economy.html

[2] シェア・ニッポン100
https://cio.go.jp/share-nippon-100_R2

[3] シェアリングエコノミー協会「シェアリングシティ推進協議会のご案内」
https://sharing-economy.jp/ja/city/council

[4] Airbnb「Airbnb、自然災害発生時における連携協定を墨田区と締結」(2023年11月15日)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000150.000016248.html

[5] 一般社団法人日本移動販売協会「令和6年能登半島地震における被災者支援『キッチンカーあったかい⾷事⽀援隊』への協力について」(2024年1月31日)https://mobimaru.com/news/149

[6] 日本カーシェアリング協会「【令和6年能登半島地震で被災された方へ】車の無償貸出支援 申込受付を開始します」(2024年1月10日)https://www.japan-csa.org/blog/archives/5232

[7] スペースマーケット「Spacepad」https://booking.spacepad.jp/

[8] Airbnb「Airbnb、ホテルがないエリアに存在するAirbnbがもたらす『観光振興』に関するデータを発表」(2023年7月5日)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000 139.000016248.html

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