CAと消費者法
第1 消費者法が問題となる典型的な場面
1 はじめに
2023年度における月刊連載において、サイバネティック・アバター(CA)に関する様々な問題を13回にわたって取り上げた後、CAに関する重要課題ではあるものの月刊連載では十分に取り上げることができなかった事項について季刊連載をさせて頂くことになった。第1回である前回は、いわゆるAI Tuberを中心としたAIとCAの交錯点を取り上げたところ、今回取り上げるCAと消費者法の問題もまた、CAに関する重要な課題である。
すなわち、CAに関し、様々な事業者も関与しているものの、事業者だけでは到底CAのエコシステムは回っていかない。B2C(Business to Consumer)やC2C(Consumer to Consumer)等の形で消費者がユーザーとなってメタバースにおける活動や、身代わりロボット等を利用したリアルワールドにおけるCAの活動に従事するからこそ、そこで経済が回り、CAに関するビジネス、ひいてはCAが活躍するフィールドやCA自体がはじめて持続可能となる。
このように消費者は重要な役割を持つにもかかわらず、大変遺憾ながら一部の事業者が必ずしも適切ではない方法の勧誘などを行っていることは事実である。例えば、メタバース上で本来よりもかなり高額でNFTを売り付け、その後価格が暴落したといった状況は、特に2022年のWeb3バブル崩壊前後に良く見られたところである。
もし、CAに関し、消費者が事業者に搾取されるような状況が恒常的かつ頻繁に発生し続けるのであれば、誰もCAを利用したいと思わなくなるだろう。それでは、本稿の研究が属するところのムーンショット研究(ムーンショット目標12050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現)が目標とする、誰もが安心してCAを利用できる社会は到来しない。その意味では、CAの分野においても、消費者法に関する適切妥当な解釈論や立法論による、悪徳業者排除が急務である。
ところで、消費者法はメタバースに対しても現実世界と同様に適用される1。つまり、メタバース外において消費者法に違反する行為は、基本的にはメタバースにおいても消費者法違反なのである。
もっとも、「メタバースでも(CAとの関係でも)消費者法は現実世界と同様に適用されるので、現実世界において留意すべき点を同様に留意すべき」というだけでは、わざわざこの問題を本稿のような形で展開する意味がない。そこで本稿は、いわゆる「消費者法の概説」部分はあえて割愛し、各種消費者法との関係で発生するCA固有の問題のみを論じることとする。その結果として、各法に関する前提知識を有しない読者にとって読みにくい部分はあるかもしれないが、消費者法の入門書等を適宜ご参照頂きたい。
まずは2においてCAに関して締結される消費者契約を主な類型ごとに整理し、その上で、3以下で、CAに関して重要と思われる主な消費者法をまとめる。
2 CAの利用に関する契約
まず、CAを利用するために、様々な契約が必要となる。
例えば、CAがメタバース上のCAである場合、消費者がそのメタバースを利用するためにはヘッドセット等のハードウェアが必要となり、その売買契約が必要となる。
また、CAがロボットである場合、当該ロボットの購入についても消費者と事業者の間で売買契約が締結される(賃貸借契約やリース契約が締結されるかもしれない)。
さらに、消費者がメタバース上で利用するCAの3Dモデルを利用する(著作権)ライセンス契約を締結することもある。
これらは、全て消費者法の問題である。
3 プラットフォームとの契約
また、メタバースプラットフォーム等のプラットフォーム上でCAが活動するところ、プラットフォームとの契約についても消費者法が問題となる。
4 CAを利用したオンラインショッピング等
なお、CAが幅広く活動する中、メタバース上でオンラインショッピング等の取引を行うことも増加している。このような取引にも消費者法が適用される2。
第2 消費者契約法
1 勧誘規制
(1)勧誘を記録化しやすいこと
消費者契約法4条は特定の勧誘形態に関し、そのような形態で勧誘され、締結された契約について消費者の取消権を規定する。消費者が同条に基づく取消権を行使する場合においては、具体的にどのような勧誘活動が行われたかが実務上問題となり得る。例えば、消費者が、「XX」という文言で勧誘されたところ、これは重要事項について事実と異なることを告げることになる(同法4条1項1号)、と主張することはあり得る。これに対し、実務上、事業者が「『XX』ではなく、『YY』と述べたのであって、YYであれば重要事項について事実と異なることを告げることにはならない」、と反論することもある。
このような事実認定に関する争いが生じた場合、例えばメール等の明確な証拠があれば、それが認定に供されるところ、「言った、言わない」の問題となることもある。そこで、例えば電話を(自動音声で録音する旨を述べた上で)録音することで、事実関係の争いをできるだけ回避する事業者も存在する。
このような文脈において、メタバース上のやり取りは(それぞれのプラットフォームの仕様にもよるが)録音・録画等の記録化が比較的容易である。そこで、このような記録化の容易性を踏まえ、各事業者として、消費者との間で勧誘文言等に関する事実認定の争いをできるだけ防ぐための方策について検討すべきである。
(2)重要事項
同条1項1号は「重要事項について事実と異なることを告げること」により、消費者が「当該告げられた内容が事実であるとの誤認」をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができるとする。
そして、重要事項について定める同条5項は、1、2号で具体的な内容を挙げた上で、3号は「前二号に掲げるもののほか、物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものが当該消費者の生命、身体、財産その他の重要な利益についての損害又は危険を回避するために通常必要であると判断される事情」とする。
例えば、ロボットやアバターは「財産その他の重要な利益」である。したがって、「このセキュリティソフトを入れないとアバターが破壊される」等としてCAに関する「損害又は危険を回避するために通常必要であると判断される事情」に関して事実と異なることを告げて勧誘をした場合、消費者やこの規定に基づき契約を取り消すことができる可能性がある。
(3)退去
同条3項1号は取消事由として、「退去すべき旨の意思を示したにもかかわらず、それらの場所から退去しない」ことを、同項2号は、「退去する旨の意思を示したにもかかわらず、その場所から当該消費者を退去させない」ことを挙げる。
ここでいう「場所」が物理的場所であれば、メタバース上において、物理的な「場所」は存在しないことから上記各号は適用されない。CAがメタバース上で勧誘をする状況が増加する中、メタバース上のショップやルーム等を「場所」に含めなければ、実質的にはメタバースにおいて、消費者が退去したくても「まあまあ」等と言って事業者が消費者を退去させてくれない等という不当勧誘が蔓延しかねない。
そもそも「退去」について限定はなく、「場所」も物理的場所に限るという明確な規定もない以上、メタバース上の特定箇所からの退去を拒み、又はそこからの退去を妨害すればそれだけでこれに該当するという解釈もあり得る。この点は、例えば消費者庁が解釈を明確化するか、又は、法改正が必要であれば法改正を行うことが望ましい。
(4)連絡妨害
同項4号は、その契約を締結するべきかについて、友人知人等に相談のため連絡をしたいという場合について、「威迫する言動を交えて、当該消費者が当該方法によって連絡することを妨げること」を取消事由として挙げる。しかし、その場合の連絡方法としては「電話その他の内閣府令で定める方法」とされているところ、消費者契約法施行規則1条の2はこれを、電話(1号)、電子メール(2号)、及び「その他の消費者が消費者契約を締結するか否かについて相談を行うために事業者以外の者と連絡する方法として通常想定されるもの」(柱書)とする。
このような規定は、まだメタバースでのやり取りそのものが社会全体としては少ない時代に制定されている。そして、メタバースにおける連絡について「通常想定されない」と解されてしまうと、メタバース上での連絡妨害が野放しになってしまう。
確かに、同条2号は電子メール「その他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信」とすることから、メタバース上のダイレクトメッセージも含まれるという解釈は可能であろう。但し、例えば「発言は周囲にいる人全員に届くものの、そのタイミングで周囲には1人しかいない」といった態様でのやり取りが「受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信」といえるかは必ずしも明らかではない。
「メタバース上の取引である」という当該取引類型においてはメタバース上で友人知人等に相談のため連絡をすることもまた「通常想定されるもの」と解すことで、メタバースにおける連絡妨害を防止すべきところ、かかる解釈が消費者庁によって公にされるか、又は、法改正(規則改正)が実現されるべきである。
(5)デート商法
消費者契約法4条3項6号は、「当該消費者が、社会生活上の経験が乏しいことから、当該消費者契約の締結について勧誘を行う者に対して恋愛感情その他の好意の感情を抱き、かつ、当該勧誘を行う者も当該消費者に対して同様の感情を抱いているものと誤信していることを知りながら、これに乗じ、当該消費者契約を締結しなければ当該勧誘を行う者との関係が破綻することになる旨を告げること。」を取消事由として挙げる。
これはいわゆるデート商法を想定しているところ、メタバース上でも「お砂糖」等と呼ばれる恋愛関係が生じ得る。そこで、消費者が特定の魅力的なアバターに好意の感情を抱き、デート商法の被害に遭うこともあり得るため、CAにおいてもこの取消事由が成立することはあり得る。
(6)過量販売
同条4項は「事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの分量、回数又は期間(中略)が当該消費者にとっての通常の分量等(消費者契約の目的となるものの内容及び取引条件並びに事業者がその締結について勧誘をする際の消費者の生活の状況及びこれについての当該消費者の認識に照らして当該消費者契約の目的となるものの分量等として通常想定される分量等をいう。以下この項において同じ。)を著しく超えるものであることを知っていた場合」における取消事由を定める。
ここで、CA、例えばメタバース上のアバターを大量に購入する事態もまま見られる。そのような場合に何が通常の分量等とされるかにつき、上記の同項括弧書きが参考となる。
一般には目的となるもの、つまりこの場合においてはアバターについて、毎日着替える等として大量に購入すること自体はあり得る。しかし、その価格(取引条件)や、消費者の生活状況や認識等から、「ここまで高価なものをここまで大量に購入しない」だろうと認識した上であえて勧誘すれば、なお過量販売として取消し事由に該当し得るだろう。
(7)その他
メタバース上では自由にアバターを選ぶことができる。そこで、CA時代においては、「容姿、体型その他の身体の特徴又は状況に関する重要な事項」(同条3項5号ロ)の「願望の実現に過大な不安を抱」くことが減少すると理解される3。
2 不当条項規制
同法8条から10条までが不当条項規制であるところ、同法8条の2及び8条の3はCAとの関連性が必ずしも高くないことから検討を割愛する。
(1)8条1項
同法8条1項は損害賠償等に関する以下各号の条項を無効とする4。
一 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項
二 事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項
三 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項
四 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項
ここで、CAとの関係では、いわゆるフリーミアムのビジネスモデル5等、無料から利用を開始することができるサービスが提供されることが多い。そして、そのようなサービスにおいては、「無料なのだから、責任もその分制限される」、という考えに基づき、責任制限規定が設けられることがある。そして上記の規定は、そのような免責規定のうち、上記で明示した類型のいずれかに該当するものについて、これを無効としている。例えばフリーミアムのビジネスモデルの下で、確かに、月額利用料を支払うこともできるが、基本料金無料で利用することもできるというサービスについて、「12カ月以内に月額利用料として支払った額」を賠償の上限とするという場合、それが月額利用料を支払うユーザーとの関係では、少なくとも同条1項1号の全部の免責にはならない6ものの、無料ユーザーとの関係では全部の免責として無効となり得る。
(2)8条3項
同法8条3項は以下のとおり定める。
事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものを除く。)又は消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものを除く。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する消費者契約の条項であって、当該条項において事業者、その代表者又はその使用する者の重大な過失を除く過失による行為にのみ適用されることを明らかにしていないものは、無効とする。
国際的な事業者のサービスにおいては、各国で無効となる要件が異なることから、「適用法で無効とならない限り一定額(例えば、12カ月以内に月額利用料として支払った額)を責任の上限とする」等という留保を付すことがある。そして、このような規定を「サルベージ条項」と呼ぶ。しかし、同項はまさにサルベージ条項を無効にする(サルベージできなくする)ものである。つまり、適用法が無効とする場合を除外する旨を抽象的に記載するだけで、故意又は重大な過失がある場合には全額の賠償をする旨が明記されていないものは無効となるのである。特にCAに関するサービスを提供する国際的な事業者において日本法特有の規制として留意が必要である。
(3)9条1項
同法9条1項は以下のとおり定める7。
第九条 次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
二 当該消費者契約に基づき支払うべき金銭の全部又は一部を消費者が支払期日(支払回数が二以上である場合には、それぞれの支払期日。以下この号において同じ。)までに支払わない場合における損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、支払期日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に年十四・六パーセントの割合を乗じて計算した額を超えるもの 当該超える部分
ここで、CAとの関係でも、契約違反に対する損害賠償の予定・違約金や、遅延損害金について、過度に高額と思われる規定がまま見られる。これは、B2Bの契約とB2Cの契約を区別せず、損害賠償の予定や違約金を一律に定めてしまっていることによると思われる。もちろん、具体的な状況によって、設定された損害賠償の予定や違約金が、「解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超え」ないこともあり得るものの、B2Cの契約が含まれる場合においては、このような観点で確認・検討することが必要である。
(4)10条
同法10条は「消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。」とする。これはいわゆるバスケット条項であり、同法9条までに規定されるものではなくても一定の条項を無効とする。
ここで、CAとの関係では、いわゆるダークパターンである、「電気通信回線の利用契約において、消費者による解除権の行使の方法を電話や店舗の手続に限定する契約条項」8がこれに該当するとされることが重要である。例えば、CAの文脈で少なくともインターネット上で解約できず、例えば電話等を強制する条項は10条により無効になると考える9。
また、特定の要件に該当するか否かを決定する権限を事業者に付与する契約条項には、個別の事案によるものの、本条の規定の要件を満たし、無効となり得るものがあるとされている10。メタバースプラットフォーム等が、プラットフォームに裁定権限があると定める場合があるところ、そのような規定はこの条項により無効となる可能性がある。
InfoComニューズレターでの掲載はここまでとなります。
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第3 特商法
第4 景表法・広告規制
第5 その他
※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。
- 小塚壮一郎「仮想空間の法律問題に対する基本的な視点―現実世界との『抵触法』的アプローチ」情報通信政策研究6巻1号(2022)<https://www.jstage.jst.go.jp/article/jicp/6/1/6_75/_pdf/-char/ja>1B-1頁(2024年8月13日最終閲覧、以下同じ)。
- なお、個人同士の売買であれば、消費者法は必ずしも適用されない。そのような結論が適切かという問題は別途存在するところ、この問題意識は第5・2参照。
- 但し、Be RealというSNSが流行しているように、自由に姿を盛れる時代だからこそ、現実が重要という価値観は根強く残るかもしれない。
- なお、同条2項で1、2号規定の事項のうち契約不適合責任の免責につき、その代わりに代金減額、追完等を行う一定の場合に例外的に無効としないとする。
- 基本料金無料で利用を開始することはできるものの、オプションサービスを利用するならば追加料金が必要として、幅広いユーザーを獲得した上で一部のユーザーに課金してもらうことで全体としてビジネスを成り立たせるビジネスモデルのこと。
- なお、同項2号の故意重過失免責にならないかや、同法10条で無効にならないかは依然として問題となり得る。
- 同条2項は、算定根拠の説明を努力義務とする。
- 消費者庁「消費者契約法逐条解説」(2023年9月)173頁<https://www.caa.go.jp/policies/ policy/consumer_system/consumer_contract_act/annotations/assets/consumer_system_cms203_230915_17.pdf>
- 確かに「インターネット上」では解約できるものの「メタバース上」での解約ができないことをどのように考えるかはなお議論が必要であろう。
- 消費者庁・前掲注8)175頁。
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