2016年5月11日掲載 ITトレンド全般 ICR View

震災時におけるICTの活用-知見と知恵を積み重ねて-

熊本地震で被災された皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。
今回の震災で、我が国はあらためて地震国であることを思い知らされました。同時に今回の震災において、ICTがどれだけ防災・減災に貢献し、被災者の方々の役に立っているのかということが気になります。

通信インフラの復旧状況

東日本大震災では、被災がより広域であり、津波被害が大きかったため、津波被災エリアを除いても通信インフラの全面的な復旧には約1ヶ月を要しました。今回の熊本地震では、発災後も通信サービスを利用できるエリアが比較的多かったようであり、発災後、サービスが利用できなかったエリアについても関係者の尽力により、発災から約2週間後の4月末までにはほぼ復旧しています。

また、今回初めてWi-Fiサービスの本格的な無料開放が行われています。NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの各社により、統一のSSID「00000JAPAN(ファイブ・ゼロ・ジャパン)」(*1)による無料開放が初めて発動された他、公共施設等で提供されているWi-Fiについての無料開放も実施されています。加えて各避難所等において、携帯3社が、臨時の無料Wi-Fiスポットや充電サービスを提供しています。

ICTの活用

このように通信インフラ環境の復旧が進んだ分、熊本地震では、ICTがより有効に活用されたように感じられます。

特に注目されるのが、「熊本大分支援コミュニティ(Youth Action for Kumamoto:YA4K)です。同コミュニティでは、東日本大震災での活動経験もある大学生が中心になって、GoogleMap上に避難所や炊き出し・支援物資、給水情報、スーパー・飲食店等、10種類以上のMapを提供しています。また、「どこで何が足りないのか」の情報をまとめるページもあります。本マップは、4月27日付けの記事で、アクセスが200万件を超えたと伝えられています(*3)。このアクセス数からも被災地で大いに役立ったものと推察されます。これらは、Facebook等で集まった3000人を超えるボランティアに支えられたそうです。離れていても支援できる、まさにICTが力を発揮した好例と考えます。

同様なマップを提供する試みとして、総務省の「G空間防災システム」を活用した九州地理空間情報ポータル「参加型情報収集システム」(九州大学)(*4)や「北九州市 G-motty 地域情報ポータルサイト」(北九州市)(*5)も提供されています。

これを書きながら、21年前、阪神・淡路大震災においてパソコン通信やインターネットが活用されたことを捉え、まさに同じようなテーマの記事を書いたことを思い出しました。当時は、電話回線による2400b/sや9600b/sといった貧弱な速度の回線でしたが、地図情報も交えて、安否、交通、ボランティア情報等、震災時に求められる情報の提供や交換が行われていました。また、現地からの情報が途絶える中、Web利用も黎明期の頃、神戸市立外国語大学のWebサーバーからの震災直後の生々しい情報発信を見て、インターネットに力強さを感じました。興奮して社内の掲示版に書き込んだことを覚えています。

当時と今では、情報の密度も違いますが、技術の進展とあいまって、知恵と知見が脈々と積み重ねられ、ICTの貢献の度合いも深まっていることを感じます。

阪神・淡路大震災時に提供された避難所の地図

阪神・淡路大震災時に提供された避難所の地図
出所:鈴木裕氏 NIFTY-Serve 「震災ボランティアフォーラム」掲載

ICTの陰の部分も

一方で、今回の震災では、ICTの陰の部分も散見されました。
「動物園からライオンが逃げた」「ショッピングモールが火事」「川内原発で火災発生」のようなデマが流れました。東日本大震災の際にも少なからずデマが流れましたが、より悪質さを感じさせるものがありました。災害発生時だからこそ、正しい内容かどうか慎重な対応が必要であることを理解する必要があります。

また、芸能人等の発言に対するいわゆる「不謹慎叩き」のような、ネット上での批判的な書き込みが見られました。個々の論評は避けますが、善意を潰しかねない事態です。炎上に同調するような書き込みは慎むべきと考えます。

また無料Wi-Fiについては、なりすましAPの危険性について指摘もされています。なりすましAPに接続することで情報を窃取されるような危険性は確かにあります。接続時に正式のAPであることが区別しやすいよう災害時のトップ画面の整備を推進したり、Wi-Fiサービス利用終了時にAPの自動接続を解除したりするといった、関係者から利用者への注意喚起も必要そうです。

阪神・淡路大震災時のネット利用においては、少なくとも私自身は、デマのような書き込みは見聞きしませんでした。ICTの活用がそれだけ一般化された結果、メリットと裏腹の課題も生じたということなのだと思います。このような課題に対応を重ねていくことも必要です。

知見と知恵を積み重ねて

総務省は、2020年までに、小中高校すべてにWi-Fi環境を整備する予算を要求する方針と伝えられています。その狙いには、教育・学習における活用に加え、その多くが避難所となる災害時の小中学校の通信環境の確保が含まれています(ただし災害時の利用手順・体制整備や電源確保等の機器環境整備以外の課題対応も不可欠と考えます)。発災直後から避難所の通信環境が確保できれば、災害時に大きな効果を発揮しそうです。

今回の震災では、全国から支援物資が届いても仕分けが追い付かないことや交通渋滞により、避難所になかなか届けられないといった課題が浮き彫りになりました。このような課題に対してICTがもっと貢献できる余地があるように思えます。もちろんそのためにはいろいろな分野の関係者との連携が必要です。

地震国日本。震災は避けられません。その中にあって、個々の被災経験の中で得られた被災者の支援につながる知見は貴重です。今回の震災で、なにが有効に機能し、なにが機能しなかったのか、課題は何であったのか、知見と知恵を積み重ねていくことが重要と考えます。我々含め関係者の検証が待たれるところです。

最後となりますが、今回の被災者の皆さまの安全と一日も早い復興を心よりお祈り申し上げます。

(*1) 大規模災害が発生した際に、Wi-Fiサービスを提供する事業者が災害用として統一のSSID『00000JAPAN』に切り替えた公衆無線LANをすべてのユーザに開放する取組み。詳細はhttp://wlan-business.org/sp_jp

(*2)http://20160414kumamoto.wix.com/community

(*3)http://k-tai.impress.co.jp/docs/interview/20160427_755397.html

(*4)http://gcity2.doc.kyushu-u.ac.jp/gcity-portal/UniversalView/Contents?page=saigai

(*5)http://www.g-motty.net/menu/jishin.php

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