2016年2月10日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

モバイル空白地帯の解消を政策目標に掲げるフランス~カバレッジ目標の監視と公衆電話の廃止を決定づける法律が施行~



今夏、フランスでモバイル事業者にカバレッジ空白地帯の解消を義務付けた法律が施行された。この法律の正式名称は「経済の成長・活動機会均等に関する2015年8月6日付法律第2015-990号」であるが、現職のEmmanuel Macron(エマニュエル・マクロン)経済・産業・デジタル大臣の発議によって制定されたことから、通称「マクロン法」とよばれており、François Hollande大統領政権下のさまざまな経済改革が盛り込まれている。

本法において、インフラ整備の遅れから携帯電話が通じないため「ホワイトゾーン」とよばれる空白地帯の解消を含め、2020年までにモバイル・カバレッジ目標を達成するよう事業者に義務付けることが明記された。

このような政策は、フランス政府が近年取り組んできたユニバーサルサービス制度の見直しの動きと密接に関連している。本稿では、フランスにおけるホワイトゾーンの解消は、携帯電話の普及に伴い衰退の一途をたどる公衆電話の廃止と表裏一体の政策である点に着目して、モバイル・カバレッジに関する最近の動向を紹介する。

ユニバーサルサービス政策の見直し

フランスでは、マクロン法の成立に見られるようにホワイトゾーンの存在が大きな問題となっているが、その出発点となったのはユニバーサルサービス制度の見直しである。

マクロン法案が閣議決定されたのは2014年12月であったが、政府はその約半年前の同年3月に「電子的通信のユニバーサルサービス」の全面的な見直しを実施すると発表した。当時、経済・産業・デジタル省下でデジタル(通信政策)担当大臣であったFleur Pellerin大臣は、Fabrice Verdier下院議員とPierre Camani上院議員に対して、今後のユニバーサルサービス政策に対する提言をミッションとするレポートの作成を委託した。

両議員は有識者へのヒアリングやユーザー調査等の結果を踏まえ、2014年10月に両議員の連名による「電子的通信のユニバーサルサービスの将来に関する国会レポート」(以下、国会レポート)をPellerin担当大臣の後任のAxelle Lemaire担当大臣に提出した。この国会レポートでは、ユニバーサルサービス制度全体に関する考察の結果として、公衆電話の提供義務についての抜本的な見直しを提言した。以下に国会レポートの記述を引用する。

「本レポートの目的は、フランス人の新たな利用状況の観点から、電子的通信のユニバーサルサービスに関する政策レベルを提案することである。(中略)携帯電話は、ユニバーサルサービスの提供範囲からは除外されているが、その普及に伴い、公衆電話に足りない部分を次第にカバーするに至った」(「イントロダクション」より)

なお、フランスではユニバーサルサービスの枠組みに基づいて、各コミューン(フランスの最少行政単位。市町村に相当)に公衆電話を最低1台、人口1,000人を超えるコミューンには2台を設置・維持することが定められているが、それをはるかに上回る公衆電話が運営されてきた。「電子的通信・郵便規制機関 (ARCEP)」の統計によれば、2000年当時の公衆電話の台数は約23万台を数えたが、その後、携帯電話の普及と反比例するように、公衆電話の市場規模は急速に縮小し、2015年6月末現在で約57,000台にまで低下した。また、公衆電話からの発信分数は2000年以降の10年間で約90%低下したと報道されている。図1は2000年から2014年までの公衆電話市場の推移、図2はモバイル市場の推移を示している。

公衆電話市場の推移(2000年~2014年)

【図1】公衆電話市場の推移(2000年~2014年)
(注)発信分数は各年第4四半期の集計値を示す。
出典:ARCEP

モバイル市場の推移(2000年~2014年)

【図2】モバイル市場の推移(2000年~2014年)
(注)モバイル加入数と普及率はSIMカード換算(2012年以降はM2M向けを除く)。
出典:ARCEP

維持不可能な公衆電話サービス

フランスでユニバーサルサービス制度が導入された1997年以来、公衆電話のユニバーサルサービス事業者であるOrangeの公衆電話事業の赤字分を補填するため、毎年、フランスで小売事業を行う通信事業者全体は売上高に応じてユニバーサルサービス基金に拠出するよう定められている。ユニバーサルサービスに関わるコスト算定を主管するARCEPによれば、2013年度の公衆電話サービスの提供のために生じた純コスト(約1,450万ユーロ)はユニバーサルサービス基金全体(約3,590万ユーロ)の約4割を占めている[1]。実際、公道に設置された公衆電話の9割が赤字であると報告されている。一方、Orangeの推定によれば、公衆電話の保守コストや旧型端末の更改費用として最低でも1億~2億ユーロ程度の投資が必要であるという。

このような状況から、Orangeはすでに公衆電話を段階的に撤去している。2015年6月末現在、同社は約57,000台の公衆電話を運営しているが、このうちの約4万台がユニバーサルサービス義務に基づく維持の対象である。ただし、政府が2年ごとに更新してきた公衆電話事業の委託期間は2014年2月で失効し、その後は再委託手続きが取られていないため、現在のOrangeは、自発的に公衆電話事業を運営していると言った方が正しい。

モバイル電話へのアクセス

一方、国会レポートの作成のため実施された有識者へのヒアリングやユーザー意識調査では、国内の公衆電話の一部が破損や故障等で常時利用不可能なことよりも、携帯電話が圏外で接続できない状況を改善してもらいたいというニーズの方が高いことが判明した。以下に国会レポートの記述を抜粋する。

「公衆電話事業者は現在、2つの困難に直面している。一つは既存の公衆電話設備の寿命である。現行のルールが変更されない場合、公衆電話サービスの提供を維持するためには最低1億~2億ユーロという多額の投資が必要である。もう一つは、ユーザーの利用減という問題である。公衆電話は、人々が求めるアクセシビリティには適さなくなった。本ミッションに基づいて実施されたヒアリングの結果、モバイル電話サービスのアクセス・ニーズへの志向が再浮上した。これは、とくに、ルーラル・エリアの人々にとって当然の懸念である」(「公衆電話の更改の必要性」より)

これらの状況から、本レポートの提言として、モバイル電話の普及により衰退する公衆電話に対する義務づけを撤廃し、ユニバーサルサービス提供事業者や基金に拠出する通信事業者全体の負担を軽減する代わりに、国民がより強く望んでいるモバイル電話のカバレッジを拡充し、全国に数多く存在するホワイトゾーンを早急に解消すべきであると勧告している。

【国会レポートの提言】(「モバイル電話サービスから隔絶した公衆へのアクセスを改善するための措置」より)

  • さまざまな分析の結果、インフラとサービスの両面における公衆電話の衰退が明らかとなった。但し、ユニバーサルサービスから公衆電話要素を除外し実際に撤去するには、最良のモバイル・カバレッジの確保、並びに地方代表者との協議を前提とする。
  • 公的機関がユニバーサルサービスとしての公衆電話の撤去を可能とする前に、モバイル・カバレッジを享受していないコミューンを特定するよう求める。実際の撤去方法が明示されない限り、公衆電話サービスの継続性を確保しなければならない。

ルーラル・エリアへのモバイル・カバレッジ拡充のための施策として、同レポートでは3つのオプションを想定している。(1)モバイル事業者の拠出による国土整備基金の創設、(2)モバイル・カバレッジのための新たな課税、(3)既存の「ホワイトゾーン」解消計画の延長上にモバイル事業者間で新たな協定を締結する案である。国会レポートは、さしあたって実施が容易であるという理由から、③のオプションを推奨した。

「ホワイトゾーン」解消計画とは

そもそも「ホワイトゾーン」計画とは、広大な国土を抱え過疎地が多いというフランスの地勢上の特性から、採算が見込めないルーラル・エリアを「優先的展開ゾーン」(人口の18%、本土面積の63%相当)に指定し、2022年までに計画的に整備するため、モバイル事業者と政府・地方自治体の間で2003年と2010年に締結された協定を指していた。但し、当時の協定には計画を順守しない事業者への制裁規定はなく、したがって事業者の整備状況にバラつきが生じていた。2014年のARCEPの報告でも、優先的展開ゾーンに関するOrangeの整備状況は25%、他の事業者は1%台にすぎないことが指摘されていた。

なお、本計画の枠組みにおける「ホワイトゾーン」とは、ネットワーク事業者が1社もカバーしていないエリア(コミューン単位)のことである。規定上、一つのコミューンの中心部 (centre-bourg) から半径500mの範囲で行われた事業者別の測定調査の結果、音声通話成功率が50%超だった場合、そのコミューン全体がカバーされているとみなされる(国会レポート「付属資料」より)。

国会レポートでは、事業者任せでは進展しないホワイトゾーンの解消に取り組むことが公衆電話の撤去の前提条件であると指摘している。

「公衆電話の撤去が実施される場合、とりわけ歩行者にとって通信手段のないエリアが存在しないよう留意しなければならない。公衆電話ボックスの撤去とモバイル・カバレッジの改善との間の有機的結合は、実際、国土全体における電話サービスのアクセシビリテイを維持するのに不可欠な要素である。ユニバーサルサービス基金に拠出する通信事業者全体が、全国民に対する新たなホワイトゾーン計画への資金拠出に貢献するのは当然である」(「ユニバーサルサービスとしての公衆電話の廃止条件」より)

すなわち、衰退した公衆電話の引退を宣言して、公衆電話が果たしてきた役目を携帯電話に負わせるという表裏一体の政策を「有機的結合」と称している。報道では、モバイル事業者4社(Orange、SFR、Bouygues Telecom、Free Mobile)が新たなホワイトゾーン計画で必要とされる投資額は年間4,000万ユーロに上ると指摘されている。なお、この見積額には当初のホワイトゾーン計画からは漏れていたが、テーマパークや国立公園等の特定のルーラル・エリアとして追加された約800カ所に対するカバレッジ費用が含まれている。

携帯電話をユニバーサルサービスに含む改正法案は不成立

半年以上に及ぶ国会審議を経てマクロン法が2015年8月に成立し、モバイル電話が公衆電話に代替する道が法的に開かれた。しかし、それより以前に、ユニバーサルサービスにモバイル電話を含めるよう改正する動きがあったことについても触れておきたい。

2014年9月に、Eervé Maurey(エルベ・モレ)上院議員は、モバイル電話をユニバーサルサービスへのアクセス手段に含めるため、「郵便・電子的通信法典」(フランスの通信基本法に相当)の条文を改正する旨の法案を提出していた。結局、上院議員の改選時期に当たっていたこともあり、この法案が成立することはなかったが、同議員が法案を提出した動機として、以下が挙げられていた。

  • 携帯電話が恒常的に利用されている証拠として、今や、ブロードバンド・アクセスと同様、水道や電気と同じように日常に不可欠なコモディティとなっている(注:2014年3月現在の携帯電話の人口普及率は7%)。
  • モバイル展開において県単位のカバレッジ義務が課されているとはいえ、 普及が飽和状況にある「ハイパー・コネクテッド」な都市エリアと、「デジタル砂漠」のレベルに陥っているルーラル・エリア間でより大きな格差が生じている。デジタル・デバイドの新たなリスクが存在することは明らかである。
  • このような状況に直面して、現在最も効果的かつ野心的なソリューションがある。それは、すべての人々へのモバイル電話の接続および利用を妥当なコストで可能にするよう、モバイル電話へのアクセスをユニバーサルサービスに含めることである。

マクロン法の骨子

前述の国会レポートの提言を取り入れた形で、2015年初めから国会審議にかけられたマクロン法案において、ユニバーサルサービス提供義務から公衆電話を撤廃する条項とともに、モバイル・カバレッジのスケジュール順守に関する条項が盛り込まれた。過去の協定の反省点として、事業者のインフラ整備計画が順守されない場合のARCEPの制裁権限に関する条項も明記された。

8月6日に成立したマクロン法の主要措置を解説する広報資料を見ると、「モバイル・カバレッジはコミューン全体に適用されなければならない。ホワイトゾーンのモバイル・カバレッジは2016年末」と題するスローガンが掲げられており、以下の記述がある:

  • 携帯電話 (2G) へのアクセスを持ったことのないコミューンは、2016年末までにカバーされる。見落としがないようにするため、新たな調査を実施する。
  • モバイル・インターネット(3G以上)でカバーされていないコミューンは、2017年半ばまでにカバーされる。
  • 一つのコミューンがカバーされたとみなされていても、実際は中心部から離れた場所にある800カ所の特定のエリアについては、2016年から4年かけてカバレッジ展開される。政府は、当該エリアへの財政支援を行うため、2016年初めから地方自治体に支援窓口を設置する。
  • ARCEPは、今後、約束を順守しない事業者を処罰できる。

事業者協定の締結

マクロン法を策定したMacron経済・産業・デジタル大臣は、モバイル・カバレッジの100%達成はフランス経済の優先事項であると公言し、とりわけ本テーマに意欲的に取り組んできた。マクロン法案が国会審議中であった2015年4月から5月にかけて、同大臣は、4社 (Orange、SFR、Bouygues Telecom、Free Mobile) の代表を官邸に召集し、早急にカバレッジ協定を締結するよう求めたと報道されている。この協議中、業界トップのOrangeは、最も多額の資金を負担することになるが、地方自治体の期待に応えるために1社単独でもカバレッジを達成する意欲を表明したという。こうして、5月21日には、難航した事業者間協定が政府との約束事項として締結された。

マクロン法の施行後、ホワイトゾーンを抱えるコミューンに関する再調査が行われ、その結果が2015年11月に官報で発表された。それによれば、少なくとも242カ所のコミューンでは、携帯電話 (2G) の世界から完全に隔離されていることが確認された。これらの地域は、マクロン法の規定に従い、2016年末までに事業者によってカバーされる。また、3Gに接続できない2,200カ所のコミューンは2017年6月末までにカバーされる。前述のとおり、800カ所の特定のエリアも2020年までにカバレッジを完了させる必要がある。


ここで、ホワイトゾーンのカバレッジが遅れた背景について簡単に言及しておきたい。想定される理由として、これは欧州経済全体の傾向でもあるが、この数年間、フランスの事業者が業績の急激な低下に直面してきたことが挙げられる。例えば業界トップのOrangeの財務状況を見ると、2010年から2014年末までは5期連続で減収であり、2010年当時は48億7,700万ユーロの純利益を得ていたのに対し、2014年の純利益は12億2,500万ユーロと約1/4にまで縮小している。この数年間の欧州規模の経済危機、また、国内では2012年1月に第4の事業者として市場参入したFree Mobileによる低価格競争のショックから立ち直り、Orangeの業績が回復傾向となったのは、2015年に入ってからのことである。業界第2位のSFRがNumericableと合併したのも業績悪化が要因であり、Orangeとの合併の噂が絶えないBouygues Telecomについても同様である。

モバイル・カバレッジの新たな課題

モバイル・カバレッジの問題は、現政権の通信政策にとって最重要テーマのひとつである。ARCEP の最近のレポートによれば、2015年7月現在、2Gカバレッジが最大のネットワーク事業者はOrangeであり、人口の99%と本土面積の98%をカバーしている。3Gに関してはOrangeとSFRが若干先行しており、Free MobileとBouygues Telecomが追随している。4Gについては、Orangeが76%、Bouygues Telecomが72%、SFRが58%、Free Mobileが52%である。したがって、2015年10月までにすべての4G事業者が人口の25%をカバーするという当初の目標は達成された。表1は、4G免許の人口カバレッジ・スケジュール(過疎地/県/本土別)を示しており、図3は2015年7月現在の事業者別の2G/3G/4Gモバイル・カバレッジの達成状況である(ARCEP、2015年12月発表)。

4G免許の人口カバレッジ・スケジュール

【表1】4G免許の人口カバレッジ・スケジュール
(注)1. 4G免許(800MHz、2.6GHz帯)の割当手続きは2011年と2012年に実施された。
2. 「優先的展開ゾーン」として、人口密度の低い地域(人口の18%、本土の63%に相当)が指定された。
3. 4G展開で初めて「県」単位のカバレッジ義務が課された。
出典:ARCEP

事業者別の2G/3G/4Gモバイル・カバレッジの達成状況

【図3】事業者別の2G/3G/4Gモバイル・カバレッジの達成状況
出典: ARCEP, “Rapport sur l’effort d’investissement des opérateurs mobiles”(2015.12.3)

事業者別の2G/3G/4Gモバイル・カバレッジの達成状況のデータ再掲

※上記の図3のデータの再掲

ARCEPのSébastien Soriano委員長は、11月18日に下院の経済問題小委員会の場で規制機関のトップとして発言する機会があった。主要なテーマとして、ARCEPが最近着手した戦略的見直しに関する質疑応答が想定されていたが、地方議員からの質問は、モバイル・カバレッジとホワイトゾーンの問題に集中した。地方議員は、事業者が公表するカバレッジ地図にはユーザー見地から大いに失望していると述べ、「カバレッジ地図には国民の感覚とのギャップがある。地図どおりであれば人口の99.98%はカバーされている」と指摘する。ARCEP委員の一人の批判的な言葉を借りれば、「カバーされていない0.02%に極めて多数のコミューンが含まれているらしい」。

グレーゾーンの問題

ARCEPにとって当面の問題はカバレッジ・エリアとされているが、実際には接続品質の劣る「グレーゾーン」の存在が問題である。上記のARCEP委員は「グレーゾーンの問題は極めて重要な分野であり、モバイル・カバレッジ地図を改善させるために2016年から取り組むことになろう。今後、ARCEPは、カバー済みか否かで白黒を付けるのではなく、サービス品質により合致したモバイル・カバレッジ・データの収集ツールを開発したい」と述べている。

[1]公衆電話サービスの提供要素を除くと、2013年度のユニバーサルサービスに関わる純コストの内訳は、固定電話サービスの維持に約2,040万ユーロ、電話帳および情報案内サービスの提供に約100万ユーロと算出されている。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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