2023.6.13 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

データセンター市場動向2023 ~成長とグリーン化、立地場所の選択

データセンター市場の規模は引き続き拡大している。Gartnerの2022年7月の発表によれば、2023年の世界のデータセンターシステムへの投資額は、2,220億ドル(対前年比4.4%増)と見込まれている[1]。COVID-19(新型コロナウイルス感染症)感染拡大による需要減の反動を受けた2022年の成長率(同11.1%増)には及ばないものの成長は続いており、市場をリードするハイパースケーラーによるものを中心として、データセンターの新規開設も引き続き活発である。一方で、電力供給やグリーン化の問題に関連して、データセンターの建設抑制の動きが見られるほか、一部の部材の供給不足によるサプライチェーン問題も依然続いており、ハイパースケーラーが求める、大規模データセンターによるスケーラビリティの実現には若干影が差している。また、顧客動向としても、最近では機能の制約や各種規制に加え、コスト上の理由から、パブリッククラウドの利用を控え、従来型のデータセンターやプライベートクラウドにシステムを移行する動きも出てきている。

そこで、本稿では、2022年6月号の拙稿(「データセンター市場動向2022~市場の拡大と電力問題」)に引き続き、データセンター事情の動向に着目し、グローバルでの主要事業者の動きについて報告するとともに、市場拡大につながる動きと課題、そしてさまざまな課題に対するネットワーク機能の高度化による解決の可能性について、データセンターの立地場所の選択(Site Selection)に焦点を当てつつ検討したい。

市場動向

データセンター市場の拡大はさまざまな指標から確認することができる。Synergy Research Groupの報告によれば、前述の投資額のほか、ハイパースケールデータセンターの数、キャパシティにおいても、大手クラウド事業者であるAmazon、Microsoft、Googleの3社に牽引され、、2022年の成長率は対前年比で10%を超えたと見込まれている[2]。ハイパースケールデータセンターのキャパシティの成長率が軒数の成長率を上回っており、これは、1軒当たりの規模が拡大していることを示すものと考えられる。

クラウドサービスへの支出も引き続き増加している。Synergy Research Groupによれば、2022年の企業のクラウドインフラストラクチャーサービスへの支出は前年比470億ドル増となった[3]。2021年には490億ドル増だったことから、金額的には同規模を確保した。とはいえ、成長率としては減速である。各社の2022年第3四半期決算については2022年12月号(「Every cloud has a silver lining?」)で触れたが、ここでは各社が2022年以降大規模なレイオフを行っていることに触れておきたい。報道によれば、Amazonは2022年11月、2023年1月、3月合わせて27,000人、Microsoftは2023年1月に10,000人、Googleの親会社であるAlphabetも2023年1月に12,000人のレイオフを行っている。これらがクラウド事業だけではなく、各社の他事業によるものを含むことには留意が必要だが、各種報道によれば、成長を続けているクラウド事業も例外ではなかったとされている。経済情勢の影響による一時的な減速もあるだろうが、これまでのような成長を謳歌できるかの分水嶺に立っている可能性もある。

大手クラウド事業者の事業展開

ここでは、大手クラウド事業者のデータセンターとサービスに関する動き、特にエッジコンピューティングや通信サービスへの進出に関するものと、並行して進める各社のグリーン化について個別に見ておきたい。

AWSは、2023年5月9日現在、31リージョン、99のアベイラビリティゾーンを展開しているほか、15のアベイラビリティゾーンの展開計画を公表している。エッジコンピューティングに関しては、同社は400以上のエッジロケーションと13のリージョナルエッジキャッシュを持つのに加え、超低レイテンシ(遅延)が求められるアプリケーション向けに29のWavelength Zoneを提供している。ネットワーク関連サービスの提供にも意欲的で、2022年8月にはプライベートLTEネットワークサービス「AWS Private 5G」の米国での一般提供を開始しているほか、同年11月に3年ぶりに米国ラスベガスで通常開催した年次イベント「AWS re:Invent 2022」では、ユーザーのシステムにセキュアなリモートアクセスを提供し、VPNを不要とする新サービス「AWS Verified Access」(プレビュー)を発表している。また、2023年2月には、同社は通信ネットワークをAWS上でデプロイ、運用、拡張する顧客を支援するフルマネージドサービスである「AWS Telco Network Builder」の一般提供を開始したと発表した[4]。クラウド上に構成された運用可能な通信ネットワークのデプロイに要する時間を数日から数時間に短縮するとしている。グリーン化に関しては、AWSは、2023年4月、エネルギー企業Iberdrolaと風力発電と太陽光発電の電力購入契約(Power Purchase Agreements:PPAs)を締結したと発表した。欧州では、ドイツでIberdrolaが保有する2つの洋上風力発電所がAmazonに電力を供給するとされている。なお一方で、IberdrolaがAWSのユーザーとなることも発表されている[5]

Microsoftは、2023年5月9日現在、60以上のリージョンを展開しており、200以上のデータセンターを有しているとしている。2022年8月には、新たなリージョンをカタールのドーハでオープンしたと発表した(ただし、「60以上のリージョン、200以上のデータセンター」の表現は昨年から変わっていないように見える)。また、2023年2月には、「Microsoft Azure Operator Nexus」(プレビュー)を発表するなど、「Azure for Operators」の拡充を発表した。ミッションクリティカルなモバイルネットワークアプリケーション向けに構築された通信事業者レベルのハイブリッドクラウドプラットフォームで、新しいネットワークサービスのプロビジョニングを簡素化し、オンプレミスのネットワーク機能とアプリケーションのデプロイを最適化するとしている[6]。一方、グリーン化に関しては、2022年11月に、アイルランドで900メガワット以上の新しい再生可能エネルギー電力容量分のPPA締結を発表している。同社が2025年までに全電力を再生可能エネルギーに移行する契約であり、これは同社のデータセンター等で消費される、炭素排出を行う電力分すべてについてPPAが締結されることを意味している[7]

Googleは、2023年5月9日現在、36のリージョン、109のゾーンを展開しており、176のネットワークエッジロケーションを有している。2023年3月にはイタリアのトリノ、カタールのドーハでリージョンを開設した。2023年4月には千葉県印西市で自社データセンターを開設している。また、これに先立ち同年2月には「Telecom Network Automation」(プレビュー)を発表した。これにより、クラウドインフラとネットワーク機能の5G展開と管理を自動化するとしている。Telecom Network Automationは、Linux FoundationのオープンソースプロジェクトであるNephioをGoogleの管理の下、クラウド実装したものである[8]。また、グリーン化に関しては、2023年3月、ベルギーとオランダで、陸上と洋上の風力発電プロジェクトで得られた再生可能エネルギーに関するPPAを締結したと発表した。これにより、2024年には両国事業の80%近くがカーボンフリーエネルギーで運営されるとしている[9]

このように、各社は従来のクラウドサービスを拡大するとともにエッジコンピューティングや通信サービスを強化しており、各地でリージョンの開設を進めている。このことが、(各社の自社構築か否かを問わず)データセンターの拡大、増加につながっている。そして、各社は大規模設備によるスケールメリットを求めていることから、ハイパースケールデータセンターへの需要が増加している。また、各社が目指す目標に沿ったグリーン化も進められている。

大手データセンター事業者の事業展開

大手データセンター事業者についても見ておきたい。Equinixは5月3日に2023年第1四半期決算を発表したが、売上高は前年同期比15%増加し20億ドルとなった。2月にはスペイン・バルセロナでの新たなデータセンターの開設を発表しているほか、ハイパースケーラー向けにJV(合弁会社)で実施しているxScaleプロジェクト10件が進行中であるとしている[10]

Digital Realtyは4月27日に2023年第1四半期決算を発表している。売上高は13 億ドル、前年同期比19%増となった。また、期中に大阪で新たに用地を取得したことも発表している(JVであるMCデジタル・リアルティによる)[11]

建設抑制の動き

2022年6月号で、データセンター建設抑制の動きについて報告した。ここでは、その後の動きについて紹介したい。

アイルランドでは、2021年時点で、データセンターが使用する電力量の全電力消費に占める割合が14%に達しており(図1)、国営の送電網運営事業者EirGridは、これが2028年までに29%に達する可能性があると予測している。EirGridは2022年以降、データセンター事業者の電力系統への接続を抑制する事実上のモラトリアム(一時停止)を実施している。また、データセンターをガスネットワークに接続することでモラトリアムを回避する動きがあり、政府がこれらの抑制を図るといった事象も出ている[12]

【図1】アイルランドの電力消費に占めるデータセンターの割合

【図1】アイルランドの電力消費に占めるデータセンターの割合
(出典:アイルランド中央統計局, Data Centres Metered Electricity Consumption 2021(2022/5)https://www.cso.ie/en/releasesandpublications/ep/
p-dcmec/datacentresmeteredelectricityconsumption2021/keyfindings/)

同国議会では、2023年に入ってからも、電力問題に関連して、データセンターのあり方について活発に議論が行われており、これには、データセンターの電力需要の急激な増加によって問題が悪化しているにもかかわらず、政府はデータセンターに「レッドカーペットを敷いている」との批判も含まれている[13]

シンガポールでも、2019年からデータセンターの新設にモラトリアムを課してきた。このモラトリアムは2022年に終了したが、新設を認める条件として新しい基準を示した。これには、より持続可能なエネルギーの使用、より効率的な冷却方法、より高いエネルギー効率など、よりグリーンな運用が含まれるほか、シンガポールの国際的な接続性を強化し、地域のハブとしての役割を強固にすること、シンガポールの広範な経済目標に合致するものであることが求められている[14]

都市に集まるデータセンター

データセンターは都市またはその周辺部に設置されることが多い。日本を見ても、データセンターは関東・関西に集中している(図2、図3参照)。米国においても、東部、西部など主要都市の周辺部に多くのデータセンターが集積している。欧州ではFLAP(フランクフルト、ロンドン、アムステルダム、パリ)もしくはFLAPD(FLAPにダブリンが加わる)がデータセンターの大市場とされる。また、前述したアイルランド国内に関してみても、同国内には少なくとも70のデータセンターがあるが、そのうち65はダブリン地域にあるとされている[15]。「周辺部」の範囲(都市中心部からの距離)は地域によって異なるものの、データセンター立地においては、社会活動が活発な都市部とその周辺が選好されている。

【図2】日本のデータセンター数(軒数)の内訳

【図2】日本のデータセンター数(軒数)の内訳
(出典:富士キメラ総研「データセンタービジネス市場調査総覧2022年版 市場編」を基に情報通信総合研究所作成)

【図3】日本のデータセンターの総床面積の内訳

【図3】日本のデータセンターの総床面積の内訳
(出典:富士キメラ総研「データセンタービジネス市場調査総覧2022年版 市場編」を基に情報通信総合研究所作成)

このようにデータセンターの立地場所として都市とその周辺部が好まれるのはなぜか、自明かも知れないが、改めてみておきたい。データと、それを格納している機器は、事業活動の場の近くに置きたいとの根強い需要がある。すべてを手許(例えば本社と同一の建物内など)に置くのは非効率であるため、データセンターやクラウドにデータを置き処理するのだが、それでも、その設置場所は近くであることが好まれる。これは、主として以下の理由によるものと考えられる。

(1) 機器を設置、操作する際に、近くにある方が、人が行き来しやすいこと

(2) 近くにある方が、高速、高品質なネットワークが安価に利用できる(可能性が高い)こと

まず(1)について、データセンターにデータを置く場合でも、立ち上げの際や障害発生時など、いざという時に現地に行く必要が発生することがある。その際に、事業所から遠く離れていると、すぐに駆け付けることができず対応が遅れ、それだけ事業にとってのコストや障害発生時のリスクが増すことになる。また、データセンター、クラウド事業者から見ても、有スキル人材を確保するにも、都市部の方が一般に有利である。日本においては、東日本大震災など、さまざまな災害の経験から、大規模災害で公共交通や車が利用できない場合でも、場合によっては歩いてでもアクセスできる場所であることがアピールされることもある。

(2)について、データを利用する際に、ネットワーク経由でアクセスする場合であっても、事業を行っている場所(自社のある場所、顧客のいる場所)から近い方が、一般的に、高速、高品質なネットワークが利用しやすい。長距離になればレイテンシも大きくなり、費用も上がりがちとなるし、事業者や機器構成も複雑になりやすい。また、主要なIXも都市部にあることが多いことから、インターネットによるビジネスを行う場合でも、IXと近い方が、事業所との接続環境が良いだけでなく、他のクラウドサービスやサーバーなども利用しやすくなる。

調査によれば、地方のデータセンターへ移行できない場合の理由として、「気軽にデータセンターへ訪問できない」という回答が最も多く(約58%)、次いで「通信速度の遅延」(約36%)、「地方には満足なファシリティスペックを満たすデータセンターがない」(約26%)、「センターまでの長距離化による通信コストの増加」(約23%)が挙げられている。

(富士キメラ総研「データセンタービジネス市場調査総覧2023年版 《ベンダー戦略編》」で、地方データセンターへの移行ができないと答えた回答者が挙げた理由)

データセンター立地の条件

これらの条件を満たすには、都市にデータセンターがあることが望ましい。しかし、他の不動産と同様、都市中心部で大規模な土地や建物を確保するには大きなコストがかかる。また、そもそも希望する設備、電力などが確保できないこともある。

最近のデータセンターは、これらのバランスを考慮した場所に設置されている。例えば、日本で印西市がブーム(「INZAI」がブランド化しているとの指摘もある[16])なのは、これらの条件をバランスよく満たすからと考えられる。

ただし、データセンター好適地がどこになるかは、市場によって異なる。ある大手クラウド事業者は、2022年に行った筆者のインタビューに対し、都市から30マイル(≒48.3km)程度が許容範囲と述べたが、世界各地ではこれより遠い場所に大規模データセンターを設置しているケースもある。また、ある場所が都市中心部、周辺部、地方のどの役割に当たるかも、市場によって異なる。例えばFLAPでは、それぞれの都市において都市中心部や周辺部にデータセンターがあるが、ダブリンやマドリッド等の他の都市のデータセンターは、それら自体大都市にありつつも、これらFLAPや、その他欧州全体に対して、日本における印西市のような周辺部データセンターの役割も担っていると考えられる。

データセンターの立地選定に当たっては、都市中心部、周辺部、地方を問わず、電力の問題も大きい。まず、現地で十分な電力供給が得られる必要があるが、その容量がない場合、新たなリソースを確保せねばならない。また、容量があっても供給に必要な設備がない場合もあるし、供給のためのルートの調整、場所の確保、工事やその費用負担(受電側が負担を求められる場合もある)も問題となる。筆者が複数の関係者にインタビューしたところ、日本では、特別高圧受電までのリードタイムとして、これらの調整や工事に2年から4年を要することもあるとのことだ。先に挙げたダブリンでも、地域における安定的な電力供給(停電が発生しないこと等)が課題として議論されている。

さらに、上述のようなグリーン化の問題が加わる。大手クラウド事業者、データセンター事業者とも、それぞれ環境負荷軽減に関する明確な目標を掲げており、それを達成せねばならない。また、先に述べたアイルランド、シンガポールを含む各国も(もちろん日本も)国としての目標を持っている。そのような中、各社が各国(地方政府を含む)の政策や規制に従いつつ事業拡大を図るのは容易でないとみられる。上に述べたように、各社ともいわゆる再生可能エネルギーの導入を進めているが、例えば、2023年3月28日に発表されたS&P Globalのレポートによると、データセンター事業者が米国で契約した再生可能電力量は1年間で50%増加し、データセンターは現在、米国内の企業が利用できる再生可能電力の3分の2を消費しているとされている。各社が調達を進めた結果、各国の再生可能エネルギーリソースがデータセンターに寡占されるのではないかとの懸念も生まれている[17]

これまでに延べてきたデータセンターの立地場所(特に新規需要の大きいハイパースケールデータセンターの立地場所)に関する条件を整理すると、以下の各点が挙げられる。

  • 用地、建設(コスト、規模確保と拡張可能性、災害リスク、自然環境)
  • ネットワーク(レイテンシ、通信容量、コスト、冗長性、IX等への接続環境)
  • 電力(容量、コスト、リードタイム、冗長性、安定性、グリーン化)
  • 人材(有スキル人材の確保)
  • その他(水使用、国や地元の規制や協力(許可、税制等)、その他社会情勢)

データセンター立地場所の選択に当たっては、すべての条件が関係するが、地域によって特に問題になること、ならないことが存在する。また、上記はあくまで代表的なものであり、地域等によっては、他の条件も考えられる。

データセンターを置くべき場所

データセンター市場は拡大を続けているが、上記の条件を満たす場所は決して多くはない。筆者が2022年に不動産関係者に対し行ったインタビューでも、データセンターが作れる場所は相当限られているとのコメントがあった。

データセンターを地方に移してはとの議論もある。日本では「デジタル田園都市国家インフラ整備計画」において、データセンターの地方分散が求められるとして、地方データセンターと海底ケーブルの整備を進めるとしている。しかし、経済産業省・総務省資料[18]でも、日本では、B2Cビジネスにおいて、地方はハイパースケールデータセンターの立地の検討の範囲外となっていること、B2Bビジネスにおいても、地方のデータセンターは、ハイパースケール事業者が提供するパブリッククラウドサービスのように大きな需要を取り込めていないことが指摘されている。

ちなみにアイルランドでも、ダブリン圏外(地方)でのデータセンター建設を求める議論があったようだ。しかし、AWS、Microsoft、Google3社が揃って地方移転に否定的な見方を示した経緯がある。

もちろん、政府の支援や、例えば再生可能エネルギーの安定供給の重要性の増加などにより、前述の条件のバランスが変わる可能性もあるが、人のアクセスの問題もあり、現時点では、ハイパースケールデータセンターの地方移転は難しく、当面、地方データセンターの(地元需要を除く)主たる役割としては、頻繁な人のアクセスを要しないバックアップなどが中心となるのではないだろうか。なお、各国の動向を見ると、都市部や周辺部でのデータセンター立地を強力な規制で抑制したとしても、データセンターは同一国内の地方にではなく、(法的理由等でその国に置かざるを得ないデータだけを残して)より有利な条件を提供する他国に移転されてしまう可能性があることにも留意が必要と考えられる。

もう一つの方向性として考えられるのが、大規模化に関し一定の妥協をしながら、複数の中規模データセンターを活用することである。この場合、データセンター間を高速、大容量ネットワークで接続することにより、複数のデータセンターを、あたかも1つのデータセンターのように扱うことが考えられる。データセンターの規模が小さくなれば、人の確保やアクセスがしやすい都市中心部や周辺部での用地確保が容易になるし、電力の問題も少なくなる(一般的に、受電容量が小さければリードタイムも短くなる)。これにも建設や施設管理のコストといったトレードオフは存在するものの、より大きな課題を解決できる可能性があるのではないか。ハイパースケールデータセンターがなくなることはないだろうが、それだけでなく、都市に近い場所にある中規模データセンターを含めた規模拡張を行い、システム全体としてデータの置き場所や処理する場所を最適化できれば(高速なネットワークがあればこれらを分けることも可能である)、エッジコンピューティングに代表される超低レイテンシのニーズも満たせることもあり、より効率的かつ柔軟なデータ活用が可能となるかもしれない。

ハイパースケーラーがデータセンター市場の主導権を握り、データセンターが大都市基点で展開される状況は少なくとも当分続くであろうが、大容量、高速、高機能なネットワークが低廉かつ迅速、高信頼で(リードタイム、冗長性も重要である)提供可能になれば、データセンターを置くのに適した場所(place to be)も変わるかも知れない。

他社および情報通信総合研究所の調査によれば、法人ユーザーにおけるクラウド化は依然進んでいるものの、パブリッククラウドを利用するか、データセンターやプライベートクラウドを利用するかはフラットに判断するとの傾向がはっきりしてきている。一時のデジタル、クラウドバブルは一段落した感がある。ビジネスの拡大とコストや電力供給、環境負荷などの課題を考慮したバランスが求められる中、データセンターにおいても、さらなる市場の拡大とともに、最適解の模索が続くものと思われる。引き続き報告したい。

  1. Statista, Information technology (IT) spending on data center systems worldwide from 2012 to 2023(2022/7), https://www.statista.com/statistics/314596/total-data-center-systems-worldwide-spending-forecast/
  2. Synergy Research Group, Total Public Cloud Revenues Jumped 21% in 2022 Surpassing $500 Billion Despite Economic Headwinds (2023/1)
    https://www.srgresearch.com/articles/total-public-cloud-revenues-jumped-21-in-2022-surpassing-500-billion-despite-economic-headwinds
  3. Synergy Research Group, Cloud Spending Growth Rate Slows But Q4 Still Up By $10 Billion from 2021; Microsoft Gains Market Share(2023/2)
    https://www.srgresearch.com/articles/cloud-spending-growth-rate-slows-but-q4-still-up-by-10-billion-from-2021-microsoft-gains-market-share
  4. AWS, Announcing AWS Telco Network Builder (2023/2)
    https://aws.amazon.com/about-aws/whats-new/2023/02/aws-telco-network-builder/
  5. Iberdrola, We announce a partnership with Amazon to accelerate a cleaner, smarter energy system(2023/3)
    https://www.iberdrola.com/press-room/news/detail/we-announce-a-partnership-with-amazon-to-accelerate-a-cleaner-smarter-energy-system
  6. Microsoft, Azure Operator Nexus Preview,
    https://azure.microsoft.com/en-us/products/operator-nexus/
  7. Microsoft, As the world goes digital, datacenters that make the cloud work look to renewable energy sources(2022/11)
    https://news.microsoft.com/europe/features/as-the-world-goes-digital-datacenters-that-make-the-cloud-work-look-to-renewable-energy-sources/
  8. Introducing Telecom Network Automation: Unlock 5G cloud-native automation with Google Cloud(2023/2)
    https://cloud.google.com/blog/topics/telecommunications/introducing-telecom-network-automation/
  9. Google, Our progress in stewarding clean energy in Europe(2023/4)https://blog.google/around-the-globe/google-europe/clean-energy-progress/
  10. Equinix, Equinix Reports First-Quarter 2023 Results (2023/5)
    https://investor.equinix.com/news-events/press-releases/detail/1000/equinix-reports-first-quarter-2023-results
  11. Digital Realty, Digital Realty Reports First Quarter 2023 Results(2023/4)https://investor.digitalrealty.com/news/news-details/2023/Digital-Realty-Reports-First-Quarter-2023-Results/default.aspx
  12. Datacenter Dynamics, 11 data centers in Dublin set to rely on Ireland’s gas network for power(2023/4)https://www.datacenterdynamics.com/en/news/11-data-centers-in-dublin-set-to-rely-on-irelands-gas-network-for-power/
    Baxtel, Republic of Ireland: Tech giants secure gas hook ups for 11 new data center generators in Ireland(2023/4)https://baxtel.com/news/tech-giants-secure-gas-hook-ups-for-11-new-data-center-generators-in-ireland
  13. Dáil Éireann(アイルランド議会下院), Dáil Éireann debate -Tuesday, 7 Mar 2023 Vol. 1035 No. 1
    https://www.oireachtas.ie/en/debates/debate/dail/2023-03-07/13/
  14. Straits Times、Data centres plan to green operations with hydrogen power(2023/4)https://www.straitstimes.com/singapore/data-centres-plan-to-green-operations-with-hydrogen-power
  15. Business Plus, Digital Realty's Tom Gorman wants better data centre education(2023/4), https://businessplus.ie/news/digital-realty-ireland-tom-gorman/
  16. 日経XTECH「GAFAも引き寄せるデータセンター銀座「INZAI(印西)」」https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01422/
  17. S&P Global, Datacenter companies continue renewable buying spree, surpassing 40 GW in US(2023/3), https://www.spglobal.com/marketintelligence/en/news-insights/research/datacenter-companies-continue-renewable-buying-spree-surpassing-40-gw-in-us
  18. 経済産業省, デジタルインフラ(DC等)整備に関する有識者会合 第4回事務局説明資料(2023/3)https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/joho/conference/digital_infrastructure/0004.html

※閲覧はすべて執筆時点(2023年5月)である。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。

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