2020.9.7 5G/6G イベントレポート ICR研究員の眼

幻のMWC2020、変わる世界の通信業界(4)新型コロナが作った5Gニーズ

新型コロナウイルス感染対策のため、開催中止となった「MWC2020」をネタに行った鼎談の第4回目。

<出席者プロフィール>

クロサカタツヤ 氏
株式会社企 代表取締役、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授
通信・放送セクターでの経営戦略、事業開発を中心としたコンサルティング、官公庁プロジェクトの支援等、幅広く手掛ける他、総務省等の政府委員を務める。
近著『5Gでビジネスはどう変わるのか』(2019年)

堀越 功 氏
日経BP 日経クロステック 先端技術 副編集長 
メディアの立場から、世界の情報通信を世の中に伝え続けてきた、屈指の存在。
日経クロステック(オンラインメディア)「堀越功の次世代通信羅針盤」にて最新動向を連載中。

岸田重行
株式会社情報通信総合研究所 ICTリサーチ・コンサルティング部 上席主任研究員
情報通信に特化したリサーチ・コンサルティングの立場から、長く世界のモバイル通信を中心にフォロー。MWCには、1998年より(その前身「GSM World Congress」に)参加。講演、寄稿、出演等多数。 (研究員紹介)

 

「幻のMWC2020、変わる世界の通信業界(3)」のつづき。

10. 新型コロナが作った5Gニーズ

堀越社会課題解決という面では、特に中国の事例なんかがよく言われてますけど、まあ街全体を『スマートシティ化』する話がありますね。

岸田いや、中国、まあ今回コロナウィルスの話があって、武漢とかの都市で、なんか2泊3日位で病院が出来ちゃったりする、みたいな話があるじゃないですか?あれのいくつかって、5Gガッツリ入っているんですよね。

クロサカ火神山病院、雷神山病院ですね。

岸田でそこは、例えば中国移動とか、ファーウェイとか、まあその通信をやっている企業が、全面協力で色んなものを入れていく、と。だから「いきなり、プレハブ病院が出来ました」っていう話じゃなくて、あれ自体がもう、その5Gを、ありきの最新鋭の病院に、医療になっている、と。

株式会社企 代表取締役 クロサカタツヤ 氏(中)と、 日経クロステック副編集長 堀越 功 氏(右)、 ICR 上席主任研究員 岸田重行(左)

株式会社企 代表取締役 クロサカタツヤ 氏(中)と、
日経クロステック副編集長 堀越 功 氏(右)、
ICR 上席主任研究員 岸田重行(左)

 

堀越スマートホスピタルが出来てしまっている、と。

岸田いきなり、いきなり建物から箱が出来ましたと。で、ニーズはある訳ですよ。ニーズはあります、間違いなくあります、と。これは早く対応しなければいけない、と。

クロサカうん。

岸田という意味では、今、中国で起こっている事、病院がいきなり5Gピカピカのものが入ったものが出来ていて、それが『従来の病院と違う事が出来ました』となると、これは、コロナがニーズ作ったみたいな世界で、禍転じて、みたいな例になるかもな?みたいなタイミングになると思うんですね。で、コロナの話が、まあ今こうですけど、どこで収束かもあるんですけど、まあ似たような話は、今後もしかしたら、ちょこちょこ来るかも知れない。

堀越うん。

岸田日本で地震が起こるとかと一緒で。まあ、自然災害に近い広がり方をしちゃうと。人が止められないとなれば。となると、それを転機とかチャンスに、出来るんだったら、そこに『ニーズが』っていう話は、出来たら良いなと思うんですよねぇ。

堀越ホントねぇ、日本はこれだけ‘課題先進国’と言われているのに、もっともっと出来る事があると思うんですけどねえ。中国のその逞しさを見る限り。日本はなかなか足が遅い。1歩踏み出せていないなあという感じはあります。

岸田今の現時点でも進行形なんですけど、そのまあただ、こういう事があると、色んな人が1回経験するじゃないですか。お遊びや仮想ではなくて『リアルに』経験をする訳ですよね。         

堀越うん。      

岸田あの『仮想的に』というのは、映画とか、ゲームとか、そういう仮の体験は色んな形で出来たんでしょうけど、まあ今、このコロナウィルスの話は昔からこう、テレビ番組でよくやっていたパンデミックの番組みたいなやつがリアルに起こってます、皆経験しています、と。で、経験をするとやっぱりその、常識レベルが1個上がるというか、そういう所ってやっぱりあるじゃないですか?だからそういうのの積み重ねで、何かこうニーズとかソリューションとか、在るものをこう、組合せるとか、イノベーションみたいな話が出てくるんだったら、それはやっぱり「難しかったけど、それがあって今があるよね?」っていう話の歴史の繋がりになっていくので、まあそういうものに通信、ICTみたいな所が上手く絡めると良いなぁと思うんですよね。

クロサカそうですよね。

岸田まあ今一番近々な例で言うと、「会社来るな。」とか、「打合せ対面でするな。」とか。

クロサカうん。

岸田というのが、『リモートワーク』のきっかけになっていて、散々「テレワーク週間だ。」「オリンピックだからテレワークやれ。」とか何年かやってきて全然、やってみて「うーん…。」な所が、ここまで来ると「うち、テレワークで良いんじゃない?」って言う人が増える。皆、体験する訳ですよね?これが結構大きいなぁという気もするし、

堀越はい。

岸田それは、あのまあ5Gを含めてその、ICTが、ある意味リモートワークでテレビ会議とか、電話会議とかっていうのはICTが無いと出来ないんで、

クロサカうん、うん。

岸田新しい、生活に密着した所での話とすると、ちょっとした『ニーズ掘り起し』になってるんだと思うんです。

堀越そこに繋がって行って欲しいです。『NTTコムのテレワークシステムに問合せ倍増』みたいな記事がありましたけども。5Gでも良いですし。

岸田色んなものがあるだけに、ニーズが無かったというか、気が付いてなかっただけで使ってなかったものも多分あるはずで、それはやって来て良いですよね?まあスマホもそうなんですけどね。

堀越うん。      

岸田昔から『画面でタッチして』って端末はあったんですけどね。

クロサカそうなんですよね。おっしゃるとおりで、今この目の前に明確な課題がある状態に「近い」じゃないですか。あえて近いっていう言い方するんですけれど、これをちゃんと、…モチベーションと言うか、使い続けて普及させ続ける、『動機にしていく事』が、極めて重要。でも正直まだ、今日現在においても懐疑的な部分があるんです。

堀越うん。

クロサカつまり「喉元過ぎたら、また皆忘れちゃうんじゃないかな?」っていう所があって、本当の課題をまだ特定出来てないんだと思うんです。ダメっぽいからやらない、みたいな情緒的なことではなくて「これが課題でこれを解決しようとしているんだ。」っていう事を、誰も明確に言わない。で、これは科学的なアプローチが必要なんですね。

堀越うん。

クロサカ科学を信じる社会において、問題というのは、科学的に特定されて、科学的に解かれないと、合意形成できないんです。で、合意形成されないものは、過去からの惰性によって、因習に引き戻されてしまう。特に5Gになると、起こる事は全部、科学的なエビデンスベースになっていくので、これが説明されなかったら、今後は本当の『ニーズ』まで辿り着けないんです。

堀越うん。

クロサカたとえば、やっぱりクルーズ船の対応は成功だったんですよね、我が国にとっては。この「我が国」というのが本件についてはすごく大事で。あのクルーズ船に乗られていた3,000人の乗員・乗客の皆様には、大変辛い出来事だったし、亡くなられた方々のご遺族には手厚いサポートを今後していただきたいのですけど、ただそれはそれとした上で、『検疫』には成功している。たとえば海外旅行から帰ってきた時に検疫カウンターで「国内に持ち込んじゃいけないものは、ここで置いていきなさいよ」って話なんですよね。それが検疫の目的であって、それには概ね成功しているんです。あそこで発症してしまった方は本当にお気の毒ですけれど、ただそうした方々もコントロール下にあったから、被害は日本国内には広がらなかった。

株式会社企 代表取締役 クロサカタツヤ 氏(左)と、 日経クロステック副編集長 堀越 功 氏(右)

クロサカタツヤ 氏(左)、堀越 功 氏(右)

 

堀越うん。

クロサカもちろん、あの船の中で起きている事が情報として洩れ伝えて来てしまうから、「いや、かわいそうだ。」「気の毒だ。」と。確かに21世紀の検疫の仕方としてどうなのか、と言う所はいっぱいある訳ですよね。でも、「やりたかった事は、検疫だよね。」っていう。で、恐らく『武漢封じ込め』も同じなんですよ。だから、中国全土には、あの規模で、13億も民がいる中国で、あの数字ですからね。「これでコントロール出来てるんだ」っていう事ですよね。で、統計で考えないと公衆衛生は必ず成立しませんから、統計上合ってる、という事だと思うんですよね。もちろん、中国政府の出している数字を信じるならば、という前提ですけど。

岸田もう、多分、まあまだあれですけど、もう、来週か再来週か分かんないですけど、まあ数字は広がるでしょうしヨーロッパにも広がるんでしょうけれども、中国の数字が、『減っていく時期』って、案外遠くないんじゃないかなって、個人的には何か、良い期待も込めて思います。で、それは、数字をどうのこうのと言うよりは、今のシステムでやっていて上がってくる数字が下がるというのは、もうこれはもう明らか。

クロサカはい。

岸田今の数字が本当かどうかっていうのはあまり意味が無い議論で、サンプリングですから別に良いんですよ。やっぱり『戦略』として、多分今の日本も中国も、自分が何となく周りから見て感じるのは、『戦略的』には正しい事をやっているよね、と。1個1個の現場は凄く大変だけども、戦略を間違えるとアウトなので。戦略のミスは戦術ではカバー出来ない、という話ですから、そこは戦略としては今の所大丈夫、合っている、と。

堀越ええ。

岸田でそれが故に、日本の人は多分、海外での報じられ方で、自分の友達とかから「日本、大丈夫ですか?」とか「こんなん報じられていますけど。」っていわれても、こちらでは「まあそう見えちゃうかもね?」ぐらいに、中の人から思えるというのは、それはそれだけ、対応が戦略的に多分あっている。

クロサカうん。

岸田で、まあバルセロナに関しては、今回無くなってしまいましたけど、その『封じ込め』的な話で言ったら、もう『しょうがない』ですよね?

クロサカそうなんですよ。

岸田これは、止めるしかなかった。

堀越うーん流石にもう、出来なかったでしょう。

岸田それはもう戻れないので、じゃあこの後どう活かしていくか、っていう側に使っていくとすると、やっぱり転機ですね。『在り方』が変わりますよね。

11. GSMAから中国へ、求心から分散へ

岸田1番変わるのって何ですかね?MWC、1回無くなって次2021やるんでしょうけれど、2019と2021で‘何が’1番変わるのかなぁとかっていうのは、まだ自分の中ではあまり‘これ’というのが見えてませんけれど。

クロサカ僕の中の仮説は、やや斜に構えた見方なんですけれど、『GSMAの求心力が低下すること』だと思っています。

岸田なるほど。

クロサカ今年のMWC2020は中止せざるを得なかった。で、中止した事について文句を言う人はいるかも知れないし、でも「しょうがないよね。」っていう事は全員、

堀越納得はしていますよね。

クロサカ全員合意はするとは思うんです。ただ、GSMA目線で最大の失敗だったなと僕が思うのが、やっぱり今日の冒頭の話なんですけど、ズルズルと、「俺、抜けた」「私、抜けた」っていう風に言わせちゃった事なんですよね。

堀越はい。握手しないようにうんぬん、を起点に、いろいろたくさんありましたもんね。

クロサカそうなんです。やっぱりイベントって、主催者が止めるか続けるかって事を明確にしないと、主催者以外の人はみんな困っちゃう。で、出展者は「どうするんですか?」「どうなってますか?」っていうような聞き方しか出来なくって、で、「いや、わかりません」という状態を続けちゃった事に対して、これは「この人にリーダーシップは無いな」という風に可視化されちゃったと思うんです。

クロサカタツヤ 氏

岸田ええ。

クロサカもうちょっと、GSMAは自分の意志として「これは無理だ」「止める」という事を言うべきだったし、そうでないと求心力は維持出来ないのではないかということかと。そしてもう一つは、あれだけグ意思決定するまで時間を掛けたんだったら、オルタネティブの場所をウェビナーでも何でも良いから「やります!」っていう風に言わなきゃいけなかったんだと思うんですよ。

堀越なるほど。

クロサカこの影響分析をちゃんとして、「業界でこれを受け止めます。」っていう事を、GSMA主導でやらないと、もう決着がつかない状態になっていると思うんです。で、もちろん来年続くと思うんですよ、恐らく同じ『建付け』で。

岸田うん。

クロサカGSMAは多分MWC2021をやると思うんですけど、その時に誰が本物のリーダーシップを持っているかっていうのはもう多分、2019年と変わっていると思うんですね。もしかすると、これまでスポンサー、旦那衆の筆頭だったファーウェイが、『本物のリーダー』になっているかも知れない。

堀越はい。

クロサカ正しくさっきの話で言うと、「武漢で我々はこれだけの事を経験し、これだけの5Gソリューションを我々は実現しました。」って言われたら、もう、最高の説得力ですよね。特に『課題を見つけた』じゃなくて、『ソリューションがある』という言葉は、とても強い。

岸田他の誰も経験出来てないですからですかね。

クロサカで、「我々は、これが5G時代のスマートシティであり、ソリューションであると考える。そしてその方法を見つけた。」という事を、2021のMWCで言われちゃうと…皆、見たいですよ。まあ文句言う人もいっぱいいるでしょうけれども、まあ文句言う人も含めて『見たい』はずなんですよね。

岸田それをバルセロナで紹介して、「じゃ、本物見たかったら、是非MWC上海に来てください。」ってね?

クロサカそう!

岸田何となく上海に行きそうな流れを思うと、既にと言うか、色々たまたまなんですけど、このMWCに関しては中国の動き1つで、色んなものが変わってくる。

堀越まあこれもどこかで話出たかも知れないですけど、やっぱりMWCっていうのはGSMAにとっても、かなり肥大化し過ぎちゃったんじゃないかなっていう感はありますよね。1回ねぇ、こう間が空いちゃってリセットをされ、でこの三大宗主がそれぞれ、まあ少なからず「プライベートショーをやる」って言ってますし、

クロサカうん。

堀越もうそっちに動き始めているとすると、求心力が落ちて、プライベートショーで商談をメインにしていくっていう流れが、一部出来ちゃうというのは、これはもうしょうがないと思いますね。うーん、そうなるとこの場で21年もファーウェイ、ノキア、エリクソンがブース出すと思いますけど、『力点』は少し、ズレていく。

クロサカうーん。

堀越影響はかなり大きいのではないかと。

クロサカ大きいと思いますねぇ。

堀越 功 氏

堀越お金の掛け方、ホスピタリティへのお金の掛け方も、変わってくると思うんですね。

クロサカ三大宗主目線で言うと、そのプライベートショー路線が、まあ止むを得ない事も含めて、今年1年間ある程度、それで成立させる訳じゃないですか。

堀越せざるを得ないんですよね、もう。

クロサカええ。で、成立した経験を持って1年後のMWC2021で何を感じるかと言うと、ハッキリ言ってMWCでなくても我々は出来る、と。

岸田うん。

クロサカにもかかわらず、MWCに出るとなると、それは宗主よりもティアーの低い、中小事業者達に対する『お布施』みたいだ、という気持ちになると思うんですよね。ちょっとえげつない言い方ですけど。

堀越うーん。

クロサカだとすると、まあ来年はとりあえず、何とかやるかも知れないけれど、でも、金額を減らすかも知れないし、そうすると弱者連合の人達はより一層貧しくなる訳ですよね。

岸田そうですね。

クロサカそういう差が明確についちゃう2021になっちゃうんだとすると……うーん、なかなかあのMWCという『建付け』が、これまでの10年の様に、華々しく自律的に拡大志向で続けられるか、と言うと…疑問かな?っていう。

堀越そうですねえ…。

岸田MWCってその、ステージと言うか、ある意味、ここで活躍する、目立つ、商談やる、存在感出す事が、その後のこのエコシステムの中の存在感と連動できる凄く良いチャンスなんですよね。

クロサカええ。

岸田で、それは、どの規模の会社であっても出るチャンスはあるし、注目されるチャンスもある。前回で言うと楽天が注目されました、なんてのはいかにもですよね?別にその楽天はこの業界で歴史がある訳でもない、異色プレーヤーである訳でもない、でも「海外から物凄く注目されました」と。

堀越うん。

岸田で、その『注目を集める事』自体が、このエコシステムへの影響をやっぱり、出していく訳じゃないですか?楽天も戦略として海外へ出ていきますと言って、まあこの間のシンガポールでの提携みたいな話も出て来る訳で、そういう1個1個のその営みの、大事なトレンドを作っていく場なんですけど、まあクロサカさんが言われた通りで、まあ、プライベートイベントが成功しちゃうと、「別に良いや、これ出さなくても」みたいな色が、どの程度出てくるか、ですよね?

堀越うん。

岸田プライベートイベントをやりながら、MWCに出てる人って別に普通にいるんですよ。それで言うと、まあMWC上海は、ある意味中国勢の、プライベートとは言いませんがローカルイベントだし、LAは、まあ元々の成り立ちがCTIAですから、米国キャリアのイベントなわけで。

MWC2019LA 会場入口

MWC2019LA 会場入口

クロサカそうですね。

岸田で、そこで言うと、まあそこの両方に入らないでずっとやっていくと言うのが例えばクアルコムで、クアルコムはプライベートイベントは、ハワイで年末にやりながら、バルセロナにも来ます、と。まあ当然途中1月のCESもあって、CESは「車の話だけしかやりません」と言って、棲み分けをしていると。そういう『使い分け』をちゃんと出来てる企業もいる訳ですけど、これから、この宗主3社が、『使い分け』をすることになるでしょうね、流れ的に。

堀越恐らく、ですね。5Gがスマホだけじゃなく、色んな産業インフラになって行くとすると、医療イベントもあり、スマート工場のイベントもありっていう、そういう所に分散していくイメージもあるんですよね。

岸田MWCが広がってったのって、ICTが色んな所に広がっていって、スマホが広がっていって、そこにエコシステムも広がっていった事で、バルセロナに来る企業の数が、シンプルに言うと広がりました。

堀越広がりましたね。

岸田それは別会場のスタートアップの量も含めて、『スマホエコシステム』ですよね、正に。

クロサカうん。

岸田それ自体はそのままだと思うんですけど、今5Gと言って、世界の通信業界が頑張って広げようとしている『社会課題側』の話で言うと、まあ、これまでだと例えば、2000…あれは10年ぐらい前?フォードとかが、

クロサカあぁ。

堀越ええ。

MWC会場への出展が増えた自動車メーカー

MWC会場への出展が増えた自動車メーカー

 

岸田バルセロナに来ました。要するに、ああいう‘よその業界が来るようになった’みたいなのが、いかにもバルセロナMWCの求心力の1つの良い事例と言うか、象徴的な話ですよね?

クロサカうん。

岸田「フォードが来ました。」とか「よその業界から来ました。」で、そういうので言うと、例えば、じゃあこの間のMWCのLAなんかでもそうですよね。

堀越うん。

岸田あと米国で年初にあるCESなんかでも、「この業界から来ました!」っていうのがある訳ですよね。今年のデルタ航空が、みたいな。

堀越ええ。

岸田通信業界のイベントに、他の業界が寄って来てくれていた。で、ICT業界全般でしょうけれども、一部の企業がプライベートでイベントを、となると、プライベートイベント個々の所では、それぞれで他業界の人と直接取り組みをやっているから、たとえば、どこかの企業が「エリクソンに今お世話になってるんで」みたいな話になると、「別にMWCに行かなくても良いんじゃない?」みたいな。そんな話になってしまうと、やはり求心力は分散していく気はしますねえ…。

堀越分散していきますね。

クロサカそれが、インダストリー全体の『トラスト』ですね。

堀越もっと強く出していく必要があるのに、パワーが落ちてしまう気がするんですよね。MWCのような場で集まって、ファーウェイ、エリクソンなど、キーノートなどの場所に色んな業界の人が出て来る、というと説得力は増すと思うんです。

クロサカそういう意味で言うと、先行して拡大路線を、ユーザ企業側と言うか『使いこなす側』に広げていったのって、CESではないですか?

岸田そうですね。

クロサカで、CESはMWCと違ってより一般的なイベントなので、それがある程度成功した。それと、そのCESもコロナとは無関係に単純に肥大化し過ぎてしまった。だから、CESと同じ事を今からMWCが、その主催者のGSMAが、来年の新しいフォーマットとしてユーザー企業を中心にして行きますっていうのは、多分そう簡単ではない。

堀越ないでしょうね、うーん。

12. MWCの存在理由と緊張感

クロサカやはりコンシューマー向けのイベントじゃないですからねえ…。で、そうすると、一旦、若干沈んでしまう事は否めないとして、やっぱり本来に立ち返って、存在理由、つまり「MWCがあってくれないと困る」という理由を見つけなければいけないと思っていて、それは先程の話と繰り返しを含めてで言うと、2つあるなと思っているんですね。

堀越はい。

クロサカ1つは、やはり楽天のような、この通信産業にとってのスタートアップを見つけてくる。そこをMWCは担わなければいけなくて。で、そこには実は僕若干、疑問符が付いているのが、『4 Years From Now(4YFN)』という同時開催イベントが、少なくとも通信産業の活性化という意味では、あまり機能してない。

堀越してないですねぇ。

クロサカで、やっぱり「インキュベーション機能が弱いんだなあ」というのは、見えてしまっている。あそこがもう少ししっかりやっていれば、オルタネティブになったはずなんですよ。「来年4YFNから企業をMWCに持って来よう」っていう。だから、それが出来るかっていうのは多分、かなり試されている状況。

堀越うん。

クロサカで、もう1つ、ある意味ちょっと弱いんですが期待したいなぁと今、お話しながら思いついたのは、『Open RAN(O-RAN)』みたいな動きなんですよね。

堀越ええ。

クロサカやはり、O-RANとかTIPとか、あのインダストリーワイドな、あるいは標準化、『オルタナティブとしての標準化』に近いような動きって、MWCに相応しいと言うか、いるからこそ成立しているんじゃないかな?という。あれって多分、O-RAN Alliance単独でやるだけだと、あまり迫力無いと思うんですよね。

岸田そうですよね。

クロサカMWCっていう一定の、売る人と買う人の緊張関係がある中で、「ちょっと待て」と、「ベンダーのいう事ばかり聞いている訳にはいかないぞ。」っていう意思表明としてのO-RANな訳ですから、

堀越うん。

クロサカああいう場所で、オルタナティブを考えるっていう事に、MWCの本来の、残っている意味があるかも知れないな、っていう気はするんです。

堀越ああ、正に。ちょっと数年前で言うと、第三のOSみたいのもオルタナティブですね。

岸田ありましたね。

堀越あとこれもちょっと前だとLPWAですよね。LoRa、Sigfox。

クロサカそうですね。

堀越数年前盛り上がって、そのオルタナティブの流れが出て来るというのも、MWCの醍醐味の1つでは、と。で、今年は正にTIPとO-RAN。

岸田今年はTIPブースが、会場のど真ん中に。

堀越ブースがど真ん中に来て、色々仕込んでて。昨日か一昨日ね、TIPとORANがリエゾン組むって、

岸田重行

岸田重行

岸田発表しましたよねぇ。

堀越いうのもあったりとかして、やっぱりこの流れが来てる訳ですよね。で、色んなスタートアップも、あ。ブース、デカくなったな、とかチェックしている訳ですね。実はその出来具合を見たかったっていうは非常に、あるんですよねえ。

クロサカそうですよねえー。なんかもう、みんなでGSMAにコンサル行ったほうがいいんじゃないですか?(笑)

堀越今回のMWCでは、Open RAN的なものの進捗状況を本当に、チェックしたかったですね。

岸田今回は本当に『良いタイミング』だったんですけどねぇ。

クロサカNECが改めてがんばっているのもO-RANのトレンドがポジティブに効いていると思いますし。

岸田O-RANと、楽天も関係しているのでは・・・。楽天とやられてる方は凄いご苦労をされていると思うんですけど、ただあの苦労を、あのレベルでやっているベンダーさんは他に、大手ではいないですよね。凄い宿題を持たされている訳ですよね。

クロサカええ。

堀越ただで転ばない方が良いと思います。本当に数年前のLPWAとか、第三のOS的な存在にOpen RANがようやくなってきたなあって言うのを、感じたところがあったんです。

クロサカうん。

岸田去年、TIPの展示が会場の奥まったところにあって、紹介いただけて見せて貰ったんですけど、普通に汎用機つなげて、LTEネットワークとして動いていましたからねえ。     

クロサカうん。

「TIPブースでのLTE設備運用デモ」(MWC2019)

「TIPブースでのLTE設備運用デモ」(MWC2019)

「TIPブースでのLTE設備運用デモ」(MWC2019)

岸田やっぱり、まあ今回自分が、ベンダーさんとかに聞きたかった事の1つは、そのまあ楽天もそうですけど、キャリアグレードの設備で稼いできた大手ベンダーさんから見て、オルタナティブとしての、リナックスっぽい動きが、どこまでエコシステムの中で存在感を持ち得るのか?というあたり。

堀越ええ。

岸田リナックスは、ウインテルのPCの世界ではやっぱりなかなか難しいねっていう話でずっと来ている訳ですけど、でも、通信のエコシステムの中は、このエコシステムの中のカギになる通信事業者、特にMWCの本流であるヨーロッパ勢が、そっち側を自分のものにすると思って動いていますからね。

堀越それこそ欧州勢でもねえ、これまでみたいに途上国とかだけではなく先進国の中でも入れようっていう動きが出てきていますもんねえ。流れになりつつあるな、って。

岸田元々欧州に入れるつもりなんですよね、Vodafoneとか。

堀越勿論TIPの中でも、これまで4Gだけだったのが、5G NRのグループが出来たりとか、こっちに来てますよね。

岸田だから、良いというか何というか、MWCの中にその緊張感が出て来るし、MWC陣営が、例えばかつてグーグルがMWCに来た時の、キーノートスピーチでのブーイングとかは、MWCの「一枚岩」と言うか、そこだけに関しては、「うちの業界に何てことしてくれるんだ!」みたいな、そんな話の場面があった訳ですけど。

堀越うん。

岸田オープンソースの、TIPみたいな話は、大手が主役のイベントからすると、やっぱり、そこへの緊張感ですよね?キャリアとベンダーの蜜月の間に割って入る感じですよね。

堀越いやホント、今回出てたら良い場所なんですよね。この、ホール4の通路がちょうどこの通り道ですよね。必ず皆が目つく所に。

岸田昨年は2階の奥の方のプライベートエリアに出てたんですよ。

堀越このMWCあってからこその、オルタナティブの発信力みたいな、キーワード化になっていたような気がする。今回、その良いタイミングだったのがロスしてしまった感じ。

クロサカこの会場フロアマップって、よく出来ているんですよ。

幻の「MWC Barcelona 2020」

幻の「MWC Barcelona 2020」

岸田何処が一等地なのか、何処まで行ったら出世なのかみたいな。それも家賃で連動したとかね。

クロサカ『家賃連動性』と、あと『ホール毎のテーマ』と、あと導線で『誰に何を見せるべきか』っていうのを、しかしホントに良く考えてるなあ…。

堀越ふふふ。

岸田会場の奥の方で、細かい狭い間口の小さなブースと言うか、名刺代わりに出すところで、50万円らしいです。

クロサカあのスペックだとあれですよね?パスを買うか出展するか、みたいな。

岸田50万円ってそうなんですよ。50万円だったらなんかパスカード買うより、出展だと言って、何もせずに名刺だけ置いておいて、その方がかえって安いみたいな。出展者として入って、他の会場にも色々入れますし。参加者としてプラチナパス、ゴールドパスの30、40万円の延長みたいなもので、ちょっと足すと、もう1個出せる訳ですからね。

◇◆◇

「幻のMWC2020、変わる世界の通信業界(最終回)」につづく

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