2015.5.20 法制度 InfoCom Law Report

グーグルの検索サービスに対するEU競争法上の規制動向

はじめに


2015年4月15日、欧州委員会は、グーグルの総合検索(いわゆるGoogle検索)サービスにおける、ショッピング比較サービスの検索結果に関して、EU競争法違反の疑いで異議告知書(Statement of Objections)(※1)を送付して、同社に対する手続を開始した。その概要を紹介する。なお、これとは別に、アンドロイドに関しても正式調査を開始したことを発表しているので、併せて紹介する(※2)。



ショッピング比較サービスに関する異議(※3)


異議告知書によるグーグルの被疑事実は以下の通りである。


グーグルは、欧州経済領域(EEA)内で、その総合検索結果のページに、自社のショッピング比較サービスである“Google Shopping”を優遇的に取り扱うシステムにより、支配的地位を濫用しており、EU競争法に違反している(※4)。欧州委員会としては、ユーザが検索クエリの結果として常に最適な検索結果を目にするわけではないことが、イノベーションを阻害するばかりでなく、消費者、及び、競合するショッピング比較サービスの利益を損なうことになることを懸念している。


グーグルは、欧州経済領域の全域にわたってオンライン検索サービスを提供し、欧州経済領域のほとんどの国々で90%以上の市場シェアを有しており、支配的な地位を有している。この総合検索サービスの市場とショッピング比較サービスの市場とは、2つの別々の市場であるが、後者では、グーグルは複数の競合するプロバイダとの競争に直面している。グーグルは、その(圧倒的シェアを誇る)総合検索サービス上で自社のショッピング比較サービスに優遇的取り扱いを与えることにより、競合他社のショッピング比較サービスへのアクセスを阻害し、その競争力を妨げている。


異議告知書が仮認定する具体的な内容は、以下のとおりである。



  • グーグルは、自社の総合検索結果のページに、自社のショッピング比較サービスを、その結果の当否と無関係に、必ず表示させ、かつ、目立つ位置に表示されるようにしている。当該行為は2008年に始まった。

  • グーグルは、他社のショッピング比較サービスに対しては、ペナルティ・システムを採用している。ペナルティ・システムは既定のパラメーターに基づいて運用され、グーグルの総合検索結果のページでの表示順位を下降させることにもなるのだが、グーグルは、自社のショッピング比較サービスに対しては、このペナルティ・システムを適用していない。

  • グーグルが始めた、最初のショッピング比較サービスである“Froogle”は、上記のような優遇的な取り扱いを受けていなかったが、その業績は貧弱だった。

  • Froogleの後続サービスである“Google Product Search”及び“Google Shopping”に対してグーグルが優遇的取り扱いを始めた結果、両サービスは、Froogleに比して高い成長率を達成したが、競合するショッピング比較サービスを害することともなった。

  • グーグルの行為は、消費者にもイノベーションにも、ネガティブなインパクトを与えている。すなわち、ユーザがその検索クエリの結果として常に最適なショッピング比較の結果を目にするわけではなく、また、競合するショッピング比較サービス製品がどんなに優れていても、(総合検索結果で)グーグルのショッピング比較サービス製品と同列の高い表示順位を得ることはないと考えれば、競争の中からイノベーションを起こそうというインセンティブ(意欲)は削がれる。


異議告知書は、グーグルは自社と競合他社のショッピング比較サービスを同様に取り扱うべきである、との判定を予定している。グーグルが採用するアルゴリズムやページデザインの変更を迫るものではないが、グーグルは、総合検索サービスにおいて、検索に対して最適な結果が表示されるようにしなければならないとする。



アンドロイド(モバイル・オペレーティング・システム)に関する調査(※5)


ショッピング比較サービスに関する異議告知書を送付したのと同じ日に、欧州委員会は、同社が提供するモバイル・オペレーティング・システムであるアンドロイドに関しても、正式調査を開始したことを明らかにした。併せて概要を紹介する。


欧州委員会は、グーグルが、反競争的な協定(※6)や、支配的地位の濫用によって、競合他社のモバイル・オペレーティング・システム、モバイル・コミュニケーション・アプリケーション及びサービスの、欧州経済領域での開発並びに市場へのアクセスを違法に妨げているかどうかを調査する、としている。


アンドロイド自体は、いわゆるオープンソース・オペレーティング・システムであるが、グーグルは、アンドロイド向けに自社開発のアプリケーションやサービスを提供しており、アンドロイドを採用するスマートホンやタブレットのメーカーが、その製造するアンドロイド端末にこうしたアプリケーションやサービスを導入するには、グーグルと協定を締結する必要がある。欧州委員会は、この協定に含まれている条項がEU競争法に違反しているかを調査する。


調査開始時点で調査対象として掲げられているのは、具体的には次の3点であり、各行為が、競合他社のオペレーティング・システム、モバイル・アプリケーション及び/またはサービスの開発及び市場へのアクセスを違法に妨げているかどうかが調査される。



  • グーグルは、スマートフォンまたはタブレット・メーカーに対して、自社のアプリケーションまたはサービスだけを標準搭載するよう要求したり、奨励措置を行っているかどうか。

  • グーグルは、自社製のアンドロイド端末にグーグルのアプリケーションやサービスをインストールしたいと望んでいるスマートフォン及びタブレット・メーカーが、別の端末向けにアンドロイド改変版(「アンドロイド・フォーク」と呼ばれる)を開発し市場投入することを妨げているかどうか。

  • グーグルが、アンドロイド端末に搭載されるグーグルの特定のアプリケーション及びサービスに、同社の他のアプリケーション、サービス及び/またはAPIを紐付けたり、バンドリングしたりしているかどうか。


アンドロイドに関する調査については、EU競争法違反の事実があるかどうかの調査が開始されたのにとどまり、調査は、現時点においてグーグルに対して違法性の判定を予断するものではない。



今後の手続


ショッピング比較サービスに関する異議に関しては、欧州委員会は、グーグルの答弁や聴聞の各手続を経て(※7)、理事会規則第1/2003号(※8)に基づき、(決定によって)違反行為の排除を命ずることができる(※9)ほか、直前の事業年度の総売上高の最大10%の課徴金を科すこともできる(※10)ため、その最終的な結論が注目される。


なお、アンドロイドに関する調査については、現時点においてグーグルに対して違法性の判定を予断するものでないことは、前述のとおりである。しかし、欧州委員会が本調査を開始したことにより、EU加盟各国の競争当局は、当該事件に対してEU競争法の準則を適用することができなくなる(※11)とともに、EU加盟国の各裁判所は欧州委員会の判断と矛盾を生じうるいかなる判断も下してはならない(※12)。本調査について、法律上の期限は設けられておらず、調査期間は、事件の複雑さ、当該企業が欧州委員会に協力する範囲、抗弁権の行使といった要素によって決まることになるという。欧州委員会は、グーグルとEU加盟各国の競争当局に本調査が開始したことを通知した、とのことである。



まとめ


最後に、ショッピング比較サービスに関する異議についてのみ、若干の検討を行うこととする。


今回、欧州委員会が特に問題視したのは、グーグルの総合検索(いわゆるGoogle検索)サービスにおける、ショッピング比較サービスの表示のあり方である。欧州委員会は、総合検索サービスの市場とショッピング比較サービスの市場とは、別々の市場であるとしている。その上で、グーグルは前者で圧倒的な市場支配力を有していることを濫用して、その検索結果において、自社のショッピング比較サービスを目立たせて表示し、後者の市場で競合する他社のショッピング比較サービスを下位に表示するという(人為的な)操作を行った、と見られている。これにより、競合他社のショッピング比較サービスへのアクセスが妨げられたのだとする。


グーグルは、日本でも「Googleショッピング」を展開している。Googleショッピングは、「商品リスト広告」と呼ばれる広告の一種である。小売業者が商品を登録して入札を行い、ユーザが商品をクリックするたびに小売業者に課金される仕組みとなっている(※13)。たとえば、ユーザが金魚鉢を購入したい場合に、日本のGoogle検索サイトで「金魚鉢」と入力して検索をかけると、検索結果のページに金魚鉢に関する一般的な情報が表示されるだけでなく、検索連動型広告(テキスト広告)とはまた別の目立つ場所に、Googleショッピングも表示される(※14)。Google検索が、ショッピング比較サービス一般に及ぼす影響力については、検索サービス事業や、検索サービスと連動する商品リスト広告事業の特性を踏まえて、(どのように市場画定をすべきかも含めて)検討を行う必要がある。


なお、日本の公正取引委員会は、2010年にヤフー・ジャパンがグーグルから検索エンジン及び検索連動型広告システムの提供を受けることを発表した際に、検索サービスと検索連動型広告が、2つの別々の市場であることを前提として検討を行っている。公正取引委員会は、ヤフー・ジャパンから、両社が業務提携を行っても、検索サービスについて各社で異なる検索結果が表示され競争は損なわれない、また、検索連動型広告についても、各社で独自に運営を行い競争は損なわれない、との説明を受けた上で、その時点において独占禁止法上の問題となるような行為は認められない、との結論に至っている(※15)。一方、この業務提携により、日本における検索エンジンの約9割がグーグルに集約してしまうことを考慮するならば、グーグルの検索エンジンがいっそう精度を高めることとなり、検索エンジンの精度と連動する検索連動型広告における優位性が、他社の存続や新規参入を困難にする点をどう評価するべきか、との問題も指摘されていた(※16)


インターネットの爆発的普及と総合検索サービスの登場により、情報へのアクセス可能性は飛躍的に高まった。今では、検索サービスが、検索に対して関連情報の所在を一覧形式でかつ網羅的に表示することにより、ユーザは必要な、または、有用と思うあらゆる情報にクリック一つの容易さでアクセスすることができる。他方で、ある情報(サイト)がインターネット上に存在していても、検索結果のあまり目立たない場所に追いやられてしまえば、ユーザがその情報にアクセスする機会はほとんどなくなってしまうかもしれない。まして、もし検索結果に表示されなければ、ユーザがその情報の存在を知り、アクセスすること自体、困難となる。いわば、検索サービスは、ある情報(サイト)が、インターネットという情報の公海へと船出する関門となっているのである。


異議告知書は、グーグルが、市場支配力を有する自社の総合検索サービスで、自社のショッピング比較サービスを優遇することにより、ユーザが最適な検索結果を得ることを妨げ、同時に、競合他社の同種サービスを阻害しているとの嫌疑を向けている。ショッピング比較サービスという局面で、検索サービスにおける情報提供の公平さと、競争法的公平さとが問われているのである。

※1 欧州委員会が、EU競争法違反の疑いに基づいて手続を開始する場合、違反が疑われる者に対して、被疑事実を詳細にわたって記載する異議告知書を送付する。送付を受けた者は、証拠書類とともに答弁書を提出することが認められる。その上で、聴聞が実施される。


※2 https://europa.eu/rapid/press-release_IP-15-4780_en.htm


※3 https://europa.eu/rapid/press-release_MEMO-15-4781_en.htm


※4 EUの競争法制はEU機能条約が定めており、EU機能条約第102条が支配的地位の濫用を禁じている。https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:12012E/TXT&from=EN


※5 https://europa.eu/rapid/press-release_MEMO-15-4782_en.htm


※6 EU機能条約第101条が反競争的な協定を禁じている。


※7 欧州委員会がグーグルのショッピング比較サービスに関して異議告知書を送付したことを受けて、グーグルのシニア・バイス・プレジデントであるアミット・シンガル(Amit Singhal)氏は、2014年4月15日付のグーグル公式ブログにおいて反論している。https://googleblog.blogspot.jp/2015/04/the-search-for-harm.html


※8 https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:32003R

0001&from=EN


※9 理事会規則第1/2003号第7条1項


※10 理事会規則第1/2003号第23条第2項


※11 理事会規則第1/2003号第11条6項


※12 理事会規則第1/2003号第16条1項


※13 https://support.google.com/adwords/answer/2454022?hl=ja#PLAs_where


※14 2015年5月15日時点におけるグーグル総合検索サイトにおける検索結果。https://www.google.co.jp/webhp?hl=ja#hl=ja&q=%E9%87%91%E9%AD%9A%E9%89%A2


※15 https://www.jftc.go.jp/soudan/oshirase/kensakukoukoku.files/10120202.pdf


※16 多田敏明「技術的提携契約により国内使用技術の9割が1社の技術となることが問題ないとされた事例―ヤフー・グーグル提携事例―」ジュリストNo.1417(2011年3月1日)
中島美香「GoogleとYahoo! JAPANの業務提携をめぐる競争法に関する最近の動向」(2011年9月15日)https://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=1&ved=0CB0QFjAA&url=
https%3A%2F%2Fipsj.ixsq.nii.ac.jp%2Fej%2Findex.php%3Faction%3Dpages_view_main%26active_
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BYg&sig2=rQFK1xj0yFJbYXsOOnPmpQ&bvm=bv.93564037,d.dGY&cad=rja 参照

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