増加するインターネット消費
近年、スマートフォンやタブレット端末からも手軽に買い物ができるアプリの登場(※1)などによってインターネットで買い物ができる手段が多様化している。通販にはスマートフォンを利用するという回答がパソコンを上回った調査結果もある(※2)。それに伴いインターネット消費は増加を続けており、経済産業省の調査では2014年の国内EC市場規模は12.8 兆円(前年比14.6%増)となっている(※3)。
今回は、総務省が毎月公表しているアンケート調査の結果からインターネット消費の状況を地域別、品目別に確認した。図表1は調査を開始した平成14年から直近までのインターネット消費の状況である(※4)。調査開始当時はインターネット消費のある世帯は5%程度であり、ごく一部の世帯のみが利用するようなものであったが、割合は年々増加しており、直近(2015年5月)では、28.8%の世帯がインターネットを通じて何らかの消費を行っており、1世帯当たりにすると8,727円(※5)、全支出のおよそ2.8%となっている。これは昨年、インターネット消費の動向を予測した結果(※6)を上回る増加となっており、消費増税や増税前の駆け込み需要の反動減の影響が思ったより小さかったためであると考えられる。または価格の安さや家まで配達してくれるという便利さからリアル店舗での消費がインターネット消費に移ったということも考えられる。
地域による違い
増加を続けるインターネット消費であるが、地域ごとに違いはあるのだろうか。平成27年1~5月の平均により比較を行った(図表2)。インターネット消費のあった世帯の割合では、最も高い関東(32.9%)と最も低い北陸(21.9%)では10%以上の差が見られた。また、全支出に占めるインターネット消費の割合についても同様の傾向となり、最も高い関東のみ3%を超え、北陸と東北は2%を下回る結果となった。地域による違いは一時的なものではなく今後も傾向は変わらないと考えられるが、違いを生み出している要因について把握することができれば、今後の動向をより正確に予測することができると考えられる。
品目ごとの把握
増加を続けるインターネット消費の状況を踏まえ、総務省では平成27年1月からインターネット支出総額だけではなく、図表3のように22品目に分けてインターネット消費の実態を調査している。
22品目を15カテゴリーに集約した上でグラフ化したのが図表4である。割合でみると特定の月に特定の品目が増加するというような特徴はみられず、どの月も同様の傾向である。消費額の大きい順では「旅行費」、「食料」、「衣類」、「家電」となっており、これらの品目の大小がインターネット消費全体をけん引している。旅行費については、旅館の予約や航空機のチケット購入など多くの場面でインターネットを通じた消費が広く普及している点、食料については、大手のスーパーやコンビニなどが販路拡大に向けて相次いでネットスーパーに参入し、ポイント付与や割引、当日配送などお得なサービスを展開することによってインターネットを通じて食料品の購入をする機会が増えている点などからこのような結果になったと思われる。デジタルコンテンツなどはインターネットならではの商品であるが、金額的にはそれほど大きくなく、無料コンテンツとして利用でき広告で収入を得るといったビジネスモデルであることなども影響していると考えられる。
品目ごとの調査は始まったばかりであるが、今後調査が続いていくことによって季節による違いや消費増税をはじめとした各種政策・規制等の影響などが品目ごとに観察できるようになる。また、地域ごとの結果や世帯属性、インターネット以外での消費などと合わせてみることでより詳細な分析も可能となるだろう。
地域による違い(旅行費支出)
品目ごとにみたインターネット消費の額が最も大きかった「旅行費」について地域別にみてみた。インターネットを利用しない旅行費支出(宿泊費、パック旅行費の合計)とインターネットによる旅行費支出を合わせてみたのが図表5である。旅行費支出全体では東海、関東、近畿の順になり、四国が最も少なかった。また、旅行費支出におけるインターネットの割合をみると北海道、四国が高く、北陸が低いという結果となった。航空券をインターネットで予約することはよくあるが、電車・バスの切符をインターネットで購入するようなことはそれほど多くないことから航空券の割合もこの結果に影響しているのではないだろうか。また、季節や天候による違いも考えられ、まもなく夏休みということで旅行費支出にも何か変化がみられるのかもしれない。
まとめ
インターネットを利用した消費支出は年々増加しており、日本経済を考える上でも把握することの重要性は増してきている。また、その実態を地域ごとにみると差異がみられ、各地域における地理的な要因や所得要因、世帯属性、気候、有名店舗の有無などさまざまな要因が重なった結果だと考えられる。これらの地域間の違いとその要因を正確に把握することができればビジネスだけではなく、地域の活性化などにも活用できるのではないだろうか。
最近では、消費増税によって落ち込んだ個人消費への対策として地方創生交付金によるプレミアム商品券が各地域で発行されている(※7)。地域における消費を喚起し、地元商店街などを活性化するといった狙いもある。そのような際、リアルな消費だけではなくインターネット消費を地元にどう取り込むのかといった視点も考えられる。そのためには、リアルな消費とインターネット消費の地域特性をきちんと把握し、それら全体を最大とするような取り組みを実施していくことが大切である。
(※1)ポスト「フリマアプリ」を見据え、拡大するスマートフォンEC
https://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/040800083/052700009/
(※2)通販で最も使うのは6割がスマホ - 半年以内に利用したサイトはAmazonが8割、楽天が4割強(MMD研究所調査)
https://shopping-tribe.com/data/18975/
(※3)電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました~国内BtoC-EC 市場規模は12.8 兆円に成長~
https://www.meti.go.jp/press/2015/05/20150529001/20150529001.html
(※4)家計消費状況調査では、2014年(平成26年)12月までは「インターネットを利用して購入した財(商品)・サービスの支出総額」のみを調査していたが、2015年(平成27年)1月から、内訳となる22品目の財(商品)・サービスについて調査している。総額のみの回答から品目別の回答にすることによって、これまでは回答者の意識に入りにくかったものも含めて広く把握されると考えられることから、2014年(平成26年)以前の結果と時系列で比較する際は注意が必要である。
(※5)インターネット消費を行っていない世帯も含んだ1世帯あたりの平均値。
(※6)消費のICT化を考える、家計消費支出におけるインターネットを利用した支出動向について―総務省家計消費状況調査データを用いて―
https://www.icr.co.jp/newsletter/ICTecon/2014/ICTe201404.html
(※7)自治体97%がプレミアム商品券 地方創生交付金の配分決定
https://www.nikkei.com/article/DGXLASFS24H4A_U5A320C1EE8000/
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