情報通信総合研究所では、情報通信(以下、ICT)産業が日本経済に与える影響を把握するために「ICT関連経済指標」を作成し、四半期ごとに公表しております。「InfoCom ICT経済アップデート」について2024年4-9月期がまとまりましたのでご報告いたします。
【2024年4-6月期のポイント(前年同期比)】
2024年4-6月期のICT経済は、総合指標が前年同期比1.3%増と2期連続で増加した(1-3月期:同1.1%増から0.2ポイント拡大)。財・サービス別にみると、ICT財生産とICTサービスともに2期連続で増加した。ICT財は同3.2%増と1-3月期同0.3%増から2.9ポイント拡大したが、ICTサービスは同0.8%増と1-3月期同1.3%増から0.5ポイント縮小した(図表1)。
今期のICT経済は、供給サイドの財生産では半導体・フラットパネルディスプレイ製造装置と集積回路(IC)の増加幅が拡大した。半導体製造装置は、米国、日本、オランダで輸出管理の厳格化が開始されたが、規制対象外分野で中国向け装置需要が堅調である。集積回路は、イメージセンサーをはじめ[1]、付加価値の高い高機能製品が主軸となり生産額を高めているとみられる。ICT財の在庫は、減少幅が縮小し、在庫減少局面にある。また、ICTサービスは、受注ソフトウェアの増加幅が拡大し、2期連続で増加した。
需要サイドをみると、ICT消費は12期ぶりに増加に転じた。インターネット接続料とスマートフォンなどの本体価格の増加幅が拡大したことに加え、スマートフォン等通信・通話使用料の減少幅が縮小したことが背景にある。また、ICT設備投資(民需)は5期ぶりに増加に転じた。要因としては、サーバを含む電子計算機等と通信機がともに増加に転じたことが挙げられる。
ICT輸出は、金額ベースで2期連続増加し、数量ベースでは11期ぶりに増加に転じた。品目別にみると半導体製造装置、半導体等電子部品ともに増加幅が拡大した。半導体製造装置は対地別にみると中国向けの増加が継続している。ICT輸入は、金額ベースで前期の減少から増加に転じたが、数量ベースでは7期連続で減少した。電算機類(含周辺機器)は増加幅が拡大し、通信機は増加に転じたが、半導体等電子部品は減少幅が拡大した。
世界の半導体市場は、シリコン・サイクルの回復局面にあり、当面継続することが予想される。足元では、半導体製造装置の中国向け輸出が牽引する形で、国内生産は増加基調にある。中国への輸出増加は、米国およびその同盟国が中国企業による半導体製造装置の入手をさらに阻止する場合に備えた中国企業の動きが背景にある。さらに、生成AIサーバ向けの投資に加え、車の電装化の進展も半導体需要の増加要因である。今後については、パソコンやスマートフォンへのAI搭載率の高まりにより、一層需要増加が見込まれる。国内では、台湾積体電路製造(TSMC)が年内の出荷開始を予定し、その近くではソニー熊本第2工場も建設中でTSMC第2工場の建設も決まっており、今後も半導体生産増加が予想される。また、企業のデジタル化投資については、日本政策投資銀行「2024年度設備投資計画調査」によると[2]、幅広い業種で業務効率化のための投資や、省人化のための自動化や遠隔保守管理等の投資が推進される計画であり、ICT経済は財生産、サービスともに回復基調となることが見込まれる。
(ICT経済総合)
- 国内ICT経済は前年同期比1.3%増と2期連続で増加し、前期(1-3月期)に比べて0.2ポイント拡大した(図表1)。
(ICT財)
- ICT財は前年同期比3.2%増と2期連続で増加し、前期(1-3月期)に比べて2.9ポイント拡大した(図表1)。
- 半導体・フラットパネルディスプレイ製造装置と集積回路は増加幅が拡大したが、電子部品は増加幅が縮小した(図表3)。
(ICT在庫)
- ICT在庫は前年同期比18.4%減となり、前期(1-3月期)に比べると減少幅が6.9ポイント縮小した(図表4)。
- 電子デバイスと集積回路の減少幅がやや縮小した。
(ICTサービス)
- ICTサービスは前年同期比0.8%増と2期連続で増加した。前期(1-3月期)に比べて0.5ポイント縮小した(図表1)。
- 受注ソフトウェアは増加幅が拡大したが、通信業は増加幅が縮小し、ゲームソフトは減少幅が拡大した(図表5)。
(ICT消費)
- ICT消費は前年同期比1.3%増と12期ぶりに増加に転じ、前期(1-3月期)に比べると2.4ポイント改善した(図表1)。
- スマートフォン等の通信・通話使用料は減少幅が縮小したが、スマートフォン等の本体価格とインターネット接続料は増加幅が拡大した(図表6)。
(ICT設備投資)
- 民需(除く船舶・電力・携帯電話)は前年同期比4.1%増と5期ぶりに増加に転じた。前期(1-3月期)に比べて6.3ポイント改善した(図表1)。
- 電子計算機等、通信機ともに増加に転じた(図表7)。
- 官公需は前年同期比11.2%増と6期連続で増加した。
(ICT輸出入)
- ICT輸出(金額ベース)は前年同期比20.7%増と2期連続で増加した(図表1)。半導体製造装置、半導体等電子部品は増加幅が拡大した(図表8)。数量ベースでは前年同期比3.1%増と増加に転じた。
- ICT輸入(金額ベース)は前年同期比8.8%増と増加に転じた(図表1)。電算機類(含周辺機器)は増加幅が拡大し、通信機は増加に転じたが、半導体等電子部品は減少幅が拡大した。数量ベースでは前年同期比マイナス12.9%と7期連続で減少した。(図表9)。
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【関連サイト】ICT経済分析
[1] イメージセンサーとは、カメラのレンズ部分から取り込んだ光を電気信号に変換する半導体のこと。活用用途は、スマートフォン、デジタルカメラ、監視カメラ、自動車、工場(FA機器)等である。
[2] https://www.dbj.jp/pdf/investigate/equip/national/2024_summary.pdf
「InfoCom ICT経済アップデート」の主な内容
- 情報通信産業のマクロ経済への寄与度及び個別品目(サービス)の寄与度の分析
財・サービスの生産面、需要面について、ICT関連経済指標を作成し、マクロ経済の動向を示す総合経済指標の増減に対して、情報通信産業の寄与について定性的、定量的に分析。 - 情報通信の在庫循環分析
情報通信生産と情報通信在庫の循環を分析。
※ICT関連経済指標は、九州大学篠﨑彰彦研究室で開発された指標を、情報通信総合研究所で維持・更新し、必要に応じて改善しているものです。
情報通信総合研究所は、先端ICTに関する豊富な知見と課題解決力を活かし、次世代に求められる価値を協創していきます。
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