2019年5月1日掲載 ITトレンド全般 風見鶏 “オールド”リサーチャーの耳目

令和元年5月1日、新元号始まる



今年は4月までは平成31年、5月からは令和元年となります。

天皇陛下の御退位と皇太子殿下の新天皇への御即位と重ねて明るい気分に満ちています。10日間に渉る大型連休のなか、数多くの行事が行われています。これで平成時代が終わり、新しく令和時代が始まるのですが、この新しい元号の「令和」について少し考えてみたいと思います。なお、以下はあくまで私個人の感想に過ぎませんので、あらかじめ御承知おき下さいますようお願い致します。

そもそも元号は、君主は空間だけでなく時間をも支配するという思想に基づくもので、特定の時代に名前を付けるものです。もともとは中国王朝の思想に拠るもので、政治的支配の正統性を表わす概念であり、「正朔せいさくを奉ずる」ことは冊封の条件となっていました。東アジアの日本、朝鮮、ベトナムなどの、中国王朝の影響下にあった周辺の国々では中国王朝の元号を用いたり、独自の元号を建てて、それぞれ君主は“時間の支配者”を表わして来た歴史があります。その中国自体で20世紀始めに清朝が倒れて以降、当時の中華民国も建国後の中華人民共和国も元号を用いることはせず、また朝鮮(韓国、北朝鮮)でもベトナムでも元号は廃されて今日に到っています。結局、日本だけが世界で唯一の元号使用国となっていて、外国人がこの元号思想、元号システムを理解するのを大変難しくしています。ユニークですばらしい年代法(紀年法)なのですが、観念的には他国と時間を共有しない独自の考え方なので注意を要するところです。西暦のように無限に年数が続くシステムではなく、時間の支配に基づく有限のシステムであり、かつ、“紀元前”のような時間(年代)概念を持っていません。また、時間の支配の継続から、同じ年に2以上の元号が成立し得ます。このことは単純に同じ年代を元号(年号)で称するか、西暦で呼ぶのかというレベルの問題ではないのです。

普段、元号と西暦のどちらを多く使うのかのNHK世論調査(4月5日~7日、電話調査)では、元号が38%、西暦が21%、同じくらいが36%となっており、元号の比重が高くなっていて、元号使用に常日頃なじんでいることがよく分かります。ただ他方、元号は世界や他国とは根本的に時間(時代・年代)を共有していないことを忘れてはいけません。私自身、生年月日や入社年次は元号(ここでは昭和)で言いますが、略歴の際や事件・出来事などは普段は西暦を多く使っています。この2つの紀年法(年代法)を使い分けているところが日本社会・日本人の持つユニークな特徴で、いわば2つの時間を生きているのです。時間(年代)に名前を付けて生きている、世界で唯一の存在なのです。この独自性は誇るべきことです。

さて、新元号、「令和」についてです。最初の元号である大化以来、始めて漢籍からではなく、我が国古典の万葉集を典拠としていて「巻五 梅花の歌三十二首并せて序」から引用されたものです。この序は天平2年(730年)正月十三日大宰師の大伴旅人邸の梅園に多くの下僚らが集まった「梅花の宴」の席で詠まれた32首の序文です。初春の令月に催された宴席で、梅の花を佳人(美人の女性?)になぞらえる喩えや風の和らぎを愛でるなど華やいだ気分がほんのりと伝わってくる情景を語っています。何となくやわらかで穏やかな文化的な雰囲気の情景です。前述のNHKの世論調査でも、「令和」について、大いに好感が持てるが30%、ある程度好感が持てるが51%と合せて80%以上で非常に高い好感度となっています。これは新元号発表直後で新天皇御即位の直前というお祝い気分、御祝儀相場のような結果ですが、前向きの受け留めで大変結構なことです。

一部に令和の中にある令の漢字に冷たさや厳しさを感ずるという意見もみられ、私もその受け取り方も仕方がないのかなとも感じています。「令」の字を漢和事典で調べると、①のり、おきて、法律、②おおせ、おしえ、いましめ、③いいつけ、④おさ、つかさ、⑤よい、⑥人の親族を呼ぶ敬語、⑦しむ、せしむ、⑧もし、たとい、とあります。やはり、法令、律令、命令、司令などが先にきて、よい意味の令名や令兄、令息などは後の方の使われ方となっているからです。ちなみに、万葉集の引用された序文にある令月は、①よい月、②陰暦二月の別名、とあります。

「令和」の発表直後に英国のBBC放送が「order and harmony」を表すと紹介し、また米国のウォールストリートジャーナル誌は「auspicious (縁起が良い)and peace」と、米国ブルームバーグ通信は「order,and peace or harmony」と訳しています。令の字の持つ第一義では文字どおりorderやcommandとなるからです。こうした事態を考慮して外務省はすぐに、英語で表現する際「beautiful harmony」に統一することを決め、「令」は美しい、「和」は調和を表すことを各国に説明するよう在外公館に指示したと報道があります。このように漢字の持つ意味合いは多様で奥深いし、そもそも元号そのものが西暦やイスラム暦などの紀元とはまったく別の思想に基づくので世界の理解を得ることが想像以上に難しいと思い知るべきです。

また、「令」の意味の由来について、「遊遊漢字学 すばらしきかな「令」 阿辻哲次氏(漢字学者)」(日経新聞朝刊コラム・2019年4月7日(日))に本当に分かり易い説明が掲載されていますので、是非直接当ってお読み下さい。誤解を怖れず阿辻先生のコラムの内容をまとめると、「令」は「霊」のあて字として古くから使われていて、そこから「令」によい、すばらしいという意味が備わったとの説明です。霊には霊験や霊峰などのように、はかりしれないほど不思議な、神々しい、とても素晴らしいという意味があって、その「霊」は旧字体(私にはとても書けません)では24画もあって大変書くのが面倒なので同じ発音の「令」があて字として古くから使われてきたと阿辻先生のコラムにあります。なるほど、本当に分かり易い説明に100%納得した仕第です。本来持っている意味とは違った字義があて字を通じて備わったということなのです。ようやく理解できて安堵しました。という訳で「令」にはよい、美しいという使われ方がありますので、外務省が説明するbeautiful harmonyも正しい用い方に則っています。

最後に、情報通信の場合には元号は使われているのかを考えています。一般的には技術やサービスがグローバルに展開されていますので、元号で年代を説明したり解説を付けたりはしていないようです。例えば、5Gまでの無線通信の高速・大容量化の説明においても、第1世代(1G)-1980年代、第2世代(2G)-1993年~、第3世代(3G)-2001年~、第4世代(4G)-2015年ごろ、第5世代(5G)-2019年~(日経新聞朝刊「きょうのことば」2019年4月9日(火)から引用作成)のように、元号の平成ではなく、西暦が使われることが普通です。これは、技術・サービスの国際性と元号の年数を超える継続性のためでしょう。

元号と西暦の使い分けは、日本人・日本社会独特のものです。個々人・家族、個別組織それぞれが使い分けの基準を持っています。私は日頃、どうしても不便さや面倒臭さを感じてしまいますし、ICTの世界では元号はとても扱いが難しい代物なので苦労も多いのですが、古くから伝えられた独自の時間(時代・年代)を私達日本人・日本社会が持っていると思うと、これはこれで替え難いものと感じています。いよいよ令和時代の始まりです。美しく穏やかで明るい前途ある時代を期待して止みません。

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