ドイツで5G周波数オークションが終了、落札額合計は約8,000億円。通信事業者の5G設備投資余力はさらに弱まる。
2019年6月、ドイツで5G向け周波数オークションが終了した。
結論から言うと、ドイツが5Gネットワーク展開で世界をリードすることは期待薄だ。
独5G周波数オークション結果
2019年6月12日に規制当局が発表したオークション結果は、(表1)のとおりである。周波数帯域としては、2GHz帯と3.6GHz帯であり、「サブ6」と呼ばれる帯域にあたる。重要なポイントは以下3点である。
① 落札額合計は4社で約8,000億円
② 大手MVNOの1社がMNOとして新規参入
③ LTE/5Gを問わず、多様なカバレッジ義務を設定
(表1)ドイツ5G向け周波数オークション落札額(2019年6月) 1€=120円で円換算
(出所)BNetzA発表より筆者作成
(図1)ドイツの5G向け周波数付与スケジュール
(出所)独BNetzA決定「5G Award – decisions Ⅲ&Ⅳ of 26 November 2018」
免許条件は多様
ドイツの規制当局BNetzA(ベネッツァ)は今回の周波数オークションに際し、様々な免許条件をつけている。5Gオークションと謳ってはいるものの、欧州の周波数オークションは一般的に技術中立(どの通信技術を使っても良い)であり、今回もそれを踏まえている。したがって、以下の免許条件のうち「5G」とされていないものについては、現行世代のLTEでも(もちろん他の技術でも)かまわない点は、注意が必要である。
エリアカバー関連
・2022年末までに、各連邦州の少なくとも98%の世帯を、100 Mbps以上の伝送速度をでカバー
・2022年末までに、すべての高速道路を、100 Mbps以上の伝送速度・最大10ミリ秒(ms)の遅延でカバー
・2024年末までに、すべての連邦道路を、100 Mbps以上の伝送速度・最大10 msの遅延でカバー
・2024年末までに、すべての州道を、50 Mbps以上の伝送速度でカバー
・2024年末までに、港湾と内陸水路の中核網を、50Mbps以上の伝送速度でカバー
・2022年末までに、毎日2,000人以上の乗降客がいる鉄道路線を、100 Mbps以上の伝送速度でカバー
・2024年末までに、すべての鉄道路線を、50 Mbps以上の伝送速度でカバー
基地局運用関連
・2022年末までに、1,000の5G基地局を運用
・2022年末までに、現在圏外となっているエリアで500の基地局を運用
新規参入者向け関連
・2023年末までに、世帯数の25%以上をカバー
・2025年末までに、世帯数の50%以上をカバー
・3.6GHz帯では、2025年末までに、世帯の25%以上をカバー
・3.6GHz帯では、5G基地局を1,000以上設置
他社との協業関連
・輸送ルート関連(道路、水路、鉄道)のエリアカバー義務は、自社網によるものだけでなく、他社との協業分もカウント可能
こうした「LTEでもいいから圏外を無くすように」という条件をつけるということは、すなわちそれだけ圏外エリアが多いことを意味する。また「100Mbps以上」などの速度保証的な条件は、モバイル通信の運用上、見た目よりも高いハードルになる可能性はある。
通信事業者は当局を批判
今回のオークションは3月に開始するも長期化し、入札は497ラウンド続いた。各社幹部のコメントは、端的に言えば「恨み節」が多い。ドイツテレコムのDirk Woessner CEOは「このオークション結果は、我々のネットワーク構築力を弱めることになる。・・・通信事業者はネットワーク展開するための資金が不足している」と語り、ボーダフォンのドイツ事業を統括するHannes Ametsreiter氏は「ドイツにとっての災難」だとしている。
MNOとして新規参入を目指すDrillischのRalph Dommermuth CEOも、参入条件の観点から規制当局を批判している。「通信事業者ごとに5G基地局を1,000アンテナ設置するという要件は、特に野心的なものではない。たとえば中国では、毎日500の基地局が建設されている」として、既存事業者への条件の緩さを指摘している。また「当社が5Gネットワークを構築する間、既存事業者のネットワークに・・・国内ローミングしなくてはならない(が、制度面での支援が足りない)・・・またこれが拘束力を持たない場合は、競合他社との間で設備共用するしかない」と、新規参入支援の不足を主張している。
日本との比較
今回のドイツの5G免許付与を日本のケースと比べると、日本では通信事業者の投資余力を弱体化させない点、新規参入者への国内ローミングが(商業ベースであるが)確定している点など、5Gネットワーク展開に向けては日本の方が環境は整っているといえる。
例えば楽天は5G基地局投資額が最大2,000億円になるとしている(これは既存MNO3社と比べて極めて少額である)が、ドイツで新規参入するDrillishは、免許取得だけで1,200億円を費やす。
5Gエリア展開でいえば、日本は10km四方のメッシュをカバー単位としている(図2、図3参照)ため、世帯単位でカバー率を設定(しかもそれはLTEでもかまわない)するドイツとの比較は難しいが、基地局数で比較すると一目瞭然である。ドイツでは各社1,000局の5G基地局設置が義務付けられるが、日本では2024年度末までに親局(メッシュエリア内に1つは置かれる基地局)レベルで各社ともそれぞれ数千局、親局から張り出しで設置される子局単位では、最多のKDDIでは40,000局を超える計画である。
(図2)日本の5G基地局整備イメージ
(出所)総務省「5G実現に向けた進捗状況について」2018年12月
(図3)日本の5G基地局整備計画
(出所)総務省「第5世代移動通信システム(5G)の導入のための特定基地局の開設計画の認定(概要)」 2019年4月
*****
欧州をリードする立場にあるドイツでさえ、5G展開が進むにはまだ時間を要しそうである。欧州の5Gは、5G投資で先行する韓国・米国・日本・中国とは、LTE時代以上に差が開く可能性もありそうだ。
※ロンドンの5G
なお欧州では、2019年6月に英国で商用5Gサービスが開始された。現地メディア掲載の記事(The Verge 2019年6月17日)によれば、ロンドン市内での5Gスマホアプリによる測定で概ね100~200Mbps、ごく稀に600Mbps以上を計測できたとのこと。現地のLTEより数倍~数十倍速いようであるが、いまこの文章を書いている東京都中央区のオフィスビル内では、スマホアプリで150~200Mbpsが計測される。ロンドンの5Gは、東京のLTE並ということか。
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