宇宙からのデータをビジネスに活用
前回の記事では、宇宙ビジネスが民間ベースで本格化していることについて触れた。今回は具体的なビジネス例について紹介したい。宇宙ビジネスといえば、宇宙空間にロケットを打ち上げることを想像されがちだが、決してそれだけではない。むしろ衛星を使ったデータ活用がビジネスとして台頭している。
駐車場が投資判断材料に
その一つが米国のOrbital Insight社だ。同社は衛星等からの画像データを機械学習の活用で解析し、顧客に様々な分析した情報を提供可能にしている。具体的な応用例としては、流通店舗の業績把握がある。従来、業績を把握する場合には上場企業であれば、四半期ごとに発表される決算報告をベースに分析をおこなうことが定石であった。しかし、この常識を覆すようなアプローチが可能になりつつある。米国の大型小売店舗の場合、利用者の多くはマイカーで店舗に訪れる。つまり繁盛している店のパーキングエリアには沢山の自動車が駐車されていることはいとも簡単に推測が可能だ。もしこれがWalmartやTargetといった全米レベル展開する小売店で定点観測することが可能となればどうか?それらの企業の業績のアップ&ダウンが四半期決算報告を待つことなく、推測が可能となる。Orbital Insight社はまさにこれを可能にした。つまりこれらの情報を活用することで、株式をはじめとする投資の判断材料となる。

上空からの駐車場画像分析イメージ
出典:https://blog.digitalglobe.com/industry/bringing-the-power-of-geospatial-big-data-to-financial-markets/
「一見すると関係ない」がビジネスチャンス
このアプローチを他の分野に応用すると、世界中の石油備蓄量が把握可能となる。その仕組みは屋外石油タンクは構造が浮きフタになっているため、フタの位置によって備蓄量が計算可能だ。また、作物の生育状況を上空からモニタリングすることによって、収穫前にいち早く不作・豊作がわかり、先物取引市場においては需要な判断材料となる。つまり宇宙からの情報が一見全く関係がなさそうに見える、金融や先物取引市場に大きく貢献するビジネスとなってきているのだ。

出典 :https://blog.digitalglobe.com/industry/bringing-the-power-of-geospatial-big-data-to-financial-markets/
利用コストの低減と画像解析技術が活用を爆発的に加速する
衛星から情報を得るという発想そのものは全く新しい訳ではない。東西冷静時代に米国はソ連のクレムリンの動向を衛星からの画像に写された要人の自動車の出入り等を利用していた。現在との大きな違いは、衛星からの画像情報の入手コストが桁違いに低減したこと、さらに、カメラ、クラウドそして人工知能技術の発達で高精細でより多くの画像を人力にたよることなく自動的判断できるようになったことにある。宇宙ビジネスは航空宇宙技術だけでなく、こうした地上の情報通信技術の発展と相乗効果を及ぼしながら進んでいることがご理解いただけたと思う。
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