働き方改革に向けたICTの貢献、今後の展望と、日本マイクロソフトの取り組み(前半)では、働き方改革の必要性が問われた背景や日本マイクロソフトのこれまでの取り組みについて取り上げました。後半では、日本企業の動向と今後の働き方改革の方向性について、取り上げます。
日本企業の動向
日本固有の“働き方改革”の機運、日本固有のビジネス慣習
国内でも以前より、テレワークの推進が掲げられていましたが、今は女性の活躍等も含めて一気に政府主導で社会の流れが働き方改革を推進する動きになっています。諸外国と比べ「欧米の場合、オフィス以外で仕事をすることは普通です。リモートでの会議も当たり前なのです。」(岡部氏)と、日本の働き方改革の機運は日本独自の課題です。加えて、「日本特有のものとしては、承認プロセスがあります。書面に印鑑を押して、承認をとり、紙の書類をのこしています。日本マイクロソフトでは、eメールで行い、書面は残さない方向です」(同上)と、同時にビジネス慣習を変えていく必要があります。
ユーザ企業の反応
働き方改革が社会トレンドになる中で、「日本マイクロソフトへの問い合わせは増加しています。働き方改革を検討する際のIT基盤としてのデファクトスタンダード的な位置づけになってきています。また、ビジネス機会としてもOffice 365はいろいろなパートナー企業に販売してもらっており、自分たちで活用して、その経験をもとに販売をするというような企業も増えています。日本におけるIT最大手の富士通様とも社内導入および販売の両方で昨年協業を拡大しました。」(岡部氏)と、ユーザ企業をはじめ、日本社会での機運は高まっています。
企業属性別の動向については、「日本航空様、大成建設様、資生堂様等の大企業は、経営課題の1つに働き方改革を掲げており、会議のやり方やコミュニケーションの方法について、本業の生産性向上のために、改善していくべきと、経様々な取り組みを実施されています。働き方改革という切り口で、何かやろうと思っている企業が拡大しています。ベンチャー企業は、設立当初からICTをビジネス基盤としてフルに使っています」と、あらゆる企業層で機運が高まっています。特に大企業では「従来、CIOがいたが、今はCDO(Chief Digital Office)が増えており、ビジネスの変革にICTを使っていこうという動きが出てきており、大手企業は対応が始まっています。」(岡部氏)といろいろな属性の企業において取り組みが始まっています。
オフィスワーカーから現場へ
「テレワークはオフィスワーカーのためのものなので、現場のある企業の方は、うちには関係がないということを言われましたが、現場を含めたあらゆる業務に働き方改革は推進できます。」(岡部氏)と、働き方改革は、対象とする業務がオフィスワーカーから現場に広がりが出ていく方向にあります。
現在の取り組み・課題
日本マイクロソフトは働き方改革を開始し、今年で7年目になります。「自社のこれまでの取り組みにより、総務省「平成28年度情報化促進貢献個人等表彰「総務大臣賞」等数々の賞を受賞しました 。これは、従業員の働き甲斐につながり、ポジティブに仕事に取り組めるようになりました。」(岡部氏)と、従業員へのプラスの効果を指摘しています。
現在は、次のステップに進む段階にあり、これまでは、時間、場所に制約をなくす「いつでも、どこでも」を実現するということでテレワークが活用されましたが、現在は、時間の使い方を改革する、共同作業の円滑化を図る、ということにも注力しています。具体的には、「My Analytics」を活用し、従業員一人一人のメールの時間、会議時間等の業務ごとの時間を「見える化」しています。具体的には、自分がメールを送付したら、どの程度の割合の人が何時間以内にそのメールを読んでいるのか、参加する会議が同じ人がよくいた場合には、会議の出席について、その二人で棲み分けして、効率的に対応できるようにすることが明示されます。
この取り組みは2016年12月から社内検証として開始しており、4部門41名で実証しています。効果としては、(1)会議時間の削減▲27%、(2)コミュニケーションの円滑化、(30集中作業時間の確保+50%が挙げられます。合計で3,579時間削減され、これは試算すると(日本企業2,000名の従業員規模の場合)、7億円/年の残業費削減になります。
また「コミュニケーションの円滑化に加えて、共同作業の効率化も重要な要素になります」(岡部氏)と、仕事の共同作業の効率化の重要性が指摘されています。「例えば、ある社員がマーケティング施策を23時に他社員にメールをした場合、多くの社員はその日のうちはメールを読まず、次の日の午前中に読む。このようなことを本人が気づくことにより、いつ、だれに対して、メールを送るべきか等を考えるようになります。」(同上)と、明示化することにより、気づきを与えることにつながります。
課題としては、先日こんな例がありました。「若い社員は新しいデバイスやツールを使ったコミュニケーション手段に慣れていますが、ビジネスマナー、顧客企業に対する丁寧な対応が不慣れであるという状況もあります。緊急ではないが時間を気にせず夜遅くにメールやメッセージを送る、チャット的なリズムでのコミュニケーションになれており、丁寧な表現を使わないなどの場合があります。受け取った側のお客様がシニアな方だったりすると商習慣的にはよろしくないという結果になってしまいます。こういったマナー的なところは、社員研修をしていく必要があります。」とICT手段を活用したビジネスマナー教育の必要性が指摘されています。
働き方改革に向けたICTの役割についての今後の方向性:AIとMixed Realityの活用
今後の方向性については「日本マイクロソフトはクラウドベースの会社なので、クラウドを使うことは基本。そこにAI等を活用していく。ユーザ企業の潮流としては、サーバの購入・管理をベンダーにまかせ、ユーザ企業は本業に注力する方向だろう。AIを業務に入れ込む方法については、例えば、現場ではIoTでデータを収集して、それをAIで分析し、事業に活かすような取り組みが製造業、医療、流通業等で行われています。」(岡部氏)と、働き方改革という切り口でのターゲット層は、IoT、AIを活用することにより、さらに広がっていく方向にあります。
加えて、「もう一つ推進しているのは、Mixed Realityです。ホログラフィックコンピュータ「Microsoft HoloLens[1]」を活用して、現場の仕事に活かす。事例としては、小柳(オヤナギ)建設様がMixed Reality を建設現場に活かしていくプロジェクトを始められました[2] 。米国本社もコミットし、将来的に必要な作業をMixed Realityで見極めながら、作業効率を高めていきます。具体的には、HoloLensにより、建造物のデータ、材料、資材、作業者の行動データなどの見える化を行い、工事の計画、施行、検査、メンテナンスの情報を全てデータ化します。建築物の3Dデータの作成により、検査院の負担を軽減します。また、現場の状況確認や、遠隔地の作業員との視界共有で、安全性の向上やコミュニケーションの迅速化を図れます。」と、現場での働き方改革にも広がってきています。
まとめ
「働き方改革」の必要性が問われる中で、日本企業の働き方改革に向けた取り組みの機運は、高まっています。ICTを活用した働き方改革の推進は、業務効率の向上、無駄な時間の削減をもたらし、企業業績や従業員のライフスタイルにプラスの効果をもたらすことが期待されます。日本マイクロソフトの取り組みは働き方改革を進めていくことが、企業の業績に限らず、従業員自体の満足度につながる事例として注目されます。ICTを提供する企業に対しては、ICTツールを商材として訴求するだけではユーザ企業の働き方を改善することは難しく、ICTを活用した働き方改革のノウハウがユーザ企業に対して重要な要素になっていることを意味しています。
今後、AI、IoTを活用し、オフィスワーカーから、現場に拡がる方向性がある中で、ICTが仕事の手段としてあらゆる業種、業務に充分に浸透していくことが、日本社会の課題である労働力人口の減少の解決につながることが期待されます。
[1]現実世界の中にホログラフィックを重ねて表示させることで、現実世界と仮想世界を複合して表示するヘッドマウント型のウェアラブルデバイス
[2] https://news.microsoft.com/ja-jp/2017/04/20/170420_microsoft_oyanagi/
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