「ICTインフラ地域展開マスタープラン」の公表
日本では、2019年4月に4事業者(NTTドコモ、KDDI/沖縄セルラー(以下、KDDI)、ソフトバンク、楽天モバイル)の5G基地局の開設計画を認定し、各社に5G用の周波数を割当てた。開設計画審査にあたっては、早期の5G全国展開を審査基準として設定したところであるが、各社の計画は計画時間の5年間のうちに全国各地を幅広くカバーする内容になっていなかった。したがって、政府は5G基地局やそれを支える光ファイバの地方への早期展開を促進するため、2019年6月に「ICTインフラ地域展開マスタープラン」を策定し、公表した。 「ICTインフラ地域展開マスタープラン」では、(1) 条件不利地域のエリア整備(基地局整備)、(2) 5Gなど高度化サービスの普及展開、(3) 鉄道/道路トンネルの電波遮へい対策、(4) 光ファイバ整備を一体的かつ効果的に実施するとし、ロードマップを提示した。5G展開については、2024年度以降の整備が見込まれる基地局を、2023年度末までに2割以上の前倒しを図るとしている。
欧米における5Gインフラ展開の動向
世界において、5Gサービスは2019年4月から米国・韓国で本格展開され、その後各国で運用を開始しているが、5G導入を機に、通信インフラの地域間格差是正をめざす動きがある。
米国
米国は、2018年の「5Gファースト計画」に基づいてスモールセル設置審査の迅速化等に取り組み、2019年4月からスマートフォン向け5Gサービスが本格的に展開されている。2019年11月に、T-Mobile USとSprintの合併計画が米規制当局(FCC)に承認されたが、5Gの地方への展開計画(3年以内に85%、6年以内に90%の地方エリアをカバー)実現が条件として付与された。また、米国FCCは、2019年12月に5Gの地方展開を目的とした「5Gファンド」(90億米ドル, 約9,849億円 ※1)の設立計画を発表し、10億米ドル(約1,094億円 ※1)は地方の精密農業促進に割り当てるとしている。
欧州
欧州は、2016年の「5Gアクション計画」において、「欧州デジタル単一市場」創設に向けて、EUの全加盟国が2020年までに5Gサービスを開始することを目標としており、2019年4月以降、スイス、英国等で順次展開されている。
英国
欧州は事業者間のモバイルインフラ(設備)共用が普及しており、英国では2019年7月にVodafoneと02が両社で設立したインフラ会社(Cornerstone)を通じて、5Gにおいても設備共用を進めていくことを発表した。また、英国では、2019年8月に政府が5Gの地方展開を目的とした投資プロジェクト(3千万ポンド,約43億円 ※2)を立ち上げるとともに、2019年10月に英国4事業者(EE,O2,Three,Vodafone)が全社での設備共用による地方の4Gエリア改善計画を提案し、政府と合意する等、ディジタルデバイド解消の動きがみられる。(官民投資予定額10.3億ポンド, 約1,476億円 ※2)
日本における早期の5G全国展開に向けた取り組み
日本では、各事業者によるネットワーク構築を原則とすることで設備競争が促進され、高品質のネットワークが整備されてきた。5G展開においては、その電波特性等から高密度の基地局整備が必要となるため、設備投資の効率化、基地局設置場所確保、景観保護の観点で、事業者間のインフラ共有の検討が必要となってくる。それを踏まえて、総務省は、2018年12月に、移動通信分野におけるインフラシェアリングのガイドラインを公表した。
今後は、民間資産だけではなく、公共財利用の必要性も高まるため、政府は全国の交通信号機(約21万基)の5G基地局への活用を検討しており、2020年度から実証実験を開始する予定である。東京都は、2019年8月に公表した「TOKYO Data Highway基本戦略」に基づいて、5G基地局の候補物件として都の保有資産情報(約1万3,000件)を公開し、窓口を一本化することで、5Gネットワーク整備の迅速化に取り組んでいる。
5Gによる超高速サービスには光ファイバが不可欠であり、また、5G導入当初は既存の4Gネットワークとの連携を前提とした運用となるため、光ファイバ及び4Gエリア展開が進んでいる日本は、他国よりも5Gの早期展開が可能とみられている。日本での5Gサービス開始後に開催される東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会は、日本の5Gサービスの安定性及び革新性を世界にアピールする絶好の機会である。2020年度に創設予定の「5G投資促進税制」等を活用した早期の5Gインフラ構築が期待される。
※1 1米ドル=109.44円で換算
※2 1ポンド=143.38円で換算
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清水 郁雄 (Ikuo Shimizu)の記事
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