2015年12月4日掲載 ITトレンド全般 ICR View

機械との共創(「一億総活躍社会」と「機械との競争」)〜50年後に向けて始めておきたいこと


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1. 一億総活躍社会が来る

政府はアベノミクス第2弾として「一億総活躍社会」というスローガンを掲げて経済政策を提言した。50年後も人口1億人を維持して、一人ひとりの日本人、誰もが、家庭で、職場で、地域で生きがいを持って、充実した生活を送れる事を目指すという。そのための、第一の矢「希望を生み出す強い経済」、第二の矢「夢をはぐくむ子育て支援」、第三の矢「安心につながる社会保障」の3つの柱から構成されるが、基本的には経済政策なので、生産性の向上などを目指す第一の矢を、第二、第三の矢で生み出す労働力が支えるという構造が前提になっていると思う。

詳細にみてみると、一の矢で名目GDPを現在の500兆円から600兆円への増加を目指している。実現時期は、内閣府の「中長期の経済財政に関する試算」では2021年とされているが、政策の実現時期としては明確には示されていない。もし、実現時期を2021年だとすると、現在の約1億2500万人の人口と大きな変化はないと思われるので国民一人当たり20%の生産性向上、50年後の人口1億人時代の姿だとすると国民一人当たり50%程度の生産性向上が必要という事になる。

第二第三の矢の出生率向上の効果は先の1億人の人口維持で表れているので、政策の枠組みの中だけでみると、第三の矢「安心につながる社会保障」の中の介護離職者数ゼロ等や生涯現役社会の構築などの政策と、第一の矢の「イノベーションを生み出す投資を通じた生産性革命」からGDP増加に必要な稼働を捻出する事になる。2021年の20%も大変な数字だが、50年後の50%は実現可能だろうか?もし、GDP600兆円の達成が2021年だとしても、その後、どのようにして維持していくかが課題だと思う。

一般的に、GDPを引き上げるには労働力か資本の投入が必要と言われているが、労働力の投入のみで足らないとすれば、資本はどのように投入されるべきなのだろうか?「イノベーションを生み出す投資を通じた生産性革命」のために資本の向かう先はどこなのだろうか?資本の向かう先の候補の一つとして、ICTはどうあるべきだろうか?考えてみたいと思う。

アベノミクス第二ステージ

図1

2. 機械が仕事を奪う

(1) 奪われる仕事

ここまで見ると、「一億総活躍社会」の生産性向上実現に向けては、稼働不足の懸念が感じられるが、、それとは別に、AIやセンサーの発達で機械が人間の仕事を奪う(人手が余る?)のではないかという話もある。Oxford大学のCarl BenediktとMichael A.Osboneの2013.9.17の論文「The Future of employment:How susceptible are jobs to computerisation?」によると、米国の労働者の47%はコンピュータ化によって仕事を失うリスクがあるという。これまでもルールベースの仕事はコンピュータにとってかわられてきたが、パターン認識などのビッグデータの分析技術、ロボット、センサー技術の進展により、非ルーチンの仕事も対象になってきているとしている。例えば土木技術者や料理人、保険の引受人等の職を失う可能性が高いという。

この論文は米国の労働市場を見たものだが、若干国民性・市場環境の差はあるものの日本でも大同小異と思って良いだろう。2015年6月に発売されたパーソナルロボットPepperは、その反応速度や内容から、まだ、人間の多くの職を奪うところまで行っているとは言い難いが、そのような未来を予想させるものだった。日本でも2030年頃にはAI技術の進展により弁護士、秘書、経営コンサルタントも職を失う可能性があるという雑誌記事もある(週刊SPA! 2015/11/03・10日号)。実際、Nicogoryというベンチャー企業がITを活用して法律知識、法律手続きのフローを提供するなどのにサービスを始めるなど、それに近いアプローチは始まっている(週刊ダイヤモンド2015.8.19)

(2) 奪われない仕事

機械に奪われる仕事だけでなく、2015.3.25のWiredはCanadian Scholarship Trust PlanにInspired Mindを元に「人口知能やロボットに奪われない「8つの職業」」を発表している。現存しない職業なので想像するのが難しいが、例えば、コミュニティに必要なリソースを調整し、システムの基礎を作るコミュイニティ・オプチマイザー、ロボットを家庭に導入していくにあたって、ひとりひとりに合わせた導入をアドバイスするロボット・カウンセラー、災害時などに3Dプリンターを使って、その時々に必要なものを作る3Dプリントの構造設計者などが挙げられている。これらの特徴は、新しい技術を適用する等今までに経験の無い仕事であったり、例えば技術知識と人間や社会の理解など複数分野にわたる知識の横断的な利用が必要なものだ。要するに経験が役に立ちにくい分野の仕事は人間が行った方が良いという事のようだ。

人工知能やロボットに奪われない「8つの職業」

図2

3. 一億総活躍社会 働くのはロボットか?人か?

(1) 働くという事

ここまで、「一億総活躍社会」から機械AI,ロボットまで、職業、仕事をめぐる議論見てきたが、50年と言うスパンでは技術は、かなり広い範囲で、人間の仕事を奪いながら、人口減による生産性の減少を補ってくれそうだ。

「2.機械が仕事を奪う」で上げたような仕事は、本当に機械が得意なものだけで人間の行う仕事は無くなってしまうのだろうか?土木技術者や料理人、保険の引受人も弁護士、秘書、経営コンサルタントも過去の経験・データに基づいて仕事をする部分はあるが、更にひらめき思いつきにより、スーパー料理人やスーパー弁護士として活躍する可能性は無いのだろうか。つまり、二元論で機械か人かと言う話では無く、機会と人が協業する形ではないのかと思う。

Erik BrynjolfsonとAndrew Mcafee著「The Second Machine Age」によると、人と機械、どちらが優秀という事ではないようだ。人と機械の競争について、チェスの対戦が良くあげられるが、一番強かったのは人間とコンピュータの組み合わせだったという事例が紹介されている。機械の過去の事例を模倣する能力と人間の新しいことを思いつく能力の組み合わせが一番強いという事だそうだ。

そのような時代をよりよく迎えるためには、人は、技術は、社会はどうあるべきだろうか?

(2) 技術のあり方

人と機械のタッグが最強のタッグだとすれば、機械は得意な過去の事例を模倣する能力を磨くとともに、人の得意な創造的活動をサポートする機能も併せて磨いていく必要があるのではないか?例えば次のようなことが可能になると、更に人間にしかできない創造的な仕事の余地が更に広がると思う。

  1. 今できていないことが可能になる

例えば、ハンディキャップ等今まで何らかの制約で活躍できていない人の制約を取ることにより活躍の機会を与えると言ったことも考えられる。ダンウェイ社は、ICT治具を用いて、色やアイコン、数字を効果的に用いた案内表示と直感的な操作性で障害者の教育やWeb製作などの雇用創出に向けた活動をしている。AI,センサーなどの発達により障害者の挙動に合わせて適切なガイドが出せるようになれば、更に障がい者が隠された創造性を発揮する事が可能になるかもしれない

  1. 今できている事が出来なくならない。年をとっても記憶力が衰えない等

優れた能力を発揮して働いていた人も、いずれは老い、能力を発揮できなくなる。しかし、その衰えが、例えば覚える事や思い出す事であれば、センサーやAIでサポートが可能かもしれない。グーグルグラスとパターン認識の技術があれば、即座に人の名前や経歴を呼び出して表示する事は可能だと思う。一流のホテルのドアマンは2000人から5000人の名前を憶えているというが、老ドアマンが記憶の減退を理由に引退する事は無くなるかもしれない。そして、いつまでも、その時に一番ふさわしい快適なサービスを受けられるようになるかもしれない。

  1. 今できている仕事の生産性が上がる

経験が役立たない新しい発想や複数の分野にまたがった発想と言った能力には、現状個人差が大きい。例えば、名医と言われる医師の手術には、経験の他にとっさの判断、症状だけからは解らない勘のようなものがあるとすれば、現在の遠隔手術に加えて、現場の情報を全て伝えられるようになれば、医師が出向かなくてもできる遠隔手術の余地は広がるかもしれない。

(3) 人の心得

このように見てくると、人間の仕事は無くならないまでもかなり質は変わっていきそうだ。仕事には、生活の糧を得るための手段と言う側面と、働く事自体が生きがいを与えているという側面がある。人間の仕事が、新しいアイデアなどの創造性を求めるものになっていくとすれば、そのようなものに興味や関心を持つようにならないと、仕事に生きがいを感じられなくなるかもしれない。また、創造的な活動は、過去の経験に明確な根拠を求められないので、失敗の可能性も高くなるし、不安な部分が増えていくと思う。このようなチャレンジ精神や失敗を恐れない態度の涵養も、これからの仕事に対応するためには必要なのではないかと思う。

(4) 社会の仕組みとして

このように見てくると、人間の仕事は無くならないまでも新しい発想を求められるものに、かなり変わっていきそうだ。しかし、そのような仕事が、世の中にどの程度存在するのかは未知数だ。現代の多くの仕事は生活の糧を得るために行われている。人間の仕事の質が変化するのに伴って絶対量が変化するとすれば、労働の対価を得て生活するという枠組みとは別の枠組みが求められることになるだろう。我々が数百年にわたって当然と思っていた”原則“に変わる仕組みが必要になるかもしれない。

仕事における人と機械の共創

図3

4. 50年後の「一億総活躍社会」に向けてはじめておきたい事

政府が発表した「一億総活躍社会」の第一の矢、GDP600億円は、第三の矢で扱われている「離職介護ゼロ」などで生み出される労働力や稼働に加え、「イノベーションを生み出す投資」やそれらに伴うAI,センサー、ロボットなどのテクノロジーの進展により達成の可能性はあるだろう。

その社会の中で、人が生き生きと生活していくためには、技術開発も人の代替だけではなく、人との協業・人の能力を引き出す事をテーマとしたものが求められていくのではないだろうか?また、人の仕事の質の変化に合わせ、新しい発想を求める姿勢、失敗を恐れない姿勢などの基本的な姿勢を身に着けるための教育も必要だろう。

新しい発想は不確実なので失敗する事もあるだろう、また、仕事の絶対量から言ってそのような仕事に就けない人も出てくるかもしれない。社会としてセーフティネットの仕組みの検討も必要だと思う。

「一億総活躍社会」は社会構造を大きく変えた社会かもしれない。それを政策として推進しようという事であれば、「一億総活躍社会」実現に向けた政策は、その社会像を見据えたうえで、技術、教育、社会福祉など広い分野で有機的に展開をしていく必要がある。「一億総活躍社会」は50年後のことだが、一人一人の国民へのインパクトが大きいだけに、今から、試行錯誤、取り組みを開始しながら、十分に国民のコンセンサスを作っていかなくてはならないのではないだろうか。「一億総活躍社会」に向けては、緊急対策は即座に、その外は1年後に政策提示という事だが、50年後の社会構造を見据えた政策提示を期待したい。「一億総活躍社会」の実現自体が、経験に基づかない新しい発想を求めているのだろう。

(参考資料)

  • 一億総活躍社会第1回 一億総活躍国民会議における事務局提出資
    https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ichiokusoukatsuyaku/dai2/sankou3.pdf
  • 「The Future of employment:How susceptible are jobs to computerisation?」
    https://www.oxfordmartin.ox.ac.uk/downloads/academic/The_Future_of_Employment.pdf
  • 「週刊ダイヤモンド 2015年8月22日号 機械に奪われそうな仕事ランキング1位~10位」(週刊SPA! 2015/11/03・10日号)
    https://diamond.jp/articles/-/76839
  • 人口知能やロボットに奪われない「8つの仕事」(Wired.jp)
    https://wired.jp/2015/03/25/2030-works/
  • 「The Second Machine Age」Erik Brynjolfson&Andrew Mcafee(ダンウェイ株式会社)
    https://www.danway.co.jp/jigyonaiyou.html
    https://www.danway.co.jp/ictjig/

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