2015年8月26日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

モバイル通信大手3社の新規事業戦略の方向~3社の違い鮮明化~


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2015年3月期のモバイル通信大手3社の決算発表では、売上高と営業利益の金額レベルと順位に注目が集まりました。KDDIの営業利益が7,413億円と過去最高を達成する一方で、NTTドコモ(以下「ドコモ」)は営業利益6,391億円で初めて業界3位となりました。順位の変動が注目を集めただけでなく、3社の営業利益合計は2兆3,600億円に達しているものの市場は成長鈍化が明らかになっており、事業構造の変革や異業種との連携など新たな成長戦略が課題であるとの指摘が多く見られました。本業ではKDDIが従来から進めているモバイルと固定との融合戦略をベースとした3M戦略の継続に重点を置いているのに対し、ドコモは新機軸であるドコモ光を強力に進めて対抗しているし、ソフトバンクは国内のモバイル通信市場ではなくグローバルのインターネットビジネスに集中する事業構造の変革を打ち出して成長をアピールしています。

新規事業分野ではKDDIはauWALLETや金融サービスといった本業とのシナジー効果の高い分野だけでなく、新たにコマースを手掛けると戦略強化を打ち出しており、物販ではこれまで扱うことはないと見られていた野菜などの食材も取り扱うと言及しています。より広い分野でシナジーを追及する姿勢への変化ですが、新しい競合関係に直面するリスクがありそうです。ソフトバンクは日本国内の本業に新しい動きは特になく、ヤフーショッピングの拡大を目指し物販の拡充を図る方向を打ち出していて、楽天との競合に関心が集っています。ただ、主力はインドやインドネシアなどの物流や新規ビジネスに出資(提携)して投資活動の成功(=キャピタルゲイン)を狙っているようです。そのために後継者候補にNikesh Arora氏を指名(代表取締役副社長)して同氏の経験と人脈を活かして投資先の選別を行う戦略を実行しています。

さらに、最も多角化を図り、分野の広がりを持って積極的に対応しているのがドコモです。これまでも、ドコモヘルスケア、らでぃっしゅぼーや、ABCクッキング、レンタサイクル、自動翻訳などに進出(出資提携)しているほか、最近ではポイント事業でローソン等で使用できる「ポンタ」と連携したり、稲作営農管理システムの実証プロジェクトの連携、高齢者向け見守りソリューション「おらのタブレット」の提供開始、共同開発したクラウド型お話しロボット「OHaNAS」をタカラトミーが発売を発表するなど、提携プロジェクトやデバイスの発売・発表が矢継ぎ早に行われています。健康、食材、料理、環境、観光、物販、農業、高齢者、ロボットなどあらゆる方向に向けて、サービスとデバイス、またモバイル通信とクラウドまで手を伸ばしているのが見てとれます。ドコモのいう「スマートライフビジネス」の領域なのでしょうが、本業とのシナジー効果など外から見ているアナリストや競合他社からはその道筋や方向感が理解できず不思議に思われているところです。今期決算時に発表されたドコモの新しい中期経営戦略には「パートナーの皆さまとの協創により、新たなサービスやビジネスを創出し、生活をより豊かにするとともに、産業の活性化や様々な社会的課題の解決に貢献する」と説明されていましたので、その流れにあると受け取れます。ただ、通信本業以外の比重を高める事業戦略には本業のスリム化(人材、資金、設備等)と競争力の維持向上が欠かせないので、難しい舵取りが求められます。その答えの一つが先月報道され明らかになった資本効率の向上、すなわちROE(Return on Equity:自己資本利益率)重視への注力なのだと感じています。これまでモバイル通信市場が量的拡大期で、かつ新技術の積極的な展開期であったが故に、設備産業の特色である資産の拡充をエクィティ(株式)だけでなく、デット(債券や借入)にも依拠してきました。従って、資本効率を総資産ベースで計るROCE(Return on Capital Employed:使用資本利益率)が指標に用いられていましたが、さすがに安定期・事業構造変革期に移行するのに伴ないデットの比率を下げている(ドコモは実質無借金)ので、エクィティの効率=ROEをベースに計っていくことは当然のことと言えます。そのROEを基準に置きながら既存事業の資本効率を高めつつ、新規事業の収益化、即ち利益拡大を目指すのが筋道となります。

新規事業の方向性ではKDDIがとってきた方策、すなわち本業に近い周辺の関連ビジネスに進出するのが本業のもつ経営資源(顧客ベースや販売網など)とのシナジーが発揮できるので事業リスクを極小化でき、常識となっています。しかしドコモには別の考え方があるように見えます。ドコモではすでにサービス料等の回収代行、クレジットカードや保険などの金融ビジネスは本業の一部となっていて、これらの事業を取り込んだ上でスマートライフという価値感を貫いた新しいエコシステムを目指しているようです。NTTグループ全体の中期経営戦略ではBtoBビジネスのグローバル展開が進められていますが、他方で国内向けのローカルのBtoCビジネスはドコモの領域となっているので、新しいエコシステムを作り出す行動に挑戦していると思われます。例えば、タカラトミーの「OHaNAS」ではドコモ開発の自然対話プラットフォームのクラウド利用から、ASP利用料をタカラトミーが支払うビジネスモデルとなるようです。エンドユーザーへのアプリ課金は今後の検討課題となっていて当面は無料とのことですが、今回の事業構造こそ新しいエコシステムの成立に繋がるものなので注目しています。

目指す方向や方法は合理的なのですが、問題もまたそこにあります。新しいエコシステムを創出するには、一見分散していて有機的な連関に乏しい分野を新しい価値感や尺度で結びつける工夫が不可欠ですが、今のところまだその姿が十分見えません。サービスだけでなくデバイスやアプリケーション、コンテンツまで取り込んだエコシステムの構築が求められます。特に異業種・異分野への出資 (M&A) や提携はそれ自体が難しいのに、さらに複数の新分野からエコシステムを生み出そうとするには、異文化からの人材(国籍・性別・年令を問わず)を加えて触媒作用を促すのが近道でしょう。また最近、ドコモへのお客様や関係者からのクレームには本業のモバイル通信以外の新規事業・関連事業についてのものが多く見られるようです。これも顧客サイドから見て、ようやくドコモの事業の広がりが認知され始めている証拠といえるものです。こうしたクレームなど顧客からの指摘・注意・要望を全社的な立場から分析・評価してエコシステムを構築する上での貴重な教訓、価値ある資産として活用すべきです。お客様こそ新しいシナジー、エコシステムを求めていると捉えるべきです。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックで人々の目に見える、手に触れられるモノとコトが提供されることを期待しています。新しい分野のエコシステムの構築では、モバイル通信業界にはiモードを始めとする各社のデータ通信サービスの経験があります。こうした過去に学びつつ、モバイル通信成熟期に適応したエコシステムを創造できる人材を社内外・国内外から集めて厚くすることが着実に実現する道だと考えます。サービスでもデバイスでも世界で通用する日本発のモノ・コトが乏しくなって久しいのは誠に残念でなりません。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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