2016.3.22 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

ICT雑感:ブロックチェーンとどうつきあうか?

1. ビットコインへの期待の変化・拡大、新たなビジネスの創造

(1) ビットコインの利用は増えている

2009年に始まり脚光を浴びたビットコイン (BTC) は、2014年のMt. Goxの倒産で一時存続を危惧する声もあったが、現在も利用は堅調に伸びている。ウオレットを管理するWebサービスのCoinBase社の2015年上半期レポートによると、2015年6月の1日あたりの平均取引量は11万7,474BTCで、円換算で43億円にのぼったという(2015.7.16 Gigazin)。

(2) 低廉さと安定運用の認識が広まりつつある

もちろん、単なる決済だけでなく投機的な取引も含まれるので、一概に決済・送金に根付いたとは言えないが、低廉な送金・交換プラットフォームとしての信頼は高まっていると言えるだろう。例えば日本からタイに10万円を送金する場合、日本の銀行経由では手数料が6,500円から8,500円程度かかるのに対し、ビットコインでは0円との報告もあり、この低廉な手数料は、国内銀行がアジア10か国の国際送金手数料を1/10にするネットワークづくりの検討に入る遠因になるほどのインパクトがあった(日経新聞2016.01.20)。また、Mt. Goxの倒産でその脆弱性が危惧されたが、現在の多くは一取引所の管理の問題という認識であり、7年近く実質ノンストップで稼働したという安定した実績もビットコインの定着に貢献している。

(3) 送金プラットフォームとしてのビットコイン。周辺で新たなビジネスの誕生

このような、ビットコインに対する期待をベースに、周辺にもさまざまなビジネスが生まれつつある。Mt.Goxのような交換所、EC向けの決済事業、Webwoウォレット事業等、様々なベンチャーが生まれつつある。先日、Goldman Sachsもビットコインの送金手段としての活用を標榜するCircle Internet Financialに投資した。ビットコインのプラットフォームを中心にエコシステムが生まれつつある様相だ。

このように最近のビットコインの状況を見ていると、ビットコインへの期待は、仮想通貨としてよりも、低廉でセキュアな送金・交換のプラットフォームとしての期待に移りつつあり、期待の変化・拡大に合わせ、様々なビジネスに発展・分化しつつあるのではないかと思う。

2. コア技術、ブロックチェーンの魅力と課題

(1) コア技術のブロックチェーンとは何か?

ビットコインの中核となる技術はブロックチェーンについては様々な解説がされているが、次の「日経コンピュータ (2016.1.15)」の説明が解りやすいのではないかと思う。


ブロックチェーンとは

ブロックチェーンとは暗号技術とP2Pネットワーク技術を応用し、データの改ざんを困難にした分散型の記録管理技術。
実態としては、以下の要件を満たすプロトコルに沿って実装されたソフトウェアとソフトが稼働するコンピュータ(ノード)、ノード同士を接続するP2Pネットワークから成る。

  1. あらゆるノードは取引記録を保持し、読み出せる
  2. あらゆるノードは取引記録を作成し、他のノードに放送できる
  3. あらゆるノードは取引記録の整合性(二重取引の有無等)を検証したうえで、検証済み取引記録の束(=ブロック)を形成できる
  4. どのノードが作成したブロックを正当な記録とみなすかは、プロトコルが定める合意形成アルゴリズム(ビットコインではノードの計算量を投票権に見立てるProof of Workを採用するが、他にコイン保有量等を投票権に見立てるProof of Stakeもある)に従う

(出典)日経コンピュータ (2016. 1. 15)より引用


ノードとなるコンピュータの処理能力の向上と、一定の安定したネットワークの出現を背景に、暗号化された記録(元帳)を同時に複数個所で持つ事により、低廉で、改竄に強いシステムが廉価に作れるようになったということだろう。

(2) ブロックチェーンの特徴が新たなビジネスの可能性を産む

ビットコインの実績を踏まえ、銀行などの勘定システム、Nasdaq等の証券システムなどの金融システムだけでなく、住民票や登記簿などの公的記録や契約書管理等でも活用の可能性が期待されている。

例えば、送金システムにブロックチェーンが導入された場合を考えてみよう。先述のように、日本からタイに10万円送金した場合のビットコインの決済手数料はほぼ0円に近いそうだが、仮に数円としよう。日本の銀行が国際送金手数料を1/10にしようとする取り組みは先にも紹介したが、それでも、650円~850円だ。もし、数円の手数料で送金できるとすれば、ちょっとネットアンケートに答える、ネット広告を見るだけで、その報酬で送金できることになる。「この広告を見てくれたら、海外送金タダで良いですよ」というビジネスさえ可能ということだ。ブロックチェーンを活用し、既存の堅牢なシステムのコストダウンを図ることは、新たなビジネスを産むインパクトを秘めているということではないか。また、ブロックチェーンの適合分野が、セキュアで安定的な運用を求められる社会インフラに近い部分であることを考えると、ビットコインに見られるように、周辺に新たなビジネスを産み、新たなビジネスのエコシステムに拡大していく可能性もあるのではないかと思う。

(3) 活用に向けた技術的な課題、システム開発会社の奮闘

このように可能性を秘めたブロックチェーンだが、ビジネスへの実装にはいくつか課題がありそうだ。

例えば、ブロックチェーンは、ネットワーク上の各ノードが各々元帳を持ち、それが同期することで真正を保つ仕組みなので(前ページ、ブロックチェーンの仕組みの①と②)、ネットワークが分断されてノード毎に分散して持っている元帳が、分断されたネットワークの中で別の進化を遂げたらどうするのか? 或いは、ノードがお互いに、保持する元帳の真正を認め合う事で原本を確定している(ブロックチェーンの仕組み④)が、認め合うまでの時間は不安定で次の取引に入れないのではないか?このようなプロセスでどこまで高速処理に耐えられるのだろうか? といった課題が挙げられている。

これら課題については、日本国内でも、Mijinを展開するテックビューロー(株)や(株)Orbと言ったシステム系のベンチャーにより効率的なプロトコルや実務に合わせたルールつくりの取り組みが行われている。

ブロックチェーンの構成要素を、ソフトウェアとノード等のハードウェア、そしてネットワークだとすれば、これらの課題はノード間の協調の問題、つまりネットワークの問題とも言える。これから、ブロックチェーンを活用したシステムが増えていけば、ネットワークへの期待も変わっていくだろう。システムコストの低下に伴い、ネットワークへの値下げ圧力はますます高くなるだろうし、セキュアと言うよりも細かなデータを途切れずに早く伝送することが求められるようになるかもしれない。ネットワーク事業も、この技術にどう取り組むのか考えてみる必要があるのではないかと思う。

【図1】ブロックチェーン技術課題例

【図1】ブロックチェーン技術課題例

3. ビジネスシーンでの活用に向けて

(1) ブロックチェーンに関する関係者の期待と懸念

このようにポテンシャルを秘めたブロックチェーンだが、その活用に向け、その主要ターゲットである金融分野の関係者の評価は分かれるというところが現状のようだ。今までの仕組みでは、規模、コストの観点から成立しなかった分野に金融サービスが広がっていくのではないかという期待から、テロや災害時など不測の事態への対応が十分に見えないことに不安を抱く声もあった。

特に、決済プラットフォームとしては、大きく3種類の懸念があった。一つ目は、高速に取引が繰り返される決済分野では検証・確定までの時間がかかるビットコインは使えないのではないかという技術自身への懸念。二つ目は、信頼性及び迅速性確保のためにビットコインのようなパブリック型ではなくプライベート型で必要な対応をした場合、どこまでコストが下がるのかという懸念。そして、そもそも、障害時の対応など対応が未知数のブロックチェーンの利用を監督官庁が認めるわけはないだろうという社会・制度に対する感想が聞かれた。

この利用への懸念は、この技術が取引にうまく使えるのだろうかという懸念が、システムを構築する際のコスト高に反映し、コスト高が社会的受容や利用を抑制するという負のスパイラルに入っていく可能性を秘めている。

(2) 広がる技術評価・議論

日本では、ニューヨークのベンチャー企業R3CEVのブロックチェーン技術のコンソーシアムに野村グループや大手都銀3行、富士通などのITベンダーが参加する事が昨年報道された。一方、世界では、先述のGoldman Sachsの投資の他、Nasdaqが未公開株式の売買システムNasdaq Linqでの採用を決めるなど、実務オンフィールドでの活用に向けた動きもみられる。

(3) 技術評価・議論から、実務を踏まえ、トータルでの課題解決のステージへ

ブロックチェーンの技術を過大評価する必要はないが、その可能性を早く正確に認識しビジネスに反映していくことは必要だ。

そのための第一段階としてその技術をよく知るということは重要だが、それだけでは導入は進まない。周辺技術との連携も必要になるし、社会的な制度やルールを変えなくてはいけなくなるかもしれない。負のスパイラルではなく正のスパイラルを回していくためにも、第二段階としては、いずれかのフィールドで実際にこの技術を適用して、関係者で発生する事象をつぶさに検証し、対応を検討していくことと関係者や社会のコンセンサス作りが必要になる。

ブロックチェーンの場合、最初は比較的社会に対する影響の少ない分野、高速連続取引の少ない分野で、システムの調整がしやすいプライベートなシステム構成での導入からになるだろう。そのような分野で、適用を関係者で議論し、社会で受け入れていく素地、関連技術との連携を作っていくことが求められるのではないか? そのような取り組みの繰り返しが、技術のブラッシュアップ、コストの低減、社会的な受容拡大を産んでいく。

【図2】懸念の構造

【図2】懸念の構造

ブロックチェーン導入時の課題は、必ずしもブロックチェーン技術自体で解決しなくてはならないわけではない。それゆえ、参加メンバーは、技術コンソーシアムメンバーのブロックチェーン技術者、ベンダー、利用企業だけでなく、政府や最終利用者といった社会的関係者のほか、ネットワーク事業者、部品メーカーのような周辺技術の領域も参加が求められていくと思う。そして、それらの参加者の中からブロックチェーンを活用した新たな機会が生まれるだろう。ブロックチェーンが拡大した時に、そのエコシステムの中で進化し、存在感を持つもの(=果実を得るもの)が生まれてくるのではないか? ネットワーク事業者も含め、各ステークホルダーの役割がどのように変わっているか楽しみである。

 

(参考文献)

C-Net 再び注目を浴びたビットコイン 新興国性取引量が上昇する理由https://japan.cnet.com/marketers/sp_socialinsigthts/35065099/

Gigazine Bitcoin(ビットコイン)2015年上半期のトレンドを分析
https://gigazine.net/news/20150716-bitcoin-trend-1h-2015/

ビットコインでの送金手数料を比較してみたら驚愕の事実が解った
https://bitcoin-matome.info/consideration/bank-fee/

IT-Pro 日経コンピュータ 米Nasdaq.、「ブロックチェーン」を使う未公開株式取引システム「Nasdaq Linq」を発表
https://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/news/15/102803537/

IT-Pro 日経コンピュータ ブロックチェーンは本当に業界を変えるのか?潜在力を冷静に評価してみるhttps://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/watcher/14/334361/011200460/

IT-Pro 日経コンピュータ 「ビットコインベンチャーになるつもりはない」コインパス 中津CEO語るhttps://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/043000112/043000004/?ST=management&P=1

IT-Pro 日経コンピュータ 国内初ブロックチェーン「mijin」「Orb」の特徴を知るhttps://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/121700288/121700002/

IT-Pro 日経コンピュータ ブロックチェーン、2016年は真価が問われる年にhttps://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/121700288/121700003/

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