2017年5月1日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

データポータビリティおよび情報銀行で通信事業者が果たす役割-BtoBtoXのプラットフォーム化



政府のIT戦略本部の下に設けられている「データ流通環境整備検討会-AI、IoT時代におけるデータ活用ワーキンググループ」は、2月24日に中間とりまとめを発表しました(3月15日に検討会報告)。発表時の新聞報道では主に“個人データ預かり保管「情報銀行」創設へ実験、2018年の法整備をめざす”との趣旨で取り上げられていたので記憶に新しいところです。

今回の報告のポイントは検討会の名称に表れているとおり、データ流通環境整備の必要性を説くもので、そのために民間企業等から提案されているPDS(パーソナルデータストア)や情報銀行などの実現を訴えています。そもそもデータには「個人情報を含むデータ(いわゆるパーソナルデータ)」、「匿名加工されたデータ」、「個人に関わらないデータ(IoT機器からのセンシングデータ等)」の3分類があり、データ流通の便益を個人や社会全体に還元するためには、この3つの流通・活用をバランスよく進める必要があります。残念ながら、このうち特にパーソナルデータの流通・活用が進んでいない現状にあるので、そのための方策として今回の報告ではPDSと情報銀行の実現を取り上げています。

他の2つの類型においてもデータ流通環境整備のために、<1>個人情報保護委員会は2月21日、パーソナルデータの利活用促進と消費者の信頼性確保の両立を図るため、「匿名加工情報に関する事務局レポート」を公表しています。匿名加工の共通ルールとして、(1)氏名や電話番号、カード番号は削除、(2)IDや会員番号は削除するか、仮IDに置き換え、(3)住所は市区町村単位まで、(4)年齢は10歳刻みを定めています。また他方、<2> 政府の知財戦略本部の「新たな情報財検討委員会」はデータ利活用促進に向けた方向性として、価値のあるデータとしてビッグデータを知的財産として保護し、その上で公開して利用許諾を進める内容を発表しました。これは、個人情報を含むものは対象外とし現状では特許や著作権で保護されないことが多い、いわゆるビッグデータをオープンにして有効活用しようとする狙いです。

このようにデータの3類型に応じた流通環境の整備が2018年には法制面で促進される見込みとなっています。そこで改めて、前述のデータ流通環境整備検討会の報告書が取り上げている、PDS、情報銀行、データ取引市場の事業者等が取り組む推奨指針(8項目)を踏まえて、事業者が満足すべき取り組みを考えてみたいと思います。

まず大前提として、流通するデータには正確性と質の高さが第1に必要であること、取引されるデータの質・信頼性の確保が何よりも重要となります。2番目はセキュリティや透明性の確保、データポータビリティ・トレーサビリティ・データ削除など消費者の安心感と信頼を得ること、これには苦情処理の窓口や活動が当然含まれます。最後に、データの標準化や互換性の確保、さらにデータ取り扱いの権限・義務など適正な業務遂行を消費者に開示し保証する仕組みを設けること、の3点が挙げられます。この観点からデータポータビリティおよび情報銀行と通信事業者の関係を考えてみると次のとおり、通信事業者に期待される新しい役割があるのではないかと思います。

すなわち、取り扱うデータの質・正確性は流通する分野をどうするのか業務設計の問題ですが、セキュリティや透明性、データポータビリティ、トレーサビリティ、データ削除などでは通信事業者には、これまでナンバーポータビリティ制度と接続義務という参考となる事例があり、電話番号のポータビリティというデータ流通促進による競争政策に応じてきた実績があります。また、接続義務では新規参入者のアクセス可能性を義務付けて市場競争の拡大と新たなサービス創出を図る取り組みを進めてきた経験があるからです。現在までデータ市場で支配的な地位を獲得しつつあるプラットフォーム事業者にはこうした実績や経験の蓄積が乏しいので、通信事業者の出番に可能性がありそうです。

データポータビリティ制度に基づき消費者自身が自身のデータを管理するPDS事業や消費者がそのデータを預託する情報銀行事業は、将来のデータ流通市場(エコシステム)において中心的な位置を占めることになります。事業者の優位性には、消費者がデータを預けるに足る信頼性、消費者接点の量と質、事業者が保有する既存の中核データ(通信事業者の位置情報、クレジットカード会社の購買履歴等)などがあり得ますが、いずれの面でも通信事業者にはアドバンテージがありそうです。現在までのところ、パーソナルデータを始め、匿名加工情報、IoT機器からのセンシングデータなどを含めて、データ流通プラットフォームの構築に成功したと言える事例は世界的に見てもないに等しい状況です。この分野では米国のデジタルジャイアンツ(GAFA : Google、Apple、Facebook、Amazon)によるデータ囲い込み戦略に事実上支配されていますので、これを打破するのは相当に難しいと思いますが、EUにおける一般データ保護規則でデータポータビリティ権が規定されてEU各国での対応が進められている今日、消費者保護とデータ流通・利活用の拡大とを両立する世界的な動きは新しいチャレンジの時を迎えていると思います。

PDS事業や情報銀行事業に通信事業者が取り組むことは、これまで進めてきたデジタルトランスフォーメーションの方策やBtoBtoXの具体的な取り組みをさらに進めて、新たなデータ流通プラットフォームを構築することなので、従前にも増して新しい提携関係が求められることになります。成熟化する通信市場から、AI、IoT時代におけるデータ流通市場の担い手への変身は、通信事業で培ってきた安心感・信頼性とナンバーポータビリティの実現や接続義務の達成など他の分野の事業者に見られない経験が活きる新たな道だと思います。

昨年12月施行の官民データ活用推進基本法、今年5月30日に全面施行となる改正個人情報保護法、さらに来年にはポータビリティ制度や情報銀行の法整備、ビッグデータの知的財産としての保護(不正競争防止法改正)などデータ流通の環境整備の急速な進展が予測されています。通信事業者による構想が具体化することを期待しています。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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