2018年2月27日掲載 法制度 InfoCom T&S World Trend Report

パーソナルデータ利活用・流通推進の壁~個人の意識と企業の姿勢とが連動



2017年3月号5月号の「巻頭“論”」で2回、パーソナルデータ利活用・流通やデータポータビリティ、情報銀行について取り上げてきました。その最後に、官民データ活用推進基本法、改正個人情報保護法、さらに不正競争防止法改正動向などデータ利活用・流通に向けての条件整備や制度設計が進展していることに言及しました。背景に2017年6月に閣議決定された「未来投資戦略2017」があり、国家の成長戦略の核心となっているものの、残念ながら、議論や検討は政府関係や経済団体などで数多く行われていても実際に目に見える変化はあまりありません。ただ、各方面の検討においては、幸いにして対立することなく組織間の協力・調整が比較的うまくいっているのが今回の特徴となっています。

なかでも、常日頃ICT分野での対立が目立つ総務省と経済産業省が共同事務局となっている2つの検討会、「情報信託機能の認定スキームの在り方に関する検討会」と「データポータビリティに関する調査検討会」が昨年11月開催・開始されて、今年3月までに検討結果を取りまとめる予定となっています。両省の協調姿勢に検討の本気度が窺えますが、加えて、パーソナルデータの利活用・流通推進には個人の権利保護との両立が不可欠なので、車の両輪として、データポータビリティという個人(消費者)の権利保護と情報信託機能、即ちPDS(パーソナルデータストア)や情報銀行といった産業政策面の推進を両サイド並行して進める姿勢は大いに評価できます。3月の検討結果を期待しています。特に、データポータビリティ権は、2016年に成立したEUの「一般データ保護規則(GDPR)」で定められ本年5月に適用開始となるもので、強固な域外適用や巨額の制裁金(最大2,000万ユーロか、前年度の年間売上げの4%までの、いずれか高い方)と「忘れられる権利」やプロファイリングに抵抗する権利などとセットで個人の権利強化が図られています。域外適用のためEUに存在する(サービスを行う)他国の企業も対象となるので、GAFAといわれる米国ITプラットフォーム企業はもとより、日本企業にも適用されることから、各社は既に利用者個人のデータポータビリティ権への対応を進めています。この背景には、米国の巨大プラットフォーム企業へのデータ集中による支配的状況に対するEUからの抵抗・反撃という政治的側面はもちろんあるものの、デジタル時代における個人の権利強化という大きな流れと考えるべきものです。パーソナルデータ利活用・流通推進での大きな流れと捉えて、日本でも産業政策面や国際競争力強化面からもグローバルスタンダードとしてデータポータビリティ権等の仕組みの導入が急がれます。

ところが、前述のとおりパーソナルデータ利活用・流通については議論や検討は活発ですが、現実の事業活動やサービス面ではほとんど目立つものがないのが実情です。ここに至った原点を考えると、どうしても2013年6月のJR東日本の「Suica履歴販売」に立ち戻らざるを得ません。個人(国民)のデータに対する意識には、「自分が知らない間に自身のデータが使われるのではないかという漠然とした『不安』」と「データを活用する企業だけが儲け、自身にメリットが返ってこないのではないかという『不満』」があり、これらが「データに対する拒否反応を引き起こし、データの第三者提供や委託が進まない」と言われています(2017.12.12 経団連意見書「Society5.0を実現するデータ活用推進戦略」より)。

2013年6月のJR東日本によるSuica履歴の日立製作所への販売事例では、こうした利用者個人の不安・不満が典型的に表れて、発表後の国交省からの注意についての新聞報道をきっかけにツイートが急増、いわゆる炎上状態となり、JR東日本はオプトアウト方法の周知や有識者会議による検討措置にまで追い込まれました。結局、Suica利用者が気持ち悪さ、不安、不満を感じたことがマスコミを通じて広く知れ渡り、この後、パーソナルデータ流通を図ろうとする企業、特に社会的に知られている大企業はレピュテーションリスクからこの種の冒険を避けるようになったとみられます。実際、大企業がデータ提供者となっているデータ取引(市場)は実験的なもの以外ほとんどありません。企業社内でのパーソナルデータの利活用は囲い込み戦略のために進んでいるものの、社外に流通(販売)している事例はNTTドコモの「モバイル空間統計」など限られた数です。JR東日本の事例は今日まで尾を引く反面教師となった訳ですが、反対に現行の個人情報保護法改正(2015年)や官民データ活用推進基本法制定(2016年)などにつながり、パーソナルデータ利活用の制度的基盤整備に役立ったとも言えます。

ただ、政府部内や経済団体で多層的、協調的に議論・検討が進んでいる一方で、具体的な仕組み作りや事業行動に結びつかない原因もそこにあると思います。つまり、個人の意識と企業の姿勢という2つの壁が厚いのです。個人の側の不安・不満は前述のとおりですが、加えて、企業側には個人の意識に対する懸念、即ち、個人の権利を強く主張する立場を含めて多くの批判を浴びる心配のほか、そもそも経済的にみて囲い込み戦略による優位性と相互のアクセス開放による付加価値(市場)創造との間でどちらに進むべきかの根本的な姿勢が問われています。この企業の壁こそ検討すれども進まずの最大の理由かも知れません。

私は以前、本誌(2017年5月号)の巻頭“論”で、PDSや情報銀行事業における通信事業者の役割を強調しました。また、当然広義の社会インフラ系事業者(通信キャリアだけでなく、電力・ガス、金融事業者など)が候補として適当であるとの指摘もあります。それは、BtoC領域での個人からの認知・信用、個人情報取り扱いのノウハウ、情報システムインフラの運用習熟という属性に拠っています。ただしPDSや情報銀行の担い手には、事業の性格上、共同運営(出資)、利益分配や管理運営面での透明性など体制面での要件が加わるので、次の3つの原則が求められることになることに留意しなければいけません(「日経コンピュータ」2013年10月17日号記事より筆者抜粋のうえ加筆作成)

  1. プライバシー感度は、人それぞれなので少数者への配慮も必要
    ―マスコミへの説明など明確で分かりやすい開示姿勢
  2. 方法・仕組みは米国・欧州でも通用するかを考える。
    ―特に個人の権利指向で米国との対抗姿勢の強い欧州とのシミュレーションが重要
  3. パーソナルデータ利活用・流通の社会的意義を追求
    ―個人の不安・不満に対し理解を促す姿勢と努力が結局近道

パーソナルデータの利活用・流通となると個人(利用者・消費者)の意識の問題は避けられないので、まずデータポータビリティ権の認定など個人の権利保護を進めた上で(そのためにはプライバシー専門家の出番が必要)、次に利活用・流通を図ることが順序になると考えます。個人を起点に据えた展開から2つの壁を乗り越えるべきです。

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