2017.3.3 法制度 InfoCom T&S World Trend Report

個人情報保護とパーソナルデータ利活用・流通の促進

2017年は個人情報保護とパーソナルデータ利活用・流通にとって大きな変革の年になりそうです。改正個人情報保護法が5月30日に全面施行となり、併せて同時期に行政機関個人情報保護法と独立行政法人等個人情報保護法の改正法の施行も想定されています。さらに、全国の地方公共団体等における個人情報保護条例の見直しに向けて、総務省では「地方公共団体が保有するパーソナルデータに関する検討会(座長:宇賀克也 東京大学大学院法学政治学研究科教授)」が昨年9月から開催されていて、3月に報告書をまとめる予定となっています。この検討会は従来指摘されてきた“個人情報保護法制2000個問題”にも関連して、全国の地方公共団体等での個人情報保護条例の見直しに向けて、(1)個人情報の定義の明確化、(2)要配慮個人情報の取り扱い、(3)非識別加工情報の仕組みの導入、を検討項目としています。これを受けて全国の個人情報保護条例の見直し・整備が進めば、民間から国や自治体、独立行政法人まで含めてすべての個人情報保有者をカバーした新しい個人情報保護法制がようやく完結することになります。
(注)日本の個人情報保護法制では、保有する者の法的性質に応じて規制法と規制内容が異なる「個人情報保有者別セクトラル方式」となっている。

また、昨年12月には与野党(自民・公明・民進・維新)連名の議員立法の形で「官民データ活用推進基本法」が成立し、直ちに施行されました。この法律に基づいて政府のIT戦略本部の下に総理大臣を議長とする「官民データ活用推進戦略会議」を設置して、基本計画の立案や重要施策の実施推進などの取り組みを行うことになります。加えて、国だけでなく都道府県に対しても「官民データ活用推進基本計画」の策定を義務付けたほか、市町村にも努力義務を課しています。これまで政府はオープンデータ施策を推進して国・自治体・民間企業が保有するデータの活用を推進してきたものの、マイナンバー法や改正個人情報保護法など、どうしてもデータ保護施策に傾きがちでした。今回の官民データ活用推進基本法でようやくデータ活用を推進する基盤が整うこととなるので、保護を進めて利活用を推進するという流れにつながるものと思います。この官民データ活用推進基本法では、「官民データ」だけでなく「人工知能関連技術」、「インターネット・オブ・シングス活用関連技術」、「クラウド・コンピューティング・サービス関連技術」の定義を設けており(第2条)、こうした分野への関心の高さを示しています。議員立法ならではの挑戦的な姿勢が窺われてとても興味深く感じます。定義文言はかなり長くなりますのでここでは省略しますが、一度ぜひ条文を読んでみて下さい。法律家の手ではこうなるのかと改めて感心します。

以上のとおり、個人情報保護法の改正を起点として、民間だけでなく行政機関・独立行政法人・地方公共団体等までを網羅した個人情報保護の法制が整備され、執行面では個人情報保護委員会の体制が整ってきている今年こそ、いよいよ本格的なパーソナルデータの利活用を進めて、データ流通エコシステムの構築を図る段階にあると思います。その場合、どうしても乗り越えなければいけない課題が大きく2点ありそうです。今回の個人情報保護法改正の要点として、(1)個人情報の定義を明確化して個人識別符号を対象にしたこと、(2)要配慮個人情報の規定を新設したこと、(3)匿名加工情報の規定を新設したこと、(4)第三者提供に係る確認・記録義務を設定したこと、(5)外国の第三者への個人データの提供について規定を設けたこと、などが挙げられますが、パーソナルデータの利活用やデータ流通エコシステムの構築で課題となるのは、第1に利用目的の特定・目的外利用の禁止と第三者提供時の本人同意原則・オプトアウト方法とのバランスの問題があり、第2に今回個人情報から外れた匿名加工情報の具体的な加工方法の程度確立と識別行為禁止の実効性の問題があります。

第1の課題は常に問題となるところであり、個人情報収集時の利用目的等本人同意のあり方に帰着せざるを得ず最も難しい課題ですが、事業領域毎のガイドラインや認定個人情報保護団体に拠るところが大きくなります。民間企業の事業活動として単純に法務部門やサービス部門に任せることなく、企業全体の戦略として取り組む方策を採るべき時です。レピュテーションを含めて、ある程度のリスクと相当のコストを覚悟して取り組まない限り、データ利活用やデータ流通エコシステムの果実は手に入らないでしょう。

この領域で近年話題になっていることに、EUの一般データ保護規則に定める個人のデータポータビリティ権がありますので少し紹介しておきます。これは個人による自己情報のコントロール能力を高めることで、データ利活用機会の拡大と消費者保護とを両立しようとするもので、企業サイドからはさまざまなパーソナルデータが数多くの事業者やデータベースに分散管理されていて統合的な利活用ができないこと、個人サイドからは個々人のデータはさまざまなプラットフォームに囲い込まれていて、それを移行する際にはほとんどの場合過去のデータを諦めなければならないこと、の両側面を解決するものとして注目を集めています。もちろん、この背景にはEU域内でのGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon;デジタルジャイアンツと呼ばれる)等米国企業のデータ市場寡占化への対抗心が透けて見えますが、今の日本の産業・経済や個人生活にとっても大変参考になる施策であると考えさせられます。我が国でも、政府のIT戦略本部の下に2016年9月に設けられた「データ流通環境整備検討会」では、個人が自身に関する多様な情報を本人に集約し流通させる仕組みの創出を検討していて、データポータビリティ権に言及してデータポータビリティの具体化(パーソナル・データ・ストア)を構想しています。ここでも個人情報の保護がパーソナルデータの利活用・流通促進につながることを確信しています。 

第2の匿名加工情報の取り扱いに関して、要配慮情報としての医療情報をどう扱うのかについて新しい動きが見られるので最後に取り上げておきます。2017年1月10日付の読売新聞記事によれば、「医療ビッグデータ新法-政府提出へ、認定機関で匿名化」とあり、国が医療系の学会や医薬品の開発などを行っている団体を認定機関に指定して、ここに病院や薬局などが保有している患者の治療や投薬情報を集められるようにし、さらに認定機関が収集した情報を匿名化して大学など研究機関に提供すると報じてられています。その場合、要配慮情報の第三者提供時の本人同意原則の例外措置として、認定機関については本人の同意取得を不要(オプトアウトあり)とする方向で検討しているとのこと、私はこうした個人情報保護に配慮して一定の機関に限ってパーソナルデータを集めてビッグデータとして利活用する方向は望ましい姿と考えます。

米国発のデジタルジャイアンツによるデータ市場寡占化の流れのなか、これに対抗するためには結局のところ、パーソナルデータについて従来と違った新しい考え方や取り扱い、仕組みを官民挙げて実行していくことこそが近道だと思います。

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